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EP.4『気が合いそう』

 任務としてフォードベリー騎士団へ加わる予定だったが、黒い現状を憂いている彼らの姿を見ると放っておけない気持ちになった。問題があれば解決する。親衛隊は現場に出る事は殆どなくても、皇宮に居る人々は皇家だけでなく平等に救う事を命じられている。その対象とはつまり仲間であり、民である者たちの事だ。


 平和になった今、これといった問題が起きるわけもないと親衛隊の面々は手を抜くばかり。それでもニコールは毎日鍛錬を続ける自分が馬鹿だとは思わない。これが必ず未来に芽吹く希望の小さな切っ掛けとなると信じた。


「あなたがシェフィールド卿ですね」


 花壇の縁に腰掛けて休憩するアダムスカが、呼ばれて顔をあげた。見慣れない顔、親衛隊の制服。騎士団員とは違う凛々しさ溢れる雰囲気。あぁ、わざわざ何か聞きたい事でもあるのかな、と嫌そうな顔を隠しもしない。


「そうですけど、あまりアタシに話しかけない方が良いですよ」


 青藍混じりの黒いウルフヘアが特徴的で、帝国の人間にしては瞳の色が梔子(クチナシ)色と珍しい。もし騎士団長に拾われていなければ今頃は人身売買ルートで、誰とも分からぬ貴族の子飼い(奴隷)になっていておかしくない美しさだ。


「私は親衛隊から第三騎士団に異動になりました、ニコールです。よろしければ仲良くなりたいと思って声を掛けさせていただいたのですが」


「周りの視線、気付きませんか?」


 冷たく突き放すような言葉だったが、警告だと取ったニコールは周囲にいる騎士団員たちが奇異の視線を向けているのを察する。明らかな警戒。そして敵意はアダムスカに対するものだと分かった。


「ニコールさん、でしたっけ。アタシと話さない方が身のためです。このフォードベリーで、アタシは悪魔みたいな存在ですから」


「……そうですね。その方がいいかもしれません」


 周囲の反応はあまりにひどい。アダムスカを明らかに邪魔者扱いして、そんな彼女に関わるニコールにまで『うわさを知らないのか?』と、親衛隊からやってきた新参者に対して攻撃的な態度だ。忠告とはまさに関われば痛い目に遭うとでも言わんとしているかのようで、しかし屈するほど親衛隊の騎士は甘くない。


「ですが同じフォードベリー第三騎士団の名を冠する以上、仲間を無碍に扱う事はできません。他の方々がどういった感情を抱いているかは知りませんが、私には恨みなどないですから。……他の方々が何をしようとも興味はない」


 自分は自分、というスタンスは崩さない。同時にわざわざ介入もしない意思を示すと騎士たちは些か不服ながらも納得はできた。皆も分かっているのだ、真実がどこにあるか知りもしないと。ただ、失った痛みを和らげるために、その矛先として生存者であるアダムスカを選んだに過ぎない。


「そろそろお昼ですけれど、食事を済ませてないのなら少し食べながら話せませんか、シェフィールド卿。ここから食堂も近いですから」


「……あまり気は進みませんが、こほん。少しお腹は減りました」


 訓練場にいても気分は良くない。ましてニコールにまで迷惑が掛かるのは、なんともアダムスカとしては避けておきたい。親衛隊の人間を巻き込んでトラブルを起こせば、今度こそ騎士団にはいられなくなるから。


「行きましょう。今日だけですよ、えっと……ニコールさん?」


「ええ。ではご一緒に。一人よりも二人で食べた方が楽しいでしょう」


「それは納得です。歩きながらお話でもしますか」


「いいですね。アダムスカさんの事も色々と聞きたかったので」


 食堂を目指して歩く中、二人は話すと言いながらも最初は些かの沈黙があった。互いに気心も知れない相手ゆえに、何から聞くべきかと迷っていた。


「あの、聞いても良いですか、アダムスカさん」


「アダムでいいですよ。呼び捨てで構いません。堅苦しいの苦手で、もっと気楽に話してくれると助かります。アタシが敬語なので説得力ないですけど」


 てへへ、と笑う姿は年相応ではなく幼さが強く残っているふうに見える。ニコールは今年で二十七歳、アダムは二十二歳。年の離れた妹のように感じた。


「わかった。それではアダム、色々聞いてもいいかな?」


「もちろんです。答えられない事もあるかもしれませんが」


「騎士団の空気はいつもああなのか。見ているだけで息が詰まる」


「もう慣れましたよ。彼らが入団してくる以前からもそうでしたから」


「……そうか。第三騎士団が再編されてからも、君はずっと此処に」


 ただ声を掛けただけだというのに冷たく淀んだ視線が向けられる。それならばアダムはどれほど冷ややかな態度を向けられてきたのだろうか。たったひとりで何年も。自分ならばきっと耐え切れない、とニコールも穏やかではない。


「慣れたなんて事はないだろう。アダム、君のそれは……」


「いいんですよう、アタシの事なんて気にしちゃだめですって」


 けらけら笑ってニコールの背中をパシパシと軽く叩く。


「生きてると嫌な目にも遭うものです。けど、お父さんは言ってました。どんなに辛くても小さな良い日があると明日を頑張れるって。アタシもそうです。ニコールが話しかけてくれた事で、アタシの今日はとても良い日です」


 ニコッと笑う少女の顔が、陽射しに照らされて優しく輝く。


「……ふふ、それならいいんだ。君とは気が合いそうで助かるよ」


「独りぼっちにはなりませんよう、アタシがいますからね」

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