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第三部魔導列車追撃編 最終節   「Acceldahlia」 加速する不安定/アストロブレム攻防戦03

  第三部魔導列車追撃編 後編 最終節


  「Acceldahlia」 加速する不安定/アストロブレム攻防戦03


挿絵(By みてみん)


ハンガーのランタンに火が灯る。


「すうぅぅぅ。」


深く息を吸う。ゆっくりと肺を膨らませる。

肺腑から心の臓を経由して、全身の細胞に酸素を行き渡らせる

シャリィィン。

ゲンザンのシリンダー型内燃機関に魂の動力が伝わり、励起し、各パーツがふわりと浮き上がる。


「はああぁぁ。」


息を吸うのと同じ時間をかけて、息を吐く。

全身の細胞に潜む微小生物が、燃料を要求する。

シャッシャッシャッシャッ。

筒状内燃機関の内部、光崩壊を起こした太陽系第三惑星999個分が圧縮された鉄の棒が、筒の中を上下に動き始める。


「すっはっすっはっすっはっ。」


短く息を吸い、短く息を吐く。

断続的な需要と供給により、脈拍と血圧が上昇し、意識も昂る。

シャシャシャシャシャ。

光崩壊の放出される全エネルギー、有限ではあるが、この瞬間だけは無限の熱量をコアから与えられ、筒の中で1秒の三千分の1秒につき一千万回の運動を始める。


ズダンッ!

ゲンザンのシリンを踏み抜く勢いで、右足で踏み付ける。

「っ、はああぁぁぁ!」

最高潮に達した全身の熱をUltraSuperGiganticに伝え逃し、呼吸を整える。

研ぎ澄まされて明瞭になった意思は、視覚、聴覚、嗅覚で感じられる、あらゆるものの再認識を始める。

シィィィィィィィィ!

筒状内燃機関の内部鉄芯は、見かけ上は上下の振動を止めた。

それは筒の中という空間に対してではなく、シリンダー内部に設定された座標軸に対して、動く。


きゃるるるるらららららら。

ハンガーの扉が開く音に合わせて、目を開く。

ぶぅ、うん。

ズガン!

ぶわああ。

黒い全身に黄色の横線が数本入った巨大生物が飛び回り、それを跳躍型のウサギが蹴り上げ、踏み抜き、舞い散る花びらの牢獄が包み隠す。


「ラアァス シア イクステーラ。」


準勇者ダリア・アジョアズレスが発見した「女神のお菓子の箱」、そのひとつ─他者、ヒト型知的生命体の命を奪ったものが、殺害した人数と自身の魂の個数分、太陽系第三惑星と同等の質量を与えられ加圧加熱圧縮される、邯鄲の柱─自我を保ったまま永劫の火に魂を焼かれ続け、ウサギの核となる人物の意思を呼び起こす。


「「全て、姫子くんから入力を受けた。」」


アセデリラ・アルマコリエンデの駆るウサギ、ゲンザンは天の川銀河中心天体に人類の生存領域を見出した女神ロータス・ペンディエンテに仕えた、かつての初代勇者であり、クルルガンナ星人ほしひとを文字通りその手で虐殺した、彼女アセデリラの父親である。


「お嬢様〜!極限加速装着v3、組み付け完了です〜!」


女神、かつて平凡な地球のとある国で、かなりの運動音痴ではあったものの、ある時点まではごく平凡な女子高生をしていた蓮坂舞の、単なる同級生であり、仲の良い友人であった宮門居 姫子は、蓮坂舞の取った、恒星を周回して熱量を回収し、次の恒星まで飛ぶ恒星熱量スイングバイ方式ではなく、恒星より熱量を受けて発生した知的生命体が、地球における核兵器相当の熱量産出兵器を開発した段階で、惑星がその時点で受けた総ての熱量を奪い、次の知的生命体が発生する惑星へ転移するという方法を取った。

その奪った熱量に含まれる知識と技術量は、文字通り地球から眺める星空ほどある。


「「我が君、いや、我らが君の準備が完了した。アウタナくん、モモくん。」」

「「らー!駆けよ翼、我が主─♪」」

「「それじゃあ行くよーシクローナ!ミ テナス サンダリガン パフィルテニラ─。」」


騎士隊ダンサンカ ブーケの長エウトリマ・ヤポニカナの指示により、ダクトロのアウタナ・セリフラウがハンガーに花の牢獄を展開。

モモ・クルルテラが、その駆るウサギ、ユイ イーバィエ リルスと共に構える。


「「よっしゃ!見ときユー!お母ちゃんやったるで!我は、白檀の銃把を握り─。」」


クルルガンナ解放戦のおり、女神と複数の一般市民を巻き込んだ暗殺を行ったエウトリマの母親、騎士隊サイクロンの筆頭ユイはウサギとなり、ただ今、モモと共に祝詞を詠み始める。


「「レヴ ラ マルテロン─。」」

「激鉄を起こせ─。」」


モモ・クルルテラが展開した黒鉄の塊が、炎熱の方陣により圧延と鍛造が行われ、銃身となる。


「「ミ エスタ─。」」

「「我は─。」」


ぶうう、うん。

巨大生物が、殺到する。


現在、都市長アルカルブ・ヒラカワラが解放した秋都市電力層─かつてクルルガンナ星人ほしひとより供与された生体工学の技術、その解析模倣により巨大生物を育成房ごと電力源として使用したもの─に格納されていた巨大生物群はこの、コロニーを改造した都市の周囲を飛び回り、強靭な三層の顎、消化液、産卵管を変化させた毒針により攻撃を行なっている。

彼らの縮尺で言えば、取るに足らない塵のようなウサギが、破滅的な熱量を圧縮している。

対象を排除するため、殺到する。


「「ラ マスタロ デ ミア─。」」

「「我は─。」」


ウサギは犠牲者と、殺人者の魂に太陽系第三惑星地球と同等の質量を与え、点に集約したもの、つまり超第質量の鉄の塊である。また、ウサギはその元の殺人者の魂の形を元に跳躍、脚走、指揮などさまざまな型が割り当てられ、それぞれの特性も変わる。

シクローナ ジア ユベライサは跳躍型のウサギであり、それはかつて太陽系第三惑星地球で、拳銃、ピストル、リボルバーと呼ばれ使用された、簡素ながらも殺人、破壊の道具であり、一級の美術品。その構造を、模している。


バシュウ!

無数の巨大生物の尾部から、数十トン相当の毒針が、たった一点、モモとシクローナを狙い、放たれる。


「「─ディスティノ!」」

「「運命の主人!」」


ぱん、あるいは、ズギュウゥン。

ここにいるダクトロ、アウタナ・セリフラウの展開したルリロー─空気、つまり大気を構成する原子、分子の振動を制御する歌の技術─があって初めてそう聞こえる銃撃音は、炎熱の方陣を圧縮し火薬に見立てたそれを、ウサギの両脚部を激鉄として叩き、黒鉄の銃身に装填されたウサギのコアを撃ち出す。

視界を埋め尽くす毒針と、文字通りエルアートヌを覆っていた巨大生物が薙ぎ払われた。

光が疾走る。


タタタタタタタタタタ。


視認出来る夜空の星より多くの命を奪ったゲンザンを駆り、アセデリラ・アルマコリエンデは疾走る。

育ての母、父と母の最後の一人が失われる直前の、ひとりぼっちで泣く子ども、カイミ・ヒラカワラのために。


タタタタタタタタタタ!


全ての悲劇の責任を引き受け背負い、娘を置き去りにして亡き家族の元へ向かおうとする、アルカルブ・ヒラカワラを止めるため。


キイイイイイィィィィン!!!


ふたりを食卓に着かせて、産み、生まれ十数年会話すら無かった母と娘の、繋がりを持てなかったカイミとアルカルブに、親子の語らいをしてもらうため。


「v3、点火しますわよ。」

「「お願いする。」」


ほんの一瞬、我が子を抱いた父と、変わり果てた父を磨いた娘が、疾走る。

親子の絆を守るため。


   ────


がたん、ごとん。


危険なため保守点検作業もしていなかったレールの上を、連結したウサギと、指揮索敵車、臨戦ハンガー、食堂車、寝台車に通常ハンガーを繋いだ、標準的な構成の魔導列車が走る。


「あの頃は、魔導列車なんておしゃれな呼び方じゃなかったよね。」


いつものように疑り深い、怪訝な眼差しに見つめられると、不思議と胸が高鳴る。


「どうでもいいなんて言わないでよー。名前をマルとアルのラブラブトレインにしちゃう?ふふ、冗談だって。」



挿絵(By みてみん)


食堂車のテーブルとに着いて、大好きなマルバノキに微笑みかける。声をかける。模倣された、溶けた岩石で形作られた花瓶の模倣植栽が揺れる。

かたん、かたかた。

厨房の、ウサギから熱を引いて火を起こすコンロの上に置かれた寸胴鍋が音を立てる。


「うんお父さん、ふたりを呼んでくるね。マルは座ってていいよ。だーいじょうぶだって、呼んで来るだけだもん。」


座ったままのあなたに軽くキスをして、食堂車を出る。

寝台車に着き、2人の名札がかかったドアをノックして、開く。


「まーだ寝てるのヨサルー?アルお姉ちゃん怒っちゃうぞー!」


毛布を剥ぎ取って、弟のような存在を抱きしめる。

癖っ毛を何度も何度も撫でて直そうとするけど、この子の毛はてごわい。


「じゃあ、カニィヤの所に行こっか。」


手を引いて、臨戦ハンガーを抜けて、指揮索敵車へ。


「カニィヤー、アルお姉ちゃんがあなたの大好きなヨサルを連れてきたよー。」


扉を開けて、腰かけるカニィヤに呼びかける。

カタカタカタカタカタ!

指揮索敵車両、つまりカニィヤのウサギと連結したそれは、1枚の長い観測結果を、巻いた紙に刻印し続けている。

紙を手に取る。

刻印された数値はすべて一つの事実を伝えている。

理論上不可能な速度で、ウサギが接近している。

あの噂に聞く、星姫と勇者の娘が、来る。


「マルバノキ、サマタ展開はじめ。ヨサルは車両加速、カニィヤはセンザキをロッカーに詰めておけ。私は臨戦にて迎撃に移る。」

「「コネージョ、ソルタンド。」」


騎士隊ヒラカワラの各ウサギが、命令の実行を始める。かつての主人、騎士達がそうしていたように。


「念のため、砲身の更新をしておいて正解だったな。」


臨戦ハンガーに入り、愛機のシリンに立つ。


「「コネージョ、ソルタンド。アルカルブ・ヒラカワラ。」」


クルルガンナ解放戦の最中、女神の邯鄲により私の身体にもぜネロジオが組み込まれ、ウサギに立つだけで操作が可能になった。

キュラカルカルカル。

臨戦ハンガーのハッチが開く。


「カニィヤ、視覚、索敵情報共有。」


カニィヤのウサギが探知した、魔導列車後方からの、高速で追いつこうとするウサギが網膜に投影され、捕捉する。赤い、ロータス総合学園の中等生を示す制服に軽薄なまでの、星姫を連想させる見事な金髪のドリルが舞っている。予想通り星姫アルマコリエンデと、初代勇者ゲンザンの娘。驚く必要も無い。


「「ラー、ララ。」」


マルバノキのウサギが、記録していた彼のサマタを再現、展開し、それが私の身体を覆う。彼は既にこの世のヒトではない。私との誤解の解けぬまま、解くつもりも無かったが、シィミーィヤの元へ旅立ってしまった。しかし、その力の残滓はこうして、私を守ってくれている。お守りを握る。義父センザキが遺した、愛するマルバノキと、私の名前が彫られたお守りを。

女神の力の、邯鄲の発動する範囲内の限界が近い。

追ってくるこの女には悪いが、道連れにしよう。


「ミ テナス サンダリガン─。」

「我ら握るは白檀の銃把─。」


挿絵(By みてみん)


祝詞に合わせ、騎士隊ヒラカワラのウサギ全てが力を乗機へ注ぐ。


「パフィルテニラ レヴ ラ マルテロン─。」

「「激鉄を起こせ─。」」


クルルガンナ解放戦の後、エルベラノの第9クルルガンナ研究室で、あの女より提供された、機械生命工学に基づいて製造された、片側484門、左右合わせ968門の生体指向性誘導砲が展開、励起する。


「ミ エスタ─。」

「「我らは─。我らヒラカワラは─。」


砲門の展開を認めたらしき対象が、光学、位相空間的に存在軸をずらしはじめる。これはヨサルのウサギも原型を知る、駆騎士キミタケの持つ、クルルガンナの対惑星文明兵器と戦うために編み出された技術。カニィヤのウサギが照準補正をかける。


「ラ  マスタロ─。」


砲身それぞれが大気を圧縮し光へ変え、その瞬間を待つ。

1秒にも満たない、その刹那の間隙を待ち侘びる。


「デ ミア ディスティノーマ!」

「「繋ぎ合う命のあるじ!」」


たん、たん、たたん、たたたん、タタタタタタタタタタ!

片側464、左右合わせて968門の鋼鉄が雄叫びをあげる。

加圧加熱圧縮され、平たく表記すればプラズマと呼称されるそれを、それぞれ百回、合わせて9万6千8百回の高密度プラズマ砲弾を、放つ。


「他愛のない─。」


光に飲み込まれるそれの姿を、最後まで見届けずに、愛する家族の元へ帰ろうと、振り返る。

その直前。

視界の端に、黒い渦が見えた。

向き直ると、渦の中の騎士は左腕を掲げ。

叫ぶ。

時間すらも飲み込む渦の中、それははっきりと聞こえた。


挿絵(By みてみん)


「ヤリラ ルーマ!」


それは愛機の核を、先頭のカニィヤ機以外の核を貫いた。


   ─────


「それでは、並走をお願いしますわ。」

「「わかった。くれぐれも気をつけて。」」


最後尾の車両に飛び移る。


「「騎士か、いい、走りだった。」」


補助加速動力として稼働していたでしょう脚走型のウサギは、シリン前方のレンズが輝きを失います。

そのウサギに氷の花を添え、車両へ。

ぷよ、ぷに。

胸元に、元の軟体生物の姿でしがみついていたエプリシアをつつきます。


「んん、あ。着きましたか、ドリル様。」


その車両はいくつかあるドアの前に、カイミさんのぜネロジオから再生した記憶にあった、ヒラカワラの騎士たちの名前が書かれた札がかかっていました。


「ヒトの生活の香りがしない割には、生きた痕跡がそのまま残されていますね。」


紫色のぽよっとした生き物を撫で、次の車両へ。

扉を開けると、かんたんな木製のテーブルに白い布がかけられ、その上には中央に花瓶と模倣植栽、5名分のお皿、フォーク、グラスが用意されていました。まるで今すぐにでも、奥のキッチンから誰かお料理を運んできて、楽しいお食事が始まるような。


「ルルメンタ ブリンダでの私のようなものですね。人形を椅子に座らせて家族ごっこなど。」


かたかた、かとん。

寸胴鍋の音に気を取られキッチンを覗くと、中央の大きな調理台には手回しの製麺機が、男性を模したぬいぐるみと一緒に置いてありました。 


「洗い物は定期的に行っていたようですが、まだ粗が目立ちますね。レジーナ直々に仕込まれたお作法をお見せしましょうか。」


胸元から浮き上がろうとしたエプリシアを抑えて、キッチンを出ます。


「次の車両に、ヒトの存在を感じます。」


扉に手をかけたわたくしへ、そうエプリシアは告げました。


「モモさんの頭もこちらに?」

「ええ、それと。」


軟体生物の姿をしていたエプリシアは、メイドの姿に変化を始めます。


「龍の匂いもします。恐らく天下無敵のぜネロジオは、それの養分にされたかと。」


腰のランサーホルスターに手を添え、モモさんとエウトリマと、2種類の黒い槍の残数を確認します。

扉に手をかけて。


「`そうだ!彼らも承知の上!食って構わん!」

「うじゅるる。うじゅ、うじゅ。」


女性の叫ぶ声と、それに反応する龍の声。

この車両内は温度が高く、蒸し暑い。


「アルカルブ・ヒラカワラですわね?カイミさんの元へ、あなたを連れて帰りますわ。」

「私は、マルバノキの、センザキとカニィヤにヨサルの元へ帰る。邪魔をするな。」


彼女は背後の、車両いっぱいに広がった、異臭を放つ、高温と湿度の元凶の前に立ち塞がりました。


「天下無敵のぜネロジオが手に入った!こいつが食ったウサギ達の動力で私は、ヒラカワラの所へ─。」


ばつん。

わたくしが剣幕に気押された瞬間、一対の顎肢が、彼女の首を捻じ切りました。

がくがくがく、ぴゅー。

切断された首から血を噴き、その顎肢へ、わたくし達にもかかります。


「あー、かったるー。」


軽い声が、顎肢の根本から聞こえます。


「あ、そこにいんの、モモママのママと、そのママママが作ったメイドじゃん。」


ばきばき、むしゃり。じゅる。

アルカルブの死体を、貪るそれは。


「簡単に言ったら、ばーちゃんとおばさんね。ちわーっす。フリギロアでーっす。」


キィ、ン。

わたくしは正面から左側へランサーを。

ぎゅわ、ん。

エプリシアは正面から右側へ剣状の触腕を。


「え、何?今のでキレんの?やっばー!事実っしよ。ヒスじゃーん!」


カパァン!

中央から左右に切り裂かれた車両の上半分が、移動する車両の受ける風圧に耐えられず吹き飛び、曇り空の中に車両の下半分は突入します。

ぐばぁ!

ヒラカワラのウサギ達を取り込んで飛び上がったそれは、形質を変化させ、頭部の3倍はある顎肢と、胸部に6本の脚、流線形の4枚羽を揃えた姿へとマブルを行います。


「で、どっちから先に食べられたいの?アタシは太るからそんなに食べたくないんだけどねー!」


拾ったアルカルブの首と、その手から落ちた注射器を、ヒトの大きさに戻ったエプリシアに埋め込み、ゲンザンに飛び移ります。


「わたくし、口と素行の悪い孫を持ったつもりはありませんの。」

「とりあえず、3回は殺します。」


珍しく意見のあったエプリシアと手の甲をぶつけ合い、緑雷のポデアを四肢に刺します。


ーじゃん!ババアども!」


かしぃ、

右足のかかとを上げて、つま先を左上にずらし、

タンッ!

中心に戻してから、右へ。

閃光で四機中三機のコアを撃ち抜かれ、減速していた魔導列車に合わせていたゲンザンの速度を、通常のものへ。

くわぁぁ。

曇り空の中、フリギロアの周囲に複数の紅い煌めきが。


「うんうん、いーねー!」


煌めきは連なり、ツタのようにしなって。


「オラッ!死ねッ!」


ヒュパッ!

ダリアさんの炎熱のポデアでモモさんの、太陽系第三惑星人式対惑星文明兵器の力を再現した炎のツタが、音の速さで向かって。


「よくもまあ、死ねなどと軽々しく。」


でゅぷぅん。

粘性を持った肉の、泡の触腕がエプリシアの、長くひらひらのメイド服スカートから伸びて受け止めます。


「はァ!?何で燃えないのよ!死ねッ!死ねッ!」


フリギロアはさらに幾重もの炎熱のポデアを展開し、

ヒュパン!パパパパ!

無数のツタを繰り出して。


「面白いお話を、してあげましょう。」


肉眼では捉えきれない、相当の質量がある炎のツタの連続を、日差しに対して手をかざすように。

どゅぷる、るん。

手と同じ動きをする触腕が、全てを受け止めます。


「ルルメンタ ブリンダにて。」

「このぉ!」


触腕の受け止められたタイミングに合わせた火球も。


「騎士隊アズマのニシキオリは。」

「燃えろぉ!」


エプリシアの歌う、湖水のポデアによるルリローにより霧散し。


「この!ババアがあ!」


がぁぱっ!

開いた触肢、大顎がわたくし達に迫り。


「死ねえ!」


ばくぅ!

あぎとを勢いよく閉じたフリギロアは。


「私の身体を引き裂くのに。」


頭部と胸部を繋ぐ、首関節を。


「一手しか使いませんでしたよ。」


じゅう、わああ。

火球を受け止め霧散していた湖水のポデアで覆われ、溶かされ切断されました。

ばく、ん。

その首から上を触腕で飲み込んだエプリシアは。


「けぷっ。雑味ですがまあそこそこてしょう。」

「味に変化が欲しいんですのね??岩塩とわさびならありますわよ。」

「ドリル様…一生お仕え致します♡」


まとわりつく軟体を撫でながら。


「お父様、アルカルブは、ただ自害をするつもりでは無かったみたいですわ。」

「「騎士隊の隊長とエルアートヌの都市長を務めていた人物だ、モモくんの首を奪い、あの龍を孵化させた根拠は、確かにあるだろうね。」


渦を展開して、ラプリマの方角へヤリラ ルーマを放ちます。


「「アセデリラ!?何を!」」


お父様の言葉のすぐ後に、同じくヤリラ ルーマが返って来ました。


「女神と勇者の理解では、アルカルブは。」


ゲンザンの極限加速装置v3を点火します。


「「君は、何をどこまで理解したんだ!?」」


限界の速度に近付くお父様、ゲンザンが音を置き去りにした辺りで、ぜネロジオを通してお父様とエプリシアに。


   ─────


「女神、ごきげんよう。」

「お主!ヤリラ ルーマに意識を乗せて通信を行うなど!」

「それはいいんですの。今起きたことを、前提としてご説明しますわ。かくかくしかじか。」

「ほにゃららほにゃら。なるほどの。つまり、お主の見立てでは。」

「ええ、アルカルブはフリギロアに天下無敵のぜネロジオを取り込ませ、光を超える際の防護壁にしようとしていましたの。」

「そんな事をして過去に戻っても、別の似た結果になるだけじゃろ。」

「女神、経験がおありですわね?」

「うーむ。うむ、そうじゃの。例えばお主の前に、みっつに分かれた道があるとするじゃろ?」

「どこにでもあるような道でいいんですのね?」

「そこにこだわらずともよいわ!とにかくお主は真ん中の道を選んで、後悔したとする。」

「世の中、そう言うことが多くありますわね。」

「まあそうじゃの。とにかくじゃ、時を戻してお主が分かれ道に戻った時、その時のお主はどう行動するかの?」

「間違いなく真ん中を選びますわ!」

「お主そこは、普通は他の道を選ぶじゃろ…。まあ、そう言うことになるのじゃ。色々な選択肢と可能性があったとは言え、一つを選んだ時点で残りの選択肢は消えるのじゃ。その結果を知るお主は、その結果の情報を持ったまま過去へ戻り、何が起きようとも同じ選択をするのう。結果を知らぬ場合には、また同じ選択をする。なぜなら一番初めの、何も知らぬお主は真ん中を選んだからの。」

「ええ、理解出来ましたわ。」

「よって、消えた選択肢というものは、もう無くなってしまったからの。戻しようがあるまい。」

「確か女神は、生命体の存在する余地がない、全てを彼方に追いやる命球を、生命の存在可能な領域にしましたわね?」

「んむ、どうしても計り知れぬものなら、好き放題じゃから…お主。」

「アルカルブと同じ方法で、先へも行けますの?」

「わざわざ聞かずとも、次にする質問も、答えの予測はしておるのじゃろ。」

「ええ、それではお願いする内容も、推測されましたわね?」

「んむ。そうじゃの。滅私奉公の末に首だけになったアルカルブには、全身全霊で報いてやらんとの。」


   ─────


通信が終わり、光の来た方向を向く。


「さて、始めるかの。」


力の範囲外へ出たとはいえ。


「「マイ、エルアートヌに着いた。起こされて怒りそうだけど、かわいい後輩のためだから。」」


トモから連絡が入る。


「「えへへ、トモさんよろしくおねがいします。」」

「「わーかわいくなったね。さすがわたし達のモモー!」」

「「あんまり抱きつくなダリア、さっき付けたばっかりだから首が取れちまうぞ。」」

「「準勇者、全くあなたは。」


ワイルドハントが、揃っている。


「「ヨシくんもこっち来たんか!?ラプリマはええんか!?」」

「「あくまでエウトリマの、エルアートヌのための増援だよ。ユイ。」」


袂を分かった夫婦が、言葉を交わしている。


「「女神、こちらハウンド1。エルベラノの龍駆除完了しました。」」

「「ハウンド2です〜。指示通りエルヴィエルナへ向かう群れは見逃しましたけど〜。フェイさんとスターさん、あのお二人は追いかけて行きましたよ〜」」


エルヴィエルナへの追加の増援は、あの2人くらいでいいじゃろ。

口を開く。


『ラプリマ、エルベラノのカネクトゥス、エルアートヌのもろびとよ、準備はよいかの?我ら太陽系第三惑星人がこれより紡ぐは、問答無用で、ほんものの奇跡じゃ。決して巷にありふれた安物では無いぞ。2人の母親と、1人の娘、まだ産まれておらぬ娘。気前の良い大父親、考え無しの兄とその兄を愛する妹を。』


そこまで言って女神は。


『あと、浮気者の夫じゃな。救うぞ。』


目を閉じて、開く。

視線のはるか先には、光の速度に近付く駆騎士が。


『暗く冷たい光の海に

いざや廻れよ彼方まで─♪』


女神に合わせ、これまでの経過を記憶に転送された、エルヴィエルナ以外の全太陽系第三惑星人達は、声を揃えて女神に続ける。


『駆けろ駆けろアセデリラ

命を繋げ、彼方まで─♪』


   ─────


「つまり、わたくし達は。」

「この世界が消えて無くなり、もう一度太陽系第三惑星と、クルルガンナ星が発生して。」

「「ただの女子高生が命球を見出し。」」

「太陽系第三惑星人とクルルガンナ星人ほしひとが出会い。」

「ええ、もう一度決定的な破滅が起きて。」

「都合よく、ヒラカワラのそれぞれが死亡した瞬間に魂を回収する。」

「そして、この場この時に戻ってくる。」

「「死亡した魂は、時を戻して助ける事は出来ないが、遥か時の彼方で死亡した魂は、回収して新たな身体に入れる事はできる。」」

「ええ、遥か先の未来の可能性がひとつ、消えてしまうだけなら、何をしても誰も怒りませんわ。それに身体の再生は食卓資格のある騎士なら誰でも出来ますの。わたくしもモモさんの身体と魂でおこなった経験がありますわ!」

「そのためにこの頭と注射器ですか。」

「ええ、カイミさんの両親だけなら再生は可能ですけれど、家族は全員揃ってこそ家族ですわ!」

「私達と同じ経過を辿った彼らが、存在出来る根拠はおありですか?」

「ええ、だってその証人となるわたくし達が、ここにいますもの!」

「つまり、結果を持ち込んで、無限の可能性のある別の世界の過去と未来を確定させる、と。」

「「どうやってこの命球に戻るんだい?行きは良くても帰り道は?」」

「現勇者とダリアさん、モモさんが閃光を放ってくれますの。それに乗りますわ。」

「「そんな事を、不可能じゃないか!」」

「あらお父様、そんな気弱。」

「初代勇者の名折れですね。」

「返上されますの?肝心なところで尻込みした臆病者として。」

「「いいや!あの頃に戻ったようだ!オレはワクワクしてきたよ!」」


女神の、太陽系第三惑星人達の歌が流れ込んでくる。

「レジーナ」のお客さま、ロータス総合学園の同級生たち、街のひとびと、いつかの騎士隊長、いつかの探偵と助手、ルルメンタ ブリンダのケーナや運営者の皆様、ブランカ スタランダの、アマザの従業員たち、イノカミさん。ダンサンカ ブーケの隊員たち、、ガスとドン。カトラスとアルマ、フラウ、エウトリマ、モモさん。


そして


「おかあさん、お父さん、そして、お母さんをお願いします。」


カイミさんの。


そのグランディオサ ホーラの中で、ひとり違う歌が聞こえて来ます。


「スタニト、メイタゥナ、ローサ、ミアーネ、スペギュエラ、フィガ、ファロブランチェスドオア♪」

「ら、ら、ら、らんららら。」


よく知っているはずのリーナの、全く知らない声。

どこか、知らない世界の、いくつもの世界の、子どもたちの歌う声。


ゲンザンと、極限加速装置v3が、光を生み出す。

そこに加わる、赤や黄、緑に青、紫の光。


ふわあっ。


そして駆騎士達は、遥か先の時の彼方、再び回り始めた星の海の中、天の川銀河その中心天体、命球へ辿り着いた。


   ─────


大気が、知っているものより、薄い。


「清き光の輝きの─♪」


差異を感知したエプリシアがアンカラを展開して、ようやくわたくしは呼吸が出来ました。


「ぷはっ、ここまで、すぅー、違いますの?」

「私はずっとルルメンタ ブリンダの底にいましたので、何とも。」

「「オレは懐かしいよ。クルルガンナ解放戦が始まる前の空気だ。」」


転移したのは、少し前に通った、まだ舗装もレールも敷かれていない、太陽系第三惑星人がまだ発見していない、エルアートヌへ続く道。

ただの、女神が再現した、どこかの惑星の原生林。

その、むき出しの岩肌や、天に聳える大木の根本をかき分けるように進んでいきます。


「その、ドリル様はよろしいのですか??」


聞き返す事は致しません。エプリシアの気持ちはもう分かっています。


「今なら、あなたの両親に、双方の星人ほしひとも救えます。」

「ええ。」


進路上の岩をランサーで切り溶かして。


「あのヒト達を見捨てて、この世界の両親と暮らすことも可能です。」

「ええ。」


眼前の大河をグラシラピアで凍らせて。


「悲しみと苦しみを繰り返して、痛めつけられ。」

「「また、他者に苦しみを与えても。」」

「ええ。」


隆起している岩盤を、ゲンザンごと緑雷で包み表面を走り抜けて。


「「それでも君は、走り続ける。」」

「なぜですか?」

「それは。」


寄り添うように子を抱き眠るセンテルデを飛び越えて。


「わたくしが、駆騎士キミタケの三番弟子で。」


遠く、エルアートヌが見える。


「わたくしの父は、初代勇者ゲンザンで。」


輝きと共に、無数のナラシンハやその他の対惑星文明兵器が空を埋め尽くす。


「わたくしの母は、星姫アルマコリエンデ。」


それらの無数の黒が、大気を震わせて光を収束させてゆく。


「そしてわたくしが。」


ゲンザンの脚部、ヒトでいうところの大腿部と、その付け根に増設された、極限加速装置v3を起動する。


「アセデリラ・アルマコリエンデだからですわ。」


   ─────


「「アル姉もキツいぜ。こちとらロートルってのによー。」」


息子の保護ブロック行きが決まってからずっと、騎士を引退して、毎日お酒を飲んでいたヨサルにも臨戦待機の命令が出て、こうして私の指揮下にいる。アルお姉ちゃんが何を考えているのかわからないけど、目的の無くなったヨサルには、やるべき義務を無理矢理にでもしてもらうのは、お酒を飲んでるよりずっといいと思う。


「「けど、私はヨサルと一緒にいられて、シリンに立てて嬉しいよ。」」


じじ、じ。

ウサギの広範囲探知機に反応、これって。


「「クルルガンナの船がいっぱい来るみたい。うーん、エルアートヌへの入港予定には無いみたいだね〜。」」

「「あんだそりゃ、びっくりパーティでもやるつもりか?」」


ふぁ、ん。ふぉんふぉんふおん。

見たことはあるけど、こんな大量に空間を超えて出現されると、びっくりしちゃう。


「「何だよ、あれ。」」


ヨサルの声にナラシンハの方を向くと、何度も大気を震わせて、光を集めている、のかな?


「「わからない、けどアルお姉ちゃんが怒った時みた─。ザー、」」


そこで私の意識は、シィミーィヤさんの、勇者のお嫁さんのようなヒトに、抱きしめられた。


「どうした、カニィヤ?カニ─。ザー。」


カニィヤの声がしないと思ったら、ここにいたのか。けどこの暖かい腕は誰のだ?死んじまった母ちゃんなのか?なら、言ってみるか。


「なあ母ちゃん、子どもが産まれたんだけど、治らない病気でよ…。」


   ─────


「さあて、今日も腹を空かせたガキ共に昼飯を作ってやらねえとな。」


手の洗浄を行い、吊り下げたエプロンを身に付け、コンロに火を入れる。

かちちち、かちっ。

ぐわ、ん。

何だ今のは、空気が震えてコンロが止まっちまった。

まあいい、メシが先だ。

ふわぁっ。

何だ?急に誰かに抱きしめられた感じだ。


   ─────


「ふフ、もウ少シ、お母さんノお腹デいましょうネ。」


赤ちャんがお腹の中デもぞもぞしテいル。優しク撫でル。マルバノキとノ、だいジなだいじナ赤ちゃン。


「「マルキュウニィゴ、胎児反応有り。母体とも良好。」」


ワタシの身体ガ心配ダからっテ、アルカルブがオ医者サんと騎士ヲ付けテくれタ。ずっト見られルのハ恥ずかしいけド。

ぐぅ、おおん。

何カ、響いタ。ヴリトラの、反陽転エンジンみたイ。

お腹ノ赤チゃんガ暴れル。


「いイ子、いイ子。」


キュ、ン。

光ガ、ワタシの胸ヲ。


「かぽ、アっ。」


吐いタ血ガお腹にかカる、赤ちゃンに付いちゃウ。

拭かナきゃ、拭かなキゃ。

手ガ、思うヨうに動かなイ。

眠ク、なっテきた。


「「シィミーィヤ!」」


ま、ル─。


「ゴめん、ネ─。」


目を閉じる。


「ーし、もし。」


眠クて眠くテ動かなイまぶたガ、そノ声に少シだけ、開ク。


「わ、ァ─。ほしーひ、め。」


挿絵(By みてみん)

   ─────


ここは、いつか先の、わたくし達が来たことで過去と未来が確定した、可能性の無くなった世界。

加速したゲンザンが光の速度に近づくにつれ。確定してしまった世界から、確定させた要素が失われる矛盾によって、世界自体が崩れ始めます。


「それではシア、お預けしましたわ。」

「はい、ドリル様。」


頭を撫でて、緑雷のポデアを四肢に刺し、走行中のウサギから飛び降ります。


「「ドリル様!?」」

「「アセデリラ!?」」


慣性の付いたまま、ラプリマへ向かい、走り出します。


「「必ず戻りますわ。」」


   ─────


空が割れ、街並みが歪み、存在自体が崩れるラプリマ、そこを走り抜けて。


「やっぱり、こちらでしたわね。」


世界の情報を書き換えて、その構成要素を奪ったわたくしは。


「私がお前なのだから、当然だろう。」


この世界のわたくしに、その全ての矛盾を、押し付ける。


「よく逃げずに来た。褒めてやろう。」


雨が、降り始める。


「あなたがわたくしなのですから、当然でしょう。」


風が、嵐が吹き始める。


「お互い様だ。」

「お互い様ですわ。」


エルベラノの方向が、光に呑まれる。


「それでは、どちらが本物の。」


ラプリマを見渡せる丘の上、この集団墓地。


「アセデリラ・アルマコリエンデになるか。」


駆騎士キミタケの眠る。


「参ります。」


この、場所で。


「来い。」



挿絵(By みてみん)


ぶわああ!

原因と結果があやふやになったこの世界で。

紅い、ダリアと太陽系第三惑星人に呼ばれる、野花が花開き、咲き乱れる。


シィィィィ!

緑雷を四肢に刺したわたくし達は、お互いに回り込むように、螺旋を描いて走り、その中心、交わる瞬間。

ガチィ!

ギャリィ!

お互い、グラシラピアを纏った手刀で切り結び、鍔迫り合います。


「どうされました?刃が鈍っていましてよ?」

「奢るな、星姫ごときが。」


バギィ!

左からの膝、同じくわたくしも左膝で返し、ぶつかり合います。


「駆騎士と言う割には、腿の力が弱いようだなな?」

「星姫には、この繊細さがおわかりになられませんのね?」」


その言葉を合図にお互い飛び退いて、再び螺旋を描いて走り始めます。

バチィィィィィ!

お互い緑雷を纏って。

前方へ飛び込み、左右の手を交互に地に付けての回し蹴り。

カン!カカカカカキィン!

お互いの靴が、氷壊を纏った電撃の蹴りがぶつかり合い。

パンッ!

その衝撃で墓地の木々が凍てつき、爆ぜて。

たしっ。

その音を合図にふたり同時に飛び退いて、構えます。

ジィィィィィ!

叫び、泣く雨粒と風の中、それらすら触れた瞬間に光に変えて、お互いのランサーが交わります。

ジュパァァァ!


「大人しく、この世界を壊した自分の責任を受け入れて、私に過去を譲り渡せ!」

「そんなことで諦めるくらいなら、もともとこの世界には来ていませんわ!」


ジャリィィィ!


挿絵(By みてみん)


同じ原因と結果を持つもの同士、全ての戦闘行動は互角。

2人してランサーを捨て、構え。


「さて、このやりとりにも飽きて─。」

「─来ましたわね。決めましょうか。」


降り注ぐ、強まった風雨の中、わたくし達お互いの腕の中に、雨粒と風が吹き込んで来ます。


「廻れ、」

「廻れ、」


吹き込む雨と風は、腕の中で留まること無く、回り始めて。


「疾く」

「奪え。」


回転する雨と風は速度を増して。


「彼方の夢を─。」

「─此方に繋げ。」


青く、煌めく光となったそれが。


「ダル─。」

「─ハルカ。」


その輝きが、お互いに交わる瞬間。


   ─────


「ハッハッハッハ!ドーダ!カトラス天才!」

「うう、惨めだ。」

「惨めですわ。」


目が覚めたわたくし達は、「レジーナ」の床を雑巾で、拭き掃除をさせられていました。


「うんうん、さすが初代ほしひめー!」

「まさか、あの螺旋の槍の本質が、お互いを呼び寄せるものとはね。」

「ご主人様が2人に増えて、大変嬉しく思います。このアウタナ・セリフラウは。」

「もともト、祝詞トお前達ガ呼ぶそれにモあるだろウ。ダルハルカの本質ハそれダ。」

「そこのダクトロ、宝は分け合いましょう。私はノンドリル様に仕えます。」

「私はどちらのお嬢様にもお仕え致しますよ〜!」


2人して雑巾を持つ手を止めて。


「私達は。」

「ものではありませんわ〜!」


カトラスのダルハルカを、破滅的な螺旋の槍を生み出すもの、と誤解していたわたくし達は、お互いが同時にそれを使用した瞬間、元の世界のカトラスのダルハルカに引き寄せられ、双子の姉妹として、情報を書き換えられてしまいました。


からん。

お店のスイングドアを開けて、ダリアさん達が入ってきます。


「買い出し終わったよー。へびちゃんもがんばってくれました!」

「へーびーとーんーぼー!」


なぜかダリアさんに懐いたフリギロアは、四六時中くっついています。


「おうお帰り、チビにはオヤツを作ったからそれ食ってろ。」

「やったー!」

「あ〜んレジーナ〜。」


キッチンへ向かうフリギロア。ダリアさんは、そのままお義母様、レジーナさんの胸へ飛び込みました。

あら、四六時中なんてことを、いつわたくしは知ったのでしょう。


「それより皆さん見てください、お嬢様のドリルに仕込んだ隠し撮りカメラくん2号のこの動画、たくさんの評価を受けていますよ〜。」


   ─────


カンカンカン、寸胴鍋のフチをおたまで叩いて、声を出す。


「おーい、フリィカ、クナイラ、メシができたぞー!」


わあああ、と走って来た男の子と女の子に、センザキはパスタのお皿を渡す。


「お前らの父ちゃん母ちゃん達は、オレのパスタで大きくなったんだ。お前達もいっぱい食べて、いっぱい大きくなれよ。」

「はーい!」

「おじいちゃん大好き〜!」


   ─────


「「ほらヨサル、また作戦中によそ見してるー!フリィカならお父さんに預けてるんだから心配しすぎだよぉ〜。」」

「「んな事言ったって、アル姉とマルバノキの娘と一緒なんだぞ?心配しない方が無理だって!」

「「聞こえてるぞ騎士ヨサル、これは妻に、都市長に報告する。」」


   ─────


「ふぅ。」

「アルカルブ都市長、まタため息?」

「言うなシィミーィヤ生工科主任。こちらの第禄ブロックの浄化も、ついに完了したのだ。」


2人の見る、クルルガンナ由来の箱の前で。


   ─────


「よし、このブロックも浄化出来たら、あとは最後だね。兄さん。」

「ああ、このブロックが浄化出来れば、君はシィミーィヤと休むと良い、弟よ。」


エルアートヌの双子のダクトロは、手際良く浄化作業を行っている。

弟の妻が懐妊したと言う事で、近々ささやかな祝いの席が設けられると報道にはある。


   ─────


「さて、これで良かったのかの?」


ブランカ スタランダの、海へ沈む模倣太陽を見ながら、訊ねる。


「はい、結局、あのヒト達は、あの世界のヒト達です。この世界の父と母も含めて幸せになってもらえたのは嬉しいですが、会ってわかりました。私の両親と、その家族ヒラカワラとは違う、別の騎士隊ヒラカワラであり、共に身体を構成された両親もまた、私の知る両親とは別の人物なのだ、と。」

「ややこしいのう。それで、ここで暮らすのかの?」

「はい、私の名前。カイミは、もともと太陽系第三惑星人の言葉で、海を見る、と言うものを縮めたものだそうです。父と母が、海を見ることができる土地を見つけよう、と騎士隊を結成したことにちなんだ名前です。私が、海を見られるこの場所に住めば、かつての父と母の願いも、叶えられると思います。」

「んむ。」


目を閉じて、かつてのヒラカワラの面々を想い出す。


「そうじゃの。」


少し遠くから。


「おーい、カイミー!」


彼女のパートナーの呼び声を聞き、女神はその場を離れる。


「どうか、健やかであれ。」


暑い夏が過ぎ、涼やかな秋風の流れ始めるアルタ カンパを女神は後にした。


挿絵(By みてみん)


   ─────


25日後。

エルアートヌに生を受け、食化騎士として生きざるを得なかった者達の浄化作業も終わり、女神は街へ繰り出した。


「ふっふふ〜♪トモも居らぬし今日は豪遊じゃ〜♪」


浮かれて、弾む足でスキップを踏み、通りを行く。この近辺に最近、独特の接客と料理が話題のオープンキッチンがあるらしい。


角を曲がる。


「いらっしゃーせー!!!イノカミフェスタへよーこそ!!!!!」

「お越しになられましたー!!!!!」


数十名の、食化騎士に威勢よく声をかけられた。

おかしい、食化騎士は全て浄化したはず。

それに、抑えられぬはずの獣性を、コントロール出来ておる。


「オドレらぁ!声に誠意が感じられんわぁ!もっと腹と心の底から声出さんかい!!!」


彼らの後ろから聞こえるのは、どう聞いてもイノカミ リンの声。

つまり、この獣どもは、さらに強い獣に力で抑えつけられ、従わせられている。


「ようこそおいでくださいました!」

「本日お昼のウキウキメニューは!」

「私のような、活きの良いカニと!」

「私のように、舌の上で踊るエビの!」

「ウキウキワクワクランチとなっております!」


こやつらは、しばらくは浄化せんでも良いじゃろ。

女神は、むさ苦しく踊り舞うカニやエビ、タイにヒラメの食化騎士を見ながら、おすすめされたウキウキワクワクランチとみかんジュースを注文した。


三部魔導列車追撃編 後編 最終節


  「Acceldahlia」 加速する不安定/アストロブレム攻防戦03 了



ノンドリル様の名前かんがえちゅ。


11月ごろから第4部投稿していきます〜!

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