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第7話 アスカ登場

 翌日レオはいつも通りギルドワークから帰って来てリアルトに入った。

「あ、レオだ」

 女の子に呼ばれてレオは立ち止まった。赤いポニーテールで、ぱっちりした目をしている。

「レオでしょ? 昨日ラグスビーしてた」女の子は椅子から立ち上がって言った。

「うん。誰?」レオはまだ何故声をかけられたか分からず、取り敢えず名前を聞いた。

「アスカっていうの。昨日の試合観たよ。アスカ興奮しちゃった」

「うん、ありがと」

「そんでね、アスカもラグスビーやりたいの」

「そうなんだ。平民チームに入りたいってこと?」

「そう」

「いいんじゃない? でも俺キャプテンじゃないから、キャプテンに聞いてよ」

「誰?」

「ルイス」

「どこに行けば会えるの?」

「ルイスもギルドワーカーだから、ここで待ってりゃいずれ来るよ」

「えー、じゃレオも一緒に待ってよ」

「俺は……まだ仕事する予定なんだけど」レオはリアルト内の時計を見て表情を曇らせた。15時過ぎだ。仕事を切り上げるには早過ぎる。

「えーつまんなーい」アスカは頬を膨らませて椅子に座った。

 レオはドンテから品物を受け取り、出口へ向かった。

「いつ帰ってくんの?」アスカがレオを呼び止めた。

「ルイス?」

「違う、レオ」

「あ、俺? ん~、2時間くらい」

「ふーん」アスカは退屈そうに足をぶらぶらさせた。

 レオがリアルトに戻ると、アスカはまだいた。

「まだいたんだ」

「アスカ、ルイスに会ったよ」アスカが悲しそうな表情で答えた。

「あ、そう。んで?」

「ダメだって」

「何で?」

「ん~よく分かんないけど、アスカのお父さんが役人だからとか、まだ14歳だからとか言われた」

「お父さん役人なんだ」

「関係なくない?」

「ルイスは役人嫌いだからなー」レオは苦笑した。

「しかも平民チームのラグスビーは仕事じゃないから14歳でも出来るでしょー?」

「そうなんだ、ふーん。まぁ仕事ではないね」

「でしょー?」

「てかお父さん役人だったら政府チーム入ればいいじゃん」

「それは嫌なの。てか出来ないし、アスカ女だから」

「そうなん?」

「政府チームは空軍から編成されるでしょ。女は兵士になれないし、なるつもりも無いけど」

「ああ、そっか」

「アスカね、小さい頃からラグスビー好きでずっとやってきたの。いつか平民チームでプレイしたいなーってずっと思ってたんだけど、皆男ばっかで年もうんと上だし、勇気が出なかったの。でもね、昨日アスカ初めてレオ観て、15歳でしかもセリエンテ出身って聞いて、すごいなーって思って。しかもアスカもウィングやりたいし」

「あ、ウィングなんだ」

 アスカはレオの言葉に頷いた。

 レオはしばらく考え込んだ。

「ラグはレギュラースタンス?」レオが尋ねた。

「そうだよー」

「じゃあ被んないね」

 レオはホッとした表情を見せた。

「何、それ心配してんの? ウケるんだけど! もしアスカがグーフィーでもレオとポジション争いするわけないじゃん。レオ昨日の試合出てたウィングで普通に一番上手かったよ。無理に両ウィングを逆足にするくらいだったら上手い人2人入れた方がいいもん」

「そうなのか?」

 レオは感心した様子で聞いた。

「そうだよ。てか何であんな後半ギリギリに交代したの?」

「いや俺まだ1ヶ月前に始めたばっかだから。前回の試合で初めて見たもんラグスビー」

 レオはそう言って笑った。

「マジ!? 天才」アスカは目を丸くした。

 レオはまた笑った。褒められれば悪い気はしない。

「いや~でも楽しいよなラグスビー! 子供の頃に知ってたら今頃もっと上手くなってただろうに。ガレシアでは子供の頃から皆やんのか?」

「ラグ乗れるのは10歳からだよ。だからラグスビー好きな子は、もっと若いうちから地上でフリスビーするの」

「10歳? 遅くない?」

「だって危ないじゃん。子供なんて落ちたら死んじゃうよ? しかも10歳って言っても実際乗りこなせる人ってそんなにいないし、女なんてほとんど乗らないもん」

「確かに女でラグ乗ってる人ほとんど見たことねーや」

「でしょー。セリエンテは何歳から乗れるの?」

「いや、そんな決まり無いよ。俺は4歳から乗ってたし」

 レオは自分の経歴がガレシアでいかに変わっているかにやっと気付き、笑みが溢れた。

「マジ!? やば! だからあんなキレッキレだったの? あんな乗り方する人いないよ」

 アスカに褒められ続け、レオは段々申し訳なくなってきた。

「アスカいい奴だなー。ごめんな最初冷たくして。俺仕事中だったし、ちょっとよく分かんなくて」

「いいのいいの。慣れてるしナメられるの」

「平民チームはさ、練習に参加するだけなら上手い下手関係ないんだよね。俺は経験ゼロでも練習参加出来たし。ちゃんと平民を代表して戦ってくれるかってところをルイスは意識してるんだと思う。ほら、平民チームで上手い奴は政府チームに引っこ抜かれるんだろ?——何フガだっけ」

「『ペルフガ』ね」助け船を出したアスカは、笑いつつも話を真剣に聞いた。

「そうペルフガ。多分ルイスは今までペルフガいっぱい見てきただろうから、うんざりしてんだよ。アスカはペルフガになりようが無いけど、それでもスパイとして俺らの戦略を親づてで政府チームに伝えるとか出来なくはないじゃん?」

「そんなことしないよー。アスカ政府嫌いだもん」

「そう、それを示さなきゃいけないんだよ。こっち側の人間だって。平民チームは皆ギルドワーカーだからさ、そこで絆が生まれてんだよ。だからさ、アスカもギルドワークやれば絶対皆の信頼獲得出来るよ」

「でもアスカまだ14だもん」

「じゃ俺の手伝いしてよ。俺のアシスタントってことなら大丈夫だろ」

 レオはそう言ってギルドに座ってるドンテの方を見た。ドンテはどうやら2人の話を聞いてたようだ。

「なードンテ?」レオは承認を仰ぐように聞いた。

「おう。レオが責任取るってーならいいぞ。必ず2人で回れよ」

「オッケー。薬草採りは別に分担したっていいだろ?」

 レオが確認するとドンテは頷いた。

「ちゃんと分け前は渡すけど、配達だと普段の収入の半分になっちゃうからそんなに稼げないかもな」

 レオは困った様子でアスカに言った。

「ううん、アスカお金はいいの。まだ実家暮らしだし」

「マジ? じゃあ俺の負担にならない程度に払うよ」

「分かった。ありがとー、レオ!」アスカは満面の笑みを見せた。

「じゃあ今日はもう遅いから、ヒナのところに行こう」

「誰?」

「歩きながら説明するわ。すぐそこだから」

 レオはそう言ってアスカと外へ出た。

「ヒナっていう俺とタメの子がいるんだけど、その子に薬草採り手伝ってもらってんだよ。でもヒナは飛べないから、俺が知らない薬草の採り方を一緒に歩いて行って教えてくれてるんだ。2回目以降は俺1人で行けるんだけど。で、まだまだ知らない薬草あるから、次一緒に行ってくれる日を決めよう」

 2人はヒナの家の前に着いた。レオがノックすると、少ししてからヒナが出てきた。

「はい、あ、レオ君」

「よっ、ヒナ。今大丈夫?」

「ごめんちょっと今薬作り中だから待ってもらっていい? 中で待ってて」

「オッケー。あ、この子アスカ」

「あ、どうも」

 ヒナは早口で挨拶をし、そそくさと奥へ行った。アスカは会釈する暇しか無かった。

 レオは初めてヒナの家に入った。入るとすぐに大きな木製のテーブルがある。その上には鍋や薬草やまな板などが広がっている。壁際にも同じ高さのテーブルが広がっており、大きさの違う砂時計が3つ置いてある。棚には色とりどりの薬草が瓶に詰まって置いてあり、完成品の薬も沢山見える。

 分厚い本も沢山棚にある。

「薬草百科事典」

「魔法薬 上級編」

「庶民の為の魔法薬——よくある怪我や病気の対処法」

「美容魔法薬 塗り薬編——スキンケアの理論」

「美容魔法薬 飲み薬編——内側からのアプローチ」

 

 レオはしばらく室内に呆気を取られた。レオが見学したアパートとは大違いだ。ヒナに目を向けると、火にかけた鍋をかき混ぜならがじっと見つめている。その真剣な眼差しは、いつもの柔らかい目つきとは別ものだ。

 アスカも興味津々と周りをキョロキョロ見回している。

「ごめんお待たせ」ヒナが鍋の火を止め、やっと口を開けた。

「いやいや、悪いね仕事中に」

「ううん。どうしたの?」ヒナは普段のゆっくりな口調で尋ねた。

「次薬草採りに行く時に、このアスカも一緒に連れてくけどいい? 俺のアシスタント」

「うん、いいよ」ヒナはそう言ってアスカの方を向いた。

「初めまして、ヒーラーのヒナです」

「アスカでーす」アスカは軽いトーンで自己紹介をした。

「そこ座っていいよ」

 ヒナが中央のテーブルにある2つのスツールを指差して2人に言った。

「あ、ありがと。2個しか無いけど」とレオ。

「いいよ私は」ヒナにそう言われ、レオとアスカはスツールに座った。

「あそこに階段あるけど、2階もあるの?」レオが尋ねた。

「うん。2階で寝てて、1階は仕事場。このアパートは1階と2階だけセットなんだ。家で仕事したり店を持つ人が1、2階に住んでるよ」

「スゲ~な……」レオは呟いた。マットといいヒナといい、住環境がレオとは全然違う。アスカも役人の娘だから良い暮らしをしてるだろう。

「レオ君アシスタントいるの?」

「まー端的に言うと、アスカはラグスビーの平民チームに入りたいんだけど、キャプテンに認められてないから、ギルドワークやって信頼を獲得しようってこと」

 レオは早口で説明した。

「そうなんだ。アスカちゃん飛べるの?」ヒナはアスカに尋ねた。

「うん」

「すごいねぇ」ヒナに羨ましがられ、アスカは笑顔を返した。

「で、次いつ行ける?」レオは本題に戻った。

「うーん、木曜日」

「3日後か。オッケー。アスカは空いてる? 朝7時から15時くらいまで」

「早いね! うん大丈夫」アスカは少し驚いたが、すぐに承諾した。

「あと薬売ってよ」レオはワクワクした様子でヒナに言った。

「分かった。ちょっと待ってね」

「ヒナに薬草採りを教えてもらう代わりに、俺がヒナの薬を売ってるんだよ」

 レオはアスカに説明した。

 ヒナが完成した薬を取り出して来た。

「これは腰痛に効く塗り薬。特に農作業する人には重宝されるよ。これは脚の疲労を和らげる飲み薬。立ち仕事の人は欲しいんじゃないかな——」

 ヒナは同じ調子で5つの薬の説明をした。アスカも真剣に聞いている。

 レオは薬を受け取り代金を渡して、アスカと家を出た。

「じゃあ明日早速配達やるか。俺はギルドが空いてる9時~19時は基本仕事してるから、ギルドに来れば俺いると思う。いなくても1~2時間で戻って来るから、アスカの好きなタイミングで来て」

「オッケー」アスカはそう言ってラグを広げて飛び乗った。「じゃーねレオ」

 アスカはレオに手を振ると、軽やかに空を飛んでいった。レオは女性が飛ぶのを見て新鮮に感じた。

 翌日の昼間にアスカと合流したレオは、一緒に配達を始めた。この日アスカはレオの後ろにくっ付いて見てるだけだった。

 2日目は、レオがルートを決め、アスカが目的地までのナビゲーションと配達をした。薬の販売はアスカの方が客ウケが良いことにレオは気付いた。

「じゃあ明日の7時5分にヒナん家集合な」仕事終わりにレオがアスカに言った。

「何、7時()()って」

「俺ミミベーカリーでバゲット買わなきゃいけないから」

「何それウケる」アスカは笑って帰宅していった。

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