第二部ワイルドハント07-4中庭カフェにて
「ねー今日のお昼何にするー?」
「今日は朝抜いたからお腹いっぱいたへ食べたーい!」
「アタシは3等コーヒーだけでいいや。」
「またカッコつけてるなー?」
きゃあきゃあとおしゃべりしながら歩く女子生徒たち。
「ここの裏メニューはすげえんだ。ベーコン追加でブロックごと頼めるんだぜ!」
「え?俺この前グレート石焼き炭パンにチーズ地獄盛りしたぜ!」
「お前よく昼休憩の間に食い終わったな。俺はジェネラルとんか3枚にしとくぜ。」
「てめーもどんな胃袋してんだよ!」
わいわいと食堂へ歩いて行く男子生徒たち。たち。
ここは太陽系第三惑星人支配区域クルルガンナ、その構成する都市のひとつラプリマのロータス綜合学園、その中庭。今日もお腹を空かせた学生さんたちが向かうのは。
第二部ワイルドハント07-4 中庭カフェにて
「いらっしゃいませおきゃくさまこんにちは〜!本日もみなさんのために!焼きたての炭焼き石パンをご用意してますよー!」
凹の字に建てられた学園校舎、その中央にある中庭のカフェ、背の高いいく本かの模倣植栽の木漏れ日の中、猫耳と尻尾を生やした店員が元気よく生徒たちをお出迎え。
「うーん迷うー!やっぱりいろどりフルーツサンドかなー?」
「店員さん、私はキウイとクリームサンド〜!」
「げっ、チキンのにんじんバタースペシャル復活してるじゃねーか!」
「待てよ!こっちにサーモンキノコ蒸し焼きもあるぞ!」
カウンターに立てかけられた数枚のメニューボードとにらめっこする学生たちを見ながら、ワスレナはため息を吐く。
「はあ、店員あなた、以前のエビ(第一部4話)がばら撒いた、異常食欲を誘発するフェロモンを使っていたりしないでしょうね?」
「い、いえいえあはは!そんなことするわけないじゃないですか〜。お腹を空かせたみなさんが、まんぞくしていただけるように務めているだけですよ〜。」
ごと、と店員はワスレナの注文していた、根菜たっぷりヘルシーチキン釜めし(大盛り)の釜を置く。
「こちらはあと少しお待ちいただくと、釜の中で蒸らされてさらにふっくら仕上がります♡お召し上がりいただいているタイミングでしゃきしゃき大根サラダとおみそスープをお持ちしますね〜♡」
「ったくワスレナめ、こんなに食ったら太っちまうだろ。アタイが片付けてやんよ。」
店員の去ったあと、アユーガはワスレナの肉体のまま食事を始めた。
「そりゃやべーって!」
「ああ、エウトリマブーケ長!」
学生たちは「リーナ今日のお嬢様放送」に釘付けになっている。ちょうどブランカ スタランダの砂浜でエウトリマとカトラスがビーチバレーをしていた。
「へー星姫に勝負を挑むだけブーケ長はすごいよ。」
カウンターでメニューを見ていた生徒は、聞こえてくる生徒たちの実況にそうコメントした。
「そういえば店員さんってキャットウォークで勝ったんだよね。ああいう戦いってできる?」
「あ、わたしは最近戦ってはいませんので〜。」
しゅぽぽぽ、ぶぃん。
店員の後ろにあるキッチン付き荷車、その前面、本来御者台などのあるべき場所に据え付けられた黒い箱が鳴る。店員はミトンをつけて、箱に付けられたオーブンを開き、炭焼き石パンの乗ったトレーの端を掴み、引き出す。焦げ臭い匂いが立ち込める。
「わたしのウサギは今、オーブンに火を入れるくらいにしか使っていませんし〜。」
「え、その黒い箱がウサギなの?ちょっと戦いには向いてなさそうだね。」
「はい、ですからあなた方騎士候補生の皆さんに守っていただきたいです♡」
店員は太めのハサミでお皿の上の石パンを割り、生クリームをしぼりかけて、そこに角切りにした果物を乗せて行く。
「それではお客さま、追加は何段にいたしましょう?」
─────
食事を済ませた学生さんたちは、おしゃべりを再開する。
「やっぱりブーケ筆頭はめちゃくちゃだね!」
「いや、彼女があの氷の螺旋槍を弾いた原理は説明が付くよ。」
「あのグルグルしてた力を使うんでしょ?それくらい見りゃわかるって。」
「あれに勝ちたいな。」
「うん。」
放送で目にした星姫カトラスの、駆騎士アセデリラ・アルマコリエンデの技術の解析と研究、再現と改良、対策を始める。
それは血気盛んな騎士候補生たちだけではなく、現職の騎士たちも。
「さっき俺たちを包んだのって。」
「ああ、ダクトロのだな。カネクトゥスとはまた別か?」
「ちょっと唄ってみるから、評価してほしい。らー。」
「想いを重ねよう。緑果ての─♪」
かつてのラプリマのダクトロ、アウタナ・セリフラウの見せた「満開」、それすらも「知識」として知った太陽系第三惑星人は模倣と改良を加え始める。
彼ら彼女らの心の奥底には、未だ「あの声」が響いている。
「私、まだうまく眠れないの。思い出して。」
「俺だってそうだ。かつての太陽系第三惑星よりも、大きいんだろう?」
その文明種、ベヌ ナ ラ ベンター。(第一部3-2)
彼らが文明種である理由は、簡単だ。
女神が天の川銀河中心天体の一部を切り取り、人類生存領域とした「命球」、本来は生命種の存在を許さない、情報を蓄積するだけのシステムに過ぎない天体を、屁理屈だけで「ただの高校生蓮坂舞」が知っている動植物だけが存在を認められた空間。
かつて太陽系第三惑星人と絶滅戦争を繰り広げたクルルガンナ星人は、あらゆる知的文明と惑星を喰らい尽くし、果てに女神の命球を補足し、侵攻を行った。
つまり、このラベンターと呼称される生命体も、知的な、高度な科学技術を発展させた文明という事になる。
命球に取り込まれた幾億の惑星に根付いた生物ではなく、自発的に「来訪した」、風と共に来たる者、ベヌ ナ ラ ベンター。
「そうです。とっても怖いんです。とにかく大きいし!皆さんも放送でご覧になられたように、わたし達太陽系第三惑星人と同じ大きさのクルルガンナ星人との戦いですら、10人に1人じゃ足りなくて、30人に1人も生き残れなかったんです。ラベンターさん達からしたら、クルルガンナの全域は、手のひらより小さいんです。人差し指で撫でただけで終わっちゃうんですよ。」
店員が不安がる生徒たちの間に立って説明をする。
「ですから、女神はメガネさんの放送を通じて、ダンサンカ ブーケの戦いを、その戦い方を皆さんに識ってもらうことにしました。同じように戦えるように。ルルメンタ ブリンダのサヌレビアでは、常に騎士隊の陣地線、筆頭による一対一の勝負をが行われていますし、ブランカ スタランダに遊びに行かれれば、その際にお使いになられるmpが鹵獲兵器ナラシンハの動力源になります。まいにちをせいいっぱいがんばって、備えましょう!いずれ、必ず起きる戦いに!」
「それなら。」
生徒が1人、手を挙げる。
「それなら、私も放送を見てた。準勇者の死ぬ前の願いだった、知らないヒトどうし仲良く生きるってことは、できないの?」
その問いかけを発した生徒の頭を、優しく撫でたのは紅い髪。
「それができたら、いちばんいいんだけどねー。」
不安定のぜネロジオ、ダリア・アジョアズレス。
第二部ワイルドハント07-4 中庭カフェにて 了




