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EP.10『見たものが全てではない』

 アライナとエボニーは魅力のある開放的な性格だ。明るさでいえばアダムスカも負けているつもりはなかったが、既にペアである彼女たちを前にすると、どうしても届かない気がする。場の雰囲気はそうやって形作られ、アダムスカは結局、身体を綺麗に洗った後は浴槽の隅で縮こまって温まった。


「いや~、あんたたちも大変だったわねぇ。さっそく、ゆっくり温まりながら予定を聞かせてもらおうかしら。今後の計画が立てやすそうだし」


「わかりました。……ちょっと待ってくださいね」


 隅っこで聞く気のないアダムスカのところへ寄ったニコールが、小さな声で「どうかしたのかい?」と優しく尋ねる。珍しくあまり機嫌がよくなさそうだったので、ニコールもこれには、さすがに困った。


「聞かなきゃダメですか、ニコール」


「そりゃあそうだよ。私たちに力を貸して下さるんだから」


 どうすれば機嫌が直るかがニコールには分からない。そもそも、これまでアダムスカと仲良くなってから、一度も喧嘩をした事もなければ、お互いに不機嫌になった事さえない。初めての事に悩んでいると、遠巻きに見ていたアライナとエボニーが顔を見合わせてククッと笑った。


「はいはい、ニコール。こっちへ来なさい。アタシに詳細を聞かせてちょうだい。アダムスカの事はエボニーがなんとかしてくれるから」


「え……はあ、わかりました。そう仰るなら」


 行こうとして、ぎゅっと腕を掴まれる。気に入らなさそうなアダムスカが、消え入るような声で「アタシもいっしょがいいです」と呟く。わがままで甘えたがりな雰囲気を愛らしく思ったニコールは、仕方ないなあ、と優しく手を引いた。


「一緒に話そう、アダム。二人の時間は後でゆっくり取れるさ」


「……そ、そうですね。わかりました」


 恥ずかしげもなく、きっとそんな意図がないと分かっていても、堂々と言うのでアダムスカの方が恥ずかしくなってしまった。


「あらあら、仲睦まじい事で」


「仲良き事は良き事っす!」


 明らかに弄ばれていると分かるアダムスカが、ぎろっと睨む。


「いいから話を進めましょう。アタシたちの今後の行動ですよね」


「アッハッハ、そういうところ好きよ。じゃあ説明を、お願いするわ」


 港町についてから何があったのかを仔細に伝え、魔塔に行くまでの日数を普通に過ごして、港で纏めて相手するのがマウリシオの考えで、ニコールとアダムスカもそれに乗っかった事を話す。アライナが難色を示した。


「マウリシオも冷静だけど、な~んか引っ掛かるのよね。わざわざアイデンが尋ねてきたんでしょ?」


「ええ。私たちと言い争いをした後に帰って行きました」


 直後、エボニーがびしっと指をさす。


「それっすね、問題は! あのアイデン隊長が、そこまで目立つ行動を取ったって事は計画に変更があってもおかしくないっす。手段は分からないですけど」


「そうね。徹底する男だから、僅かなズレが生じただけでも考え直すはずよ」


 意外にもマウリシオと真逆の見解だったので、ニコールとアダムスカは驚いた。アイデンについては、マウリシオよりもアライナの方が付き合いが長く、その性格は熟知している。針の孔に糸を通すように狂いなく正確に仕事をこなす男が、あらゆる可能性を考慮せずにやってきたとは信じられない。


「もしかすると、分かってて接触したのかもしれないわね」


「私らの事も今頃は伝わってるはずっすよ。さっき三人くらい始末したので」


 さらっと恐ろしい事実を口にするエボニーの頭をアライナがバシッと叩く。


「秘密にしておきなさいって言ったわよ」


「あう、痛いっす……!」


 仕事をした後とはこのことだったのか、とニコールが気まずい顔をする。


「始末したって、襲われたんですか……」


「そうよ。騎士団の人間じゃなかったし、アタシたちがいる事は伝わってなかったんじゃないかしら。人質にでもしようと思ったんじゃない?」


 暗殺ギルドとの接触があったのは間違いない。騎士団の責任を追及されないため、そして自分達が目立つ事で暗殺者という存在から気を逸らす目的があった可能性が高い。だが、アライナは自分達の介入は想定外だったはずだと推測する。


 そのうえで、そもそも人質を取る事を許容しているのだとしたら、アイデンはもっと複雑な計画を立てている可能性があると語った。


「ニコール、あんたは知らないと思うけれど、第五親衛隊のアイデンと言えば親衛隊の暗い部分を背負った汚れ仕事専門の連中よ。表向きには書類整理くらいしかやってないけど……。だからタデウスとは強い繋がりがあるのよね」


「そんな……聞いた事ありませんよ、うわさすら……」


 落ち込むニコールに、アライナは首を横に振った。


「あんたの見てるものは光輝いた綺麗な世界にすぎないわ。殆どがイカレた貴族主義者の集まりなのよ。親衛隊が正義を掲げた時代はとうの昔に終わってるわ」


 湯舟から上がって、タオルをばしっと肩に掛けたアライナは、のぼせる前に出て行くと行って話を程々に済ませた。


「マウリシオにはアタシから話しておくわ。あんたたちも早めに休みなさい」


「あっ、待ってくださいっす、アライナさん! じゃあ二人共、また!」

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