EP.31『弱点』
あらかたの事情は全てジョナサンに話した。黒のオーラの発現条件に加え、その能力が行使者の寿命を減らす事。肉体的な異常はまったくないが、体内にどす黒いオーラが溜まっていき、体調不良を引き起こす事など。
何もかもが初耳────という事もない。ジョナサンは外に出られず、経験を知らないだけで、専門外と言っておきながら世界のあらゆる知識を蓄えている。黒のオーラについての具体性については目にした経験がないので確信は持たなかったが、自身の記憶に刻まれているのは確かである、と自信を持った。
「ふむ……。ちょっと待ちたまえ、以前、それに似た症例について文献で見た記憶がある。確かオーラの色によって発現する前提条件や、生涯の記録がある」
指を動かすだけで、本棚にびっしりと収まった本の一冊がふわっと浮いて飛んでくる。キャッチした本の表紙には『オーラ・カラーリングと影響について』と書かれており、くたびれているので古い本だと分かった。
「もう百年くらい前の本になるかな。世界に二冊しかなくて、一冊は皇室が厳重に管理する特級指定書物とされている。閲覧できるのは皇帝陛下だけだ。ちなみにこちらにあるのは、その二冊のうちのひとつで、代々魔塔主が管理してきた」
机に本を広げ、目次から黒いオーラの項目を、指で頁をなぞって探す。
「私が会ったオーラ使いは後にも先にもアライナ君を除いて他にいないが、彼女のオーラは真っ赤だったのをよく覚えてるよ」
「アライナ隊長の赤いオーラは、どんな能力を持っているんですか?」
ニコールに尋ねられると、困った様にフフッと笑いながら、しかしとても懐かしそうにジョナサンは言った。
「赤いオーラは魔力を殺すオーラだよ。あの子の前では魔法使いも、魔物でさえもひれ伏す事しかできない。だから魔塔の壁なんて壊す事ができたんだ。この建物は魔力によって長年、劣化を防いできているからね」
暴風を振り回す嵐の時もある。呑み込むようにうねる高い波に襲われた事もある。それでも魔塔はビクともしない。魔力という見えない壁が、異次元の能力が、それらを敵とはしなかった。
だが、アライナだけは違った。オーラによって触れるだけで魔力が消滅する。相殺などと生易しいものとは違う。魔力そのものがオーラと反発するでもなく、一方的に消滅させられてしまう。まさに天敵と呼ぶに相応しかった。
「昔、我々もオーラについては未知の部分が多く、実物を見るのは初めてだったんだが、誰かが研究させてほしいと不躾にも体に触れたらしくて。そのおかげで魔塔の壁に大穴を開けられて、未だに修繕できないから困ってるんだ。消せるのは本人だけらしいからね。それから私もオーラには興味があった」
魔塔主の立場としては、他の魔法使いたちの研究に手を貸す方が遥かに大切な事だ。だから自分の事は二の次。胸の内に秘めて終わっていた話だ。
「オーラの研究で人命が救えるのなら、私が研究を行う事にも大義名分がついて動きやすい。言い方が悪いと思うかもしれないが、そうでもしないと他の魔法使いたちは納得してくれない。いわゆる因習が邪魔をしているんだろう」
話しながら頁をめくり、黒のオーラの項目を見つけて指をさす。
「あった。これだね。────『黒のオーラによる身体能力の飛躍的上昇と及ぼされる影響について』とある。どれどれ、少し読んでみようか」
記述は実に具体的だった。今まで多くが秘匿されてきたオーラについて仔細に描かれていて、ニコールもアダムスカも唖然とした。
『黒いオーラの発現は深い悲しみ、無力感、絶望。生きる事への失望など様々な負の感情が爆発的に湧きあがる事による。このオーラは発現者の身体能力を飛躍的に上昇するばかりか、戦闘などにおいて負の感情が高まるとより強い効果を発揮する事がわかった。ただし、諸刃の剣である。オーラの使用を重ねれば重ねるほど体内にオーラが蓄積され、健康的な肉体にも関わらず死亡する事例が多い。これは肉体に宿る魂そのものがオーラの負の感情に呑まれて崩れていく事が原因と見られる』
思わず絶句する内容だった。魂そのものを消費する。そもそも、魂の存在自体があやふやで、形のないものだ。どれほど高名な学者であっても、その存在を証明できた事はいまだかつてないのだから。
────だからこそ、ジョナサンの瞳は光輝いていた。希望に満ち溢れて。
「なるほど、実に面白いね。研究のし甲斐がある。魂に干渉しているのであれば、まずはこれを取り除くために黒いオーラの弱点を調べてみようか」
アダムスカが驚いた顔で本の内容を見ながら尋ねた。
「弱点って、そんなものを調べてどうなるんですか? アタシの体を蝕む以外の弱点なんて存在していないように思いますけど……」
問いを確信にして答えるために、ジョナサンは頁をめくって記述を探す。
「う~ん。どうだろう、君たちは使いこなしているから弱点などないと考えるかもしれない。だけどよく考えて欲しい。魔力を殺すオーラが存在しているんだよ。────オーラを殺す何かが存在していても、おかしくはないだろう?」




