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EP.21『勝利の代償』

 思わず叫んだ先で、ゴアウルフは今度こそ力尽きていた。だが、その場にアダムスカも倒れている。慌てて駆け寄ると、よろよろと起きあがってニコールに心配をかけるまいと気丈にも笑ってみせた。


「だ、大丈夫でしたか、ニコール? あなたが無事でよかったです」


「何を言っているんだ……! 君は自分がどうなったか分からないのか!」


「そう怒らないでくださいよ。ちょっと片目をやられただけなので」


 ぎりぎりで防いだおかげで致命傷にはならなかったものの、弾き飛ばされるように倒れ込んだアダムの顔は、爪の尖端に引っ掛かれて片方の目が縦にまっすぐ裂かれていた。深くはないが、これから先、使い物になる事はない。


「ほら見て下さい。オーラを使えば止血だって出来ますから」


 手で覆い隠して治療すると傷口は塞がったが痕は残っていたし、目は濁ったままで見えていないのが分かる。ニコールは怒りと呆れと申し訳なさの入り混じった声で「それで済むわけないだろ」と零す。


 自分のせいで、と責めざるを得ない。相手は生命力の計り知れない魔物だ。油断があったと言えばそうだ。王室親衛隊の副隊長ともあろう者が油断をした。だからアダムスカが大きな傷を負ってしまったのだと泣き始めてしまった。


「あわわ……! ほ、本当に大丈夫ですよ!?」


「だって、だって君の目が……こんなはずじゃなかったのに……!」


「もう、泣き止んでくださいよ。ほらこっち見て」


 顔をぎゅっとしてまっすぐ目を合わせて、アダムスカはニコッと笑う。


「生きてるでしょ。だから大丈夫です。アタシひとりだったら黒いオーラに呑まれて、今頃は死体になってたかもしれないんですから」


「それはそうかもしれないけど……せっかくの綺麗な顔が」


 アダムスカがぷくっと頬を膨らませた。


「失礼な、今は綺麗じゃないみたいな言い方ですね」


「あっ、いや、そうじゃなくて! ご、ごめん!」


「ふふん。それでよろしいのです。ところで、話題は変わるのですが」


 なんとかニコールを宥めてゴアウルフの傍に寄り、手で触れてオーラを這わせて気配を探る。どこかにあるはずのものを見つけなくてはならなかった。


「魔法使いがこれを操ったのなら、かならず魔石が埋め込まれているはずです。さっきまで動いていましたから私のオーラなら残滓を探れるかもしれません。これがなければ、七年前の事件でアタシの無実は証明できない」


 魔法使いでなければ魔法は扱えない。それと同時にオーラは剣士でなければ扱えない。それぞれが相反する力であり、同時に持つ事はできない。だから魔石さえ見つかれば、七年前の事件において『魔物を嗾けた』という噂に対する否定材料に出来るだろうとアダムスカはゴアウルフの体を探った。


「器用だな。君のオーラはそんな事ができるのか?」


「黒いオーラは特に魔力に反応するんです。ですから……」


 探っていくうち、胸のあたりに何かが深く埋め込まれていると分かり、剣を抜く。少し距離を取り、思い切りオーラを纏って切り裂いた。


「……ニコール。ありましたよ、魔石です。それもかなり大きな」


 血に濡れる事も厭わず、切り裂いた箇所に深く腕を突っ込んで見つけ出した魔石は黒く輝いている。まだ魔石に魔力が残っているのだ。


「これを持ち帰れば証拠になります! ゴアウルフも討伐して、七年前に魔法使いが操っていた事が分かれば、きっと無実を証明してこれまでのわだかまりも解消できそうな気がします! ニコールのおかげですね!」


 喜ぶアダムスカに、ニコールは君の努力の賜物だと首を横に振った。


「ひとまず戻ろうか。家に女性を置いてきたままだから────」


 いったん戻ろうとしたとき、遠くから声が聞こえてくる。おーい、おーい、と何度も呼び掛ける声だ。老人の事もあって警戒していると、現れたのは見慣れた姿をした男────エリックが、ブレットを背負いながらやってきた。


「エリック!? 無事だったのか!」


「良かったです……本当に良かった……!」


 急いで駆け寄った二人に、エリックは気まずそうな表情を向ける。


「あぁ、なんつうか、その……。運が良かったんだろうな、俺は」


 エリックの服は血塗れで、ブレットの返事がない。ずっと体を預けたまま、ぴくりとも動かなかった。


「とりあえず家に入れるか? 色々と話したい事もあるしな」


「あ、あぁ……。入ろう、すぐに灯りを点けるよ」


 嫌な予感がしながらも部屋の灯りを点ける。もうゴアウルフもいないので、天井に下がった魔石のランプで昼間のように明るく照らす。


「魔法使い様の文明ってのはありがてえな。おかげでよく見えるぜ」


「……エリック。ブレットはどうしたんだ」


 ただ事ではないだろうと気丈に明るく振舞おうとするエリックに、躊躇わずに直球で尋ねた。彼はソファに寄って、ブレットを優しく寝かせる。


 目を瞑り、深く眠っているような穏やかな顔だが、口からは血が垂れて衣服は殆どが血で濡れている。牙で咬まれた傷が身体に穴を開けていた。


「死んじまったよ。いきなり襲われたんだ、待ってたみたいにな」

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