C駅前噴水ー1
コンビニで買った物を食べ終わった辺りで、C駅に到着した。
駅前広場には、円形の噴水が設置されている。これが、件の噴水だろう。
「今は、普通の水量ですよね」
中心部から傘のように周りに水が降り注いでいるさまを見て、ノコノコさんが言った。風が吹くと、噴水のふちに座っている人が微妙に水を感じるくらいの水量だ。
「前の時は、突然水量が勢いよく出たりしたんですか?」
私が尋ねると、レインさんが「まさか」と言って笑った。
「全員でやると変な目で見られちゃうので、回る組と観察組と、噴水近くで異変がないかを確認する組の三つに分かれて実行したんですけど、特に何もなかったですね」
「確認組のうちの一人は、一瞬水が増えた気がする! って言ってたんですけど、他に同じ主張をする人がいなかったから、結局気のせいだろうってことになったんですよね」
レインさんに続けて、ノコノコさんが補足した。
「レインさんとノコノコさん、それにタケさんは同じ組だったんですか?」
私が尋ねると、二人は「全員バラバラです」と言いつつ、手を左右に振る。
「僕は観察組で」
と、レインさん。
「私は回る組で」
と、ノコノコさん。
「じゃあ、タケさんが確認組って事ですか」
私がそう言うと、二人そろって「そうそう」と頷いた。
ということは、三人が同じ行動をしたのは、最初のエレベータくらいなものなのだろうか。
圭はどのように感じているのだろうかと様子を伺うと、圭はぐるりと噴水の周りを小走りで回っていた。
行動が早すぎる。
驚く私に気付いたらしく、圭が「なに?」と言いながら近づいてきた。
「もう回っていたから、驚いて」
「まあ、ぐるっと一周を簡単に。結論を言えば、ここもなんもない」
すぱっと圭が返してきた。
「10周してないのに?」
「する必要がない。もし都市伝説通りなら、一周しただけで何らかの力があるはずだ。本当に、何もない。というか、半時計回りに回った力の反動って、なに?」
冷静に尋ねる圭に、思わず「え?」と返してしまった。
「いや、だってさ、時計回りだろうと半時計回りだろうと、噴水には関係ない話じゃん。そんなこと言いだしたら、遊園地のジェットコースターとか観覧車とか、どうなるんだよ? あいつら、ずっと回ってるじゃん」
いや、それを言い出したらキリがないんだけれども。
「ここにも、特に何もないんですか」
ノコノコさんが何処か残念そうに言い、レインさんも「そうですか」と続けて言った。
「やりたいなら10周していいけど、絶対何もない。何もない、けど」
そこまで言い、圭が考え込んだ。そうして少し考えた後、頷きながら「よし」と続けた。
「やっぱり、10周する。だけど、全員でする必要はない。誰か一人でいい」
圭はそう言い、その場に仁王立ちした。
なるほど、自分はここから動かないので、私たち三人から回る人を決めろ、と暗に言っているのか。
私はそっと、レインさんとノコノコさんを見る。三人で目を合わせた後、ゆっくりとレインさんが「分かりました」と頷いた。
「では、僕が回りましょう」
「じゃあ、私、噴水の所で確認します」
レインさんの言葉に、ノコノコさんは手を挙げて嬉しそうにそう宣言した。続けて「ちょっと座りたいし」と呟いた。
気持ちは分かる。
「じゃ、じゃあ私も噴水の所に」
「おっさんは、ここにいろ」
噴水の所に座ってやろうとしたら、圭に止められてしまった。
何で? 座ろうとしたのが見透かされた?
「万が一はないだろうけど、もしあったら、おっさんがいる」
「私が?」
「おっさん、というか、まあ、おっさんの背後というか」
厄の事か。
そうだ、私は圭の携帯食のようなものだった。
「じゃあ、回りますね。一応自分でもカウントしますけど、念のため確認してください」
レインさんはそう言って、ノコノコさんが座ったところから歩き始めた。結構大股で歩いているので、あっという間に10周しそうだ。
「何もないって言うから、てっきりもう次に行くのかと思ったよ」
私がそう言うと、圭は噴水の方から目を離すことなく「それも考えたけど」と答えた。
「後でやっとけばよかったって思うより、やっとけることはやっとこうかと思って」
確かに。
同じ行動をしてみる、という目的なのだから、せっかく来たのならやっておいた方がいいのかもしれない。
「それに、なんというか。どこにフラグがあるか、俺には分からないし」
「フラグ?」
私は思わずオウム返ししたが、圭からの返答はなかった。
そうして何事もなく、レインさんは10周を回りきったのだった。




