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第一部後編 ある晴れた日の/エルベラノ攻略戦

暗く冷たい光の海に

駆けよ貫け我が刃

紡ぐは雷、纏うは氷

あらゆる闇を、切り裂いて


春の一月 エルベラノ攻略作戦まであと二日 リーナ

─────────────────────────

私達ダンサンカブーケが主体となって行った実地演習にて、「ラベンター」と呼称される、太陽系第3惑星人とは別の星に由縁を持つ知的生命体の存在が確認されたものの、ほとんどの太陽系第3惑星人にとっては、大した問題ではありませんでした。元より命球に於いてヒト種は「「ワガハイ達はチーズに入っている乳酸菌のようなものじゃ。」」と女神が現したように、ちっぽけで哀れな存在です。ラベンターは我々と比べて強大ではあるものの、危険性で言えば龍、と定義される生命体のグループにも、更に危険なものもあります。そう、さしたる問題では無いのです。


「うううう〜ん、迷いますわあ〜!」


私の愛しい愛しいお嬢様が、今まさに直面されている問題に比べれば。


「ですから〜ワッフルにバターですよバター。外はカリカリ、中はしっとりもっちり焼けた熱々の生地!これはもう、甘みと塩味の両方を楽しめて、濃厚な脂!牛さんの愛を感じられるバターにいたしませんと〜。」

「リラちゃんまだ決められないの〜?やっぱりザラメだよザラメ〜、つぶつぶで塊のお砂糖がお口の中でしょりしょり、かりかり感触も感じられてしあわせだよ〜。」

「ふふ、トッピングにばかり気を取られていてはいけないよ。何も付けないプレーンで、素材の卵に牛乳、小麦それぞれの転換者や器具の製造者、調理者、目の前の販売者さんに感謝をしながら味わえば、他に何もいらないよ。最高のトッピングさ!」


皆さんそれぞれお好みの食べ方をおすすめになられます、私も含めてですが。


「あなたは…。」


ついにお嬢様がお動きになられます。


「あなたのおすすめは何ですの?」


お嬢様は販売の店員さんにお聞きになられ、がま口のお財布を取り出して、小分けにしたmpを数え始められます。ああ、お嬢様。なんとおいたわしい…


「はい、春の一月はイチゴがよく採れますので、焼き固めたイチゴを乗せます。甘酸っぱくて、とってもおいしいですよ!」

「う…!」


思わず後退りするお嬢様。意外な伏兵が登場したので固まっていますね。目をぎゅっと閉じて、両手の人差し指をそれぞれロールした横髪に巻き付けて思案なさっています。


「わたくしはどうしたら、わたくしはどうしたら…。はっ!」


急に目を見開いてお顔をお上げになったお嬢様は、販売員さんに近付いて、口元に手を当て、小さな声で何かを囁かれています。


「はい!できますよ!」


その元気のあるお返事に感激されたのか、両手の指を組み合わせて嬉し涙をこぼされています。


「感謝いたしますわ…。」



テーブルに着いたわたくし達は、ほっと一息をついて、めいめい


「う〜ん練習で肩凝った〜!」背伸びをされたり。


「ふふ、慣れてしまえばどうと言うことはないよ。」ポケットから取り出した複数のハンカチをきれいに折り直したり、


「はーっ、はーっ。」メガネに息を吹きかけて磨いたり、そしてわたくしは、


「うう〜ん、迷いますわ〜。」手元には、以前「アルマコリエンデ」入りのわたくしの愛機、脚走型ウサギのレピアーを両断しましたので、新しく作るための機体カタログが。


「お待たせしました〜♪」店員さんが五等素材の水増しコーヒーと、それぞれが注文したワッフルをお持ちになられます。


「あ〜、リラちゃんズルっこだ〜!」

「ふふ、以前の彼女なら全てを1枚ずつ、合わせて4枚は注文していたょ。君と過ごすようになって、実践的な経済感覚が身に付いたのさ。」

「おいたわしやお嬢様…あまりにも、あまりにもみみっちぃお姿に。」

「なんですのみなさん!特にリーナ!ワッフル1枚を4つに分けて、それぞれおすすめされたトッピングを再現しただけでしてよ〜!」

「でもリラちゃんのワッフル、小さいサイズだし…よっつに分けたら、ひとくちでおわっちゃうよ。」

「ふふ、彼女はその一口に、永遠を見出しているのさ。」

「ああ、何も考えずに高級な素材ばかりお使いになって、御身を崩されるお嬢様を見たいです〜。」

「わたくしのする事にいちいちいちいち!みなさん一列にお並びなさい!おしりをはたいてさしあげますわ〜!!!」


きゃー、と逃げ惑う妻2人と従者ひとりを追いかけて、大切な時間が過ぎて行く。エルベラノ攻略まであと1日と半日。


「はっ!?ナレーションに言われるまで忘れていましたわ!ウサギの細かな構成を考えないといけませんの!」

「でもリラちゃん、安定して走れれば何でもいいって。」

「ふふ、我らがお姫様は細かな駆動系のパーツにもこだわりたいのさ。」

「お嬢様〜、とりあえず最新のおすすめ構成で良いのではないでしょうか〜?」

「誰かが決めたおすすめ構成だなんて!嫌ですわ〜!!!わたくしにはわたくしの「走り」がありましてよ〜!」


そう言うわけで、彼女たちはワッフルを口へ押し込んで、コーヒーで胃へと流し込んだ。


「ザラメがおいしかったよ〜。」

「ふふ、この味に出会わせてくれた今までの全てに感謝するよ。」

「どちらのバターをお使いなのでしょうか?教えていただきたいです〜。」


めいめいがトレーと食器を店員へ返しながら感想を伝える中、我らがお嬢様は、指をカタカタと震わせていた。


「わ、わたくし…。」

指が震えるのでトレーも揺れ、その上の食器も擦れ合い、かちゃかちゃと音を鳴らす。


「とっても、とってもおいしかったですわ!ザラメを噛んだ時の食感にお口に広がる優しい甘みに、プレーンの素直な焼き上がりに、バターの濃厚な脂、そして期間限定の焼き固めたイチゴが!先にいただいたものとは違う、イチゴの甘酸っぱさと言う従来のワッフル定番のお味とは違ったアプローチで攻めた、画期的なお味でしたわ!」


しかし、その目には悔し涙が光って…。


「でも、ほんとうは〜?」

「言ってごらんお姫様、本当の、心に秘めた気持ちを。」

「ああ、お嬢様!そう、そういうお顔が見たかったのです!!!」


店員さんがトレーを受け取って帰る。その間も、両手が戦慄いている。


「ほんとうは、」


いったん息を呑んで、呼吸を整える。


「ほんとうは!あのイチゴの海に溺れたかった!あのザラメをふんだんに振りかけて!もちろんワッフルも三等素材の素晴らしいものを!バターもぜいたくにふたつも!アセデリライチゴスペシャルをいただきたかったですわ〜〜〜!!!!!」


わたくしは悔し涙を流します。カフェの店員さんに、今まさにお食事をお楽しみの方、ショーケースの中のスイーツ達に語りかけていたちびっことそのご両親、皆さんがわたくしに視線を注がれているのは存じています。ですが、ですが、わたくしは悔しい!あのスイーツも、あの話題のデザイナーの新作お洋服も、身に付けるコスメも、そのすべて、全てをがまんして、わたくしアセデリラ・アルマコリエンデはこの一瞬一瞬その全てをこらえて、ウサギを作るんですの、お祖父様のレピアーのような、「アルマコリエンデ」、いえ、おばあさまがお祖父様と出会って、クルルガンナ解放戦で命を落とされ、わたくしの中にあってもずっと大事にされていて、最期の時までずっと離れずにいた、あのレピアーのような!けど、やっぱりイチゴの海も捨てがたいものでした。

悔しさと、人前でみっともなく泣いた恥を糧に、アセデリラ・アルマコリエンデはまた一歩、大人への階段を登った。

「ママ〜あの人、あのカッコよかった騎士さんだよね〜。」

「しっ、指を差しちゃいけません。」

そして誰もが顔を背け、その人それぞれの本来の目的、おしゃべりにお昼のおやつ、書類の整理などへ向かって行く。ただ、1人だけ取り残される…そんな寂しさに包まれそうになった時、手をそっと握られる。


「リラちゃん、とりあえずハンガーいこ?」

「ティオ。」


強く握り返す。こんな狭いけど、広すぎる世界の中で、たった一つ掴んだ、希望の光。



「おじょうちゃん達〜、しっとり生地の筒巻きチーズは要らないか〜い?」

「輝く星空キャンディだよ〜。」


ハンガーへ向かう途中、わたくし達4人は、さまざまな露天商に呼び止められまし。主にその場で調理を行う種類の。


「ああ、世界はどうして、こんなに誘惑に溢れているんでしょう。」


お腹は減ってはいませんけれど、目の前でおいしそうにぱくぱくされていると、その…誘惑に負けてしまいそうになってしまいます。焼きたての生地に巻かれたとろとろのチーズも、目の前で形作られる、溶かしたお砂糖でできた、深い青から鮮やかなグラデーションで水色になり、黄色や白、ピンク色の細かな砂糖菓子が散りばめられたキャンディ。それにしても…


「どうして今日はこんなに、たくさんお菓子や食べ物の露天が出ていますの!?今日は平日で、何のお祭りもお祝いの行事もありませんのよ!?」


ダリアさん達3人は足を止めて、


「なんでもないし、気にしすぎだよ〜。」

「ふふ、お姫様は今すぐにでも、ハンガーへ駆け出したいのさ。」

「それよりお嬢様〜、このもちもちおまんじゅう、とってもおいしいですよ〜。」


何か、おかしいですわ。特に倹約を心がけているはずのエウトリマまで、両手にお菓子を抱えていますわ。ぜネロジオにほんの少し残ってくれた「アルマコリエンデ」が囁きます。


─よく見ロ。3人とも膨らンでいる。そう言われてみると、心なしか3人とも、ほっぺたがモチっとされているような気が。これは調べてみる必要がありますわね…。

「ええ、わたくし、早く新しいウサギに会いたくて仕方ありませんの、先に帰っておりますので、みなさんはごゆっくり。」


一礼をして、駆け出します。


「よく見なくても、通りにいらっしゃる方々、皆さまモチっとされてきていますわね!」


軽く跳ねて、壁に足をつけて走ります。


「この甘納豆、おいし〜!」

「この刻みパスタはよくソースに合うね!」

「昼からのチェリー酒は最高だ!」


普段、こんなお昼過ぎの時間に…いえ、わたくし達がそもそもカフェにいたのは何時でしたっけ?


─認識がズレていル。

「そうですわね、確かにわたくしたちは、カフェにいましたわ。平日のこの時間に、学舎の中にあるとはいえ、訓練所ではなく、カフェにいましたの。このおかしな状況は、軽く走っただけで、ラプリマの5区から14区まで続いていますわ。もう少しトバしますわよ。」


わたくしは四肢にポデアの雷を通して、ラプリマの1区から57区まで駆け抜けました。やはりどの区にも、平日のお昼過ぎだというのに、通りには人が溢れて、皆さま食べ物を抱えていらっしゃいました。しかも、お顔はモチっとされています。


「どう見ても、異常事態ですわね。」



わたくしはラプリマ全景を見渡せる丘の、集団墓地まで走り抜け、一本の木に手をついて語りかけます。


「お聞きでしょう?」

「はい、聞いていますよ。この私、アウタナ・セリフラウが。」


木からにょっきり、とダクトロが生えてきました。


「あなたのぜネロジオとポデアは、だいたい仕組みがわかってきましたけど、やっぱり直接拝見しますと、うげってなりますわね。」

「何ですか?わざわざ喧嘩を売るために呼び出しを?」


ぷくーっとほっぺたを膨らませたアウタナは、一見大人しそうな女性の雰囲気を出していますけど、こうして見ると年下のフェイさんの方が大人びて見えますわね。


「ふふ、いえいえごめんなさい。ただ、今現在ラプリマで広範囲に異常な事態が起きているのはお気付きですか?」

「ええ、こちらですね。」


そう言ってアウタナは手を軽く振ると、空間を裂いて現れた大きな腕がフェイさんとぺんぺんさんを、腕自身の出てきた空間の裂け目から取り出しました。


「どう言葉で表せばよいのかわかりませんけど、お二人とも、その…。」 


わたくしに気付いたおふたりが、


「ふぁー、ふぁふぇへひあふぁーん。」(あー、アセデリラさーん。)

「ふぅ、ふぉうふぉ。」(ん、どうも。)


ご挨拶いただいたのですけど、その…。


「ええ、モチモチになっています。」


アウタナが大きな腕ごと、何かをお口に入れていたおふたりを空間の裂け目に収納?しました。



「いったいどう言う事ですの?もしかして、これも「ラベンター」の仕業ですの?」

「いえ、現在ラプリマに吹いている風に、以前「ラベンター」のいち個体が行ったような、音の乱れはありません。」

「では、わたくしたち以外でもちもちになっていない方はいらっしゃいますの?」

「不明です。私、音が専門ですので。」


丘の上からラプリマを見渡します。いつも通り通常のルリローは展開されていて、この丘にもそのゆりかごは優しく手を伸ばし、包んでいます。


「龍がいるなら、わたくしたちが気付かないはずありませんし、いったい…。」

 

シュアコオオオン!!!


龍はいない、そう言った途端に鳴き声と、ラプリマのルリロー外殻に取り付いた、空に透けた龍の姿が見えました。


「ルリローに触れたので、私たちに認識できるようになったのですね!」

「ですが、距離がありすぎますわ!」

「ら、らー!」 


アウタナはルリローの強度を上げるため歌い始めます。これだけ離れていては、いくら強化してあるとはいえ、わたくしの脚では間に合いません!


シュタタタタタタタタ!「「コネージョ、ソルタンド」」


「えっ!?」

気付いた時には、わたくし達の前に無人の脚走型ウサギが立っていました。


「「迎えニ、来た。」」



迎えに来たと告げたのは、わたくしの中に残る事を選んだ「アルマコリエンデ」の一部でした。

「あなた、いつの間に!?」

「「丘ニ、登るマえ。異常が起キたらウサギ、こレは基本。」」

「それは大変助かりますわ!アウタナ!」

「はい!」

手を伸ばしたアウタナをわたくしが引き上げて抱き寄せ、ウサギをラプリマへ向けて駆け出します。



「「基本ノ調整は、済まセた。」」

「さすがですわね!!」


アルマコリエンデにお礼を言うと、


「らー。」アウタナが腕の中でルリローを展開しています。ラプリマ全域が機能不全に陥っていますので、1人でラプリマ全域にルリローを張っているアウタナは歌に集中しなければなりません。全速力で駆けるウサギの上でずっと抱きしめる必要があるのは、少し難儀ですわね。


「絶対に、離しませんわよ。安心してお歌いくださいまし。」


シュアア!シュア!


細長い胴体に、先端が鋏状になっている何対かの短い触腕、胴体下側には無数の短い脚が生えせわしなくうごめき、何か赤い粒を抱えています。


「「あレは、子カ?」」

「どのみち、無視出来ませんわね!」

「るー♪舞い降りたー翼ー♪」


龍は、そのさらに細長い流線形の頭部から生えた、さらに無数の触角を動かして…


「ルリローの薄い箇所を探っていますね。」

「アウタナあなた!歌うのはいいんてすの!?」ルリローが薄れるのでは!?

「ええ、ですから薄い箇所が出来ました。こちらもあちらも、剥き出しですね。あとは騎士の領分です。」

「そういう事ですわね。」

「「どチらも、腹が見えた状態カ。」」


ラプリマは区画ごとに、きれいに大通りで区切られています。すべての人がモチモチになってしまっている今、無人となったその通りを、ウサギは駆けて行きます。あの龍が触角で探り当てたルリローの薄い箇所、そこを腹部に生えた無数の脚で削り取るように動かしています。


「いいですか!失敗すればあの無数の赤い卵を注ぎ込まれれて被害は甚大なものに…!」

「ええ。」

「「案ずるナ。この子ハもう、騎士ダ。」」


シリンからぜネロジオを通したウサギの脚部に、緑の雷のポデアを励起させます。


「ええ、このわたくし、アセデリラとアルマコリエンデは!!」

「「祖母ヲ呼び捨テ、さすガ我が孫。」」


彼女は氷壊のポデアを、ウサギの前面に取り付けてある一本の短い曲剣に纏わせます。


「騎士ですワ!!」」

パリィン!

「ルリローが割れました!卵が来ます!!」


アウタナの叫びを横目にして、わたくしたちは。



「ミ、クラ。」  「「私ハ走る。」」

「ジス、ティ、ウ、サセティビア!」 「あノ夕日まデ!」



氷の短剣を構え雷を纏って駆け出すウサギが、注ぎ込まれる無数の卵を貫き、引き裂き、踏み潰し、アルマコリエンデの氷壊のポデアで凍らせた卵の上を駆け抜けて、龍の無数の脚を抱えた卵ごと切り裂き、剣を腹部の体節へ突き刺します。


「セラ!」」 


2人で息を合わせ、起爆。ウサギの駆け抜けた軌跡に氷と雷の柱が、裏表それぞれに無数にそそり立ち、爆ぜた氷と雷の飛礫は全ての卵を貫きます。シュカアアアアア!!!腹部を貫かれた龍は、尾部をルリローに打ち付けて、高く上へ跳ね上がり。


「跳ぶのがお得意のようですけど、さらに上を取られたご気分はいかが?」

「行クぞ!」


ストック分の、ダリアさんとのランサーをホルスターから引き抜き


「たくさんの仔と、その母の命を。」

「あア、奪ウ。」


その言葉を起動の句として、ランサーを展開します。パチ、ジジ、パチパチパチパチ!ジジジジジ!ポデアにより加圧、圧縮された大気は、乙女2人分の命を以って編み上げられた鋼の槍を包む。


「行きますわヨ!」」


この龍からすれば、ただの営巣と産卵行為でした。たまたま他の捕食者が近辺に存在しない、日当たりもよく適度に湿ってもいる場所を見つけただけ。たまたまそこに、卵と、孵化した仔達の食事に適した、小さな生物の群れたコロニーがあったので、その生物達を肥え太らせるフェロモンを流し、適度に栄養価が高まったのを見計らい、コロニーの殻を破っただけ。 


たまたま居合わせたわたくし達が、それを認めなかっただけ。


「ニ アマウ パルタ !」「2人デ背負ウ!」


緑の雷と紅い炎が母の身体を貫き、焼き焦がし。


「ラ サマウ カルパ!」「同ジ罪ヲ!」  


緑の雷と押し潰す氷が、切り裂いて叩き潰す。


「ひゃあぁあ!」


普段の立ち振舞いとは違った素っ頓狂な声をあげるアウタナを、振り落としてしまわないように、しっかりと抱き止めます。


「アウタナ!しっかりわたくしに掴まっていらして!」



ぐずぐず、ぶすぶすと、内側からのランサーにより、急速に加熱された内部から、気化した組織液が肉から吹き出す音と、


「ちょ、ちょっとこれは。」

「はい、とても濃厚なエビの匂いがしますね。」


ウサギから飛び降りたアウタナが、龍の破片を手に取り匂いを嗅いでいます。


「下処理をしていないエビの匂いは、3日は取れませんわよ?」

「ふふ、気にしませんよ。」


アウタナはエビの殻を持ったまま、わたくしに微笑みます。


「既にあなたの匂いが、私の身体に染み付いてしまいました。あなたに、力強く抱きしめられましたので。」

「はぁ、あなた。そんなこと言ってますと、エンゲージのお相手が泣きますわよ。」

「いえ、エンゲージも手を繋ぐのも、未経験です。当然、ランサーを振るう騎士に抱きしめられて、その横顔を見つめたのも初めてです。このアウタナ・セリフラウ。」

「そうでしたの!?ダクトロなのですから、てっきり名のある騎士と…。」

「私はラプリマのダクトロになるべくして、女神に創られていますので。いかがですか?今なら誰も見ていない、ルリローの外ですし♡」


アウタナが手を振ると、ぽん、ぽんぽんぽんと、白とピンクの小さな花びらが咲き乱れます。


「あなた…。」

「エビの匂いが付いてしまっていますので、あなたの手で洗い流していただきたいですね♡ディスガス、ニン♡」 



わたくし達は、花びらに包まれました。



しばらくして。「「そろソろ、戻っテいイ?」」


日も暮れた頃、「アルマコリエンデ」が語りかけて来ました。


「え、ええ。ご覧になっていましたのね。」

「「我が夫も愛が多かったガ、そのダクトロにハ手を出さナかった。」」

「お祖父様、浮気もされてましたの!?」

「へー、今浮気してるリラちゃんがそんなこと言うんだー?」

「げっ!」


振り向くとそこには、恨みがましい目つきでわたくしをじぃーっとご覧になるダリアさんと


「ふふ、ご主人様の愛が多いのは喜ばしいことじゃないか。」


夕暮れだというのに、歯をキラキラさせて微笑むエウトリマ、


「お嬢様のお姿、しっかりと描写させていただきました!」


スケッチブックを持ったリーナが立っていました。ゆっくりと、背中からわたくしの肩から首に柔らかな腕を回して


「初めてのことばかりでしたが、とても気持ちよかったです。このアウタナ・セリフラウが♡」 


背中にもたれかかる柔らかなアウタナを感じながら、


「みなさん!これは誤解ですの!ただわたくしは、(振り落としてはいけないから)アウタナを抱きしめるのに必死で!(ランサーを使っていたので)離したくなくて!」

「へー。」

「ふふ、そこから愛が芽生えてしまったんだね。」

「あー、この構図いいですね!アウタナ様、お嬢様にもっと顔を寄せて、そう!」

 


「フケツだね、ぺんぺん…。」


転換と女神のポイントの詳細を記した報告書類を持って来たフェイは、ダクトロとして、恩師として、そして家族として敬愛していたアウタナが、半裸でエンゲージ相手に全身を擦り付けているのを見て、そうこぼした。


「うん?なんですかフェイ?フェイの泡で何も見えませんし、声もあまり聞こえませんよ。」




「なあ、アセデリラ。」

「はい、お母様。」


今わたくしは「レジーナ」のキッチン厨房または台所と呼ばれる場所、その洗い場に立っています。


「お前がうちの娘とエンゲージしたのはわかる。もともと付き合いのあったヤポニカナのお嬢様とエンゲージしたのもわかる。けどな、どうしてダクトロとまでエンゲージしてるんだよ!!!」

「いえその、流れで…。」

「流れで!女神が創って2000年以上稼働してるオリジナルのダクトロとエンゲージできるわきゃねーだろ!」


わたくしの背中に隠れていたアウタナが、ひょっこり顔を出します。


「恋は電撃のようなものである、と歌にする者も多いのですが、本当に電撃が走るとは思ってもいませんでした。このアウタナ・セリフラウは。」


お母様はおデコに手を当てて目をぎゅっと閉じられて。


「はあ、本人同士が望んでるならもう何も言わねえけどよ。ちゃんと面倒見てやれよ。」 「ティオ…いえ、わかりましたわ。」


くいくい、とアウタナに袖をつままれて


「あの、お店にお住まいとのことでしたけど、客席で寝るのですか?」

「せっかくだ、連れてってやれ。」

「そうですわね…。」


アウタナの手を引いて


「さあ、参りますわよ。」

「はい。ご主人様♡」


厨房を出て、2階へのはしごに手をかけると


「あの。」

「どうされましたの?」


もじもじとしたアウタナは


「こういうはしごを登るのは初めてです。このアウタナ・セリフラウは。」


と目を逸らしながら恥ずかしそうに口元に手を当てて小さな声で言いました。


「くうぅ〜!可愛らしいですわね!今までは手も足も出せなかったあなたにそんなお願いされたら!たまりませんわ!ほら、おいでなさい。」


腕を広げてアウタナを抱き抱え、はしごを登ります。


「とっても、すてきです。ご主人様♡」


ほっぺたをくすぐるようなアウタナの息遣いを感じてはしごを登り切ると。


「おかえり、リラちゃん。」


じとーっとこちらを見つめてくるダリアさんに


「私も今度、そうやって君に抱えられたいね。」


薄暗い屋根裏なのに妙にキラキラしている笑顔のエウトリマと。


「ほうほうほう!アウタナが恋を知るとはの!」


さらに目をキラキラさせた女神が立っていました。




「ふむふむふむ、それで、抱きしめられた腕にずっと甘えたくなった、という訳じゃな!」


かんたんな椅子に着いた女神は、同じくかんたんなテーブル越しにアウタナと話をしています。軽く1階でシャワーを浴びてきたわたくしはベッドに腰掛けると、すぐに両隣をダリアさんとエウトリマに挟まれました。


「おふたりとも、まだ髪が乾いていないので、そんなにくっつくと。」

「いーの、溶けてくっついちゃってもいーい!」

「私たちも、ずっと君の腕の中にいたいのさ。」


エウトリマは今もキラキラとした笑顔ですけど、急に口付けを。


「んんんっ。ぷはっ。もう、急ですわよ…。」

「いいや、足りないね。」

「またそんな…んむっ。んっ、んっ。」


親に甘える子どものように、ダリアさんが迫って…。


ぱん、ぱん!軽く手を叩く音、わたくし達が音の方を見ると


「お熱い所済まんのじゃが。」

「ぷは、こ〜ら、フラウ。」


しがみついてくるアウタナを撫でていると。


「ほうほう、アウタナの名をそう略すとはの。こやつにはもともと、一本の木として、ラプリマを管理するためだけの機能を与えていたのじゃが、ある日目と耳が欲しいと言い出しての。それでヒトの身体をくれてやったのじゃ。」

「あなた、木でしたの?」

「ええ、このアウタナ・セリフラウ。太陽系第3惑星のとある言語で。」

「桜の花、いいじゃろ?ワガハイの一番好きな花じゃ。」

「それで、フラウは?わたくし、呼びやすさから選んだのですけど。」

「はい、セリフラウはさくらんぼの花、フラウが花です。」

「へー、ダリアもお花の名前なんだけどなー。」


隣でぶーぶー言い始めたかわいいかわいい赤い髪の女の子、ダリアさんを抱き寄せてほっぺたをむにむにします。


「それでじゃ!アウタナにヒトの身体を与えて、アウタナは新しい己の感覚器で世界を見るようになっての。それでお主らのようにイチャつくパートナー同士を見たのじゃ!それはいいんじゃが、その、あるじゃろ?」

「何ですの?」

「ヒトの営みじゃ!男と男!男と女!女と女!アウタナは恋というう言葉を知る前に!そういう行為を見聞きしてしまっての!憧れを抱くようになったんじゃ!」

「へー、それでリラちゃんにひっついてるんだ…。この、この!」


ダリアさんがアウタナをわたくしから剥がそうとしています。


「とにかくアセデリラ、お主には感謝しておる。アウタナを、ヒトの姿をした木から、普通の女の子にしてくれたのじゃからな!」

「私は、ヒトの身体を与えられてから、というもの。ただの拡声器のままであれば良かったと思うようになりました。龍が現れるたびに、ルリローを展開し、女神からの発表文を読んで1日を終える。時々新しいダクトロを見つけ、育てて、喪って。私たちヒト種がクルルガンナを滅ぼして、この土地に根付いてから75年。私はいくらヒトの営みに憧れても、普通のヒトにはラプリマの管理システムとして扱われるだけ。その中で、ある日雷のように現れたあなたは、私に事あるごとに突っ掛かり、あなたの祖父でさえ触れなかったこの身体を、腕を、手を掴んでいただいて。最初に握られた手の温かさは、私のぜネロジオに深く刻み込まれたのです。」


右手を大事に抱くアウタナは、わたくし達と同じ年頃の恋する少女のように見えました。


「うえええ、ずっと、ずっと1人だったの〜。」


アウタナを引き剥がそうとしていたダリアさんの手は、いつのまにかアウタナを抱きしめる動きへと変わっていました。


「そんな話を聞かされてしまっては、君も私達と同じ妻と認めるしかないじゃないか。」


エウトリマも、アウタナに寄り添っています。


「あの、わたくしも…。」


今度はダリアさんとエウトリマが、アウタナを抱きしめて離しません。


「はっはっは!ほっとくのじゃ!とにかく、エルベラノにアウタナは出せんぞ。」

「ええ、フラウにはわたくし達の帰る場所を守ってもらいますわ。」

「うむ、それしかあるまい。所で少しアルマコリエンデと話がしたいんじゃけど。」

「あっ。」



「「コネージョ、ソルタンド。コネージョ、ソルタンド。コネージョ、ソルタンド。」」

「申し訳ありませんわアルマコリエンデ!」


ハンガーに降りたわたくし達は、ぴーすけの隣で屈伸しているウサギを見つけました。


「「コネージョ、ソルタンド。コネージョ、ソルタンド。」』


「何かおかしいですわね?」


新しいウサギのシリンに立ち、ぜネロジオを通すとそこには


「大変ですわ!アルマコリエンデがいませんの!」


皆さんの方を振り向くと、テーブルを囲んでおられました。


「リラ坊、いくらエンゲージした当日だからって、ウサギを放置するのは良くないぞ。」

「まあ、あの龍を駆除してくれた事にゃ感謝すりぜ。でなけりゃオレ達は今ごろタマゴのエサだ。」

「ガスドン!ずっとハンガーにいらしたの?」

「ああ、今日は龍のおかげで開店休業だ。」

「店長はどちらに?」

「姐さんなら臨時の炊き出しやってるぜ。」

「それではお手伝いに行かないと!」

「だめだリラ坊。姐御の好物は知ってるだろう?」

「エビ…ですわね?」

「そーだ。今回の龍がほぼエビだったからな。姐さんは他の食卓資格者達とエビ料理を作りながら、まかないでエビを好きにできるってワケさ。」

「それでわたくし達がいると逆に邪魔になる、というわけですわね。」


はぁっとため息を吐いて、皆さんのテーブルを見ると。


「孫よ。身体ヲ作っテもらッた。」


ダリアさんの手のひらに乗ってくるくると回る小さな人形がいました。


「あら、髪がストレートですのね。」

「そうじゃな。ロールしておったのはゲンザンでの。」

「そんな、お祖父様は輝いて…はっ!」


お祖父様はロールして、お祖母様はストレートで、わたくしはロールして。

お祖父様はロールして。お祖母様はストレートで。

わたくしはロールして。

お祖父様は輝いて。

わたくしは…!

わたくしのロールも、緑雷のポデアもお祖父様由来で。


「孫ヨ。およソ3割のぜネロジオは、このアルマコリエンデのもノだ。」


肩に乗ったお祖母様がそっと撫でてくれます。


「だいじょぶだよ。」

「ダリアさん…。」

「わたしのぜネロジオも入ってるんだもん。だいじょぶ。」

「ふふ、私のぜネロジオも入っているよ。」

「エウトリマ!」

「はい、私のぜネロジオも入っております。このアウタナ・セリフラウの。」

「フラウ!」


思わず目の周りがしょぼしょぼしてきて、わたくしは膝をついてしまいます。


「ぐすっ!みなさんと、みなさんと出会えて、わたくしはしあわせものですわあああ!」

「もう1人の我ヨ。お前ハこんな小娘ニ負ケたのダ。」

「まあ良いではないか。お主も残った事じゃし。アセデリラがエンゲージをしたのでクルルガンナの血も残った。」

「へっ?お祖母様はクルルガンナのヒトですの!?」

「うム。ゲンザンから聞いておらヌか?」


「よかろう、では昔話でもしてやるかの。


本来命球は、光の海で全ての熱と光を吸い込む渦、そこに生き物の存在する余地はない。当然じゃな。当時病の床で明日をも知れぬワガハイは、この身を焦がす欲望でなら、遥かなる時間の果てに太陽系第3惑星から命球まで辿り着けるじゃろ。という賭けをして、命の尽きた嵐の日にこの身を燃やしたのじゃ。」


「すごく長くなりそうですけど、女神は自分に火を付けたんですの?」

「黙って聞ケ。」


「少し違うのじゃ。本来嵐というのは、恒星よりの熱を星が外へ吐き出す行為じゃ。ワガハイはちょうどその日に死んでしまうことがわかっておっての。嵐で吐き出される熱と共に、意識は太陽系第3惑星を飛び出したのじゃ。」


「気の遠くなるような話だね。太陽系第3惑星は確かに命球を中心とした光の渦の中にある。けれど似た方法で他の星から星へ渡るなんて。」

「わたくし星と命球の違いすらわかりませんわ。」

「わたし仕込みに行っていいかな?」


「ええい!短くするとの!」


命球で女神の敷いたルールの下開拓を始めた太陽系第3惑星人は、同じく命球に生息域を見出した、合議にて動くクルルガンナ星人と出会い、代表として出会った2人、ゲンザンとアルマコリエンデは少し後に結ばれた。が。


「オリジナルの我ハ、処刑さレた。」

「クルルガンナの星の姫が他星の男に抱かれたのじゃ。当然向こうにも急進派はおる。」


太陽系第3惑星に興った文明、種族の歴史を紐解いても、多種族、他文明、他人との衝突は、往々にして発生し、両者を縛る法が無い場合、あったとしても、衝突は陰惨で血を伴う結果に終わる。殺戮大公の名は、文字通り120億988万752人のクルルガンナ星人を。


「そウだ。文字通リ。」

「1人でも残せば、必ず遺恨が残る。ゲンザン君には、初代勇者ではなくて、その手でクルルガンナのヒト達を、そっくりそのまま1人ずつ命を奪った殺戮者として、歴史に名を残してもらうより無かったんだよ。のじゃ。」


アルマコリエンデはわたくしの手に触れます。


「我ハ絶命の瞬間、3つに心を分ケ、紅く染まった我が身体ヲ抱キしめるゲンザンのぜネロジオに眠らセた。」

「そっか、わたし達の殺意で目覚めちゃったのは。」

「ゲンザンと、子供たチを守るタめ。」

「それでは、わたくしは…。」

「別にイい。どうセ守る必要ガあるほど弱クはない。」


「おーい。アルマー!こやつはどうデザインするのじゃー?」

「「コネージョ、ソルタンド。コネージョ、ソルタンド。」」


女神はスクワットを続けるわたくしのウサギに乗っていました。


「デザインされなくてもー!わたくしのカトラスは美しいですわよー!」

「リラちゃんリラちゃん。」

「どうしてお引き止めになられるんですの?わたくしのカトラスでしてよ?」

「「カトラス!イイネ!我、カトラス!」」

「ふむ…。とりあえずこれでいいじゃろ。」

カトラスのシリンに、崩した礼服のような衣装を着た褐色の少女の姿が浮かび上がりました。だいたいわたくしの胸くらいの高さですわね。

「ふふ、愛しの君。先程アルマさんは、心を3つに分けたと言っていたよ。」

「ああ、わたくしが1人を、それでそこの…。」

「「カトラス!我カトラス!」」


カトラスの上に乗ったカトラスは元気に飛び跳ねていますわ。


「それで、どうしてカトラスはあの格好ですの?」

「ふむ、そもそも太陽系第3惑星にはの。」

「長くなりそうですわね。」

「まだ何も言っておらんのじゃー!」


「よっとっと。」


ダリアさんがじゅううう、と何かの焼ける音を立てている鉄板をお持ちになられました。若い柑橘の香りも立ち込めます。


「そろそロ。よシ、開ケよ。」

「よっ。」


ダリアさんが鉄板に被せたフタを取ると、輪切りの…?何ですの?


「エウちゃん、ワサビお願い。」

「ああ、バンヴォル、レスパン ミア…。」


ダリアさんは、エウトリマが転換したワサビを細かく刻み、鉄板の上のソレにかけていきます。


「ほうほう!これはお主とゲンザンの婚姻の時の!」

「カトラスコレ嫌イ!ウネウネ!涙デル!」


女神とカトラスもお皿の周りに寄ってきます。


「クルルガンナでノ祝いノ席の、皿ダ。こチらで用意出来る素材デ、合わセた。」

「生タコの半生蒸し焼き、岩塩と刻みワサビ、にレモンとオレンジの輪切り添えだよ〜。」


生きているかのように動いているタコに包丁を入れて、ダリアさんは綺麗に切り分けて行きます。


「はいリラちゃん。」


渡されたお皿のタコの脚は、まだ動いています。うねうね。


「まだ生きているものをいただくというのは、初めてですわね。」

「当然だけど、本当に生じゃないよ。」


わたくしはダリアさんに食べさせてもらいながら、踊るタコを噛みしめます。

そして、口元を拭いながら女神が話し始めます。


「生きているものを殺め、生きていた頃の再現をさせつつ喰らう。まだ生きているものを喰らう。これを命の尊厳を冒涜する、またはヒトの獣性を示す、過度な残虐行為と見る動きは当然どの時代にもあっての。」


わたくしはフラウに、輪切りにした脚を食べさせて差し上げます。


「しかしの。どれだけ理性的であろうとしても、ヒトは小さな粒のような生き物から始まり、他の弱きものを喰らい、そして今日まで歩いてきたのじゃ。後ろを見てみい、ワガハイやお主らの祖先もそうやって喰らい、生きてきたのじゃ。クルルガンナの星の者は、特殊な意思伝達法による合議にて、極めて理性的に発展したのじゃが。この料理を祝いの皿にするという事は、の。」


「何ですの?」

「遥カ昔ノ、獣に近カった祖先を想っていル。んッ。」


アルマは、カトラスのお皿に盛られたタコの脚に絡め取られながら、そう答えました。



お片付けと洗い物が終わり、皆さんと軽くシャワーを浴びたわたくしは、2階へ上がろうとして


「そう言えば、夕食の時からリーナはいませんでしたわね。」


カンカン、ギュリリ。


はしごの隣り洗面台の奥から金属の加工音が聞こえます。


「まさか、リーナ?」


蛇口を捻ってドアを開け、石床を歩いて行くと、薄暗いハンガーの中でリーナがわたくしのウサギに工具を当てていました。火花が散っています。


「あなたリーナ!こんな時間まで作業なさってましたの!?」

「ふぅ、あらお嬢様〜。まだこんな時間じゃありませんか〜。」

「せめて何かお口になさって。用意致しますわ。何がよろしくって?」


リーナは首を振って、作業着の胸元のポケットからキャンディを取り出して、バリバリバリと噛み砕きました。そして作業を再開します。


「あなた、そんなキャンディで…。」

「ふふ、お嬢様は女神から色々情報を開示されたかと存じますが、ウサギについてはいかがですか?」

「いえ、今夜はクルルガンナと、お祖父様のことをいくつか…。」

「それではこちらをご覧ください。お嬢様のウサギの脚部とシリンの接続部です。」


リーナはウサギのカトラスの脚部に


「ソルコ、パル、マルフェ…。」


と、わたくしの知らない系統のポデア?か何かをかけました。


キイィィィ!!ン


暗くて静かなハンガーの中にあって、空気、いえ空間、ではなくこの時間そのものが震えて、わたくしの小さな魂は軽く消え飛びそうな青白い閃光が走ります。

誰かの見た夕焼け空。手を伸ばす先には微笑む女の子、手を握り、歩き出す。

あの夕日まで。

誰かの、とてもよく知っているはずの、誰かの記憶。


「あ、あ…。」


リーナはそっとわたくしの頭を撫でて。


「これがウサギの秘密のひとつです。お嬢様は邯鄲の柱をご覧になられましたね。ええ。瞬きだけで結構ですよ。実はウサギの…。」 

「そこまでじゃ、ヒメコ。」


女神が、わたくしの隣に現れました。何の前触れも無く。


「もー、マイちゃんはいけずなんですから〜。」

「まだこやつのスケラでは事実に耐えられまい。何より明日はエルベラノに行くんじゃぞ。知れば更に過酷なものとなろう。」


女神はわたくしに向き直り。


「では、お主の今見聞きしたものに邯鄲をかける。」


女神は目を閉じて。


「健やかであれ。」


「あら、リーナ!?こんな時間までわたくしのウサギ触ってましたの!?早くお夕飯にしてお風呂に入りますわよ!」

「あら〜お嬢様〜。見つかってしまいました〜。」


リーナの手を引いて厨房へ向かいます。

ふと、どなたかがいたような気がして振り向いても、暗い空間しかありませんでした。


「お嬢様〜、せっかくですからごちそうをお願いしたいですね〜。」

「はいはい、ちょうど良い素敵なレシピを知りましたの。振る舞って差し上げますわ。」




星明かりの中、じじじ、と音を立てる街灯が照らす2階建ての古びたアパートメントに着く。錆びた階段をカンカン、と音を立てて登る。つま先で。どれだけ気をつけて歩いても、この階段は音を立てる。

借りている部屋のドア、その下側にはぽっかり口を開けたポストがあり、さまざまなチラシが入って渋滞を起こしている。上から平手でぽすっと叩く。ガコン、とポスト内側のフタが開く音。ざざぁ、と広告が玄関に散らばった音。

ドアノブの上の錆びた鍵穴にそっと鍵を差し込み、ドアノブを持ち上げてから回す。がちゃり、靴が広告を踏む前に腰を折り、拾い上げ。玄関へ入る。

靴を脱いで下駄箱に入れ、右手のかんたんな調理台に添え付けの流しで手を洗う。

「ふぇっくし!」

お顔を洗うと目が覚めてしまう。このまま眠りたい。

「ええい、ままよ。」

冷たい水で顔を洗ったのに、不思議と目は覚めない。

「このまま寝よ。」

たいそうな外套を外し、ハンガーにかけ、押し入れから薄いお布団を引っ張り出す。ぼふん。広げるのも面倒なのでそのまま飛び込もうか。いや、シャツとスカートにはアイロンをかけないと。干してあったシャツとスカート、それに新任へ渡す帽子へアイロンをかけてゆく。

「もう終わり、ぜったい今日なにもしない。」

塊のままのお布団へ、うつ伏せになり体重を預ける。


「マイ様、オレ、勇者やるよ!」

「いいの?死ねなくなっちゃうんだよ?」

「マイ様がずっと1人なのはさみしーだろ!へへっ!」


少年は、私の手を握ってくれた。


「へへっマイ!オレは偽物でも、あの夕日に向かって走るぜー!」


私は今、夢を見ている。

懐かしい夢。

少年が、その命を輝かせ始めた時の夢を。 


「女神の怒りとなり、槍となる、ならばその力、ワシに見せてみよ!」

「うおお!手加減いらないぜ!おっちゃん!」


師との出会い。弛まぬ鍛錬。


「あのヒラヒラ飛んでる龍に、どうして近づいちゃだめなんだ?」

「ヒラヒラ飛んでるのが厄介での。」

「なんとかなるぜ!うおおー!」

「こらー!」


女神の勇者としての、働き


数多の恒星すら、引き裂かれ飲み込まれる光の渦の中、私が引いた線の中、ひとびとは精いっぱいを生きている。恋をして、失恋をして、友になり、仲間も作れば、喧嘩もして、成功があって、後悔もして。そんなどこにでもいるひとびとが生きて、死んで。


「我は星姫アルマコリエンデ…平伏セ下等種族。」

「うおお!なんてパワーだ!」


出会いはとても、最悪で


「ほら、これが太陽系第3惑星由来のホットドッグだ!」

「このような、このような低俗な味に星の姫デある我がぁァ!」


少しずつ、距離が近づいて


「初めは不幸な衝突もありましたガ、我々クルルガンナの星人としテも、あナた方と出会えタ事ハ喜ばシい事であル、と後の世二も伝えラれるデしょウ。ディスガス。」

「ニン。」


2人の間で、あたたかな想いが芽生え、実を結んで


「これはすごい料理だね!生きているタコなんて初めてだよアルマ。」

「うム、あナたのお口、ワサビが付いテいる。」


どこにでもいそうな、違う生まれの、普通の夫婦。

どうか、このまま健やかに。


「女神ヨ、今我のお腹ヲ蹴っタ。」

「マイ様。この子が産まれたら、名前をお願いします。」


─いいや、知っておるじゃろう?

どうか、このまま


「合議により、アルマコリエンデはクルルガンナを裏切り、下等な種族同様、感情を知った。」

「合議により、アルマコリエンデは劣等種の遺伝子を受け入れたとして。」

「合議により、他星の劣悪な種は。」


「死罪。」

「死罪。」

「死罪。」


光の柱が、星の姫を貫いた。


「ごぽっ、ごふっ。」

「喋るなアルマ!マイ!」

「ならん!各所で同時に襲撃を受けておる!アルマ1人を救う余力は無い!」


己の血の中で溺れてゆく、恋を知ったばかりの、かつての少女は


「ゲンザン、生きテ。」


血塗れになって泣き叫ぶ、かつての少年に、呪いをかけた。


「これよりワガハイは、女神ではなく、魔王としてクルルガンナを滅ぼす。」

「マイが魔王なら、オレは…悪魔だ。」


太陽系第3惑星人からすれば、英雄は

クルルガンナ星人からすれば、悪魔。


雨が、降っている。


資料に残った記述によれば、他星人、同じ二足歩行のヒト型知的生命体との、極めて友好的な第一種接近遭遇に沸き立った太陽系第3惑星人は、開放していた多数の拠点及び都市に破滅的な攻撃を受け、凡そ64億あった人口は、3.240万人ほどに減少し、文字通り絶滅の淵にあった。

女神はここで、命球に取り込まれる光と熱、つまり天の川銀河に存在し命球に取り込まれる天体の痕跡の一部を「太陽系第3惑星にヒト型種族が発生した記録。」に変換し、パートナー、つまり男と男、男と女、女と女の組み合わせで交配を可能、つまり生命体として遺伝子の交配に必要な雌雄の区別を無くした。また、遺伝子をぜネロジオとして再定義し、エンゲージという行為でぜネロジオに多様性を持たせ、子はパートナー同士が望んだ時に、交配による受精、妊娠、出産のプロセスを経ずとも、女神が該当者のぜネロジオを読み込むとで発生させられるようにした。

これにより太陽系第3惑星人はその数を、文明を存続出来るだけの個体数を確保した。


これは、病のため、母親になれず子どものまま死んだワガハイから、世界のルールへの復讐じゃな。


雨が、降っている。


エルベラノで行われる起動式には、ワイルドハントのダリアが立ち合うておる。心配は無用じゃろう。このようなめでたい日に、雨とはのう。


勇者の閃光により溶解した、クルルガンナ都市の防護外殻は、急激な熱量の増大により発生した雨雲と多数の命が失われた悲しみの涙を防ぐ機能を失っていた。


この雨は、エルベラノやラプリマにも降っておるじゃろうな。めでたい日に、のう。


何も、感じられなくなりつつあった。

全て、死の淵で描いた妄想のまま。絵画を見るような感覚。

数多の戦い、いや、殺戮を。

滅ぼすと決めたのだから、彼らひとりひとりの死に際に立ち会う、そう決めた浅はかな小娘の心は、とっくに擦り切れて。命の火が消えるたびに、その数を数えるだけとなっていた。

眼前では、勇者が生き延びたクルルガンナ星人を1人ずつ、くびり殺している。

特殊な技術や武器ではなく、己の腕と、脚のみで。

その繰り返しを、見続けていた。

今や勇者と女神は、ダクトロとワイルドハントの前にのみ現れて、啓示を行う装置と化していた。

クルルガンナの支配地における太陽系第3惑星人の割合が増えるにつれ、新たな兵器と戦術が開発され、運用されていく。

ただしそれは、龍と定義される大型生物にのみであり。

ふつうの太陽系第3惑星人にとってクルルガンナとは、龍を撃退して獲得した地域の名であり、勇者が実際に何を「駆除」していたのかは、一部にしか公開されていない。


「お父サん…。お母さン…。助ケて、たすケ…。」

コキリ。

ポトッ。

「これで、最後の1人じゃな。たった今、クルルガンナ星人の絶滅を確認したのじゃ。この3年、ようやってくれた。」


「いいや、まだだ。」

「ゲンザン。」

「魔王ペンディエンテ。いや、女神ロータス。いや、マイ。友達として頼む。アルマとオレの子を、ぜネロジオから授けてくれ。」

「う、む。」


ゲンザンが何を望むのかも、予想はついていたのじゃ。


「暗く冷たい光の海に

 我ぞ花よと咲き誇る。」


おぎゃあ、おぎゃあ。雨の中赤子を抱き上げたゲンザンは、生まれ落ちた悲しみを嘆く幼子に、頬ずりをして微笑んでいた。


「女神ロータス。罪を告白する。勇者ゲンザンは妻アルマコリエンデと胎内にいた我が子、その同胞120億993万42人の命を奪った。」

「重罪、じゃな。」

「師匠、娘を頼みます。」

「お前は息子のようなものだ。孫として育てよう。」

「娘が師匠のウサギを壊したら、邯鄲されたオレで代わりを作ってください。」

「確かにウサギの素材は邯鄲の柱じゃな。認めよう。」

「こんなオレでもこの子を背中に乗せて、お馬さんになれるんだ。嬉しいなぁ。」

「では。」


目を閉じ、開く。


「一眠りする間のお別れじゃ。」


「マイ、オレは走るよ!あの夕日まで!」



 

雨が降っている。

目が覚める。ゲンザンの言葉が、つい今しがた聞いたかのように耳に残っている。


「生き急ぎすぎなのじゃあ…。」


かつていたクルルガンナの人たちも、今そこに住まう、太陽系第3惑星人も。

ぽすぽす。ぺたんこのお布団を力無く叩く。

がさごそ。

押し入れから顔が覗く。


「ふあぁ、やっとの休みなんだから、ぐっすり寝かせてよマイ。」

「トモちゃんんん。ヒメコが、ヒメコがゲンザンをぉ…。」

「なぁに?またあの子イタズラしたの?こっちおいで。」


雨が降っている。




1998年、3月27日 ペンネーム 姫金魚草

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今日も、智子さんと2人で舞さんのお見舞いに行きました。

舞さんの体調は普段通り芳しくなく、ご両親も同じ病気で亡くなられていますので、ご親族の方が持ち回りでお世話をされる事になっています。


今日も私達が舞さんの身体を拭いて、おシモを綺麗に、清潔にしてあげました。

扉の向こうでは、ご親族の方々が舞さんが相続されるはずの、ご両親の遺産をどう分配されるかで大声で、話し合っておられます。


「あんなオトナは嫌いだ。」

「トモちゃんにヒメコがいるから、いー、よ。けふけふっ。」

「聞こえてんだよガキ共!そのくせーのも一緒にゴミ袋に入れちまえよ!」

「あらあらあら、せっかく友達思いの子たちなんですから優しくしてあげないと。」


張り付いた笑顔で、見せかけの言葉を並べて。

私は、このおばさんが一番嫌いだ。本当に舞さんが心配なら、その手で清潔にしてあげているはずだ。


「今日ね、お医者さんが、あと半年だって。それで、みんなご機嫌がよくないの。」


つまりそれは、死期が確定して、新しく舞さんに生命保険をかけられなくなったから。

大人は、人の命をお金で考える。


「これ、手紙だよ。けふっ。」


舞さんは私達に、ていねいに折りたたんだ手紙を、全身の力が弱って紙すらきれいに折りたためていない紙を、それでも心を込めて折った手紙を渡してくれました。


「半年後に、ふたりで読んで。」

「オラ!ガキ共帰れ!また明日掃除しに来い!」


「あいつら、マイに触ったら病気がうつるって思ってるんだ。」


智子さんは、道端に捨ててあった飲み物の缶を蹴り飛ばしました。


「私がゲームに出て来る勇者なら、あいつらぶっ飛ばしてやるのに!」

「じゃあ私は魔女で、あの人たちを石にしますね。」

「そしたら、あいつらみんな、こうだ!」


智子さんは、転がっている石を、草むらに蹴飛ばしました。


「「いよいよノストラダムスの大予言!七月が迫ってきましたね!」」


小さな電気屋さんのショーウィンドウに飾られたテレビから、声が聞こえます。


「半年後、マイが。」

「手紙、見ちゃいます?」

「だめだよ姫子、マイのお願いなんだから。」


誰か、誰か舞さんを助けてあげてください。


1999年 九月十七日 ペンネーム 姫金魚草

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お花見の季節には、舞さんの好きな、中学校の裏庭にある桜の写真を枕元に飾り、息苦しい梅雨が過ぎ、暑い夏、台風が九州に上陸したその日の晩。


ウウウー!カンカンカンカン!


ドンドンドン!


「おかしいわね〜、まだ台風の本番はこっちに来てないのに〜。」


お母さんが勝手口を開けると


「姫子、マイの家が、燃えてる!」


お母さんの車で舞さんの家まで行くと、野次馬や消防士の人、町内消防団の方々が消化活動をされる中、舞さんのお家が台風の雨と風のなか、ごうごうと音を立てて燃えていました。


火事の原因は、舞さんの枕元に置いてあった呼吸器のケーブルコンセントに布が絡まって出火して、電気火災はお家の裏にあった工場のガス溶接機に引火してさまざまな薬品、材料を巻き込んだそうです。


お葬式は、舞さんの親戚のおばさんが見栄を張って、近所のお寺を借りて行われました.


「お嬢様には、うちの舞が大変お世話になりまして。」


あのおばさんが、お母さんにもっともらしい嘘をついている。

智子さんじゃないけど、石にして蹴っ飛ばしてやりたい。



2009年9月17日  ペンネーム 姫金魚草

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「こんな世界、ノストラダムスの大予言で滅んだらいいって思ってた。」

「はは、姫子がそんな事言うなんてさ。」


私達は、舞さんの遺言に従って、10回忌、祥月命日のこの日に中学校の裏庭、桜の木の前に来ていた。


「マイが好きだったなあ。この木。」

「触るのはいいけど、5分したら私の位置まで避難してよ?」

「うん、マイのお願いだからね。」


しばらくして


シュパァン!

一筋の雷が、桜の木を割った。

パチパチパチパチ!燃え始める。


「うそ、だ。」

「きっと、嘘じゃない。」


手紙に書かれていた通り、火を消しに来た用務員のおじさんに手紙をもらう。


「確かに、あの小さい子にお願いされて持ってきたけど、まさか本当に雷が木に落ちて、人2人いるなんてなあ。」


2018年9月5日     ペンネーム 姫金魚草

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「「2人は、ここまで来ればわたしの言ってることわかったんじゃない?わたしはたしかに、このうちゅうの、前にあったこと、あとからおきること、小しだけ見えたんだよ。だってこのおてがみ書いてるの、8さいのわたしだよ。こんにちは!もうふたりは36さいかな?わたしは17さいでしんじゃうけど、ふたりはすてきなおとなのれでぃだね!それで、しんじゃったわたしはちきゅうからでていくの。ほうほうはね。」」


恒星よりの熱が過剰に与えられ、星が排出する時に。

まずは木星へ、周回を行い、その遠心力を使いさらに跳ぶ。氷の外壁を抜けて太陽系を脱出すれば、あとは中心へ向かうだけ。


天の川銀河、その中心へ。



電車を降りて改札を抜けて。右手には薄暗い空、左手には勾配のある上り坂。

改札を抜けて駅を出る。


「あの桜からもさ、色んな予言をマイはくれたけど、お金の話だけはしてくれなかったね。」

「あきれた。あんなにお金嫌いだったのに。」


少し歩いて、質屋のある踏み切りを左へ。

ぶおお。4車線ある幹線道路は渡り切るのがたいへん。

ぴっぽー、ぴっぽー。

鳩の鳴き声を模したジングルに合わせて渡る。舞さんはこのタイプの横断歩道は高校生になって歩けなくなるまで、元気に手をあげて渡っていた。片方の手に、グリップのあり肘で支えるカバーがついたロフストと呼ばれる杖を使うようになってからは、利き手を上げて。病気が更に進行して、両腕に杖をつけるようになってからは、私が代わりに手を上げて。


「はーい!舞さん智子さんと姫子が渡ってまーす!」

「もう、ばか。」


ヒメコは、交代でマイの車椅子を押すようになっても手を上げ続けた。この幹線道路は当然交通量が多い。この道路を通ってさまざまな人や、物が色んなところへ行く。今信号待ちをしている乗用車、トラックにバス、バイクや原動機付き自転車に乗っている人は、仕事や遊び、普段のお買い物にいっしょうけんめいで、私達はただの歩行者で目にも止まっていないかも知れない。通話をしている人、地図を広げる人、運転席の方を見てもみんな忙しそうで。


「もーちょっと待ってくださーい!」


ヒメコは、マイの乗っていた車椅子に沢山の荷物を乗せて押している私の背中を押しながら、そう声をあげた。

ぶろろ、ろろ。

渡り切った後、車やバイクは私たちの背中を通り過ぎて行く。


「もー、大きい声出して。恥ずかしいやん。」

「えへへ、舞さんや私達はここにいるんだぞー!って自己主張しました。」


ここから先は、もう山のふもと、そんなに高くないけど六甲山系で、それなりの急勾配。

はあ、はあと息をして、次の赤信号でタクシーさんを捕まえる。


「お嬢さん達どこ行くの?」

「ホグラまで。」

「へー、そんな荷物と車椅子まで?」

「はい、大切な友達に会いに行くんです。」

「そら大変ですわな、もう台風も来るんやし。」


話しながら、タクシーは別の電気鉄道の踏み切りを渡り、更に勾配を登って行く。


「あ、ここのおうち覚えてますか?ボーダーコリーがいて。」

「うん、マイがよく撫でてたよね。あ、少し止めてもらえますか?30分くらい。いえ、先にお支払いします諭吉さんふたり。こっちはおつまみ代で。さっきの酒屋さんでおやつでも食べててください。」


少し歩いて、たくさんの高い木に囲まれた小さな神社へ。


「懐かしいね、小さい頃よく来てたー。」

「大人になってなかなか来れなくなりましたね。」


タクシーへ戻って、さらに上へ、曲がりくねった急勾配を上がり、神社の手前まで。


「ほんとにええんですか?お友達連れてくるまで待ちますで。」


運転手さんに追加の諭吉を握ってもらって、私達は。


「うわーめっちゃ暗い。」

「街を見下ろせませんねー。」

「空と海に街、奥には淡路島、天気のいい時には大阪も見えたから、マイも好きだったね。」


雨の日にも参拝に来る方の多かったここは、さすがに台風ということもあって誰もいませんでした。


「ここはや。」

「うん。」

「海に出た人が迷わへんように、雨の日でも雪の日でも、この灯台が。」

「ここなら、天の川銀河の真ん中まで行っちゃったマイちゃんにも、見えますね。」


智子さんは、舞さんの記した方法であの天体に行く予定です。


「本当にその方法で着くの?私が先に着いたら先輩って呼ばせてあげる。」

「はい、お土産も買って行きますので〜。」


私は、舞さんの考えをさらに発展させました。

天体間の移動を行うのに必要な熱の量、例えば人類が初めて月へ到達する1969年7月20日。この星が生まれてから、果てしない時間と熱の移動があって、初めて一番身近な所へ。

舞さんが考えた台風の熱を利用する方法。台風のエネルギーは、少なく見積もっても、とある地域に落とされた兵器、およそ1万8千発分。確かにこのエネルギーは莫大です。とある星に発生した知的生命体の文明が、核兵器と同等の兵器、技術を手に入れるまで恒星から受けた熱量をそのまま使用出来れば。知的生命体の発生する可能性がある星には相応の熱が与えられる事が確定している。ならば、根こそ熱を奪えばいい。その星の歴史ごと、狙い撃ちにして。


「姫子のそれってさ、一番嫌ってたやつじゃん。幼い子どもから奪うの。」

「そうですね〜。ですが、舞さんにお会いしたいですから〜。」


風が、強くなってきた。

舞さんの手紙によれば、この台風は記録的な被害を出せるほど、強い。


「それじゃあ、着けるよ。」

「はい〜。」


智子さんの手が、雨と風以外の理由で震えている。

小さい頃から度胸のあった智子さんでも、今から火を付けて爆発させるのは怖いみたい。


「本当に行くよ?」

「はい〜、私は舞さんにお会いしたいので〜。」

「そうだね。私も。マイに会いたい。」


台風なんかに、太陽系の外側にある氷の雲なんかにも負けないくらい。私達の思いは、熱い。煌めく恒星よりも、その燃え尽きた後に放つ、光の剣よりも。




「はっ!?あつっ!あっつい!前髪が!」

「うえええ?何ですのリーナ?まだおやすみされてませんの〜?」


愛しい愛しいご主人様が寝ぼけてまたお休みになられたので、落ち着いて水の鏡で前髪を確認する。うとうとしていたら、ランタンにおでこが近付いただけ。大丈夫。


「起きたのかいリーナくん。もう少しでエルベラノ外殻だよ。包囲している騎士達と書類のやり取りをするから、まだ君は休んでいていい。」


ここから先は、マイちゃんにも見えなかった部分。


「それではお嬢様、失礼いたしますね。」


机にうつ伏せの主人の頭に顔を埋める。ふかふか、いい匂い。ドリルに指を当ててなぞる。美しい左回転。地球にいる頃からの夢だったのだ。舞さんも大事だけど、夢はこっち。金髪ドリルのお嬢様の髪の毛に埋もれるのが。




暗く冷たい光の海に

わたしを呼んでるあなたはだあれ

かくれんぼなら負けないよ

かべのうらで


                みいつけた



            ダリア05 エルベラノ攻略戦

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「それでは、こちらが現在の子龍、成龍の主な分布図になります。」

「これだけの数が…。」

「ディエナが無尽蔵に産み出していますからね。前回の「間引き」でも女神はワイルドハントにはディエナへの駆除許可は出しませんでした。」

「せいぜい、エサにならねーように注意するんだな。」

「中隊長!」

「へいへい、こっちはあぶれた子龍を駆除すりゃうめーメシも食えるんだ。期待してるぜカブーケ。」

「それでは、失礼します!」


背を向けて手を振り部屋を出る小隊長に、ビシッと軍礼をする彼の補佐官。


「きいい!わたくし達はダンサンカブーケですわ〜!!」

「はいはいリラちゃんどうどう〜。」


エルベラノは北から南へ弧を描いたような地形で、わたくし達はその最北端の封鎖線に着きました。太陽系第3惑星人がはじめに作った街、ラプリマは効果的なルリローの展開と、龍を誘引して駆除、資材転換の効率に特化した、四角い紙6枚で箱を作ったような形になっています。そのやや南西に位置するエルベラノは、そのさらに西のエルヴィエルナ、南のエルアートヌそれぞれから、ひとびとや資材などが行き交う交易のための、また、さまざまな先端研究を行う学術の都市でもありました。陥落するまでは。


「実際に来てみますと、ラプリマより光が強い感じがしますわね。」

「クルルガンナを一本の模倣植栽に例えるなら、ラプリマは枝の根本、エルベラノは枝の真ん中、一番日当たりのいい場所だからね。」


言われてみれば、微妙に明るく、濃淡も際立っているような…。


「はいはーい生徒会長ー、センテルデは光が強くて乾いたところより、暗くてじめじめしたところが大好きって習いましたー。どうしてディエナはエルベラノにいるんですかー?」

「そんなの、決まってる。」


ダリアさんの質問にエウトリマが答える前に。


「まだお父さん達を、食べてるから。」


フェイさんから泡のポデアが漏れ出す前に、手を伸ばそうと。


「大丈夫ですよ先輩。」


ペンタスさんが、わたくしの手が動き出すより先に、わたくしの手に彼女の手を重ねられました。


「うん、私は大丈夫。」

「ほっ。それよりペンタスさん、わたくしよりも速くなられたのですわね。」

「いいえ、速さでは先輩に敵いませんよ。けど、ほらっ。」


ペンタスさんが軽く首をふるふるっと振ると。


「ま、まあまあまあ!ちょっと抱きしめてもよろしくって!?」


髪からぴょこん、と飛び出た耳と、お尻を高く上げて尻尾をふるふる振って


「えへへ、勝ちました。ドッグラン。」

「なんて愛らしいんでしょう!モフモフしたいですわああああ〜!」


思わず飛び付くと、意外としっとりもちもちで、期待していたフサフササワサワ感と違うような…。


「うん、強度はばっちり。駆騎士の全力からも守れてる。」


ぐ、と両手を胸の前で握りしめるフェイさんが。


「つまり、この泡を割れば、好きなだけモフモフできますのね?」

「ふふん、やって見せてくださいよ先輩。私のぺんぺんに触れるのなら。」

「言いましたわねー!」


軽く挑発するように笑うフェイさんに言い放ち、わたくしは四肢に緑雷と氷壊のポデアを刺して!


「どうして、どうして割れませんのおおおーー!!アルマ!カトラス!!お手伝いなさいー!!」

「我ヲ呼んだカ?」


なんてことですの!?アルマがペンタスさんの髪の中からひょっこり!


「カトラス、クシャミ出ルカラ、ワンワン触レナイ。」

「うん。アルマコリエンデが支配権を得た時より強くなってるけど、私の敵じゃない。」

「うぎぎぎ!どうして、どうして割れませんのおー!アルマ、代わってくださいましいいい!!!」


「わたしなら、なでなでし放題なんだけどな〜。」

「ふふ、君も今度ドッグランに出てみるかい?」

「お嬢様にも、ぜひキャットウォーク出場をお願いしたいですね〜!」


「あいつら、ここは戦場なんだぞ…。」

「ええ、教官。しかしあのダクトロ候補と殺戮大公の孫娘の攻防は。」


頭を抱えるアユーガと中隊長は、離れた場所から彼女達を観察していた。

神経に刺された緑雷により、ヒト型生物の持ち得る反応速度を超えた動き、そして氷壊をの質量、圧壊力を纏った手刀、突き。その全てを受け止め、流し、霧散させる泡、泡、泡。これほどの動きを行えるとは…。


「もう一線級では?」

「あの2人しか見えてねえから、お前はいつまでも青二歳なんだよ。」

「自分とて、」


人生の半分も生きていないような小娘達のやり取りに圧倒され、恩師に自尊心を刺激された小隊長は、副官が目にしたことのないほど、全身から意思と気力が満ち溢れていた。


「自分とて、騎士の端くれであります。女神が彼女らにディエナ駆除を命じたとはいえ、エルベラノ北端封鎖線の小隊長としての自負があります!」


副官が瞬きをする間に、黒髪の女性は金髪碧眼へ、変化していた。


「はぁ。立場は認めますが。」


シュパアン!


「あべっ!」


ほぼ不可視の衝撃が、中隊長の顎を突き上げる。


「あなたは中等生の頃から変わっていませんね。そこの彼女達は全員、この一撃に対処が可能になるまで、爪と牙を研ぎました。あなたはただ、いえ、もう立派な騎士なのですから、自分で答えを見つけなさい。」


ワスレナが司令所を出た後。


「くそっ…オレは候補生の頃から変わってねえってか!ああ、お前か、なあ、見ねえでくれよ。立場に甘えていた情けねえ姿をよ。」

「オレは、それでも先輩を好きですよ。もっと見せてください。ディスガス…。」


ワスレナがブーケに向かって歩いていると、エウトリマとすれ違った。


「今あそこへ入るのはやめておきなさい。」

「どうされたんですか教官?」

「意図せず火をつけてしまったんです…。」

「それは大変ではありませんか!」


「うわっ。」


慌てて駆け出したエウトリマのつま先に衝撃を発生させて、転ばせる。


「いえ、その。恋の炎です…。」


燻っていた薪を、猛る炎が爆ぜさせた。




整理された、ちょうど正方形の紙を4枚、立方体、サイコロ状に組み合わせて天面を除いた三面の内側に居住区のあるラプリマと違い、北から南、平面的な地図で言えば細長い弧を描くエルベラノは都市自体がエルヴィエルナ、エルアートヌを繋ぐ交易路としても機能きていたため、北端封鎖線のこの基地からでも、空を焦がし沈んでゆく模倣夕日はその最後の姿まで見渡せた。



あらゆる天体、光を飲み込む黒い渦、命球において本来太陽という恒星は他の天体と同じく引き摺り込まれ細長く削り取られる熱にしかすぎない。女神はまず、命球の内部、その一部を覆う線を幾重にも張った。あらゆる熱、全ての存在はその記録を熱量の移動として残す。地球人もまた、生命活動を維持するためには食事と呼吸を行い、熱を発生させる。

命球はあらゆる天体、熱を取り込むため。全てのものが持つ記録、記憶が過去現在未来、全てが同時に存在する。そこを女神は切り分けて、ひとつの惑星として定義した。つまり、命球に存在する生命体はみな、どこかの星で生きた者たちである。

なお、女神が切り分ける前の命球は、太陽系第三惑星、地球人に馴染みの深い呼び名はあるが、ここでは割愛する。

「とにかくじゃ、命球は地球と同じと考えれば良い。そう切り分けて再現しておる。ただ、我らは一本の木の枝に生えた、指先ほどのカビ程度じゃがの。」

とは女神の談。



「うん、切れ端組めたよ〜。火をつけるね〜。」


木材に転換された五等素材は、何段もの格子状に組み合わされています。その隣でダリアさんが薄い木の板に親指と人差し指で円を作ったくらいの木の棒を当てて、ごりごりと擦り始めます。


「ポデアでは趣がありませんけど、せめてマッチなどお使いになられませんの?」

「ふふ、わかっていないね我が君、これは古式ゆかしい太陽系第三惑星の初期着火方法さ。」

「かつテのクルルガンナでハ、石をぶつケて火を起こしテいたそウだ。」


「うう〜ん!ちょっと黒くなった気がするけど全然だよ〜。」

「それでは、私がやってみますね!」

「がんばれ〜ぺんぺんが〜んばれ〜♡」


板と棒を受け取ったペンタスさんが棒を回し始めます。真横で見ているフェイさんは必死なペンタスさんの横顔を見ていますわね」


「我やル!カトラスこういうのジョウズ!アセデリラ来て!」

「お手伝いすればいいんですの?」

「じットシて星でモ数エテて!」

「?」


言われるままわたくしかは空を見上げますと、少し髪を引っ張られます。


「何をなさってますの?」

「デキタ!アセデリラはジッとしテ!」

「はぁ。」


ギュルルルル!シュボッ!


「わーすごい!」

「まさかそうするとはね。」

「お嬢様のドリルにそんな活用法が〜!」


焦げ臭い臭いに思わず振り返ると。


「ラー!カトラス!テンサイ!」


わたくしの髪を擦り棒に巻き付けて持っていました。

その隣にはごうごうと燃え盛るキャンプファイアーが。


「何しましたのあなた!!!」

「巻いテ!ベルとろーラーにシた!自動で火が付ク!」

「あなた!」


目の前に浮いたアルマが、両腕を広げて立ち塞がります。


「子供に手をあゲるのハよろしクなイ。代わりニ我を叩ケ。」

「はぁ、もういいですわ。カトラス。次からは一言言ってくださいまし。」

「もグモぐ、来なイカら2人ノマしゅマロ食べテルかラ後デ。」


皆さん串に刺したマシュマロに舌鼓を打たれています。


「我ガ許ス。ヤレ!」


アルマはカトラスを指差し、ランサーのポーズを取ります。


「もう、そこまで怒らなくても。」

「構わン!オリジナルの所ヘ葬っテヤレ!!!!!」

「はぁ、食べ物の恨みは恐ろしいですわね、少しお待ちいただきますわ。」


空中でバタバタしているアルマをつまんで胸元に押し込み、搬送した資材庫まで向かいます。


「マシュマロカ!」


ぴょこん、と顔を出したアルマの頭を指先で撫でて、かけてあったエプロンを身に纏い「自由使用許可」の札が貼られたコンテナからいくつか素材をむしり取ります。


「ふふ、違いますわよ。」


身体に染み付いた手洗いの手順を守って行い。


「バンヴォル、レスパン ミ…。」


細かく細かく挽いてグルテンを少なくした穀類の粉、ほぼ同量のお砂糖、香辛料の粒、四足哺乳類から絞ったミルクとそれを加工したバター、ぴーすけのような恐竜、その小型のものの卵などに転換。

ざるでお砂糖と薄力粉をそれぞれ振るったあと、お砂糖とバターを混ぜて、薄力粉と絡めたら冷蔵庫へ。ミルクを持ち込みの手鍋に入れて火をかけて、少ししたらお砂糖を溢れるくらいと足してかき混ぜて。


「オイシイ、匂イ!」

「ヤラン!ヤラン!」


胸元で騒ぐアルマをつまんで出して、ついでにばごん!オーブンを開いて、奥からの熱気でおおよその温度を確認、再度の手洗いをして肘まで付いた粉を洗い落として。


「後であげますから、大人しく見ていてくださいましね。」


更に素材を取って


「バンヴォル、レス…。」

「チーズを合わせルのカ?」

「これ、コショウ!辛イカらやー!」


香辛料とチーズを荒く刻んで、我慢出来ずに見に来た2人のお口にそれぞれチーズのかけらを入れて。


「暗く冷たいお砂糖の海で〜♪」


まな板の上にサッと薄力粉を薄く広げて、冷蔵庫から取り出した先程の生地を置いて、綿棒で広げます。


「お星様にお月様作っちゃお〜♪」


女神が夜空に上げる星は模倣のものですけれど。


「そ〜っと焼いたら♪」


型で抜いた生地を鉄板に敷いたシートに乗せて、オーブン入れてしめる。その間にまな板やボウルなどを洗います。


「できあがり♪」


きっかり4分、「レジーナ」で鍛えられたわたくしには、キッチンタイマーなど不要ですわ!

ミトンごしに伝わる熱が、焼き上がりの手応えを感じさせてくれますわ。


「ぱくぱク。…うム。」


目を閉じてクッキーを味わうアルマは、若いのにおばあちゃんみたいですわね。


「甘くてフワフワ!けド飽キター!」

「そう言うと思ってましたわ。ほらこちら、ちょっとでいいんですの。試してご覧になって。」

「チーズ!ショッパイ!コショウ!カリカリ!ツーン!」


お口を開けて舌を出すカトラスへ、多めにお砂糖を入れたホットミルクを渡します。


「んくんく…ぷぁー!オイシイ!オイシイ!」


1人ラウンドで酔い潰れたお母様の言葉を思い出します。


「いいか、基本はグラデーションだ。コントラスト、辛さと甘さのな。ゆるやかてもいいし、ガツンとやってもいい。舌は変化を欲しがるんだ。」


特にカトラスのような…見た目だけでも、恐らく身体も子どもなら、味や匂いを感じる器官も敏感で、牛乳のおいしさが濃縮されたチーズや割ったばかりの黒胡椒はいいアクセントになりますわね。どこかの誰かさんは、見た目の割にはお酒やおつまみばかりですけど。


「ふふっ。」

「カトラス見テ笑ウ!祖母ニ対すル、不敬!」

「そんなことありませんわ。ただ…あれ?」

「どうシた?」

「いえ、ぜネロジオで見ればアルマやカトラス、アルマコリエンデはお母様で、ゲンザンはお父様ですわよね?をたくしの育てのお祖父様がお父様の師匠ですけど血縁関係は無くて。ここまでは理解できますけど、どうしてアルマやカトラスまでわたくしを孫扱いしますの?」


ふよふよと浮いたアルマが、カトラスの頭の上に立ちます。


「言ってやレ。」


アルマに促されたカトラスが、ホットミルクをひとくち飲んだあと


「カッコいいかラ!」

「はぁ…尋ねたわたくしが浅はかでしたわ。」

「わたしもカッコいいって思うよ〜。」


後ろから両肩にぽん、と手が乗せられます。


「あら、キャンプファイアーはいいんですの?」

「うん、リラちゃんどっか行っちゃったし…ふぅ〜。」

「ひゃ!」


ダリアさんの息が耳元に当たって…。


「ここなら、アウタナさんもいないし、リラちゃんひとりじめできちゃうな〜って。」

「あっ、お待ちになって!アルマ!カトラス!んああっ!お母様ぁ〜!」



しばらくして


「おやおや、私のご主人様は調理場で。」

「んぁ、あ…エウトリマ、おはようございますわ〜。」

「んみぃぃ。ねむううぃ。」


冷たい石床の上で、わたくしの手はやわらかなダリアさんに触れて…。


「はっ!そうでしたわ!ダリアさん!お目覚めなさい!」

「ええぇ〜なぁに〜?もっとちゅーしたいの〜?」


目を閉じて、ぷるぷるの桃色くちびるを突き出すダリアさんの、両頬に手を添えて。


「ふふ…可愛らしいわたくしの…。」

「んー、んーっ。」


キュッと拳を握り、緑雷を纏わせて、頬の上側、目尻から少し後ろ側へ。


「はーやーく!お目覚めなさい!!!グリストやりますわよ!!!!!」

「みゃあああああ!!!いたいいいいい!!!」

「うん?なんだいそれは?」


ダリアさんに制服を着せてあげて、エウトリマに振り向きます。


「厨房を任された者にのみ許される行為ですわ。ただ、見ているだけで衣服や髪に悪臭が付きますので、あなたにはおすすめしませんわね。」

「でもリラちゃんが念入りに洗ってくれるんだよ〜。」

「ふむ、それならぜひ見学させていただきたいね。」


念の為、エウトリマにも掃除用エプロンとマスクを付けてもらい、洗い場に案内します。

先に、用具入れから長い柄の柄杓と深さのある手桶、汚物用の袋を持ち出して、冷蔵庫の隣、にある冷凍庫から氷の板をいくつか取り出して割り入れます。


「およそヒトの口にするものは、得てして炊事場、台所、厨房キッチンで調理が行われますわ。こちらの北端封鎖基地はおよそ250名の騎士の飲食のために利用されますわね。」


流し場と調理場の間の狭い通路と、そこを通って勝手口に繋がる通路、その勝手口近くの床に金属の格子がはめてある、その目の細かな格子に指をかける。


「わたくし達太陽系第三惑星人は、その生活、飲食のために炊事を行いますわ。ラプリマ、エルアートヌ、エルヴィエルナのいずれであっても。また、ここ、かつてのエルベラノにあっても

。」


汚物を入れる折り畳まれた袋を2枚広げて、腕を中に入れてばさばさ、と音を立てて動かして、中に空気を入れます。その後、一枚をもう一枚の中へ。


「とにかく炊事には、使用した食材の余り物、不用物が発生しますの。」


四つん這いになって格子を持ち上げようとしても、調理油、食材から滲み出た脂、穀類の粉末が固まって動かせない。防汚エプロンの内側、制服のポケットから小さな、手のひらサイズの小箱を取り出す。


「ふむ…。」


中から細長い金属の棒を取り出して、格子と床に掘られた枠の間の溝に刺して、擦ります。棒の先を引っ掛けて、引き上げ、固まった粉や油を掻き出して。


「私のご主人様が耳かきの上手な理由が判明したよ。」


ある程度隙間が出来れば、掴んだ格子を左右に動かして、手応えを確認出来たので、長方形の格子、その片方を押さえて。


「っはぁ!」


もう片方を持ち上げて外します。


「この基地に「食卓」資格者はいらっしゃられないか、あまりにお忙しくてグリストをする余裕が無いようですわね。エウトリマ、マスクの上からお鼻を押さえていらして。」


格子のあった場所のさらに奥へ腕を入れます。指先に感触があったのでもう片方の腕も。


「なぜだい?」

「すてきなお鼻が、曲がってしまいますわよ?」

「うん?」

「は、あっ!」


四つん這いの状態から更に両膝を広げて、両指に力を入れて、背筋の筋肉だけでカゴを持ち上げる。


「うっ!」

鼻を抑えるエウトリマ。


油脂や粉、食材の切れ端、香辛料、洗い流すための洗剤などが絡まり合ってカゴに詰まって、いえ、格子状に組まれたカゴから垂れ下がって床に滴り落ちます。


「せ、やぁ!」


広げた袋に入れたカゴをひっくり返して。


「あなた、お鼻を押さえてませんでしたの?」

「ここまで、とは。君はマスクの付けていないし。」

「かんたんに説明しますと、お鼻の奥は喉と繋がってますの。そこにある筋肉を、呼吸を整えて意識的に広げてフタをすれば、空気の流れが止まりますので臭いを感じづらく、感じなくなりますわ。」


話しながらカゴを叩いて、金具で擦ってこびり付いた不用物を落とします。


「ああ、落ち着いたけどまだ鼻の奥に残っている感じがするよ。」

「ふふ、後で隅から隅まで綺麗にして差し上げますわ。」


カゴはそのままに、手桶に入れた氷の板が少し溶けて来たので掴み、更に割ってから元のカゴがあった場所へ、端っこを漬けて、そっと手を離して沈めていきます。


「龍は駆除されて転換、調理されて、その余り物はこうして洗い流され、ここに貯められますわ。ただ彼らは、生きていただけで。」

「アセデリラ、君は…。」

「この袋は不用物入れ、と呼ばれていますわ。」


汚物の入った袋を、軽く揺すると、中の物が動いて、また異臭が立ち込める。


「くぅ…。」


鼻を手で抑えるエウトリマ。


「こうして。ただ生きていただけで、殺されて、料理されて、食べられて。残ったものはゴミとして、あなたの腕はおいしいけど、脚は美味しくないから捨てます。そう言われたとしたら、あなたは耐えられますかしら?」

「それ、は。」

「別にお説教したいのではありませんわ。ただ、わたくし達「食卓」資格者は。」


凍らせた油脂などを柄杓で掬い上げ、袋に詰める。


「この最後に残ったもの達へ。

「はーいこっちも流しに来たよ〜。壁もピカピカにしまーす!」


しゃこしゃこ、デッキブラシを構えたダリアさんがいらっしゃいます。


「ふう、今グリストが片付きましたわ。ユーナ・ステラ。この子達を輝かせて来ますわ。」

「うん。エウちゃんに見てもらうんだね。いってらっしゃい。」

「ティオ。」


頷いて、袋を持ってエウトリマに付いてくるよう促します。


「君は今ダリアくんの事を。」


外へ出ると、遠くのキャンプファイアーは輝きが弱くなり、女神が空へ浮かばせた星たち、邯鄲の柱となった魂達が瞬いています。


「ええ、ユーナ・ステラ。「レジーナ」に於いての「若い星」。ダリアさんの…称号のようなものですわ。」


「「カトラス。」」


ザザ、ザ。静かに歩いて来たウサギの方のカトラスへ。


「「クー、ラ、ヴィヴォ、ン。」」


膝を折りたたんでシリンを前方に傾けて、地に頭を垂れた姿になったカトラスの、シリンの中央の小さなハッチを開いて。袋に入れた命の残滓を、素手で掴んで両手でこねて、入れていきます。


「これ、は…。」

「ウサギは、かつてヒトを殺めた者が、邯鄲によって変化させられた姿というのはご存知ですわね?」

「ああ。」

「たった1人、愛しいヒトを手にかけたかも知れませんし、たくさんの、たくさんのヒトの命を奪ったのかも知れません。ただこのウサギは、殺めた命の数と、ご自身の命の数だけ、星を背負っていますわ。」


彼女はシリンの前方にある、青く蒼く、星の海を映したカメラを、そっと撫でる。


「そんな永劫の炎による責苦を、罪を償う地獄の釜の底にあっても、あの捨てられることになった龍の魂なら、差し上げる事が女神に認められていますの。」

「それで、君は。」


またひとすくい、異臭を放つ残滓を手に取り、一握り、さらに一握り。罪を犯し、焼かれ続けるその魂へ。これは「食卓」資格者に認められた行為であったとしても、このような、罪を犯した者に対して施しをする行為が存在する事自体、エウトリマは見聞きした事が無い。都市の管理者として教育を受けて来た者すら知らない、「女神に認められた行為。 


「君と、そのウサギの魂には何の由縁も無いのに、そこまで心を尽くす理由はあるのかい?」

「そうですわね。ほんとうに、わたくしはこのウサギに付いて何も知らされていませんわ。ただ、このカトラスのカメラを見ていますと、きれいな青い空が見える気がしますの。今すぐ駆け出して、思いきり、何も考えずに、空が赤く染まるまで走り出したくなるような、青空が。」

「そう、か。」


エウトリマは腰を上げる。


「君はもう少しここにいるのかい?私は少し冷えたから、ダリアくんに温かいものでも入れてもらうよ。」

「ええ、ごゆっくり。」


扉を開けて中へ入ると、ダリアくんが立っていた。室内の照明が逆光になってよく見えないが、きっと私と同じ表情をしているのだろう。


「彼女は。」

「うん、きっと気付いてる。マイちゃんはそんなポデアがある事、わたし達に教えてくれてないもん。」


力無く震えるダリアくんを抱きしめる。


「あのカトラス、マイちゃんが「レジーナ」のハンガーまで乗って来たんだよ。あのウサギにぜネロジオを通していたの。マイちゃんが普通騎士にウサギを与える時は、両手を叩くだけ。シリンに立って、ぜネロジオを通したりなんてしない。それにエビの龍が来た時に、アルマコリエンデの影が抱きついてたって。」


ダリアくんに抱きしめ返されて気付く、私も、震えている。口を固く閉じる事ができない。


「だって、ウサギのシリンに立ったら、ぜネロジオを繋がなきゃだもん。ウサギを動かす時に、心を繋いで、動かすもん。」

「ああ。ああ。」


声が外へ漏れて聞こえないように、大切な親子の時間を邪魔しないように。お互いの肩へ口と鼻を当てて、声を上げずに声を上げて、震える。



「ほんとーに、舞さんもフクザツですよね〜。」


少し離れたところから、ウサギの各所を丹念に磨く主人の姿をスケッチする。


「お父様とお母様の魂を重ねて1人にしたら、勇者になるって言い出しちゃったんですから。」




空が白み始める。

赤みがかった青、そして雲の白が混じったパステルの筋が幾重にも重なり、次第に紅く、オレンジ、黄色となってゆく。こんな風に空を眺めるのはいつぶりだろう。初めて騎士になって龍と戦った時くらいだろうか?2人目の、自分より若く将来性もある夫を眺める。

シャツと上着に手を通す。

小隊長は、マーキング済みのセンテルデ子龍、成龍それぞれの位置を確認する。この3年、変わらず同心円状に広がっている。俺をこの北端封鎖基地へ縛り付けた存在は、確かにこの中央に存在するだろう。



「改めて自己紹介させてもらう。エルベラノ封鎖騎士連合、中隊長のタケシタだ。」 


そう切り出した小隊長は、初めて挨拶された時より精悍な顔つきになられていました。


「エルベラノは女神の令により、北端をラプリマ、エルヴィエルナで、南端をエルアートヌがそれぞれ抑えている。それぞれの都市は防衛を君たち中等生に担当してもらい、派遣された騎士はここで生きて、死ぬ。そう恐れなくていい、単にセンテルデの相手をする事で燃え尽きて引退すると言うだけだ。とにかく私達は、エルベラノのほぼ中心に生息している可能性が高いドゥモナ・ディエナをついに駆除することになった。まずはこちらの図を確認してもらいちい。」


タケシタ中隊長は、板状の装置にポデアを通すと中空に塵が集まりエルベラノ北端の大まかな地図を形作る。


「ドゥモナ・ディエナその子龍のうち、特に成長した個体三体をイングラと呼称しそれぞれアン、ドゥ、トルと命名している。センテルデの特徴として、親は子をある程度成長するまで養育し、その後巣立ちさせる。ここまではほとんどの生き物にも共通だが。」


タケシタはその地図に大きな赤い点、恐らくディエナを表示した後小さな無数の白い点を表示する。


「我々の観測では、ディエナの子龍は。」


子龍を示す点は右回転渦巻を描くように広がり、黄色い3つの点に触れた途端、次はその黄色の点を中心として同心円を描くように右回転を始める。


「この黄色がイングラだ。我々北端、南端封鎖基地はディエナ本体ではなく、このイングラの探知外に出た個体を駆除している。またワイルドハントは、このイングラとその範囲内の子龍を定期的に駆除している。」


次にタケシタはワイルドハントがイングラを排除した時の記録を表示した。


「イングラはディエナの探知外には出ているので駆除してもディエナは行動を起こさない、が。次に映すのはイングラの撃破日時と他子龍の動きだ。」


ワイルドハントらしき騎士がイングラを駆除する瞬間を映した映像が再生、その日時も表示されている。

別の映像が表示される。

イングラの同心円だろう。蠢く無数の子龍が共食いを始め、それが治ると、マブルを起こした個体を中心に群れは同心円の動きを始める。


「イングラは、ただ駆除しても別の子龍が共食いの後、次のイングラとなる。ワイルドハントは確かに勇者に次ぐ我らの戦力ではあるが、勇者共に全てのイングラと子龍同心円を同時に駆除する事は出来ない。また、勇者をディエナの駆除に当たらせる事が出来ない理由も同じだ。どのイングラが次のディエナとなるか予測が付かない。両封鎖基地には常に1.500人の騎士、アンカラほか人員が待機している、が。その全ての人員が探知外の駆除に当たっている。また、彼らには、私もだが、イングラとの交戦は禁じられている。それはひとえに実力不足だからだ。」


「タケシタ中隊長、イングラは駆除後、その同心円に所属するものでのみ、次の個体が発生するのですか?」


エウトリマが質問します。ううん。よくわかりませんわね?


「いや、我らもワイルドハントに合わせてイングラの持つ同心円を一斉に駆除した。が。」


表示されるのは、一つの黄色と白の点が順に消える過程、しかしディエナからの同心円の一部が分かれ、その中央に新しい黄色の点が生まれます。


「その時点で新しいイングラと同心円が生える。騎士が燃え尽きるのもこれが理由だ。綺麗に窓ガラスの汚れを拭き取ったその手の隣に、新しい汚れが現れる。」


「ふぅ、む。」


エウトリマは唇を摘み上げた後、口を開きます。


「フェイくん。ダクトロとしての君の現在のスケラでは、この同心円はいくつ覆えるか教えてくれるかい?」

「はい、ひとつが限界です、が。」


フェイさんは窓の外、ダンサンカブーケの一員として今回の作戦に参加した中等生、発声練習をしているアンカラのグループを見つめる。


「彼ら彼女らアンカラのヴォカ、ク、カネクトゥス、声に関するポデアを、ラプリマや他都市に配置された拡声器のようにエルベラノ各所へ配置出来れば、我が師アウタナと同じくエルベラノ全域を包めます。」

「ふぅ、む?つまりイングラごと同心円を泡で潰しますのね?」


エウトリマの真似をして喋ったわたくしへ。


「少し違うよ我が君、あくまでイングラはランサーなどで仕留める必要がある。」

「リラちゃん、しずかにしとこうよ〜。」


ダリアさんに袖を引っ張られ、わたくしは後ろに下がります。


「タケシタ中隊長、ダンサンカブーケのアンカラは総勢29名、対応する騎士も合わせて58名。そこのフェイくんとその騎士のペンタスくんは入れていない。」

「ああ、北端が出せるアンカラと騎士のペアは201だ。」

「南端はどうなっているか調べられますか?」

「連絡用の騎士がいる。駆けさせよう。一両日欲しい。」


わたくしはダリアさんにこそこそ話しかけます。


「つまりどういうことですの?」

「わたしもよくわかんない。」


目の前ではエウトリマが早書きしたメモを、タケシタ中隊長が清書しています。


「ふう、エルベラノ攻略戦は3日後だよ。」


しばらくすて、エウトリマが額の汗を拭いながらわたくし達に声をかけます。


「タケシタ中隊長は伝令を出しに行ったよ。」

「それで、南端封鎖基地と連絡を取りますのね?」


わたくしは横髪をかき上げて質問をします。


「さすがですお嬢様!」


カリカリカリ、リーナがわたくしをスケッチしていますわ。


「ふふ、いつにも増して聡明だね、我が君アセデリラ。ただ、どうして実地演習の時あそこまでして、女神や教官が君を鍛えようとしていたかの理由が、やっとわかったよ。」

「はあ…どういうことですの?」

「ウーンラ…リーナにアセデリラ騎士候補生の基本的な教育を任せたのは失敗だったのでは…。」

「いえ!お嬢様はそのままが!そのままが一番美しいのです!原液そのままが!」

「ふむ、今のアセデリラくんがをプロデュースしたのはリーナくんだったのか。」


は結局そのままよくわからないおしゃべりを始めてしまいました。


「はーい、コーヒーと炭焼き石パン持って来たよ〜。」


ダリアさんがそこへ朝ごはんを持ってきてくださいました。


「封鎖基地には資材庫もありますのに、四等素材ですのね。」

「mpを支払ったら準二等まで使えるみたいだよ〜。」

「わたくし今から行ってきますわ!」

「我が君、攻略戦が始まったら食事は五等の栄養スティックになるのだから、身体を慣らさないといけないよ。」

「むう…、仕方ありませんわね。」

「私はお嬢様が味のギャップに悶えるお姿も美しいと思います!」

「そんな、いつも言われてますけど、美しいと褒められたら気恥ずかしいですわね。」

「リラちゃん、ほっぺにパン付いてるよ。」

「ふふ、出会った頃のままで素敵だよ。」


もう一つのテーブルではフェイさんたちがお食事をされています。


「それデ、イングラと…。」

「はい、ぺんぺんと私がカネクトゥスで…。」

「がりガリがり。」

「そんなに齧ったらこぼしてますよ、カトラスさん。」


おしゃべりを続けていますと、教官が黒髪に変わっていました。


「よしてめぇらそのまま聞け。耳の穴よーくかっぽじっとけよ。そこアセデリラ、本当にダリアの耳掃除をしろって意味じゃねぇ。今タケシタが早馬を出しに行ってる。伝令が南端封鎖基地に着いて、ここに戻るまでに南端も準備が整う。それまでにエルベラノの地図と作戦を頭に叩き込んどけ!よしエウトリマ。コイツらにわかるように説明してやれ。」

「あの、教官。」

「どうしましたか?」


一息をついた教官は、わたくしが質問したタイミングでアユーガの見た目から元に戻ります。


「馬を使わなくても脚走型ウサギの方がよろしいのではあぶべっ。」


わたくしの顎に突き上げる衝撃があり、倒れかけたわたくしは、ダリアさんに支えてもらいます。


「ふふ、早馬というのは伝令、つまり指示や命令を伝えるのにとにかく急ぐと言う意味でね。本当に馬は使わないんだよ。そもそもクルルガンナに馬はいない。」

「クルルガンナにモ、一応そういう生き物はいタ…何もカも、懐かシい…。」

「あー、お馬さんのこと?リラちゃんと最近、模倣西部劇見てたからー。」

「そう!とっても主役の保安官がカッコいいんですの!」

「カトラスウサギ乗るナラ、跳躍型!バキューン!」

「ふふ、主演の彼の言動はよく練られていたね。」

「はぁ…ブーケに必要なのはツッコミができる人材ですね。」

「お嬢様はよく奥様方に突っ込まれています!ええ!色々と!」

「フェイ、先輩達の戦闘の方法だと、突撃するのはアセデリラ先輩ですよね?」

「ぺんぺん、あの人たちと一緒にいるとよくないよ。」


攻略戦を目前に控え、女神がお墨付きを与えた戦力のはずのダンサンカブーケ、その中心メンバーがただの、おしゃべりに夢中な年頃の少女達であることに、部屋の扉を開けたタケシタは強烈なもどかしさを感じた。


「すまない。」


漏れ出た言葉は意外と大きく、ブーケの面々はタケシタに注目する。


「本当にすまない。君たちはまだ学生だ。勉学や遊び、恋に夢中になる年頃だ。我々大人が、正規の騎士が。君達の健やかな生活を守らなければならなかった。封鎖基地隊の中隊長としてもう一度、改めてお願いする。どうか、ドゥモナ・ディエナとその子龍達を駆除する事に、力を貸してほしい。」


エルベラノ北端封鎖基地のタケシタ中隊長は、軍帽を取り、深く頭を下げた。


「わたくし達も。」


ダンサンカブーケの長、アセデリラ・アルマコリエンデも立ち上がり、タケシタの前で手袋を外す。


「わたくし達も、既に無数の龍の生命を奪い、その血を一滴も無駄にすることのないよう、努めて参りました。一滴の血にも、龍を含めた万象の命の流れと、そこに関わるもろびとの力が加わっています。その点において、既にあなた方とわたくし達は、守るもの、守られるもの、という関係ではなく。同じく命を奪い生きるもの、という意味で戦友ですわ。」


アセデリラは、手袋を外した左手を差し出す。


「よろしくですわ、戦友さま。わたくし、アセデリラ・アルマコリエンデと申します。」


タケシタ中隊長も顔を上げ、頷いてから手を出す。


「俺はタケシタ・ウミオだ。よろしくな、戦友。」


タケシタは騎士として十数年生きてきた。ランサーを扱っての戦闘も当然あり、封鎖基地に着任してからも、中隊長という立場はあったものの、前線に出ることも少なくなかった。ふしくれだち、年季の入った手指なそれだけで、彼の生きた証と呼べるものだった。

恐らく、ブーケの隊長は才能や血筋によって選ばれた、生まれながらのエリートだ、握手をしたところで折れてしまいそうな指だろう、出会ってすぐの頃はそう思っていた。

しかし

目の前に差し出されたうら若き少女の手指は、年齢相応の若さや女性特有のしなやかさはあったものの。

これは。

絶え間ない水仕事で赤切れた指先に、高温の油による複数の火傷の痕、その手で龍の魂の残滓を掴んできた強み、食材の仕込みによる無数の切り傷そして、数多くの龍をその手で両断してきたであろう事が伺える、抜身の刀、励起したランサーを前にしたようなプレッシャー。

思わず後ずさる。


「どうされましたの?」


アセデリラが手を掴もうとする。

その動きは、龍のような、いや、それよりも、速く恐ろしい。


「い、いや。すまない。少し疲れが出てね。」


取り繕い、握手をする。少しチビっちまったな…。同じ目的を持つ戦友と握手をするだけのはずだ。どうして俺のぜネロジオは、萎縮している。


「円滑な連携のため、午後からうちの隊員達と面通しをして欲しい。まだまる2日はあるから、余裕を持って行動できるはずだ、それでは。」


「なんだか足早になられてましたわね?」

「あーうん、いきなり素手のリラちゃんはねー。」

「そうですね、アセデリラ先輩は素手が一番怖いです。」

「そうだね、2人はアセデリラくんに返り討ちにされた経験があるから。」

「えええ、そうでしたの…?でもわたくしのアルマコリエンデはもう抜けたはず。」

「孫娘ヨ。殺意を受けなクトも、既ニお前は自在アルマコリエンデのぜネロジオを扱えル。」

「カトラス知っテル!アセデリラ、魔王ペンディエンテのニオイすル!」

「はぁ、まぁ女神のおつまみもわたくしが作っていますけれど、その香辛料でしょうか?」

「とにかく、アセデリラ騎士候補生は、騎士と握手をする時は手袋を着用するように。」

「お嬢様との握手が畏れ多いのはわかります。ですがもったいない!ささ、私と〜。」


「ブーケの各員には、経験に裏打ちされた強さがある。」


指揮所へ戻る途中のタケシタはそう漏らした。思えば彼女らの中で一番戦闘能力が低いとされるエウトリマ・ヤポニカナでさえ、戦略面で見るならば、ディエナ以下センテルデの特性を伝えただけで、あそこまでの作戦を立案したのだ。さらに構成の末端に至るまで、ダンサンカブーケ各員の能力と特性を熟知している。ダクトロ候補もまた特殊な存在ではあるが、彼女とペアの紫髪も光るものがある、初等生でドッグランに勝利しているのがその理由の最たるものだ。ワスレナ教官が俺を青二歳と呼んだ理由も、痛いほどよくわかる。


「しかし、彼女達を日常に送り帰すのが、俺達の仕事だ。」


タケシタは基地所属の騎士達へ、回線を繋ぐ。


「「ご機嫌よう諸君。タケシタだ。ディエナとイングラの駆除は、残念ながら俺達には不可能だ。ダンサンカブーケの働きに頼らざるを得ない。が、彼女達は中等生と初等生の、ただの学生だ。同心円から外れたセンテルデを駆除するだけで精一杯の俺達でも、彼女達を無事に、家へ送り届けてやろうじゃないか。なあ?」」



「何が、なぁ?だよ。ったく。」


伝令を受け取り、基地を出発してしばらく、60レグアほどで拾った広域通信では中隊長が、伝令の内容つまり作戦の進行を段階ごとに解説していた。ダンサンカブーケのメンバーは俺も見た。少し前に個人放送で実況されていた、クルルガンナ解放戦の英雄の孫娘が、亡霊の操るウサギを両断していた。確かにあの戦闘能力を持ったメンバーで構成されているのだから、女神も折り紙付きで北端封鎖基地へ送ったのだろう。


「わあってるよ、年頃の娘さん達にゃ、血生臭い戦場よりも、スイーツショップがお似合いだ。」


伝令の任を負うムカイカドは、脚走型ウサギのシリンの上で、胸元のロケットを取り出し、開く。


「ユミ、ハルコ。父ちゃんはお前達の父ちゃんだ。」


伝令文と、録音した中隊長の挨拶も伝え、彼は北端封鎖基地へと帰る。その帰還予定時刻がエルベラノ攻略戦の開始時刻となる。2本目の大きな河川を渡り、イングラではなくディエナそのものの同心円の中へ入る。騎士はウサギの速度を上げシリンをさらに前傾姿勢に、脚部の起こす振動を減らす。センテルデは親から子への保護する本能が強く、ディエナに至っては子で作る同心円、さらにイングラの持つ同心円が全てセンサーとなって侵入者の排除へ動く。ムカイカドは全神経、ぜネロジオをウサギの操縦に専念した。


「わぁ。やっぱりダリアの匂いだ〜。」


少女の声、それもムカイカドの娘よりも幼い。

戦場に於いての長時間単独行動は、極端な精神的プレッシャーと肉体的ストレスから幻聴、幻覚が発生することはある。ムカイカドは妻と娘のことたけを考えた。この声は、娘の友達かそのあたりを、記憶が再現しているのだろう。


「うんうん〜。へぇ〜、レジーナ以外とエンゲージしてるの〜?」


なおも声がする。だが意味のない会話だ。相手の声は聞こえない。この声はエルベラノの亡霊のものか?何をバカな。少し前もワイルドハントに付き合ってこの辺りで駆除を行ったが、そんな報告なんてなかったじゃないか。ただの幻聴だ。


「ふーん、あなたは基地のウサギだから詳しくわからないんだね〜。」


これは、余りにも娘とあっていなかったから聞こえるんだ。そうだ、休暇でラプリマへ戻ったら、ハルコの好きなぬいぐるみを買ってあげよう。ユミにも花束を贈ろう。記念日でもないのにプレゼントはびっくりさせてしまうだろうな。

そんなあたたかい気持ちになったムカイカドは、ウサギの速度を上げるために、ぜネロジオを繋ごうとした。


「あー!見つかっちゃった!ごめんねおじさん!」




キュオオーンン。手回しのサイレンが鳴り響く。


「うぅ、もう開始ですの?まだ3時間はありましてよ。」


仮眠から目覚めたアセデリラは、冷えてカップにこびり付いたコーヒーの残滓を舐めようとした。


「リラちゃんたいへんたいへん!オバケ出たんだって!!!」

「ぶー!!どういうことですの!?」


駆け上がってドアを開けたダリアさんの目は、大きく見開かれていました。


「北端封鎖基地全体が騒ぎになっている。伝令とそのウサギがやられたんだ。」

「騎士とウサギがオバケに!?そんなの非科学的ですわね!?」


ダリアさんの後ろから現れたエウトリマの顔にはコーヒーがかかっていて、オバケのようですわ。


「とにかくわたし達も臨戦で待機だって!ランサー用意!」

「アルマとカトラス!お目覚めなさい!」


爆睡している2人のシーツを引き剥がし、枕元のランサーホルスターを握り、腰に装着します。

ハンガーには他のブーケの皆さんが揃っていらして、ウサギの起動も始められていました。


「計画に多少のズレはあったけれど、手筈通り君たちが潜入、フェイくんの指定したポイントをクリアしたのちブーケのアンカラとパートナーの騎士が配置につく。北端、南端封鎖基地隊の騎士達は各ポイントの防衛に回る。それと。」


一呼吸おいたエウトリマの両肩に手を添えて、口付けします。


「行ってきますわ、エウトリマ。」

「ああ、君と私達の上にに、晴れた青空のあらんことを。」


エウトリマはソーサーのシリンに立ち、ブーケの各騎士へ指示を始めました。

わたくし達のウサギのシリンには、既にアルマとカトラスが立っていました。


「カトラス、ダリアのウサギに入ル!」

「行クぞ、孫ヨ。」


アルマがカトラスとダリアさんとわたくしのウサギ、それぞれのシリンの上で消えた後、後ろから抱きしめられます。


「ふたりっきりだね。」

「もう、おばか。今は臨戦ですのよ?」

「「久しぶり、おデコちゃん。」」

「あなたっ!?」

「「時々、ダリアの中から見てたよ。今はダリアは眠ってる、気絶してるって言い方の方が合ってるかな?

ほんとうにエルベラノまで来ちゃうなんてね。これからがたいへんだけど、がんばってね。」」


振り向いた時には、朦朧としているダリアさんの姿しかありませんでした。


「んんえ?急にくらってきちゃったかも〜。」

「もう、仕方ありませんわね。ちゆっ。」

「んんっ。リラちゃん〜、今は臨戦だよ〜?」


ぎゅっと力いっぱい抱きしめて、きれいな首筋に歯を立てます。


「あっ…、んっ。」

「何があっても、離しませんわよ。」

「うん…。」


見つめ合っていると、部隊チャンネルに通信が入ります。


「「エウトリマだ。私達ブーケはこれより、太陽系第三惑星圏を構成する三都市の騎士連合、北端封鎖基地並びに南端封鎖基地の騎士と合同でエルベラノに巣食うドゥモナ・ディエナ以下センテルデ群の駆除を開始する。また、先程伝令騎士が回復した。エルベラノ中心区画に近付いたタイミングで、ウサギのぜネロジオ内部に何者かが侵入した、と報告されている。にわかに信じ難いが、私達はアセデリラくんのレピアーに入り込んだアルマコリエンデの存在を知っている。各員ウサギから少女の声が聞こえた場合、ぜネロジオの接続を解除、戦域から離脱するように。また、これは連合騎士全体にも同様だ。可能な限り支援し合うように。」」


わたくしもシリンに立って、ぜネロジオを繋ぎます。


ぱすん、ドゥルルル、どっどっどっ、シィィィィ。


繋いだぜネロジオを内部に入り込んだアルマと同調させて、カトラスのエンシに火を入れて、軽くから回し、エンジンが温まって来たら、ニュートラルへ。同じようにわたくしも呼吸を整えて。


「「作戦の第一段階として、ダリア、アセデリラの両名は先行してエルベラノ外殻に取り付き、指定箇所のセンテルデを駆除、アンカラの諸君とそのパートナー、連合の騎士それぞれが展開完了の後、フェイ、ペンステモンがエルベラノ全域へルリローを起動、ドゥモナ・ディエナをダリア、アセデリラが、イングラと同心円のセンテルデを私達が駆除する。」」

「「エウトリマ指揮官、ただのルリローではありません。グランディオサ ホーラです。割り込んじゃよくないですよフェイ〜。」」

「「すまない。私が間違えていたよ、ありがとうフェイくん。それにアンカラとそのパートナーのみんな。」」


ダリアさんのウサギを乗せて走るわたくしのカトラスは、エウトリマとフェイさん達の通信を聞きながらエルベラノへ侵入します。


「「孫娘ヨ。」」

「どうされましたの?」

「「カトラスを名前で呼んデあゲて、やレ。」」

「いいんですの?」

「「カトラスもそう思ウ!我ガ夫!我ガ孫!」」

「「我の夫でモあル。」

「わかりましたわ。いきますわよ。」


ダリアさんの手を取って駆けるウサギから跳ね降りて。


「ゲンザン、アルマとカトラスをお願いいたしますわ!」

「「コネージョ、ソルタンド。」」


シュタタタタタタタ

ダリアさんを肩車して走り出します。



センテルデは聴覚に優れた龍である。ただ、ヒト種のように耳に相当する器官は認められない。これの理由は予習していますか?そこ、うとうとしているアセデリラ騎士候補生。はい違います、着席。ポデアではありません。皆さん耳の横で軽く親指と人差し指を擦って音を立ててみてください。ケンカで両腕が折れた人は隣の人にしてもらってください。皆さん終わりましたか?私たちヒト種の耳にはこのように、指先が擦れて空気が震える音に聞こえましたね?では、こちらの資料を見てください。はい、気持ち悪いですね。私もお昼は控えたくなります。そう、これがセンテルデの耳に当たります。一本の脚にはおよそ3,500本の細かな毛が生えています。センテルデは空気の震えをこの毛で感じるのです。また、これを利用してセンテルデはお互いに言葉を交わします。

ですから皆さんが間違って、ウサギ無しでセンテルデの巣に入ってしまった際には…ぐー。



教官の授業をしっかり聞いておくべきでしたわね。

ただ、これだけは理解していますわ。音を立てることに気をつけるだけではなく、空気の流れを妨げないように。


キュエロロロ。


五百三十八つ目のポイント、こちらにも毛の長いタイプのセンテルデがいますわね。


エルベラノはかつての交易路として、単純に格子状に区画分けされたラプリマとは違い、有機的な、血管のように太く、細い無数の路が走っていて、この毛の長くて多い通信に特化した個体が、要所要所に配置されている。


左の肘を肩まで上げて、その先、手首までを地面と垂直に立て、右側へ90度回転。すると左肩に指先で3回つつかれ、右肩にまっすぐなぞり下ろす感覚。頷くとダリアさんが両肩に手を突いて、肩から飛び上がります。言葉を発するとセンテルデに捕捉されますので、ジェスチャーだけでの会話。


シッ


通信特化センテルデの背後まで駆ける。およそ3レグア。

ダリアさんとの、お互いを護るルリローの強度を緩め、範囲をこのセンテルデを覆うように拡げます。

そびえ立つ、かつてヒトの生きていた証。年月が立ち薄れてはいますけど、その大きな立て看板には、笑顔の男性と女性、小さな子どもの笑顔が描かれていました。

並び立つのは、先ほどの建物より細長く、同じように細長いガラスが張り巡らされ、空の青色を反射してる建物。街の屍体。

かつては交易、先端研究そのいずれかに使われていた、その遺構の天辺から紅い煌めきが


スタァ、ン!


本来騎士が、ウサギを用いた破壊の衝撃、ポデアやランサーによる光、熱からパートナーを護るためのルリローを、一時的に拡張してセンテルデの悲鳴を漏れさせないように覆います。もう一度紅い煌めき。ダリアさんのフラトのタイミングにに合わせ。龍がフラトにマブルを起こし始めたその全身へ。


「セラ。」


尾部から全ての体節、頭部まで氷壊の手刀で貫き、駆け抜けて、この龍の命全てを凍らせます。


ぎゅっ。


凍らせて、自壊が始まったセンテルデの頭部でダリアさんがわたくしに抱きついて、震えます。


「はぁっ、はあっ。」

「ダリアさん、落ち着いて、深呼吸を…。」

「こっこのっ。」

「ゆっくり、話してみてごらんなさい。」

「この子、はっ。」

「ええ。」

「この子はただ、お母さんに言われて、ここにいただけなのに。」

「ええ。」

「わたしが頭を叩いて。」

「ええ。」

「目が合っちゃったの。」

「ええ。」

「センテルデってね、大きいおめめが、ひとつの子と、ふたつの子がいるの。」

「ええ。」

「おめめの中に、ちいさいおめめがいっぱいあるの。」

「ええ。」

「どのおめめも、叩いたら、びっくりして、こわいよって。」

「ええ。」

「いたくて、あつくて、つめたくて、くるしいけど、こえもだせなくて。」

「ええ。」

「わたしが、ころした。」

「ええ。」


ぱき、ぱき。音もなく割れて崩れてゆく、命だったものの中でなら。


「わたくしがいますから、今は好きなだけ、お泣きなさい。」

「うわあ、ああ。」


震える肩を抱きしめて、頭を撫でます。

普通のヒトなら、繰り返すうちに心が麻痺して、痛みは感じなくなるでしょう。ヒト以外の命を奪う行為に。誰だって、わたくしだって、そうやって生きています。

ですがダリアさんは、命を奪う相手の目を見てしまいます。

その瞳の輝きが、消える瞬間も。


左腕を天に掲げ、緑雷のポデアを放ち、エウトリマのソーサーへ、このポイントを制圧したことを知らせます。エルベラノ攻略戦、最後のポイントを。



「へー。今のダリアって泣き虫なんだね。おっかしー。」


嘲るような、嗤う声。


「あはは、ウサギも乗らずに頑張ってる2人組がいたから見に来たら、それがダリアでさ、泣き虫なのおっかしー。」

「あなた、だれ…?」

「誰でもいーでしょー?早くその女に泣き付きなさいよー。」


きゃははは、と嗤う少女はわたくしを指差して。


「そこのドリル。ダリアの母親はあなたみたいな下品な金髪じゃないのー。」

「そんなこと…当然ですわ!」

「ふぅん、せっかくだから合わせてあげる。」


その声に合わせて、黒に赤の線が入ったアーメフォーニの群れが現れます。


「この子達を殺して、私に追い付けたらね。」


きゃはははは、と嗤い少女はゆっくりとステップを踏んでくるくる回ります。


「鬼さんこーちら、手ーの鳴るほーうへー。」


アーメフォーニの先頭の個体がその脚部をさらに折り曲げ、姿勢を低くして突っ込んで来ます。


「ヴェルダ…。」


緑の雷を四肢に刺し


「フラマ!」


右腕でダリアさんを抱え、向かってくるアーメフォーニに駆け、すれ違いざまに左腕の手刀で切り裂きます。


「あ…、あ。」

「大丈夫ですわ、ダリアさん。」

「うし、ろ…。」

「くっ!」


緑雷の手刀で切り裂いたはずのアーメフォーニは、細長い緑のポデアで身体が縫い合わされていました。

その牙を上体を捻って躱し、振り向きざまの回し蹴りで!

パカァ!

ですが、砕けた頭部は瞬く間に、緑のポデアで覆われます。


「そーんなやばーんな方法じゃなくてぇー、あーるーでーしょー?ら、ん、さ、あ♡」


少女は楽しそうにピンと伸ばした右手を左手に当てて、突き刺します。


ぶすり。


皮膚と血管、骨と軟骨に肉と腱が突き破られた勢いで溢れ、即座に緑のポデアで覆われて、元に戻ります。


「この子達は〜、ハイェルちゃんと同じで、普通に死ねなくなっちゃったからあ♡」


ダリアさんがわたくしの腕に手を添えて、ゆっくり離れます。


「灼き尽くしてあげて♡マリアンテ ラ ナダ♡」

「くうっ!」

「ダリアさん!?」


何かの緑のポデアが、ダリアさんの頭から溢れます。

ハイェルと名乗った少女は、わたくし達に背を向けて歩き出します。


「くっ!お待ちなさいっ!」

「いいよリラちゃん、先にこの子達を殺しちゃおう。」

「ダリアさん!?」


先ほどまで、一体のセンテルデを殺すことですら動けなくなるくらい泣いていたダリアさんが、ホルスターから数本のランサーを引き抜いています。


「どうしてですの!?この龍達は…。」

「うん、少しだけ思い出した。この子達はヒトだよ。」

「えっ。」


赤い残影を残して、ダリアさんは一体のアーメフォーニへフラト、炎と雷を纏った拳を突き立てていました。ですが、先ほどと同じく緑のポデアが覆って。


「くたばれ。」


ダリアさんの拳から光と熱、ランサーのものが起こり、アーメフォーニの再生する速度を上回る勢いで光化させて行きます。


「ヒトだったものを、殺して、邯鄲が起きて、いない…。」


イ食対応で騎士は食化体と戦い、魂を組み替えることは行っても、絶命させる事はありません。それは食化の進行したハリメンでも同じです。さらに食化が進んだ場合のみ、女神から限定的な認可を受けての処理もありますが、それでも、元がヒトだったものを、こうも簡単に、砕いて裂いて、貫いて、溶かして、燃やして。それでも、ダリアさんに邯鄲は起きていません。


「あ…、あ…。」

「さ、ハイェルを追いかけよ。」


ダリアさんの伸ばした手に、わたくしは恐怖を感じてしまいました。白い手袋には、いいえ、白かった手袋は、アーメフォーニ、いえ、ヒトの血がべっとりと付いているように見えたのです。



アセデリラくんのポデアをソーサーが感知したので、私達は最後のポイントへアンカラと騎士のペアを送る。イングラの駆除が完了した事により、フェイくんとアンカラの皆のグランディオサ ホーラで、ドゥモナ・ディエナと同心円を構成するセンテルデを全て駆除する舞台が整う。

「では、私達は指示次第グランディオサ ホーラへ移ります。」

「ああ。」「「騎士連合及びブーケの諸君!じきに我らがダクトロ候補、フェイ・エル・ベラーナが配置につく!大詰めだ!!」」

「「エウトリマブーケ長!黒のアーメフォーニが!うわああ!」」

「「ちょうどいいわ、ああ、この子達は軽く気絶しただけ。ラプリマのダクトロ、聞こえてるわね?ペアの騎士とこのポイントまで来なさい。」



「わたしにあるのは、上と下に引き裂かれて背骨で繋がったヒト、取れた腕を抱えてる女の子、何かから逃げている女の人が、首と足が取れちゃって、抱えてる赤ちゃんごと、何かに食べられちゃうところ。他にもたくさん、たくさん。そんな血と、内臓と、骨と、汚物の匂い。」


ハイェルの消えた背の高い、白い建物へ向かう途中にダリアさんは、淡々と話してくれました。小さな子どもが、絵本を読んでいるように。


「それでわたしは生き残って、お母さんに育ててもらったんだけど。」


建物の中は意外と広くて、赤黒いシミが、赤黒く濁ったさまざまな、ヒトの身体の部品が散らばっていました。


「けどほんとうのわたしは、ここで死んだの。」


特に、血で赤黒く塗り込められたその場所は、天井に穴が開いていて、恐らくウサギが叩きつけられて出来た、摩擦の後もありました。


「そう、ここでそこのダリアは死んで。」


何かの機械の影からハイェルが姿を現しました。


「は〜いご対面〜。オリジナルのダリアでちゅよ〜。」


ハイェルが手を振ると、緑のポデアが解かれ、そこには。


「ぱちぱちぱち〜。」


赤黒い、肉の塊がありました。


「これ、は。」

「監視カメラがありましてぇ〜、いちぶしじゅうがごらんいただけまぁす♡」


ハイェルが手を翳すと、アウタナのものとよく似た腕が空間を裂いて現れて、その腕が箱を取り出しました。

ハイェルがポデアを通すと、記録が再生されます。



逃げ惑う白衣のヒトたち、けれど彼らの身体はノイズのようなものに引き裂かれ、叩き潰され砕かれて。しばらく後、轟音と共に、カメラの外からウサギが転がり飛んで来て、シリンから投げ出された紅い髪の女性が、小さな子どもを抱いています。

その女性には、もう下半身はありませんでした。

わたくし達騎士の制服は、基本的に上着の裾とスカートそれぞれが、上から見ると花びらと花弁に見えるようにデザインされています。

右腕に子どもを抱いて、左腕だけで這いずる彼女の身体からは、夥しい赤い液体が軌跡を描き、まるで何輪もの赤い花が咲いたように見えます。


「ハイェルルラ。ごめんね。」


その女性は、カメラの前まで這いずって来て、左上腕に剥き出しになっている何本もの黒い線の入った皮膚を引きちぎり、既に事切れている子どもの左腕にあてがいます。


「ドラン、ドリン、ミア、インファノ…。」


ポデアが終わり、その紅い髪の女性は、少女の亡き骸をウサギへ投げました。


「ラプリマへ、行け。」

「「コネージョ、ソルタンド。」」


ウサギが跳ね飛んだあと、彼女が全身に纏っていたポデアが解け、両目や口、鼻、耳から血が吹き出します。


「げ、ふっ。レジーナ、会いたいよぉ。」



再生が終わり、ハイェルルラは口を開きます。


「エルベラノでは、さまざまな研究が行われていてね。ダリアはそのひとつ、セリアヌミア。クルルガンナの持っていた意識や知識に技能を伝達する技術を、肩のコードで再現する試験の被験者だった。ワイルドハントの隊長なだけあって、あらゆる面で一番勇者ゲンザンに近い存在だったしね。エルベラノとしても、そんなダリアのコピーは欲しかった。準勇者ダリア・アジョアズレス。それがエルベラノの壊滅に立ち向かって、こうなった。」


「わた、しは…わたしのなかの、ダリア、は。」


「も〜死んでるのよ。今見たでしょ。お話したことある?よかったね〜。けどそれはコピー品。少し前に流れてきた放送で見たわ。アルマコリエンデのコピーがそこのドリルの身体であなたの腕を千切ったのを。それと同じ、あなたはコピーのコピー、劣化品。そのコピー元も擦り切れてるから、もうほとんど残ってないでしょ?私には視えるのよ。オリジナルのダリアは私を置いてエルベラノから出て行ったのに、帰ってきたと思ったらこんな子どもを助けて。あげくに身体はまっぷたつ。何が勇者になりたい、よ。」


「あなた、は。」

「見てわかるでしょ?私の名前はハイェルルラ。不滅のぜネロジオを持つのに、何も出来なかった役立たず。エルベラノのダクトロよ。」


そうハイェルルラが自重気味に言い、「ダリア」の骸の隣にあるブロックの残骸に腰掛けます。


「おねえ、ちゃん…?」

「やっと思い出したのね。」


わたくし達とは別の方向から入ってきていた、恐らくあの映像も見ていたでしょうフェイさんとペンタスさんがいらっしゃいました。


「どうして、こんなところ、に。」

「こんな所ですって?あーきーれーた。ここにいる本物のダリアと一緒にいられて幸せよ。」


ハイェルルラが手を上げると、緑のポデアに包まれたアーメフォーニの群れが現れます。


「この子は、お兄ちゃん。この子はお姉ちゃん。この少し大きいのはお父さん。こっちはお母さん。おじいちゃんとおばあちゃんにおじさんおばさんは、さっきあなたとその騎士が殺しちゃったわね。」

「!」


ハイェルルラは指を鳴らして緑のポデアを展開し、ツタがアーメフォーニを4体組み上げます。


「でもこうして、不滅のポデアでなら別の身体で起き上がってもらえる。けどね。」


ハイェルルラは「ダリア」の身体に何重にもポデアをかけ、絡みつくように伸びた緑のツタが、白い花を何度も咲かせます。


「ダリアだけは、どうしても起きてくれないのよ。きっとこの身体から離れたくないんでしょうね。それで私は、ダリアとずっと一緒にいることを選んだ。あなたがエルベラノをどう思っているか知らないけど、ここは天国よ。だってみんなや大好きなダリアとずっと一緒にいられるんだもの。他の誰の所へも行かない、私の腕の中だけにいてくれる、本物のダリア。」


ハイェルルラは、両腕で「ダリア」を抱え、頬ずりします。


「ドゥモナ・ディエナの力も、あなたのポデアなのですわね?」

「そう思いたいなら勝手にして。私にあの龍をどうこうするつもりはないけど、あなた達の仲間は違うみたいね。」


ハイェルルラが建物の中にかけたポデアを解くと、戦域通信が雪崩れ込んで来ました。


「「くそ!主力がいねえってのに!」」

「「元々が大人の始めた戦いだ!いいトコ見せねえとな!」」

「「隊列を崩せ!こちらも臨機応変に対応しろ!」」

「「センテルデのマブルを確認!イングラが発生します!」」

「「経験の浅いガキ共は下がってな!」」

「「ブーケ長、小賢しい戦術よりお前ら全員が生きて帰る事を考えろ!」」


ハイェルルラはポデアを纏い、立ち上がります。


「フェイとその騎士、来なさい。そろそろあの龍に引導を渡すわよ。それとドリル、コピー。」


ハイェルルラはわたくし達に向き直り。


「勇者のぜネロジオ保持者ふたり、ディエナ相手に死ぬなんて無様、私に見せないでね。」



シュコ、シュコココココ

ゲンザンのシリンに立ち、エンジンに火を入れると戦域通信が入ります。


「「フェイです。イングラの3度の発生を確認しました。」」

「「エルベラノのダクトロ、ハイェルルラよ。ラプリマのアンカラの皆、よくやったわ。騎士各員へ、落ち着いて聞いて。ここにいる全てのアーメフォーニは私のポデアの制御下にあるわ。目の前のセンテルデに集中して。」」

「「それと、今から。」」

「「雷と、炎の嵐が吹き荒れるわよ。」」

「「それでは、ヴォカ、ク、カネクトゥスを始めます。」」

「「其の名、我は♪」」

「「破滅、導き手♪」


シュタタタタタタタタ!ゲンザンはダリアさんとそのウサギ、シクローナを背負ってエルベラノを駆け抜けます。


「アーナ。」


イングラの一体と併走し、シクローナがわたくしの氷壊のポデアを纏った蹴りを各体節へ叩き込み。


「トゥワーラ。」


騎士達とウサギを取り囲むイングラとセンテルデ同心円の、中心に降り立ったシクローナの上で、アルマとカトラスが氷壊と炎熱の柱を林立させ。


「リーエ。」


遺構に巻き付いて毒液を撒き散らしていたイングラをエウトリマ指揮下のブーケ隊が砲撃し凍結。


「リラちゃん。」

「ええ。」

「わたし、あのお母さんを、殺すよ。」

「ふふ、あなた1人の罪ではありませんわ。」


思い詰めたようなほっぺたを指先でぷにぷにつついて。

軽く微笑んで、お互いの髪を一本ずつ引き抜きます。


「…キャセカ、メアロ。」


優しい手つきで、けれど、しっかりと、


「…ヤ、ガョイェヲン。」


ランサーを、2人の命を、光の槍へ。


「死が、2人をわかつまで。」

「いいえ、死がふたりをわかつともですわ。」


ゲンザンは氷壊のポデアで作られた階段をを駆け上がり、喰らい付くために身を起こしたドゥモナ・ディエナの顎を跳ねてかわしたシクローナから、さらにわたくし達は高く、跳ね飛び。


「ニ アマウ パルタ 。」


お互いの足裏を蹴り合い、ディエナの背中と腹を挟むように、ランサーを起動します。


「ラ サマウ カルパ!」


小さな命が、灼けて、跳ね飛んで行きます。ドゥモナ・ディエナひとつの命だけでなく、その体節ひとつひとつに包まれていた、新たな命も。

ミイィィ!

ランサーに直接触れずにその熱で炙り出される小さな命は、ツタのポデアに絡め取られ。

ミミ、ィ…。

他の個体に熱を受けさせて逃れたはずの命は、泡に包まれます。


「私は救いの女神なのでしょうか♪」

「私は滅びの魔王なのでしょうか♪」


わたくしもダリアさんと同じように、命の輝きを失ってゆくセンテルデ達の瞳を見つめながら、ダクトロとアンカラ達のグランディオサ ホーラを聞いていました。


「フィー、イア。」



「「騎士連合、ブーケの皆、お疲れさま。けどドゥモナ・ディエナ以下全てのセンテルデを駆除したことで、エルベラノを壊滅させた本体が目覚めるわ。」」

「「お姉ちゃん!?」」

「「安心しなさい。そのための不滅のぜネロジオよ。女神に伝えなさい。この災厄は、準勇者ダリア・アジョアズレスの命を以ってしても、休眠させることしか出来なかった。エルベラノのダクトロ、ハイェルルラが、今回作ったアンカラ達のヴォカ、ク、カネクトゥスをエルベラノ住人の魂を入れたアーメフォーニでコピーしたわ。しばらくは抑えておける。それじゃあまたいつか、どうか健やかに。」」

「「待って!待ってお姉ちゃあああんんんん!!!!」」




「以上が、エルベラノ攻略戦の詳細及びダクトロ、ハイェルルラの言葉となります。」

「ふぅぅぅぅ、む。」


月が天中にある頃、ぼろぼろのアパート、その2階とある一室で、ぼろぼろの畳の上に敷いたぺたんこの座布団の上で、ナイトキャップを被ったロータス・ペンディエンテは同じくぺたんこの座布団に座ったエウトリマから報告を受けていた。


「その災厄が、トモでも処理できないと仮定するならば、十数年1人で押さえ込んでおったハイェルルラの言葉を信じるしかあるまいの。特にブーケはどうじゃ?」

「はい、まずダリアくんは、ハイェルルラに生きていた頃の記憶を呼び起こされたのもありますが、逆に安定しています。フェイくんはやはり、家族が姿を龍に変え生きていたことと、姉が再びエルベラノを己の犠牲で封じ込めたことに。」

「ふぅぅぅ、む。」


どたどたどた!てんてんてんてん!

アパートの錆びついた階段を駆け上がる2人分の足音。

片方は恐らくスリッパで、片方はパンプスのような硬質な音。


「大変です女神!ピルーロ征伐後に勇者とサシ飲みをしていたら!」

「ど〜しよ〜マイ〜。福引きでリゾートチケット当たっちゃったあ〜。」


丸い眼鏡にジャージの勇者は、ワスレナ教官に支えられながら「団体様ご招待」と書かれた、湖の描かれたチケットをヒラヒラさせていた。


「んむ!これじゃな!」



第二部 「ワイルドハント」第一節「霧の都のエプリシア」につづく



舞さんが罹患した病気は、わたしと同じものです。


わたしはおよそ、5年くらい前に舞さんと同じ寝たきりになりました

それで、ベッドの上でディスカバリーチャンネルの番組と、映画スパイダーマンを見て、着想を得ました。


ふわふわしたイメージとプロットを4年くらい抱えていましたが、今年25年3月に介護施設さまに入ってまとまった時間が取れましたので、およそ2ヶ月で書きました。

アナログやデジタルでお絵描きもしていましたので、キャラ立ち絵なんかも落書きにペンを入れて本格的に描きたかったんですけど、パソコンが壊れちゃいまして!


とにかく表紙だけは仕上がったので!

ピストルを構えた女の子がヒト型ロボットに乗るのは普通なので、ロボット自体をピストルと弾丸にしました。

めちゃくちゃカッコよくなるように、ラテン語ベースの創作言語?エスペラント語のかっこいいと思う発音で作中の人名以外のカタカナに使っています。

カッコいいよね!ラ、マスタロ、ラ、デ、ミア…ディスティノターテ!

この作品が有名になって小さなお子さんたちが学校や街中で叫んでくれるようになるのが夢です。


大筋の流れが出来ている第二部から第4部はまた時間をかけて、一部あたり2.3ヶ月ほど…で書いてまとめて発表していきたいです。


みんなー!金髪ドリルのお嬢様はサイコーだよー!!!!!!

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