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EP.24『協力者』

 クロードの提案にアダムスカは渋ったが、ニコールはやはり皇宮に残るのが賢明だろうと考えた。今に急いで逃げれば状況は悪化するばかりだ。自分たちがやりましたと公言するようなものでしかない。


「アダム、従おう。私たちの今後を考えても損だ」


「っ……わかりました、あなたが言うなら……」


 絶対に無理だ。アダムスカはそう内心で断言した。彼ら騎士団が皇室親衛隊の人間を捕えるという事は、つまりさらに上層部からの指示があっての話。つまりニコールを疎ましいと思う人間が必ずいるからだ。


 しかし、ニコールの言う通り、今後を考えても逃げるのは損でしかない。指名手配されて息を潜めながら生きるのは難しい。この世からふたりの人間を同時に隠し切る方法など何処にもない。


「ありがとう、お前たちの協力に感謝する」


 クロードが礼をすると騎士たちはざわつく。罪人に頭まで下げるなどクロードらしからぬ振る舞いでしかない。とはいえ相手は容疑が掛かっているだけの親衛隊でありクロードがいくら団長でも親衛隊副隊長であるニコールの方が地位を持つ。そこに礼を欠く事こそ騎士の恥だ、と周囲をぎろっと睨んだ。


「やめておくんだ、クロード。部下たちの考えもあながち間違いではない。……パトリック、両名を地下室に連れて行ってくれ。尋問は我々で行う」


 アランがクロードの背中をぽんと叩くと、傍にいたパトリックと呼ばれた男が小さく会釈してから、ニコールたちに「こちらへどうぞ」と声を掛けた。


 大人しく従えば今のところ命は繋がる。助かる方法は後々に考えればいいとニコールが小声でアダムスカに囁き、仕方なく了承する形で剣を収めた。


 連れて行かれた先は第二騎士団寮の近くにある地下室。容疑の掛かった者、あるいは捕えた罪人が裁きの宣告を待つための留置所。ベッドに机や椅子が備えられており待遇としてはまともで、罪を犯した者に対する人権を守るためだ。しばらくは快適に過ごせるが、その代わりに出入りの自由はなく、食事も最低限のみ。幸いにも団員が個人的な理由から暴力を振るうといった問題はなく、口論程度はよくある話だが、あくまで規律に従った行動が心掛けられている。


「しばらくはこちらでお待ちください。後ほど、アラン団長とクロード団長がお二人に事情を聞きにやってくるかと思います」


「そうなのかい? 団長直々とは助かるよ。こちらも話がしやすい」


 明るく振舞うニコールに、パトリックは小さく礼をする。


「ご安心ください。団長たちはお二人を疑ってはいません。ですが、これ以上は御本人から説明を受けてもらいます。私は所詮小間使いですので」


 地下留置所からパトリックが出ていくと静寂に包まれた。聞こえてくるのは、外から入り込んでくる僅かな風の音くらいなものだった。


「どうして従うんです? 連中、必ずアタシたちの事を死刑にしますよ」


「ハハ、君は意外と喧嘩っ早いな。だが問題ないさ。団長たちはどうやら、私たちを無実ではないかと疑ってくれているようだ」


 なぜそう言い切れるのか分からなかったが、ニコールには人を見る目がある。アダムスカは自分を信じてくれた恩人の言葉に牙を立てたりはしなかった。そうまで言うのなら、団長と話し合うのも可能性があるはずだ、と。


 そうして半刻もした頃、足音が近づいてきた。軽口を叩く男と諫める男。二人のやり取りは愉快なものではなく、姿を現したアランとクロードがニコールたちを前にして軽々しい雰囲気を払って呼吸を整えた。


「やあ、お二人さん。ちょいと待たせちゃって悪かったね」


「私たちも忙しいものでな。とはいえ他の連中には任せられん」


 やるべき仕事を途中で放り出しての騒ぎだったので、自分達の仕事が半端のままでは良くないと急いで片付けてからやってきたのだ。半刻も掛かってしまった理由などアダムスカはどうでもよかったが、ニコールは微笑んで返していた。


「お二人が私たちに尋問をなさるそうですね。聞きたい事があるのですか? 念のため先に答えておきますが、アービン団長の事でしたら────」


「ありゃ殺人だが、犯人はお前たちじゃない。そうだろ?」


 遮ってクロードが答えた。驚いて黙り込んだ二人に、アランが続けた。


「指紋は見つかったが、アービンを殺すだけの理由が君たちにはない。そのうえ、殺されたのは今日の午後と判っている。おそらく擬装されたものだろう。我々にはそれを暴けるだけの能力がない。魔法の事は魔法使いにしか分からない」


 遠回しに『皇室専属魔法使いによる証拠の捏造だ』と言う。その証拠は見つけられない。アランはとても歯痒そうに顎を擦りながら────。


「皇室親衛隊の誰かが後ろ盾になっているようだ。現場を調べようにも、現場保存だとか言って、連中が権限を握った。訳が分からないまま、君たちを捕えるよう命じられてしまった。従うしかないと思ったが、やはりこの目で見て確信したよ。君たちはあのような犯罪に手を染めるほど悪辣ではない」


 騎士団の団長が殺されたにも関わらず、捜査権限を親衛隊が握った。第三騎士団まで締め出しをくらってしまった以上、事態の進展は望めない。


「普段は働かないくせに、俺たちの仕事の邪魔となると喜んでやりやがる。そろそろ親衛隊が皇宮内をうろつくだけの無能だって証明しないとな」


「それでアタシたちに何をしろって言うんです?」


 アダムスカが強めの言い方をすると、クロードはけらけら笑った。


「相変わらず威勢がいいな、アダム。親父さんに咬みついてた頃に戻ったんじゃないか。とっつきにくい狂犬がやっと大人しくなったと思ったんだが」


「昔話なら此処から出ればいくらでも付き合いますよ」


 ちくりと言われて、苦い顔を浮かべる。アランはクロードが邪魔に感じて、自分が率先して話を進めるべきだろうと口を開く。


「ともかくだ。協力者が欲しい。君たちの状況を知ってなお手を貸してくれそうな人物に心当たりがあるなら教えてくれると助かるんだが……」


 そう言われても、とアダムスカは困った顔をする。騎士団内に自分の信頼のおける人間はまだいない。むしろこれから関係を構築していくはずだったのだ。


「アタシはちょっと……。ニコール、あなたは?」


「ううん、親衛隊は申し訳ないが誰も」


 瞬間、総隊長の事を思い浮かべたが、所詮は上司と部下という関係で繋がっているに過ぎない。今、この状況から脱するに全幅の信頼を置くのは難しい。


「ですが、一人だけ可能性があるとしたら、エリック……サンダーランド卿が聞いてくれるかもしれません。弟を亡くしたばかりで頼るのは心苦しいですが」


「そうか。では明日、ここへ連れてこよう。その際にはクロードが付く。安心して話もできると思う。それからこれを渡しておこう。隠し持っておけ」


 アランとクロードが自分たちの携帯していた短剣を渡す。


「もし俺たちの睨んだ通り、親衛隊や魔法使いが一枚噛んでるとしたら、刺客が送られてくる可能性もある。護身用だ。それじゃあ、また明日な」

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