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EP.15『いつかは要るもの』

 心強い仲間が増えていくと安心感も大きく変わってくる。マウリシオたちがいるとはいえ、相手の数を考えれば絶対に安心とはいえない。魔塔から帰って来て、もし彼らが大きな怪我でも負ったらとも考えていた。


 第六親衛隊は全員が腕利きだ。隊長以外にオーラ使いはいないものの、それがどうしたと言わんばかりに才能に溢れた者ばかり。怠慢の行き過ぎた今の親衛隊では過信もできないが、それはアイデン率いる第五親衛隊にも言える事だ。


「あの、ところで、お二人はこれからどこかへ出かけたりするのかしら?」


 カロールが申し訳なさそうに尋ねる。「適当に散策する予定ですが」とニコールが答えると、カロールは少し迷った様子で買い物に付き合ってほしいと言った。元々出掛ける予定があり、衣装室を貸し切れるよう予約までしていた。


 当然、カロールの護衛も任せられているニコールたちに断る理由はない。それくらいならば大丈夫だと請け負い、そのまま食事が終わって一旦解散となったら、マウリシオが用意させた馬車に乗って休む間もなく出発となった。


 港町では漁業と酒場が商売の中心だが、数は少ないものの幾つかの衣装室がある。そのうちひとつを昔からカロールが懇意にしているので、事情も話せない以上は顔を出さないわけにはいかなかった。


「ごめんなさいね、今日は港町を見て回る予定だったんでしょう?」


「別に私たちは構いませんよ。いつも通り過ごすよう指示を受けてますから」


「そーです。アタシたち、護衛も任されてますしね」


 親衛隊や騎士らしい仕事は、二人もやる気があがる。今でこそ旅を中心に活動すると決めた二人だったが、根っこはどちらも騎士なのだ。護衛を任せられたと思うと、妙にやる気が溢れてくると輝かんばかりの笑顔を見せた。


 港町の大通り沿いに衣装室はある。馬車で十分もあれば到着する場所で、邸宅からもそう離れていない。質素な外見だが看板には拘っていて『エイジス衣装室』と大きく書かれていた。


 扉を開けるとベルがからんころんと鳴って来客を知らせる。身なりの良い細身の男がやってきて、カロールに深くお辞儀をした。


「いらっしゃいませ、奥様。お待ちしておりました」


「顔をあげてちょうだい、ウォーデン。今日はよろしく頼むわね」


「ありがとうございます。さあさ、どうぞこちらへ。妻も待っております」


 応接用のスペースへ案内されると、美しい妙齢の女性が温かく迎えた。


「夫人。こんにちは、いつも来て下さって光栄ですわ」


「こちらこそ会えて嬉しいわ、エリッサ。頼んでおいたドレスは出来てる?」


「もちろんでございます。こちらに……あら、そちらは」


 ニコールとアダムスカは揃って姿勢をまっすぐ正して胸に手を当てる。騎士の挨拶に、護衛を連れているのは珍しい、とエリッサが目を丸くした。


「色々と事情があって、今日はお友達を連れてきているのよ。……あ、そうだ。よかったら二人にも合うドレスを見繕ってあげられないかしら」


「ドレスをですか。構いませんけれど、お二方が首を横に振られてますが」


 当然と言えば当然で、高価な贈り物は正直に言えば慣れていない。そもそもドレスなど着たことのない二人が断るのは仕方ない話だ。カロールも、なんとなく察してはいたが、あごに指を添えて、うーん、と少し考えてから────。


「やっぱりドレスは買った方が良いわ。遠慮しないでちょうだい」


「私たちには縁がないというか、着た事がないんです。皇宮に戻って騎士として働く事も今後はないと思っていますから、ドレスを頂いても……」


 宝の持ち腐れはあまりに勿体ない。輝くべき人間が、輝けるべきときに着るのがドレスだ。社交界という華やかな舞台で自らを美しく飾って優れた家門である事を示すための大切な衣装になる。


 騎士であるニコールたちはこれまでドレスを着る機会など一度たりともなかったし、これからもないのに貰うだけ申し訳なくなる。いくら言われても断るしかないと思っていたが、カロールは違う答えを示す。


「言いたい事は分かるわ。でも、あなたたちは自分たちの立っている場所を分かっておかないと。皇帝陛下や公女殿下からの強い支持を受けて親衛隊の多くがあなたたちに手を貸すという事は、自由であって自由ではないのよ。爵位もなく自由気ままに旅をしながら、そういった立場にあるのは普通の事じゃないの」


 困った子たちね、とカロールが難しい顔をする。


「あなたたちはとても頼りになるから、こんな事を言いたくないのよ。でも、皇帝陛下の庇護に与りながら、もし今後に皇帝陛下がお祝いの場を設けて招待状を出したときに断れるなんて思ってはいないでしょう?」


 二人はウッと言葉に詰まった。今まで自分たちの事ばかりで気にも留めていなかったが、実際、言われてみればその通りなのだ。にも拘らずドレスの一着も持っていないのでは出席も出来ず、一介の騎士如きに招待を断られるなど恥を掻くに決まっている。自分達も目立って表を歩けなくなる事だって考えられた。


「で、ですが、それでしたらお金は私たちが……」


「いいえ、駄目よ。此処は私に贈らせて。そうでないとレスター伯爵家の名誉にならないでしょう。あなたたちは未来の大騎士様なんだから」


 カロールの満面な笑みに、ちゃっかりしてるなあとは思いつつも、それなら任せようと頼む。話が纏まったらエリッサもお得意の営業スマイルだ。


「では流行からは外れると考えて、無難ですが華やかなドレスのデザインを張り切って揃えてまいりますね。少々お待ちください!」

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