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EP.33『北部の町へ』




 王都を出て最初に二人が目指したのは、北部にあるリズコック領の町ハロゲット。雪の降り積もる寒い地域だが、専属魔法使いのおかげで町は滅多と寒さに震える事のない、比較的暮らしやすい町だ。


「へえ、町はあったかいですね。毛布が要らないなんて」


 たたんで荷台に放り込み、ぐぐっと体を伸ばす。ニコールも御者台から降りると、深呼吸をしてリラックス。落ち着いて新しい町の空気を嗜む。


「リズコック侯爵が魔塔から雇った魔法使いが、町が温かくなるようにと、魔法の効力がある大きな結晶を町の中央に設置してるそうだよ。それが町全体をぎりぎり覆うくらいの範囲になるんだってさ」


「へえ……。魔法って便利ですよね。アタシも使えたら良かったのに」


 オーラ使いには魔法は使えない。それと同様に出来る事もまるで違う。オーラ使いは直接的な能力の上昇。視力であったり、あるいは腕力や脚力に直結する。だが魔法にはそういった便利なものはない。代わりに生活の中に浸透するような不思議なものが多く、その代表的な例が水を浄化する魔法だ。


 中には精神操作に長けたものもあるが、それらは禁忌とされて魔塔でも研究が禁止されているため、本来であればゴアウルフの件のように魔物を操る事自体が許されていない。明らかに違法行為に手を染めた魔法使いも世の中にはいた。


「私はオーラが使えて幸せだけどね。言えば、求めてた憧れとか夢みたいな。その目標が、今は少しなくなってしまって残念だけど」


「またいつか戻れたらやり直しましょ。それより食事しませんか?」


 町が運営する厩舎で馬を預けたら、ようやく昼食だ。朝は適当に荷物の保存食で済ませたが、もう町を目指して四日。そろそろ宿に泊まって、しっかりと食事をしてから見目には綺麗でもすっかり汚れた体を洗い流したかった。


「そうだね、私もお腹が空いてしまったから……近くに良い宿があるといいんだけど。如何せん、私もハロゲットに来た事は少なくて」


 親衛隊にしろ騎士団にしろ、いくら平和で暇なときが多いとはいえ、いつ仕事が舞い込んでくるか分からないのでのんびり旅行などしてる暇はなかった。おかげで町までの道は地図で知っているからいいとしても、到着した後をどうするかまでは明確に計画も立てられないので、町を見て回るしかなかった。


「あんたら、皇都から来たのかい?」


 厩舎で働く老人がニコニコと声を掛けた。二人が困っていそうだったので、少しは力になれるかもしれない、と。


「はるばる遠くからよく来なさったねえ」


「えへへ、どうも。アタシたち、旅が不慣れで。良い宿を知りませんか?」


「んん、そうだなあ。『フクロウの止まり木』って宿はどうかねえ」


「ふくろうのとまりぎ……ですか? 見れば分かります?」


 老人はうん、うん、とゆっくり頷いた。


「店は小さいけど、ここから道沿いに行けばフクロウを描いた看板があるんだ。あんまり客はいないんだけど料理は美味しいし、中も綺麗だから」


 指を差された道沿いを確認してから二人は老人に礼を言い、馬車を預けたら宿を目指して歩く。ハロゲットは他の町と比べれば活気も少ないし侯爵領自体が大きくないからか、中心的な町であっても田舎的な雰囲気が漂っていた。


「なんだか良い空気の町だね。急かされなくて落ち着くよ」


「皇都はがやがやしてますもんねえ。こういう町がお好みですか?」


「昔は、もし騎士を退職したらこんな町で暮らすつもりだった」


「いいですね。アタシもいずれそうしよっかな」


「そうだな。私たちも、永遠には旅を続けられるわけじゃないから」


 今はまだ若く体力にも溢れているが、いつか必ず年老いてくる。旅をする元気がなくなければ、町で健やかに余生を過ごすのも悪くない。そんな話をしながら、アダムスカは目の前にフクロウの看板を見つけた。


「あっ、これじゃないですか?」


「本当だ。入ってみようか、オープンの看板もしてあるみたいだし」


 扉をノックしてから、そっと覗き込むように入る。店の中は静かで、皿を洗っているのか食器のぶつかる音と水の流れる音だけが響いていた。


「すみません、お忙しい所申し訳ないのですが……」


「ん? ああ! これはいらっしゃいませ、気付きもせず!」


 皿を洗っていた女性が手元にあったタオルでしっかり手を拭き、ばたばたとカウンターへ入って客を迎えた。すらりと美人でウェーブの長い髪がキマっている。とびっきりの営業スマイルに、ニコールはやんわりと小さく首を横に振った。


「いえいえ、気にしないでください。私たち、実は厩舎で働いている老人から、こちらの宿がオススメだと聞いて足を運んだのです」


「あ、そういう事ですか! やだ、もうお爺ちゃんったら!」


 呆れた、と手で顔を覆ってから女性は胸に手を当てていった。


「私はシアラって言うの。祖父が勝手に此処を紹介したみたいで、ごめんなさい。他に良い宿はいっぱいあるから、もしよければ私が紹介しましょうか」


 困った様子のシアラに、ニコールとアダムスカは顔を見合わせて────。


「いえ。私たちは此処が気に入ったので、ぜひ泊まらせてください」


「アタシもお腹が空いちゃって……。此処は料理も美味しいと聞きました!」

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