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EP.16『荒れ果てた村』

 そうして、希望を持ちながら、四人の旅は最初の目的地であるオールドサリックスへ到着する。王都から少し離れた森を抜けた先にある小さな村だが、どちらかといえば人口的には集落にも近い。穏やかで、世俗を忘れて過ごすには良い場所────のはずだった。少し前までは。


「おいおい、こりゃあなんの冗談だよ?」


 小さくとも活気のあるオールドサリックスは、子どもたちが少なくともよく笑い声の聞こえる明るい村だったのだが、今、四人の目の前に広がっているのは紛れもない廃村。家は崩れ、草木は生えて荒れ放題で人が住んでいる気配がない。


「ここ数か月、まるで誰もいなかったみてえだ。いや、それより酷いか。人が暮らすには無理があるぜ。オールドサリックスは長閑な場所だろ?」


「私が知る限りはそうなんですけどね……。何があったんだろう」


 聞こえてくるのは鳥の鳴き声、それから風と草木の擦れ合う音だけだ。


「探してみよう、私たちが来たと分かれば誰か顔を出してくれるかも。……おーい、誰かいませんか! 私はフォードベリー第三騎士団所属の者です! 誰かいませんか、よろしければ話を伺いたいのですが!」


 ニコールの呼びかけを皮切りに全員が大声で人を呼んだ。しばらく進むと、ぼろぼろの民家の扉がぎい、と音を立てて開き、中からやつれた顔の年老いた男が、周囲を警戒するようにきょろきょろ見てからニコールたちに手招きをする。


「こっちじゃ。はよう来い、あれが来たら大変なことになる!」


 言われたとおりに駆け足で民家の中に入ると、老人はとても疲れた様子で椅子にゆっくり腰掛ける。砕けた壁には板で補修がしてあり、中も些か荒れた状態だ。分厚いテーブルは倒れて、部屋の隅には椅子が無造作に重ねられ、床はバラバラになった木の破片がいくつも転がったままだった。


「初めまして、御老人。私は第三騎士団所属のニコール・ポートチェスターと申します。こちらは同じく第三騎士団の者たちです」


「そうかい、そりゃよかった。騎士様が来て下さるとは……」


 老人が大きなため息を吐く。しかし、彼らの来訪を喜んではくれた。


「ここで何かあったのですか? とても廃村のようにしか見えませんが……」


「ああ、先月の中頃の事だよ。アレがやってきたんだ」


 項垂れながら、老人は語った。


「最近になってゴアウルフがウロついてるって話があって、王都に調査依頼を出したばかりだったんだ。元々は大人しい魔物だ、そう気にも留めなかったんだが……アレは違った。一回り大きくて凶暴で、次々に村の皆に襲い掛かった」


 酷い有様だった。ひとりも逃がさない。ゴアウルフはよく鼻が利く。満足するまで家々を破壊しながら隠れている者は全員を喰らった。それが骨と皮ばかりの老人であろうと、肉付きの良い子供であろうと、違いなく全てを。


 悲鳴と絶叫を聞かされながら、老人はただ嵐が過ぎ去るのを部屋のクローゼットの中で震えて待った。誰かを助ける事も叶わず、誰かを助けたいとも願えなかった。恐ろしくて気を失って、目を覚ましたときには村は何も残っていなかった。


「……わし以外が誰も生きておらんのだろう。あれから一ヶ月が過ぎて、村にある食糧で飢えを凌いできたが、この老体に鞭を打って王都まで助けを乞いに行くには、もう年老いすぎてしまった。あなたたちに会えてよかった」


「そうだったんですか……。それはさぞお辛かったでしょう」


 全員、何をどう言葉にしていいか分からない。中でもアダムスカは胸が締め付けられる想いだった。自分と同じ経験をした誰かが目の前にいたから。


「ちょうど四人で来たのは正解だったな。馬車はあるが、まだ着いたばかりだ。少し休ませたら、ブレットは老人を連れて王都へ帰還してほしい。ここにいては危険だろうし、ゴアウルフが現れても私たちで守れるかまでは分からない」


「わかった。じゃあ食糧を下ろそう。俺とお爺さんだけだから、たくさんは必要ないはずだ。兄貴に手伝ってもらうから、ふたりはここにいてよ」


 まだ聞きたい事があるだろう、と気を遣ったブレットに同調して、エリックもそれとなく家を出て静かに馬車に戻った。


「本当にすまない、あなたたちには迷惑を……」


「そんな、我々の仕事ですから。それよりも私たちは他に聞きたい事があるのですが、気分を害さないのであればぜひとも話して頂きたい」


 老人は、うんうん、と頻りに頷いて安堵した表情を浮かべる。村が壊滅した事は悲しかったが、少なくとも自分は助かったのだ、と。


「ゴアウルフの特徴、それから、どこから現れたのか分かりますか?」


「とても大きかった。普通のゴアウルフとは違う。多分、ここからもっと北の森にいる。七年前も、そのあたりで見つかったんだと聞いてるよ」


 当時は運良く村に現れなかっただけ。ゴアウルフが捕食を行うのは数年に一度だ。それほどエネルギー効率が高く、餌を必要としない。だから小さく栄養の少ない人間は狙わずに熊や鹿を狙って喰らうのが当たり前だった。


「(本来なら森で静かに暮らして一年の殆どを寝て過ごすはずのゴアウルフが、そこまで凶暴化した理由はなんだ……?)」


 考えていると、アダムスカが肩をぽんと叩く。


「ニコール、考えていても埒が明きません。村を見て回りませんか。痕跡から何か分かるかもしれないですから」


「うん、そうだね。ではご老人、席を外しても大丈夫ですか?」


 外にはエリックたちもいる。老人は安心して行って来て欲しいと快諾した。ただ黙って助けられるだけでは老人も心苦しかったので、少し気が晴れた。


「では行きましょう。アタシたちフォードベリーの腕の見せ所です」

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