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EP.18『信頼の選択』

 ひとまず全員で老人のいた家に戻ったが、やはり気配はなく、二階を探しても完全にもぬけの殻だった。しかし、異変に最初に気付いたのがエリックだ。室内を調べ回っていて、ふと二階のクローゼットを開けたとき、ハッとした。


「……おい、ニコール!」


 呼ばれて一階にいたニコールが駆けあがってくる。


「どうした、何か見つけたのか?」


「ああ。此処に爺さんが隠れてたって話だよな」


「そのはずだが……これは……」


 開け放たれたクローゼットの中には、意識のない女性がいた。即座にエリックは息があるかを確かめてから、無事だと安堵する。


「生きてる。そっちのベッドに移すから、どっかにタオルがないか探してみてくれ。大分汚れてるから、手足くらいは拭いてやらねえと」


「わかった。君は頼りになるな、エリック」


 素直な褒め言葉に、エリックはニッと笑った。


「なんだよ、もうサンダーランド卿とは呼ばねえのか」


「頼り甲斐のある友人に対して畏まる必要はないだろう。では女性を頼むよ」


 タオルなら洗面所で見かけたな、とニコールは一階へ降りた。思った通り、小さな棚にたたんで積まれているのを見つける。


「うん、あったあった。水は……流石に出ないな。ちょっと時間は掛かるけど使えそうな井戸がないか探してみた方が良さそう」


 タオルを持って家を出ると、そこへ今度はアダムスカとブレットが慌ててやってきた。外で老人を探していたところで問題が発生したのだ。


「た、大変だ、ニコールさん! 馬車が……!」


「馬車がないんです! やられました(・・・・・・)!」


 持っていかれた。誰に。考えるべくもなく、馬車を奪えるのはひとりだけ。家に隠れていたという老人だ。ニコールはしまったと溜息を吐き、額に手を置く。行方をくらましてすぐに馬車に気を遣っていればよかったが、骨と皮ばかりの頼りない体つきをした老人が、そこまでの行動ができるとは想定していなかった。


「……アダム。馬車の周辺に魔力の痕跡はなかったかな」


「言うと思ってました。はい、あの御老人、おそらくは魔法使いかと」


「擬装魔法か……。外見をああまで変えるなんて」


 よく耳にするのは、髪や瞳の色変える魔法だ。普通はそのくらいでしかない。もし完全に姿形を変えて人の前に現れるなら、それは魔法使いの中でも特に秀でた大魔法使いと呼ばれる部類に入れられた。


「幸いにも下ろした食糧等は奪われていない。大体のものが保存食だから、歩いて帰るとなっても問題はないと思うが……。さっき、エリックが女性を保護したんだ。誰かが村に残る必要があるだろう」


 魔物が現れるにせよ現れないにせよ、女性は意識がないままだ。看ておく誰かが必要になる。ニコールが言うと、アダムスカが手を挙げた。


「じゃあ、アタシとニコールが残ればいいと思います。保護されたのは女性ですし、なにより魔物が現れたときに対処しやすいですから」


 ゴアウルフがどれほど危険な魔物となっているかは村の状況を見れば分かる。レンガ造りの家さえ簡単に壊してしまう怪物だ。ソードマスターであるニコール、それに並ぶアダムスカ。あるいは準ソードマスター級のエリックが残るのが妥当となり、まだ若いブレットは王都に戻って実情を伝えるのがベストだと考えた。


「……ふむ、私もその案に賛成だ。ブレット、君は?」


「俺も異論ないよ。足手まといになるだろうし」


「ではアダム、エリックに伝えておいてくれるか。私は頼まれ仕事がある」


 手に持ったタオルを見せるとアダムスカとブレットは頷いて家に戻った。問題はあったものの、方針が決まればニコールも少し気分が落ち着く。


「(これが最善の選択だろう。ゴアウルフ討伐は元々、私とアダムで計画した事だ。保護した女性の安全も考えれば、彼らに事情を伝えに戻ってもらうのが最も無難。私の選択に間違いはない……と思いたいな)」


 見つけた井戸から水を汲む。傍にあった桶に入れてタオルを突っ込み、抱えて家まで戻っていく。家の中では全員が一階で待っていて、戻ってくると水の入った桶をアダムスカが受け取って二階へ上がった。


 やや不満げにも見えるエリックは耳に小指を突っ込んで掻きながら。


「事情は聞いたよ。俺とブレットで王都に戻れって?」


「すまない。此処まで一緒に来てもらったのに」


 魔物討伐の中でも、凶暴化したゴアウルフともなれば、その功績は偉大と言える。であれば恐れ知らずに戦闘に加わりたいと思う。それでもエリックは自分に与えられた仕事に関して私情を挟みはしなかった。


「……わかった。ブレットと戻って馬車を調達してくる。一人で帰らせるわけにはいかねえのは俺も重々理解してるよ。魔法使いってのはそういうもんだろ」


「ああ。彼らは戦闘能力は高くないが罠に関しては狩人のそれだ。君に此処を任せてブレットを預かれるほど私は自分に自信が持てない」


 連携を取るにしても、関わって浅いニコールがつくより、慣れ親しんだ性格のよく分かる兄弟であれば、いざというときの判断力の鋭さに違いがでる。問題が起きた場合は組む相手がエリックとブレットの二人なら安心ができた。


「立派な判断だぜ、副隊長サマよ。……いつも食って掛かっちゃいたが、そういうところは本気で尊敬してる。ありがとう、行ってくる」


「気を付けて。帰ったら一緒に酒を飲む時間が作れるといいんだが」


 軽いハグを交わして、エリックの腕をパシパシと軽く叩く。


「そんなら、とびきりの酒を馬車に積んできてやるよ」


「ではゴアウルフ討伐の祝杯は、その場でやるとしよう。待ってる」

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