第22話 ギルド定例会議
「――では、次に初級冒険者の活動報告に移ります」
東京第三区ギルド本部、地下三階に設けられた“定例会議室”。円形の会議テーブルを囲むように、ギルドの運営スタッフたちが整然と並ぶ。
木製の壁と革張りの椅子、窓のない空間には落ち着いた空気が漂っていた。各階層から報告書が集まり、こうして毎週一度、状況確認と指針の見直しが行われる。
冒険者の世界は、華やかに見えるが実際には危険と隣り合わせだ。運営側の視点では、日々の行動とリスク管理がなにより重要だった。
「E級の中で、特に安定して成果を出しているのは……この3名ですね」
一人のスタッフが手元の資料をプロジェクターに転送する。
表示されたのは三人の顔写真と、これまでの討伐数・依頼遂行記録・負傷回数などの統計データだった。
名前は――神谷湊、遠野夏希、久城澪。
「ほう、E級でこの安定感。初期はF級からだったよな?」
「はい。神谷と遠野のコンビでF級を五度でクリア。その後E級に昇格し、依頼・ダンジョン探索ともに成功率は百パーセントです」
「久城という子は、元々別のパーティーか?」
「いえ。途中から加入した斥候職で、どうやら家庭の事情でギルド審査が遅れていたようです。加入後の連携も良好」
一人の上席が資料に目を通しながら、首を傾げた。
「神谷という子……剣術Lv4?本当か?」
「本当です。取得時からLv4で、初回から訓練でも一目置かれていました」
「なんで今まで話題に上らなかったんだ?」
「それが……ユニークスキルが地味だったもので」
一同が「ああ……」と納得したように頷く。
冒険者において、ユニークスキルはやはり注目されやすい。派手なもの、瞬発的な火力を持つものは特に高評価を受けがちだ。
だが、神谷のユニークスキル《リピート》は、効果上昇率が地味で運用も難しい。
「その《リピート》、詳細は?」
「同じ行動を繰り返すと1%ずつ効果上昇、最大25%。現在はスキルLv2で、仲間にも効果が乗るようです」
「地味だけど、玄人好みだな……。剣術と併用すれば確実に強くなる」
「実際に戦闘を見た講師曰く、“動きが完成されすぎていて、むしろ怖い”とのことです」
その言葉に一部のスタッフの表情が引き締まる。
「なるほど……これは中級クラスに上がるまでに確保しておくべき人材かもな」
「対人関係は?」
「問題ありません。ただ、湊本人はあまり社交的ではないようで、交流は最小限です。遠野・久城とは安定した関係性を築いています」
「遠野のスキル構成は?」
「ユニークスキルは《癒糸》。1分ごとに指定対象のHP5%回復+回復・バフ効果25%上昇の補助系。さらに《ヒール》と《ブースト》も所持」
「これは典型的な支援特化タイプか。逆に久城の方は?」
「斥候タイプで、《暗殺の心得》。未察知時に火力上昇、隠密スキルと索敵スキルがセット。実力は申し分ないです」
「……なるほど、面白いパーティーだな」
一人の幹部が資料に目を落としながら、軽く笑った。
「――さて、次に。先日の模擬戦で接触のあったクラン《ヴァルグラン》についても触れておく必要がありますね」
一人の運営スタッフがそう言って、会議室の空気がやや引き締まる。
「ヴァルグランの構成員の動きには、いくつか不審な点がある」
「斥候として《ヴァルグラン》に一時関与していた久城澪の行動も、問題視する声は出ていますが……」
「いや、その件については調査の結果、《ヴァルグラン》に弱みを握られていた可能性が高く、また最終的に神谷パーティー側についたことから、当人に悪意があったとは判断していない」
「神谷パーティー自身も、久城の処分は一切求めていないようです。戦闘中における行動も、味方として十分に機能していた」
一同が頷きながら資料を確認する。
その上で、議論の矛先は《ヴァルグラン》そのものへと移る。
「とはいえ、《ヴァルグラン》側の行動は、明らかに許容範囲を逸脱していた。これまでの行動にも怪しい部分が多いので、模擬戦で決着が着いた以上、形式的には処罰の対象とはならないが、何らかの警告は必要だ」
「承知いたしました。警告書面を準備します。同時に、当面は《ヴァルグラン》に対して監視対象のタグを付与。行動履歴に異常がないか、内部で追跡を強化します」
「リーダーの蛇島には、“神谷たちへの接触は当面避けるように”と明確に通達しておくこと。これ以上の干渉があれば、そのときは正式な処分を検討する」
「うむ。模擬戦という形での対立は、参考意見以上の効力は持たない。ギルドとして正式な処罰は困難だ。だが、牽制と抑止は徹底する」
議事録担当がその内容を淡々と書き記していく。
形式上は“報告事項”でしかないこのやり取りも、ギルドとしての力の行使であり、静かな警告でもあった。
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ここまでの主要メンバーのスキルまとめ
神谷湊(19歳)
・ユニークスキル:《反復》Lv2
・コモンスキル:《剣術》Lv4
・備考:精密な近接戦闘を得意とし、リピートの蓄積によって戦況を覆す戦術型アタッカー。
遠野夏希(19歳)
・ユニークスキル:《癒糸》Lv1
・コモンスキル:《ヒール》Lv2、《ブースト》Lv1
・備考:支援担当。味方の回復・強化を一手に担う。
久城澪(19歳)
・ユニークスキル:《暗殺の心得》Lv1
・コモンスキル:《感知》Lv2、《遮断》Lv2
・備考:斥候・暗殺職。隠密行動と探知に特化し、先制・攪乱に長ける。




