2.異世界転生、強制執行!?
衝撃が全身を駆け巡り、意識が途絶えた。次に目を開けた時、そこは真っ白な空間だった。まるで純粋な光で満たされたかのような場所で、足元には何も見えない。自分がどこにいるのか、なぜここにいるのか、宵智の頭は混乱でいっぱいだった。
そんな彼の目の前に、一人の女性が立っていた。彼女は透き通るような白い衣をまとい、長く豊かな銀髪が光の中に溶け込んでいる。顔立ちはこの世のものとは思えないほど整っていて、吸い込まれそうなほど深い紫の瞳が、宵智をじっと見つめていた。
「はじめまして、渋谷宵智さん」
その声は、鈴が鳴るように澄んでいながらも、どこか懐かしさを感じさせた。彼女は静かに微笑むと、優雅な仕草で一歩前に出る。
「わたくしはヘルンと申します。あなたをここへ導いた者、とでも申しましょうか」
ヘルン。聞き慣れない名前に、宵智は眉をひそめた。状況が全く掴めない。まさか、ここは病院の集中治療室で、これは夢でも見ているのだろうか?
「……あの、すみません。俺、どうなったんですか?もしかして、事故で…」
宵智の言葉を遮るように、ヘルンは静かに首を横に振った。
「ええ、その『事故』とやらで、あなたの現世での生は、残念ながら終わりを告げました」
ヘルンは淡々と告げた。その言葉は、あまりにも冷静で、まるで天気の話でもしているかのようだった。しかし、宵智にとっては、青天の霹靂だった。終わりを告げた?生が?つまり、死んだということか?
「…死んだ、って…俺が、ですか?」
声が震える。信じられない。まだ20歳だ。彼女も作っていない。人生これからだというのに。
ヘルンは宵智の狼狽を読み取ったかのように、さらに言葉を続けた。
「ですが、ご安心ください。あなたの魂は、消滅することなく、ここに存在しています。そして、あなたには、新たな生が与えられることになります」
「新たな生…?」
ヘルンは小さく頷いた。その瞳には、深い慈愛が宿っているように見えた。
「はい。あなたはこれから、この世界とは異なる場所へ旅立つのです。そこは、魔法が存在し、剣と魔法が織りなす、いわゆる『異世界』と呼ばれる場所にご招待します…いえ、強制的に。」
強制的に!?不穏な物言いに少しゾクッと鳥肌が立つ……。
異世界。宵智は、頭の中でその言葉を反芻した。漫画やアニメでしか見たことのない、ファンタジーの世界。まさか、自分がそんな場所に?
「あなたはそこで、新しい人生を歩むことになります。どのような人生になるかは、あなた次第。ですが、一つだけ、あなたにお伝えしておくことがあります」
ヘルンはそこで言葉を区切り、宵智の目を真っ直ぐに見つめた。
「あなたの現世での行いは、決して無駄ではありませんでした。その純粋な『願い』は、この世界を超えて、私に届いたのです」
純粋な願い。宵智の脳裏に、彼女が欲しいと必死に願っていた自分の姿がよぎる。まさか、そんな馬鹿げた願いが、こんなことにつながるなんて。
「さあ、準備はよろしいですか、渋谷宵智さん。新しい世界での、あなたの物語が、今、始まります」
ヘルンがそっと手を差し出した。その手のひらから、柔らかな光があふれ出す。宵智は、その光に包まれながら、これから始まる未知の運命に、言いようのない期待と不安を抱いた。