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EP.5『敵と味方』

 立ち去ったアイデンたちを睨みつけ、門が閉まるとホッと揃って胸をなでおろす。アダムスカが「嫌な奴らでしたねえ」と眉を顰めた。


 親衛隊の顔ぶれは審問で知っていたが、最も寡黙だった男の底知れぬあくどい雰囲気をアダムスカは心底から嫌った。


「アイデン隊長は昔からああなんだ。根っからの上流階級だからか、自分より劣ると感じた相手には強く出てくる。だから強く返されると饒舌になるんだよね」


「よく親衛隊の隊長なんて務まりますねぇ……。血筋ってうんざり」


 呆れて肩を竦めるとカロールが申し訳なさそうに笑みを作った。


「ごめんなさい。何も力になってあげられなくて」


「あっ……。ち、違うんです、アタシはただ……すみません」


 カロールを悪く言うつもりはなかった。だが結果的に貴族を批判する言動は子爵家出身であるカロールにも刺さってしまう。アダムスカが戸惑う姿に、ニコールが「申し訳ありません、夫人」と胸に手を当てて謝罪する。


「私たちも全ての貴族を疎んでいるわけではないのです。あのように振る舞い、我々を蔑む視線を向ける者は貴族に足り得ないと、そう考えていました。誤解を招いてしまった事をお詫びいたします」


「いいのよ。あなたたちの言う事も事実だわ。だから夫も……」


 ちょうど何かを言いかけたとき、それを代弁するようにマウリシオが話しながら帰ってくる。手にはいくつかの丸められた紙を持っていた。


「連中の派閥争いはうんざりだと思っていた。やれやれ、帰ってきたら奴らが来ているとは。思わず身を隠してしまった」


「マウリシオ隊長。なんで隠れるんですか、助けてくれればよかったのに」


 ニコールに痛いところを突かれて気まずくなり、胸に手を添えて視線を逸らす。


「あいつらに見つかったら此処を離れる事になる」


「確かに、連れ戻そうとしていたようですが」


「それは困るんだ。私たちにとっても、お前たちにとっても」


 ニコールたちを連れて邸宅のホールに入り、玄関を兵士たちに見張っておくよう言ってから扉を閉めて鍵をかける。念のため出入口や窓から離れた場所に集めたら、マウリシオは丸めた紙をニコールに渡した。


「これは?」


「この町の地図だ、二人分ある。ひと晩で頭に叩き込んでおけ」


「ありがとうございます。でも、どうしてこれを?」


「観光の為に買ってきた。……というのは建前として」


 うぉっほん、とマウリシオは間を作ってから。


「お前たちが港町へ到着するには時間がかかり過ぎた。随分とのんびり馬車を歩かせていたようだが、そのおかげでアイデン卿が間に合ってしまった。既に私にも監視が付けられたらしい。おそらく町中に暗殺者もいる。気配を殺してな」


 伊達に親衛隊長の座を得ているわけではない。マウリシオは人混みの中に自身を監視する者の存在にいち早く気付き、あえて観光のためと口にして地図を買った。怪しまれて計画を変更されないようにだ。


「この四日間、お前たちは普通に観光をして過ごせ。この町は道が狭いから通り魔的に暗殺を試みる可能性もゼロではないが、その程度の気配をオーラ使いのお前たちが察せないはずがない。であれば狙うのは魔塔へ向かう船になる。安い暗殺者など雇ってはいまい。下手に騒ぎになればタデウス殿も自身の立場を危うくするだけだ。無理な手段は許可していないと見て間違いないだろう。港町には民間人に紛れてレスター家の私兵が治安維持のために憲兵隊と協力しているから、たとえ腕利きの暗殺者といえどもそう簡単には逃げられん。だから場所は船着き場を選ぶはずだ」


 船着き場は大勢が行き交い荷物を運ぶため、道が広く作られている。多少なりとも騒ぎが起きて、上手く人混みを避けてニコールとアダムスカを殺すのであれば、其処以外にない。船に乗ったのなら、なおさらに好都合だ。頃合いを見て、沖に出るときに沈むように細工をする可能性もある。


 マウリシオはおおよその事は理解していて、ぎりぎりまで敵を泳がせるためにわざとニコールたちに普段通りに過ごしてもらって囮にするつもりだった。


「必ず見張りがいる。お前たちの行動も逐一報告されるはずだ。となれば、普段通りに過ごして連中の計画通りにさせればいい。とはいえ初日くらいはわざと警戒しておくように。あのアイデンの事だ、何事も徹底したリサーチをして完璧な計画を練り上げるのは間違いない。だが他人を見下しすぎなのが瑕の男よ。警戒心を解いた愚か者だと思わせれば、こちらの勝ちは確実になる」


 ただ太っているわけではないのだな、とアダムスカは聞きながら感心する。そんな心を見透かしてか、マウリシオはなんとも不服そうな顔をした。


「まあいい。一匹でもネズミを捕まえられれば、お前たちの立場を良くする土台作りに使える。最初から予見されていた事だ、こちらの準備は整っている」


「最初からとは、私たちと会ったときからの事ですか?」


 あまりに出来上がりすぎていて不思議に感じたニコールが尋ねてみると、マウリシオはふふん、と自慢げに腹をぱんっと叩いて気味良い音を立てた。


「私は自分や家族のために富と権力を求める男だぞ。タデウス殿を切ってまで、先回りして此処に来た理由はひとつ。────皇帝陛下の勅命だ」

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