EP.6『長い付き合い』
ふふんと鼻を高くするマウリシオに、ニコールたちは何故すぐに話してくれなかったのかと不満を抱きつつも、あれこれ手をまわしてくれた事には深い感謝を示す。でなければ今頃はエイデンたちの計画に、息絶えていたかもしれないのだ。
「お前たち、今日は泊って行きなさい。その方が妻も喜ぶし、私も安心できるというものだ。あの連中が来てる以上、我々も無事で済むかどうか」
第五親衛隊が動いたのであれば、容赦なく牙を研いで首に喰らいつく準備はしているのが当然。狙った獲物を徹底的に追い詰める性格から、猟犬とも言われる男の率いる隊の統率力はさながら狼の群れのようだと印象が強い。
もしかすると妻を狙うやもと恐れたマウリシオは、カロールの護衛についてくれるようニコールたちに頼んだ。狙われているのが二人であっても手段を択ばない男の牙が狙うのはいつだって弱者なのだ、と。
もちろん、二人は快くマウリシオの依頼を請けた。ソードマスターであるうえにオーラ使いともなれば、真正面からやりあって止められるのは同じオーラ使いだけだ。迂闊な事はできなくなる。
「私たちであれば護衛にも少しは役立つでしょう。お任せください」
「頼もしい。……では今日はゆっくり邸宅で過ごすといい。争ったばかりで出歩くのも、あまり良い気分はしないだろう」
うろうろしていて、そろそろ日も暮れ始める時間だ。あちこちで酒場も開く頃だがエイデンたちと鉢合わせするとまた喧嘩にもなりかねない。初日くらいは心穏やかに過ごせるようマウリシオとカロールがもてなす事になった。
「二階の客室が空いてる。以前までは寝室にしていた二人部屋だ。馬車にある荷物で必要なものがあれば執事に言って持ってこさせるといい」
「お気遣いありがとうございます」
第五親衛隊とのひと悶着で疲れたのもあって、二人は早々に部屋へ案内してもらう事にした。馬車に置いてあった必要な荷物はトランクに纏めてあるので、後で運んできてほしいと執事に頼み、ようやく落ち着く事ができた。
「なんだか初日から大変でしたねえ……」
「うん。せっかく港町についたからのんびり観光できると思ったんだけど」
淡い期待だった、とがっくり肩を落とす。
「まあ、公女殿下から話は聞いていたし想定内ではあるんだけど、ここまでタデウス総隊長の動きが早いなんてちょっと驚いたよ」
「アタシたちがのんびりしすぎたのもある気はします」
本来であればもっと早く港町に到着できたが、出来る限り馬を大切に扱い、じっくりゆっくり旅を楽しんでいけばいいとゆっくりしすぎた結果が、第五親衛隊の早い到着による衝突だ。悩みの種が増えてしまった。
「これからどうするんです、予定通り滞在して魔塔に向かいますか?」
「その方が良いだろう。マウリシオ隊長と夫人を守るのが私たちの役目だ。こちらの命など自分で十分に守れるさ」
ぐぐっと伸びをして、窓辺の椅子に腰掛けると外を眺めた。
「でも、嫌な予感がする。今日休めと言われたけれど、少し外に出よう。アイデン隊長は言われていた通り徹底的に計画を立てる人だ。むしろ、もう一度第五親衛隊と衝突しておく程度の方が良いかもしれない」
「……わかります。あの男、蛇のようにねちっこそうですから」
あまりすぐに出て行くのもマウリシオに悪いと二人は一時間ほど休んでから、部屋を後にする。執事にもカロール夫人を警護するにあたって、邸内の構造を把握するために見て回っておきたいと尤もらしい事を言って歩き────玄関まで来てマウリシオと対面する事になった。
驚くべきは、彼は待っていたのだ。二人が外に出ようとするのを。
「私が言った事が聞けないだろうとは思っていた。アダムスカはよく知らんが、お前はそういう奴だったな、ニコール」
「あはは、バレてましたかぁ……。すみません、でも行きたいんです」
はあ、とあからさまに呆れて溜息を吐いたマウリシオがじろっとニコールを見つめて、どうしようもないまっすぐな瞳に諦観する。
「お前はいつもそうだ。私の指示を聞かず、自身の勘を信じる節がある。……とは言っても、それが外れた例がない。どのみち、いずれお前は出世して私を追い抜くだろう部下だ。やりたいようにやってみろ」
地の底まで落とされても、まだ前に進む姿はマウリシオも感心するものだ。かつて大勢の新人を見てきて、誰ひとりと育てて来なかった第二親衛隊は、今やそこそこにベテランで固まっている。他に人材が必要なほどでもない。だがニコールは違う。第二親衛隊に配属されてきてから、信念のある瞳は誰もが認めるものだった。できれば巣立っていってほしいとさえ思った。
そして実際に、第一親衛隊副隊長という優秀ぶりを見せた。それを疎ましく思う者たちがいるのを目にしながら、自分でなんとかするだろうと見送ってきた。いまさらになって過去に想い耽るのは歳のせいかな、とマウリシオは眉間を揉む。
「ただし、あまり遅くなるなよ。今夜ばかりは私も眠れそうにない。帰ってくるまでは待っていてやる。ニコール・ポートチェスターならびにアダムスカ・シェフィールド。貴君らの幸運を祈っている」
三人は拳を胸にどんと当てて、背筋をびしっと正す。
「ありがとうございます。それでは行って参ります」
「アタシたちも必ず良い報告を持ち帰るとお約束致します」




