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第六部第九次元人の「あなた」へ。③選抜騎士寮へ 

これまでの「ダリア」おさらい


さまざまな主役が活躍していた「ダリア」の世界はある時突然、第十三次元人によって「赤いインクに漬けられた」

二次元世界の「ダリア」を読んでいた読者の「あなた」(四次元人)は作者おおとろべふこ(四次元人)に認識され、第十三次元人に対抗するための第九次元人として、作中世界へ送られる。


これからの文中にはA、Bという選択肢があり、「あなた」はどちらを選んでも同じ物語の中を進めます。この選択肢では作中登場人物の反応が変化します。


それでは、良い旅を。

登場人物立ち絵追加

ガルデニア

挿絵(By みてみん)

カランこえ

挿絵(By みてみん)


「私ですか?はい、レタ ラ リベに所属している情報配達員です。」


カランコエに案内されて、ラプリマの街並みを歩く。人通り、荷車を曳く獣脚類の多い十字路を抜けて、少し細い、それでもまだ、地球では片側二車線の道路くらいはある道へ入る。


「普通の通信や放送には、クルルガンナ星人ほしひとの遺した技術を解析して作られたこちらを使うんですけと。」


カランコエは手のひらに、半透明の青い立方体、胸元のネクタイリボンを外してそれらをひらひらと振る。


「「あなた」の、命球に、ラプリマに来た理由は特殊、とのことなので、私が女神から直接任命されました。また、ロータス綜合学園の編入手続きも行いますね。」


A、「ガルデニアはどうなるんだ?」─「あなた」は歩きながらガルデニアを抱き寄せる。

B、「この子と離れたくない。ルニアも一緒に入れて欲しい。」─「あなた」は揚げパンを頬張るガルデニアの腰に腕を回す。


A、B 「ふふ、そうご心配なさらないでください。」カランコエは微笑んで、群青色の肩掛けカバンから手帳のようなものを取り出す。


「かんたんな書類自体はもう出来ています。お名前、ご確認くださいね。」


「あなた」とガルデニアはそのページを覗き込む。


「んん、ん。」


パンを飲み込んで、首の付け根をとんとんと叩いたガルデニアが口を開く。


「私だって騎士になりたい。パートナーを見つけることはできなかったけど、きっとすてきなヒトにであえるはず─。」

「きゃ、きゃあ!だめです!みないで!えっち!」


顔を真っ赤にしたカランコエが手帳をぶんぶんと振り回して「あなた」たちから遠ざける。


「はあ、はあ。ありました、ここです。」


何回もページをめくったカランコエは、そのまま読み上げる。


「「あなた」、ナイン・エルナ。身元保証人女神ロータス。そちらのガルデニア・エル・ヴィエルナ、身元保証人おおとろべふこ。」

「べふこだー。あれ。べふこって誰だっけ。」


首をひねるガルデニアを撫でて「あなた」は思い返す。

この世界、「ダリア」の作者。第十三次元人カヌメナーアによって焼かれた世界で生き残ったガルデニアを「あなた」に託し、このラプリマへ送り出した。


「そちらに関してはわかりませんね。ただガルデニアさんの身元を保証されるのですから問題無いでしょう。」


話しながら歩くうち、ずっと道の端にあった壁と植え込み、模倣植栽がひとつの大きな建物の、敷地の外周を囲むように存在していると気が付いた。

すぐ先には壁の終わりが見え、木で組まれた門のようなものがある。


「少しお待ちくださいね。マリアンテ ラ ナダ─。」


カランコエは門に手を当て、祝詞を詠み上げる。

門がゆっくりと開く。ふわ、と春の柔らかな風を「あなた」とガルデニアは感じた。


「わあ、気持ちいいねナインー。」


さわやかで、新しい生活の始まりを告げるような風。

それはガルデニアも同じであった。絶えず灰の舞うエルヴィエルナ、冬都市と呼ばれるそこから春都市ラプリマへ。全ての熱が奪われてゆく冬から、あたたかな日差しが包み込む春へ。


「さあ、ロータス綜合学園です!」


カランコエは一歩下がって左腕で、開かれた門に、「あなた」たちに足を踏み入れるように促す。


A、B─「行こう、ガルデニア。」


A、B─「うん、ナイン!」


「あなた」とガルデニアは門の中へ踏み出し、そして。


「ねえナイン、どこに行ったらいいのー?」


目の前には葉の広い模倣植栽が。石作りの通路に沿うように。それが配置された向こう、恐らくは校舎が見えて、その右手にはやや古めかしい印象のある、赤黒い木造の建物。左手には湖のようなものがあり、丸みを帯びた背の高い植物が並んでいる。それらはゆっくりと、丸くなった部位がまっすぐに伸び、また丸くなる。


A、「あなた」は、ガルデニアの手を引いて、まずは正面へと踏み出した。何事も正々堂々と。

B、「うわあああー!」古めかしい建物の方から、断末魔に近い絶叫が上がる。「あなた」とガルデニアは声の方向へ駆け出そうとする。

C、「ねーナインー、あれ何だろー。」「あなた」はガルデニアが興味を示した、伸び曲がりを続ける植物の方へ2人で歩いてみる。何事も冒険だ。


A、B、C─「わわ、おふたりとも待ってください〜!」後ろからとてとてとて、といつもの足音でカランコエが追いついてくる。「もう、言うの忘れちゃってた、私が、よくないんですけどー。」はぁはぁ、と肩で息をするカランコエに対して「あなた」は不思議に思う。


A、「そんなに歩いてない。カコは全力疾走したみたいだ。」

B、加えて「あなた」はとりあえず、カランコエの背中をさする。

C、更に「あなた」は見るからに重そうなカバンを代わりに持つことを提案する。


A、B、C─「はぁはぁ、ありがとうございます。学園に在籍していた時の設定そのままだったのを、忘れていたんです。」呼吸を整えたカランコエは、「あなた」達の先に立ち、中央の校舎らしき建物に歩き出す。


「それってなんなのー?」


ガルデニアが、「あなた」が聞くよりも先に、カランコエに質問した。カランコエは、少し俯いたあと、何か吹っ切れたように空を見上げ、「あなた」たちに口を開く。


「はい、私は騎士科への進級が不可能って判定されたあと、適正な職業への訓練を受けることになりましたが。」


彼女は自身の腕、脚に絡み付いた、ポデアの発現したような鎖を見せる。


「それでも、騎士になることを諦められなかったので。」


「あなた」たちを見る彼女の瞳は、どこか遠くの、憧れている騎士を見ているようだった。


「学園の敷地内では、トレーニングのためにこうやって、負荷をかけ続ける設定にしていたんです。」


諦めたようで、それでも諦めきれない姿を、彼女は「あなた」たちに見せる。

夢を、見続けている女の子。

戦闘用のポデアを扱う才能が無いか、身体能力に致命的な不備があったのか、その他にも理由があるのかも知れない。けど「あなた」は、それを聞けるほど彼女と親しいわけでは

無い。ほんの少し前に出会っただけなのだから。

それでも胸襟を開いて、笑顔で話してくれたカランコエへ「あなた」は。


A、「まだ諦めてないなら、ぼく/私たちと一緒に目指そう。」そう言ってカランコエの手を取る。「1人より2人、2人より3人だねー。」ガルデニアもカランコエの手を握る。

B、ただ頷いて。「ありがとう。」と伝える。そして書類を受け取り、「あなた」とガルデニアの名前が記載された欄へカランコエの名前も書き込む。


A、「あなた」の申し出にカランコエはびっくりして声を上げる。「え、え、そんな!何を言ってるんですか!確かに騎士を目指すヒトへの再教育もありますけど!」ならそうしよう。どうせ女神は面倒を見てくれる。と「あなた」は笑います。

B、「な、何をしてるんですか!?」目を丸くするカランコエへ「あなた」は「女神の言い方なら、君の生活費や学費を出すのにも、そこまで痛手とは思わないはずだ。」と言います。女神は確かに「何ものにも替え難い。」と言いながらお団子の袋を抱きしめていました。


そうして、地球の、どこにでもある学校とそれほど変わらない、焼き入れがされたような落ち着いた色合いの木造の、三階建て校舎へ足を踏み入れます。

きーんこーん、かーんこーん。

ちょうどチャイムが鳴り、ざわざわと、恐らくは生徒たちの声などが聞こえて来ます。


「アタシのものよー!」

「よーし今日こそ1番乗りだー!」

「負けないわよー!」

「いくぜー相棒ー!」


とたたたた。どたたた。

「あなた」達の目の前を、何人もの生徒が両腕を高く掲げて、明るい橙色のトレーらしきものを持ったまま走って行きます。


「なーにー?たのしそー!」


ふらふらとそちらへついて行きそうになるガルデニアを、「あなた」は抱きしめてカランコエに視線を投げかけます。


「はい、今はちょうどお昼休みなので、購買部のパンを買うために競争をしているんです。」


歩きながらカランコエが説明するところによると、この購買部、そしてそこで販売されるパンの製造もまた、適性のある判定を受けた生徒が職業の訓練として行なっているそうだ。


「あなた」は疑問に思う。地球では、日本を含め、おおよそどの国でも職業の選択や他のことにも自由があったはずだ、つい先ほど見たような、センテルデその他との戦闘を行う騎士に関しては、確かに適性は必要かも知れない。

「けれど、この世界にほんとうの自由は存在しないの?」と「あなた」が口を開くと、カランコエは困ったような顔をして、あらぬ方向を見る。


「何をどう思おうが、個人の自由ではあるが─。」


後ろから壮年の男性の声が響く。

「あなた」は振り向く。


「女神からの通達の通りだな。反抗的でいい面構えをしている。」

「はい!ウラニシ教官!」


先ほどまで気の抜けていたようなカランコエが、即座に姿勢を正し、左肘を肩の高さまで上げ、その拳を胸に当てる。

彼は頷き、口を開く。


「女神の邯鄲やこの世界について、ある程度の知識があるとも聞いている。それを前提に説明する。」


わーわー、きゃー。

どたばた。

遠くの方でパンを取り合い乱闘が起きているが、彼はそれを一瞥しただけで、「あなた」たちに話を続ける。


「このロータス綜合学園ラプリマ校に学ぶ者達は、中等生から騎士科をはじめとして、さまざまな科へ進級する。が、初等生の間に、君のいた世界における高等教育、それ以上のものも一年で学ぶ。」


「あなた」の世界、地球では早くて3年か7年はかかる教育を初等生の間に。


A、「たった1年で!?不可能じゃないですか!」

B、「だから、邯鄲を使うんですね。」


A、「そこで女神の邯鄲がある。この学園に在籍、関係するもの、またその家族は常に邯鄲により、時間の経過が意味をなさなくなる。そして一通りの教育と一通りの職業訓練を3年分行い、適性を診断する。」

B、「そうだ。全ては瞬きの間の思い出となる。」


命球、地球での呼び方はブラックホールのいて座Aスター。あらゆる熱量とその移動を記録して一点に集約するそれ、に取り込まれた物質には、時間の概念が無くなる。例えばお弁当箱に詰められた具材は、どれを食べても、その具材をその場で調理する必要が無いように。


A、B、「だから、カヌメナーアは…。」


「あなた」は気付く。わたしたちが普段口にするお弁当が「ダリア」の作中世界に当たるなら、それを食べる、読む「あなた」は二次元を消費する四次元人となり、第十三次元人であるカヌメナーアは、同じように「ダリア」の世界を赤に塗り潰した。


「ふむ!何か思うところがあるようだが。」


ウラニシ教官はわざと高い声を出して、思考に集中する「あなた」の注意を引き、話を再開する。


「ナイン・エルナ。当然わかっているだろうが、私ウラニシが君達の専任教官となる。」


彼、ウラニシ教官は左胸のポケットから丸い時計を取り出し、恐らくは時刻を確認したあと。


「まずは君達の制服だな。縫製部へゆこう。」


校舎の中を歩きながら、彼は自身の側頭部を叩く。


「さて、おまえさんたちそれぞれの制服を作らにゃならんが、それにはルリローを編み込まにゃならん。せっかくエンゲージの相手も決まってるんだから、お仕立てをしとる間ずっと歌っときなさいよ。」


「あなた」は驚いたかも知れない。彼ウラニシは、厳しい教官の顔と、どこにでもいる笑顔の絶えないお爺さんの顔を、頭を叩くことで切り替えて、使い分けている。


「きょーかん、エンゲージってなにー?」


ウラニシ教官が親しみやすい口調になったのもあって、ガルデニアが気安く質問をする。


「そうだね。ガルデニア、騎士は見たことがあるだろう?」

「うん、さっき戦ってたー。」

「学園で騎士科に入って、「このヒトを何があっても守りたい。」そう思う相手を見つける。そして、そのヒトととな、ちゅーをするわけ!」

「えー!ちゅーするんだー!?」


わざとらしくジェスチャーを交えて説明するウラニシ教官と、その動きに対してややオーバーにも見える反応をするガルデニア。まるで祖父と孫娘のような。


ちょっと待って。

ついさっき、教官は。


A、B、「ガルデニアのエンゲージ相手が決まってる!?」そう「あなた」は声を上げる。何が起きても守りたい。そう決心してこの世界に来た「あなた」は声を荒らげる。「かわいいガルデニアが誰かとエンゲージするなんて、お母さん/お父さんはぜったい認めませんからね!」


A、B、「ナインはわたしのお母さんでも、お父さんでもないよー?」聞き分けのない子どもをあやすようにガルデニアが「あなた」に告げて、「あなた」は肩を落とす。


「そうだガルデニア、言ってあげなさい!君のエンゲージしたい相手が誰なのか!」


ウラニシ教官が、ガルデニアと「あなた」の間でわざとらしく片膝をついて、両腕を広げ、声を上げる。


「うん。」


ガルデニアは両手を胸の前で組んで、少しうつむく。ほっぺが真っ赤になっている。

「あなた」の知らないところでガルデニアは誰かに恋をしていたのだろうか?焼かれる前の世界で、エルヴィエルナにいた頃の秘めたる思いなのか?それともセンテルデから走って逃げる時に一目惚れ?まさか学園の敷地内ですれ違った生徒か教官の誰か?それとも隣でパンを巡って殴り合う生徒の中に?

誰が「あなた」のガルデニアの心を射止めたのか、辺りをきょろきょろと見回し、愛しいガルデニアを狙う、花を盗む者を探す「あなた」へ。


「ナイン。」


呼ばれた気がする、けど構っていられない。この腕にガルデニアを抱きしめて、獲られないように強く、強く抱きしめる。


「んんっ、ちゅっ。」


唇に、ぷにっとした、柔らかいものが当たる。


「えへへ、ナイン。」


「あなた」の思考は止まったと思います。周りでパンを食べるために戦っていた生徒も、両手をひらひらとはためかせ騒ぐウラニシ教官も、肩掛けのカバンがずり落ちるカランコエも、その全てが止まって見えて。


「ナイン。」


ガルデニアは、ゆっくりと瞳を閉じて。つま先で立ってもう一度「あなた」に。

キスを。


「だいすきだよー。」


まるで、絵本の中のおひさまのような笑顔。


A、抱きしめる。

B、「君を守る。」


A、「えへへー、ナインの、あったかーい。」

B、「うん、わたしも。」


「はーいそのままそのままー、そっちのヒトもそのままねー。」


妙に手際のいい女子生徒たちが巻き尺を持って「あなた」とガルデニア、カランコエの採寸を始める。


「なに、まだ第一ラウンドだ。」


立ち上がった教官が、カランコエに何かを語りかけている。


「おー、生エンゲージ初めて見たー。」

「なかなかロマンチックだったわねー。」


いつしか、生徒たちが周りに集まり、さっきのガルデニアとのエンゲージ、つまりキスに対するコメントを口にする。

「あなた」は─。


A、「隠れたい。」

B、「ガルデニアは渡さない。」


A、隠れたい、と口から漏らした「あなた」の首にガルデニアが腕を回す。「ナインはわたしのものだよー。」

B、腕の中のガルデニアをさらに強く抱きしめて、周りの生徒たちを威圧する。そう、「あなた」だけのガルデニア。


「はいはい、お熱いところどうもすみませんね。」


縫製部のメンバーの手が伸びて「あなた」とガルデニアは引き離され、あっと言う間に制服へ着替えさせられた。

他の生徒と同じデザインではあるものの、黄色を基調として、黒が差し色になっている色合いになっている。ガルデニアの首元には、飾りマフラーも。


A、B─「この色は?」学園の生徒は赤、緑、青に統一されているはずだ。黄色の生徒は視界には存在しない。


A、B─「こちらは基本的に、再教育騎士に当たる生徒が着用するものです。」縫製部の生徒が答える。


「ルリロー、歌うんじゃなかったのー?」


てきぱきと撤収作業を始める縫製部の1人へ、ガルデニアが声をかける。


「いえ、さっきのエンゲージだけで、じゅうぶん過ぎる量の祈りをいただきました。」


ぱたり。

一礼をして歩き去る縫製部の面々を見送ると。


「わー、ナインかっこいーねー。」


ガルデニアに声をかけられる。


A、「ガルデニアもかわいいよ。」

B、声に応えてかっこいいポーズを取る。


A、「えへへー。」左足でくるりと一回転するガルデニアは、舞う天女のように見えた。

B、「わー、かっこいいー、ナインー。」ポーズを決めるたび、ぱちぱちとガルデニアが手を叩いてくれる。「あなた」はとても良い気持ちを感じるかも知れない。


「あの、おふたりに水を差すのもなんですけど。」


カランコエが「あなた」たちに声をかける。

彼女もまた、「あなた」たちと同じように黄色の制服と、今まで着けていた赤いケープを纏っている。


「そうだ。君達の入る、選抜騎士科寮へ案内する。」


ウラニシ教官は、既に厳しい教官の顔へ切り替えている。


「期待しておけ。ここでの生活が君の力となる。」


校舎を出て、その裏側へと回る。整備された石床から、気をつけなければすぐに転倒してしまうような、荒くれた道へ。その中でもヒトが歩いてきた、比較的なだらかな所を選んで歩く。林、そう表現するのが正しい、背の高く、葉が細く尖った、地球においては雪の降る地帯に生える針葉樹林、それを再現した模倣植栽が立ち並び、日の差し込まないそこには、今までいた校舎やラプリマの街並みのような暖かさがなりをひそめ、長袖の制服ですら肌寒く感じる。


A、「ふぅ、ふ。」


A、急な温度の低下によって、肺へ送られる冷たい空気を暖めるため、「あなた」の鼻先には鼻汁がつまり、熱くなる。「あなた」はたまらず大きく口で呼吸をする。白い息が口から漏れる。吸う空気は冷たく、喉が、肺が痛む。


「ナインー、だいじょうぶー?」


ガルデニアに声をかけられる。彼女の鼻先もまた、少し赤みがかっているものの、「あなた」のように深刻なものではない。


「君の経歴は確認した。そして女神は君の身体、魂にぜネロジオを組み込んではいない。」


ウラニシ教官が、まるで天気の話をするように告げる。


「正しくは、息を吸って吐くように、ぜネロジオを扱えるようには、していない。」


隣のガルデニアが、「あなた」にわかりやすいように大きく口を開けて、はあっと一気に息を吐く、肺から温められた空気が、喉を通り口を通り、わかりやすい白い息として出る。


「この選抜騎士寮に入る者には、同様にぜネロジオの使用に際して制限がかかる。」


教官の言葉に合わせ、ガルデニアが口を開かず、鼻先だけでゆっくりと時間をかけて息を出す。「あなた」も同じように、ゆっくりと時間をかけて、鼻先だけで呼吸をする。


「クルルガンナ解放戦のはじめ、その先の数年には、ぜネロジオはまだ構想すらされていなかった。」


岩のような、3メートルはある垂直の壁に教官は向かい、腰を垂直に落とし、手のひらを組んで、視線で促す。カランコエがその手に足をかけ、教官は垂直に立ち上がる。カランコエは岩の出っ張りに手を伸ばし、教官は掛け声と共にカランコエの靴を持ち上げ、カランコエは岩によじ登る。


「選抜騎士寮とこの道は、クルルガンナ解放戦における基地の状況を再現したものだ。」


同じように教官はガルデニアを持ち上げ、先に登ったカランコエがガルデニアの手を掴み、引き上げる。


「開戦初期、クルルガンナ星人ほしひとはまず都市部への殺戮を行ったが、同時に空を奪った。」


次に教官が「あなた」の番だ、と言うように手で促す。


A、B、「あなた」は首を振り、教官と同じ姿勢を取り、教官の足首を待つ。「あなた」の姿勢を確認した教官は肩と腰の位置に指摘を加えた後、「あなた」の手に足をかける。


「せい、や!」


「あなた」は掛け声と共に、教官の体重を垂直に持ち上げる。

そして教官が登りきったあと、「あなた」は一度下がり、助走を付けて踏み鳴らされた地面を蹴り、岩を駆け上がって、

伸ばした手は空を切り、

姿勢を崩す。


「掴んだぞ。」


教官の力強い手が、「あなた」の手を掴む。

「あなた」の両方のつま先は、岩の切り欠きに当たっている。


「よくやった。だがここからだ。3で短く息を吸え、2で腹に力を入れて膝を曲げろ。1、で岩を蹴り足を伸ばせ、跳ねろ。」


「あなた」は頷く。


「行くぞ、さぁん!」


A、B─「ひゅうう!」息を吸う。


「にぃい!」


A、B─お腹に力を込め、膝を曲げる。


「いぃち!来い!」


A、B─「せあっ!」腰を曲げて両脚で岩を蹴り、跳ね飛ぶ!浮いた身体は教官の力強い腕に引き上げられる!


だ、すっ。

「あなた」の身体は教官の腕から離れ、踏み鳴らされた選抜騎士寮への地面を転がる。

「はあっ、はあっ。」肩で、全身で息をする「あなた」にガルデニアが抱きつく。


「ナインー、かっこよかったよー。」


まだ興奮が収まらない「あなた」の目の前には、半ば林と雪に埋もれ、仄かな灯りのある選抜騎士寮が見えた。


「そうだナイン。」


教官の声が「あなた」の目的を呼び起こす。


「今の跳躍が、騎士としての、君の初めての一歩だ。」


差し伸べられた彼の手を取り、立ち上がる。


「跳躍を続けろ、ウサギのように。」


その声に強く頷いた「あなた」は、「あなた」たちは、目の前の寮へ向かう。


ざ、ざっ。

先ほど、先ほどとは言っても、彼方に過ぎ去ったような印象のある先ほど。縫製部の生徒に交換してもらった、制服と対になった黄色の靴が雪を噛み、体重を支える。


「ここまでの道のりを考えれば何かある、と期待させてしまうだろうが、入り口は何の変哲もない。」


教官の言葉に引っ掛かりを覚えながらも、「あなた」は寮の扉の前に立つ。

かすかに漏れる灯りから、中開きの扉と判断して押し開く。

ぎぃい。

軋む音を立てて開くそれはさながら、何かを閉じ込めておくような、檻のような感触があった。


「さあ、怖がる事は無い。」


教官に促された「あなた」は、仄かに薄暗い選抜騎士寮へ足を踏み入れる。

ぎ、し。

まるで山道を歩いたような足の疲れと登攀の補助、跳躍により疲れ切った「あなた」の足は木造の寮の木床に悲鳴を上げさせる。

その感触に不安定さを感じた「あなた」は、恐る恐る第二歩を、


「んー、侵入者ー?」


ぎょっとする。

薄暗いものの、ランタンの仄かな灯りのあったその玄関ホールと呼ぶべき場所には、誰もいないように、見えていた。


「へー、再教育騎士でここに来るのー、クロユリくらいじゃないー?」


目が室内の灯りに慣れる。

焼き入れがされたような赤黒い建物内の、仄かに橙色のゆらめくランタンの灯りの中。

彼女はずっと「あなた」の正面に立っていた。


A、「ナイン・エルナです!」見よう見まねの軍礼を「あなた」は行う。

B、続けて「よろしくお願いします。」「あなた」は頭を下げる。


A、「うん、私はナナカマド。ここのヌシやってるよー。」彼女は「あなた」に軍礼を返し、後から入ってきたウラニシ教官とも軍礼を交わす。

B、「あなた」の言葉と態度に感激したような彼女は、明るく笑う。「ふふ、再教育騎士に見えて、かなりかわいいところあるね。ウラニシくんもこんな素直だったら良かったのにね〜。」


「あなた」は更にぎょっとすると思います。なぜなら目の前の彼女ナナカマドは、ガルデニアとそう変わらない年齢の少女に見えたからです。その彼女が壮年のウラニシ教官をくん付けで呼んだ。


「ガルデニア・エル・ヴィエルナです!」「カランコエ・ラ・プリマです!」

「うん、ナナカマドだよ。気軽にマドカって呼んで。」


挨拶の終わった後、彼女は背伸びをする。


「んん、んー。クロユリが駆け落ちしてから、選抜騎士も最近なかなかいなかったから、暇してたんだよ。」


そして「あなた」は気付く。

彼女ナナカマドの腰から下が、透けている。

「あなた」の視線に気付いた彼女は、目を細めて笑う。


「ロー学からここに来るまで、寒かったでしょ?」


「あなた」は頷く。


「私とこの辺りがクルルガンナに焼かれて消えた時、寒くなりすぎちゃってね。」


「あなた」と後ろのふたりは何も言えなくなる。


「この場所と私が、あんまりな熱量で焼かれて、情報として空間に焼きついちゃったから。女神はここをそのままにしてくれたの。」


つまり、ナナカマドと選抜騎士寮と今通った道は。


「私が寂しくないように学園も置いてくれてね。いつでも遊びに行けるように。」


文字通りの、幽霊。


「さて、湿っぽいお話はここまで!ここからは私が案内するから!ウラニシくんは座ってていいよ!」

「いえ、自分には仕事がありますので、先輩。」


教官は、一礼をして寮から出て行く。


「助けに来れなかったこと、まだ、気にしてるのかな。」


教官の後ろ姿を見送るナナカマドは、寂しそうに見えた。


「それより、お部屋だったね!」


ぎし、ぎしと歩くたびに軋む通路から、手すりのついた階段をのぼる。 


「たくさん部屋があるんだけど、もちろん3人用もあるよ。」


こんな年代物の建物なのだから、きっと空気が澱んでいる。そう思ったかも知れない「あなた」の予想に反して、透き通って抜けるような、清涼な空気の流れがある。


「ナイン、今失礼なこと考えてなかった?」


ナナカマドの言葉を首を振って否定した「あなた」へ、


「なんだか、エルヴィエルナにいた時みたいー。」


壁にかけられた「大声禁止!」の張り紙を見ながらガルデニアが声を出す。


「うんうん、ガルデニアちゃんはいい子だねー。」


ナナカマドはそう言って頭を撫でた後、かんたんな扉に付けられた、古めかしい南京錠へ鍵を差し込み回す。

かちゃ、り。

南京錠が外れる。

きい、い。

扉が開く。


「この選抜騎士寮はもともと、学園で生え抜きの生徒を女神の直属騎士として育成するために建てられたんだ。」


振り向いたナナカマドは、「あなた」たちへ、手紙を読むように思い出を話し始める。

彼女は靴を脱ぐ、履き物を靴箱または下駄箱にしまうジェスチャーをして、部屋の中へ入る。「あなた」たちもそれに倣って靴をしまい、部屋へ入る。


「設計と建築をしたヒトが少々偏屈でね、私の父だったんだけど。」


部屋の中には日本、地球の和式住宅にはよくある、畳が何枚か立てかけられており、ナナカマドはそのうち一枚の両端を持つ。

四枚の畳を、長めのものを端に一枚敷き、短めのものを一枚、長い畳の端に垂直になるよう敷き、残り二枚を先の一枚に垂直に並べ敷く。


「父さんはね、太陽系第三惑星の家屋を再現、研究する委員会にいたんだ。」


ふすまを開き、押し入れの仕切りの上に畳まれた敷布団、毛布、掛け布団を広げて重ね、枕を乗せた後、掛け布団をめくって潜り込み、両手を頬の横に揃えて「おやすみなさい。」と言って目を閉じた後、「おはようございます。」と言って起き上がり、またお布団を畳んで押し入れにしまう。


「ナインは知ってるみたいだから、ガルデニアやってみる?」

「はーい!」


意気揚々とガルデニアは襖を勢いよく開ける。

スコン!

スライドした襖が枠組みへぶつかる。


「わあ!」


すすす、スコン!すすす、スコン!

襖を引っ張って、勢いよくぶつける。

その手触りと音の面白さで、何度もガルデニアは遊び始める。


A、B、「ガルデニア、そろそろやめなさい。」


A、B─「あなた」がガルデニアを止めようと手を伸ばした時、その手にナナカマドの手が重なる。


「いいんです。子どもが無邪気に遊べる場所を作ってあげるのが、大人の役割なのですから。」


ナナカマドの顔を見る「あなた」に、彼女は微笑みかける。


「はいはい。その子どもとキスしちゃったのが、今あなたがいい雰囲気になってるナインなんですけどねー。」


カランコエが、じとーっとした目で「あなた」を睨んで来た。


A、「ぼく/私はカランコエも大好きだよ。」

B、「君も、守ってあげたい。」


A、B「も、ってなんなんですか!もって!私を再教育の場所に引き摺り込んだのにー!責任取ってくださーい!」


そう、「あなた」にとって新しいことばかりで、忘れそうになっていたかも知れませんが、カランコエはとあるプライベートな理由から、騎士になる事が不可能であると判定されていたのです。


A、B「カコは、どうして騎士になれなかったの?」今、「責任をとって」と言って両手で手を掴んでくるカランコエになら、理由を聞けるかも知れない。そう判断した「あなた」は、思い切って詳しい理由を聞いてみます。


A、B─「…好きなヒトが、出来なかったから。」斜め下の方向を見て、顔を少し赤らめて、ぼそっと呟くカランコエ。


「あなた」は、あんまりにもカランコエの声が小さかったので、よく聞き取れませんでした。スコンスコン鳴ってますし。


A、B「ルニアの音でよく聞こえなかった。もう一度大きな声でお願い。」


カランコエの、戸惑ったような顔。

きれいなくりくりのおめめが大きく見開かれて、まるで火花が走るように。


「は、ーあ!?」


そして、カランコエの顔が真っ赤になり、ボルテージが最高潮に達したのが、「あなた」の目にもはっきりとわかりました。


A、B─「一緒に学園で素敵な恋愛して過ごそうって!騎士になるのを諦めないで!ぼくが君を連れて行くから!って言われた時から!ナインにドキドキが止まらないの!責任取って!エンゲージして!キスして!んーっ!んーっ!」


「あなた」は突然の告白によってびっくりしたかも知れません。

さらに言った覚えのない言葉も、言ったことにされているような気がします。

それでもカランコエは、目を閉じて唇を突き出してきます。


A、ガルデニアの方を見る。

B、ナナカマドの方を見る。


A、「あなた」が助けを求めるように視線を向けたガルデニアは、カランコエの大きな声の告白にびっくりして、大きく口を開けながら、ぱちぱちと拍手をします。「おー、いーねー。」とまで言っています。

B、ナナカマドは、クルルガンナとの絶滅戦争が始まる前から、そして幽霊になったあとも、こうして誰かの恋愛事情を観察して楽しんでいたのでしょう。少々口元をだらしなく広げたにこやかな笑顔で、胸元で両手を合わせ、指と指を絡め合わせています。


「あなた」は

A、覚悟を決めた。カランコエを再び学園に引き摺り込んだ責任と、「あなた」自身もカランコエに惹かれるものがあったから。

B、決心した。ガルデニアを守りたいと思う気持ちも本当ですが、カランコエのことも守ってあげたいと思う気持ちも、本当の「あなた」の心でした。


A、B─「それでは、ごゆっくり。」部屋の扉を閉めたナナカマドは、軽い足取りで階段を降りる。次回連載するロマンスコミックのいい題材ができた。


第六部第九次元人の「あなた」へ。③選抜騎士寮へ  了


次回予告

ガルデニア、カランコエとエンゲージを行い、騎士候補生としての必要条件を満たした「あなた」ナイン・エルナ。しかし、騎士の任務は、決断を求める。

次回、第九次元人の「あなた」へ。④「実戦」。

読んでくれないと、ディスティノしちゃうぞ!


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