表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで騎士をやめたら  作者: 智慧砂猫
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/76

EP.46『進展』

 快諾してくれたイシドロたちに感謝して、アシュリンを連れてニコールたちは観劇のために劇場の中を案内する。特別な席を用意すると言われたが、アシュリンは貸し切りなのだから普通の席で構わないと言って断った。


 公女のアシュリンがタデウスよりも立場のある親衛隊最高顧問なのは、ニコールの入隊よりも少し前に決まった事だ。若くして、天からあらゆる恵みを与る皇室の中で、レイフォード以上に剣術に優れていたのがアシュリンだった。


 女性としては騎士となるのは好ましくないと言われたが、それを蹴ってでも自身の道を往く姿はニコールにとって、まさしく憧れの女性だ。


 しかし地位に加えて実力も相まった事から他国へ赴く事が多く、親衛隊の運営は殆どタデウスに全権がある状態で、まともに職務を全うしない者たちばかりなのも、その不在ぶりが大きかったと言えるだろう。だからこそニコールも地位を得て内部を正しくする夢があった。今では叶わないかもしれない遠い夢だ。


「ふむ、悪くない劇場だな。そなたは昔から見る目がある」


「ありがとうございます。でも、此処を見つけてくれたのはアダムなんです。彼女のおかげで公女殿下に知ってもらえて嬉しい限りです」


 相変わらずの謙虚ぶりに加えて、アダムスカへの信頼が厚いのを見てアシュリンはうんうんと頻りに頷いて満足げな表情を浮かべた。


「それでこそだ、ニコール。そなたが私の背中を見て育ってくれた事、大いに喜ばしい事である。アダムスカ、そなたもだ。七年前の事件は知っている。よく捻くれもせず正しい騎士となってくれた。二人は私たち皇室の誇りだ」


 讃えられた事に驚きつつも、嬉しさが隠せないアダムスカは頬を緩ませる。ずっと知ってくれている人がいた。ニコールのおかげでそれを知れたから。


「さ、席に着こう。私が真ん中、そなたらは挟んで左右にだ」


 変わった指示をされたな、と思ったところでアシュリンがぽそっと呟く。


「ちょうど話したい事もあったのだ。始まるまで少し話そう」


「……わかりました」


 笑ってはいるが目つきはかなり真剣そのものだ。先ほどまでの穏やかな雰囲気が一変し、後ろを三歩下がってついてきていたアランとクロードが離れた席に座って、話が聞こえないように配慮する。


「うむ、よろしい。まだ準備で劇も始まらぬであろうから、先に話を済ませよう。────そなたらを罠に嵌めた者について、些か進展があった」


 ぴく、と身が跳ねるほど二人が敏感に反応する。アシュリンは不敵な笑みを浮かべたまま、劇が始まるのを町ながら舞台を眺めて話を続けた。


「魔法使いによる謀略ではないかという話だが目撃証言などの状況から当時証拠隠滅を図ったらしい者を捕えた。記憶は曖昧で本人も分からず、おそらく操られていたか、記憶を消されたのだろう。しかし、おかげで完全に処分される前に刀剣を見つける事ができた。……と、まあ、ここまでは良いのだが」


 なんとか見つけた凶器。迅速な騎士団の対応と親衛隊そのものが魔法使いの味方だったわけでもなく、素早い審問が開かれた事で完全に処分する隙がなかったのだろう、とアシュリンは言った。しかし既に刀剣からアランやクロードも魔力の気配を感じられず『既に魔力の残滓が失われており、決定的な無実の根拠にはならない』と断定された。だが本題は、その先だ。


「凶器から魔力の残滓が見つからなかった以上、魔法使いによる謀略とは認められぬだろう。そこで北部の海を渡った先にある島に行ってほしい」


「北部の海を渡った先の島……どういう場所なのですか?」


 大陸での活動は非常に多い。だが海を渡る、といった経験がニコールにはない。それは騎士団であるアダムスカも同様だ。各地を転々とするアシュリンは自身の土地の詳しさにふふんと鼻を鳴らして言った。


「そなたらも耳には聞いた事があるだろう。其処はかの魔法使いたちが目指す〝最果て〟とも呼ばれる島。────すなわち、魔塔だ」


 ニコールが目を丸くして驚く。


「魔塔って……魔法使い以外は立ち入りが禁止されている区域でしょう?」


「うむ。本来であればそうだが、今回の事件は魔法絡みだ。連中も勝手にやっていろとは言うまい。宮廷魔法使いは魔塔から派遣されたも同然の人間ゆえ」


 片手を挙げて背後の離れた席にいる護衛を手招きして呼びつけ、アランが粛々とやってくると手紙を差し出す。受け取ったアシュリンはアランを下がらせたら、アダムスカにそのまま渡した。


「アダムスカ、そなたは黒のオーラ使いと聞いている。ならばニコールよりも身体能力が高いはずだ。これは奪われてはならない魔塔への紹介状である」


「……は、承知致しました。アタシたちが襲われる可能性が?」


 うむ、とアシュリンが深く頷き、ニヤッと笑った。


「ここへ来るまでの間に五度の襲撃があった。こちらが手練れと見て、そう簡単に連中も隙を見せず、適当に撤退して被害を抑えておる。そなたらも襲撃に備えて警戒しておくといい。どうやら小さな火種のつもりが想定を超えて燃え広がっておるようだぞ。事の発端が私も兄も、なんとなく想像はついているのでな」


 劇の準備が出来て、とうとう始まる瞬間、最後にアシュリンは言った。


「────どうやら、親衛隊の中に裏切り者がいるらしい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ