Dバス停からE地点へ
バス停から記念碑までは、徒歩5分くらいのようだ。公園内にある記念碑らしい。
「何の記念碑なんですか?」
私が訪ねると、レインさんが「確か」と言いながら、記憶をたどる。
「かつて通っていた電車の始発駅だったはずです」
「そうそう、レールもありましたよ。ここから始まる、みたいな感じの」
ノコノコさんがレインさんに続けて説明してくれた。
どうやら、今はなくなってしまった路線の電車が確かに存在したという思いを込めて、始発駅があった場所に記念碑とレールの一部分だけを残しているらしい。
「昔の電車も残してくれていたら、子どもたちの遊び場になると思うんですけどねぇ」
「残っているのがレールちょこっとだけ、なんですよね。だけど、古い電車を残しちゃうと、手入れが大変って言いますから」
残念そうなノコノコさんに、レインさんがたしなめるように言う。
昔の電車があれば、確かに子ども達やかつて乗っていた人たちが喜びそうではあるけれど、子どもというのは案外容赦がない。
きっと遊びつくされて、えらいことになってしまうだろう。
私もかつて、近所の公園にあった汽車型の遊具に、砂や石を思いきり詰め込んでいた。
あれと似たようなことをされれば、きっと古い電車などひとたまりもない。
少なくとも、小さい頃の私ならやる。私に限らず、私の友達もやるに違いない。
なんなら、水鉄砲で電車に向かって発射しまくっていた自信もある。似たようなことならやっていたから。
その結果どうなるかなんて、想像に難くない。
「街中を走る電車がなくなるのは寂しいですけど、記念碑が残るのは嬉しいですよね。本当にあったんだ、と実感がわくというか」
ノコノコさんの言葉に、私は「そうですね」と言って頷いた。
大人が子どもに向けて「昔は、ここに電車が通っていたんだよ」と教え、記念碑の前で「ほらね」と言う姿を想像するだけで、なんだか微笑ましい。
「でも、なんでその記念碑なんですかね?」
私の疑問に、レインさんとノコノコさんはそろって「さあ?」と返した。
「私たちも、不思議なんですよね。手順で訪れる五ケ所って、別に共通点もないですし」
「あえて言うなら、全部徒歩で回れるっていうくらいですよね。まあ、だからこそ今回の検証オフ会に選ばれたんでしょうけど」
「検証オフ会は、確か、シンさんという方が発起されたんですよね」
私が言うと、ノコノコさんが「そうですそうです」と言って頷く。
その隣で、レインさんが何やら考え込んだ。
「どうしました?」
私が尋ねると、レインさんは「いや」と言ってから、少し悩むように口を開いた。
「そもそもこの都市伝説、誰が言い出したんだっけ、と思いまして」
レインさんの言葉に、私とノコノコさんが小首をかしげる。
「匿名掲示板に載ってたんじゃなかったんですか?」
「そうかもしれないんですけれど、オープンチャットのルールに、都市伝説として認定するには匿名掲示板に載るだけじゃなくて、複数人が『知っている』と投票しなければいけなくて。となると、知っている人が少なくとも二人はいなければ、都市伝説として成り立たないじゃないですか」
最初に匿名で投稿した人と、もう一人、ということか。
「都市伝説一覧で見れば、書いてあるんじゃないですか?」
ノコノコさんはそう言いながら、スマホをいじる。それを見て、レインさんも同じようにスマホをいじり始めた。
そうしてしばらくして、二人同時に「あった」と声を上げる。
「一人は、シンさんですね」
「もう一人は……誰だろう? 後藤?」
「ええと、見せていただいても?」
私の言葉に、レインさんがスマホの画面を見せてくれた。
一覧に載る「手順を踏めば何かが起こる都市伝説」の項目に、知っている人一覧がある。
そこにあるのは「シン」「後藤」の二人。
「シンさんは、昔からこのオープンチャットにいる人で……ちょこちょこコメントもしているんですよね」
「でも僕、この後藤っていう人、初めて見ました。それなりに人がいるし、コメントしない人もいっぱいいるから、知らなくてもおかしくはないんですけれど」
「オフ会にもいませんでしたよね」
二人とも、アイコンはデフォルト。
一覧のほかに載っている項目には、複数人の「知っている」人がついていて、それらのアイコンは様々であることが多い。
もちろん、知っている人が一人という場合もあるけれど。
「ちょ、ちょっと、参加者一覧見てみます」
ノコノコさんがオープンチャットの参加者一覧を見る。私にも見えるようにしてくれたので、ありがたく覗かせてもらう。
総勢808人。なかなかの大人数だ。
デフォルトのアイコンの人は、それなりに数はいる。いるのだけれど。
「そもそも……どうして、シンさんはこの都市伝説検証をしようって言い出したんでしょうか」
ノコノコさんが、静かに口にする。
「巡りやすいから、検証しやすいって、発言されていた気がしますけど」
レインさんが、慎重に口にする。ついでにスマホを操作し、検証オフ会のページを出した。
確かに「シン」さんが「この都市伝説、巡りやすそうなので検証しませんか?」と発言している。
そこに間違いはない。
「というかさ、さっきから思ってたんだけどさ」
ずっと私たちの会話を黙って聞いていた圭が、口を開いた。私たちは自然と、圭の方に注目する。
注目された圭は一つため息をついたのち、私たち三人に向かって言葉をつづけた。
「巡りやすそうって、何?」
確かにそれは、都市伝説検証として奇妙な理由だった。




