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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第38話 誤審

「あれはアスカにしか出来ないな! 相手完全にアスカに目奪われてたぞ!」

 メンバーが控室に行く途中でジェイソンがアスカに言った。

「お前も練習で散々引っかかってたじゃねーか」ルイスがツッコミを入れた。

「ジェイソンが良い練習相手だったね」アスカが笑った。

「すごい、前半勝つなんて初めてだよね?」ヒナがマットに聞いた。

「うん。しかも2点差だよ!」マットが興奮気味に言った。

 全員が控室に到着した。

「特に言うことは無い。皆回復に専念しよう」ルイスがそう言って座った。

 5人の救護係がスタメン一人一人に専属で付き、水やタオルをあげたりとケアを行った。ヒナはレオを対応した。

「こんなVIP対応は初めてだぞ」ジェイソンが嬉しそうに言った。

「ベンチにいた時のルイスなんて5人係で対応してたから、王様みたいだったよ」

 マットが笑いながら言った。

「こんな雰囲気の良いハーフタイムは初めてだな〜。妙な気分がする」レオが呟いた。

 選手が皆笑顔の中、アスカだけは肩で息をしている。

「アスカ疲れた?」マットが声をかけた。

「うん、ちょっとね」アスカが答えた。

「アスカが激しくディフェンスしてくれてるお陰で失点を防げてる。よく動いたよ」

 ゴメスが労った。

「これでもまだレオほどディフェンスに貢献出来てないからね」

「アスカ、中途半端に体力温存しようとしてダラダラプレイするより今の方がいいよ。後半バテたら一旦下げるから、メリハリ付けて行こう」

 ルイスが言うと、アスカはゆっくり何度も頷いた。

 ハーフタイムが終わりレオ達がフィールドに戻る途中、パフォーマンスを終えたガレシアエンジェルスとザ・ティビアスとすれ違った。ジャスミンがレオに笑顔で目配せをする——遊女の立場上、公に平民チームを応援することは出来ないのだろう。レオも笑顔を返した。

 レオはラグに乗ってフィールドに出ると、タリアとジョマナの前に行った。

「必ず助けるからな!」

 レオはタリアにそう叫んだ後、ジョマナを一瞥してからエンドゾーンへ向かった。ジョマナが可哀想な立場に置かれているのは知っているが、政府のヒーラーを辞めたいかどうかは分からない。だからジョマナに声をかける勇気は無かった。

 両チームが前半と逆サイドのエンドゾーンに整列する。

『平民チームのスローイングから後半スタートです!』

 ルイスが勢い良くフリスビーを投げる——政府チームは素早い展開でゴールを決めた。

「やっぱあっちは2人交代してるから元気だな。切り替えて行こう」

 ルイスがメンバーに声をかけた。

『点差は1点差! 平民チームは再びリードを広げることが出来るか! フリスビーを持つのはジェイソン——レオが手前で受ける! 2人プレスに入る! レオが1人かわして——トルネードで2人目を振り切る! アスカへのパスはどうだ! ちょっと逸れたか!——おーっと、アスカが背面でキャッチ! ゴーーーーーール!』

「レオ君、アッちゃん!」ヒナが拍手をした。

「やっぱあの2人が揃うと違うね!」マットが叫んだ。

『平民チームのWエースが魅せてくれました! 転落したら大惨事のトルネードを、レオはこんなにも早く繰り出してきました! そしてアスカが体の柔らかさを活かして見事なキャッチ! 7対5と平民チームが2点差をキープしました!』

 その後の政府チームのオフェンスで、政府チームはアスカがマークしてるウィングの8番ドグラスをひたすら動かさせる。アスカが必死にマークに付く。

「アスカ、ゾーンで守れ! 付いていかなくていい!」

 ルイスが指示したが遅かった。ドグラスにフリスビーが入ると、アスカはプレスをかけた。ジェイソンがカバーに入る。

「アスカ、マーク代われ!」ジェイソンがアスカに指示する。

 するとフリスビーは元々ジェイソンがマークしていた5番グレゴーへ渡る。グレゴーが空いたスペースをドリブルし、レオがマークしているウィングにパスをしてゴールを決めた。

「ダメだ。アスカの果敢なディフェンスを逆手に取って体力削ってきやがった。アスカ一旦下がれ。マルシオ呼んで」ルイスがアスカに指示した。

「うん、ごめん……」アスカは謝って、ベンチへ下がった。

『6番マルシオが今度はアスカの代わりに入りました! ライトウィングとレフトウィングを両方こなしております!』

 レオは未だにマルシオと合わせるのが苦手だった。前回の反省を踏まえてマルシオとの練習を重ねたが、どうしてもアスカ並のシナジーが生まれない。

『ゴメスがロングパス!——風の影響か飛距離が出ません!——レオが何とかキャッチ! しかしまだセントラルゾーン内だ。味方が全員エンドゾーンへ向かう! レオはマルシオへパス!——しかしグレゴーのナイスブロック! フリスビーは落としましたが、政府チームのオフェンスチャンスがやってきました!』

「確かに風吹いてるよな。それで前半は平民チームが追い風で有利だったのか?」

 フィリップが言った。

「おい勘弁してくれよ。どうするんだよそしたら!」サイモンが頭を抱えた。

「だからレオのパスもブレてんのか? アスカは華麗に背面キャッチしたけど」

 オリバーが険しい表情で言った。

 平民チームがオフェンスに苦戦する一方、政府チームは追い風を利用しロングパスでスピーディーに点を決める。2点返され、7対8と遂に逆転された。

「レオ君頑張って……」ヒナが必死に祈る。

「このままじゃ嫌だよ……負けちゃうよ!」マディソンが涙目で言った。

「レオを信じよう」ミラがマディソンを励ました。

「マルシオ、パスがろくに飛ばないから俺が手渡しする」

 レオが自陣エンドゾーンでマルシオに言った。

「手渡しって!」マルシオが声を上げた。

「しっ! 相手に聞こえるだろ。俺がエンドゾーンに入ったら俺の背中側に来てくれ。そっちの方がマルシオ受け取りやすいだろ」

「——分かった」マルシオが頷いた。

「そうだな。パスも短く繋いで行こう。レオが手前で受けて、エンドゾーンまで運んでマルシオに手渡しな」ルイスが作戦をまとめた。

『政府チームは3点連続得点によって初めてリードしました! 平民チームはここが正念場です!——政府チームのスローイングをルイスがキャッチしてオフェンス開始だ!——安全にパスを繋いでいく!——ジェイソンがブレイズでレオにパス! 強風には効果的な技です!——レオが上からディフェンスを抜き去る! エンドゾーンへ突っ込み、マルシオが逆サイドからアプローチして来た! レオがフリスビーを差し出す! 届くのか!——あーっと、マルシオがジャンプしてキャッチ! 勢い良く転倒しました!』

「あの高さからはヤバいよ! 行こう!」

 マットが補欠選手と急いでマルシオを救出した。

『審判によってゴールが認められました! マルシオが捨て身でレオからの手渡しを受けゴールを決めました! 8対8の同点です!』

「あいつやるな。補欠としての役割を果たした」ネクタリオスがベンチで呟いた。

 ルイスがベンチへ駆け寄った。

「マルシオよくやった! アスカ行けるか?」

「うん!」アスカはもう立ち上がって準備している。「マルシオ男見せたね! あとは任せて!」ラグの上でぐったりしているマルシオに声をかけ、ルイスと一緒に戻った。

「マルシオ君は控室でちゃんと救護しよう! 3人付いて!」

 ヒナがヒーラー3人に指示した。マルシオは急いで控室へ運ばれた。

「さっきと同じ間違いはしないぞ。ゾーンディフェンスだ」

 ルイスがスタメンに指示した。

『スタメンが再度揃った平民チームに対して政府チームはどう攻める! 両ウィングが揺さぶる!——ここでロングパスが出た! ウィング同士の競り合いだ!——アスカが弾いてブロック——ジェイソンが見事にキャッチ! 平民チームがスティールしました! ゴメスに出す!——ルイス——アスカ! 華麗にディフェンスをかわしてエンドゾーンに突っ込む! レオが待っている!——しかしジェイソンにノールックパス! ゴーーーーーーール!』

「アスカやるぅー!」マットが吠えた。

『レオと逆サイドに必死に飛んで行ったジェイソンをアスカは見逃していませんでした! エンドゾーンの深い所からバックパスをすることで、向かい風の弱点を逆手に取りました! 何というラグスビーIQの高さ!』

「アスカ様スゴすぎる〜!」リンデが発狂した。

「よく見てた、アスカ!」ジェイソンがアスカとハイタッチした。

「アスカちゃんすごいな〜。相手完全に翻弄してる。やっぱり頭良いんだね」

 ミラが尊敬の眼差しでアスカを見た。

「これで逆転だよ!」マディソンは隣で大喜びだ。

 この後政府チームが1点返し、9対9と再び同点になる。

『勝利へ先にリーチをかけるのはどちらだ! ポゼッションは平民チーム! ゴメスが様子を伺う! ここでパス! レオが、キャッチしません!——アスカがキャッチした! ゴーーーーール! ゴメスの見事なロングパスで平民チーム10点目を上げました!』

「やった! よくあの距離届いたね! 風止まったんじゃない?」

 マットが立ち上がって風向きを確認した。

「止まったというより向きがちょっと変わったね。ゴメスはそれを読んだんだよ」

 ネクタリオスが説明した。

「そんなこと出来るの!?」マットは驚いた。

「ゴメスとルイスは出来る」

「マジかよ……」マットが呆然とした。

「本来ハンドラーとポッパーは風向きを読めなきゃ務まらないんだ。ジェイソンはそれが苦手だから、ブレイズとかハンマーで無効化させる」

「ジェイソンがブレイズを今日多用してたのはそういう理由だったんだね。やっぱり観てるだけじゃ分からないことが沢山あるな〜」

 マットは感心した。

「あれをスルーしたレオも見事だよ。アスカの位置取りが染み付いてるから見なくても分かったんだと思う」

「チーム力が増して見えるよね。やっぱり練習の成果か」

「それは間違い無いね」

 その後両チームの攻防が続くが、政府チームが1点を返し再び同点となる。

 ジェイソンが主審へ駆け寄った。

「おい、しっかりファール取ってくれよ! グレゴーがガッツリ押したの見てねぇのか?」

「全選手同時に見れるわけないだろ! 転倒した時はちゃんとファールを取っている」

 主審が毅然たる態度で言った。

「じゃあ何の為に副審がいるんだよ! あいつらの目は節穴か? ラインだけ見てサボってんじゃねーのか?」

「これ以上試合をディレイさせるとファールを出すぞ!」主審が脅した。

「ジェイソン、よせ。ここで退場したら終わりだ。俺達のオフェンスなんだから、ここで決めるぞ」ルイスがジェイソンを制した。

「けっ」ジェイソンが主審を睨んで自陣へ引いた。

『一進一退を繰り返し、10対10となりました! 平民チームのオフェンスです!』

「レオさんお願いします! もう少しです!」エドウィンは必死に願う。

『風は乱暴に吹き乱れております! この風をどう使うか! ルイス、ジェイソン、ゴメスが固まって突進します! ドリブルで突破しようという目論見か! ジェイソンとゴメスがディフェンスをガードする!——ルイスが下を抜けた! レオにパス!——アスカが近づく! アスカにショートパス! レオは裏を取ってエンドゾーンに入った! アスカが出す!——レオがキャッチ!』

「やった!」ヒナが立ち上がった。

『っと、副審が手を挙げました。アウトオブバウンズですか?』

 MCサントスが困惑した声を出した。

「おい、どこ見てんだよ! 入ってるだろ!」

 レオがフリスビーを持って副審に詰め寄った。

「奥のラインは確認し辛いのだ! 私にはアウトに見えた」副審が言った。

「その為に審判3人いるんだろ! 3人で縦、横、上のラインをチェックするんだろ?」

 副審は黙り込んだ。主審ともう一人の副審が飛んで来る。平民チームのメンバーも全員近くに寄る。観客からは大ブーイングが巻き起こる。

「私が奥のラインを見ていたが、アウトだった」もう一人の副審が言った。

「どこを見てりゃあれがアウトになるんだよ! 完全に入ってたじゃねーかよ!」

 ジェイソンが猛抗議した。

「お前らじゃ話になんねぇ」

 レオが審判3人に吐き捨て、VIP席の国王の近くへ飛んで行った。

「おい、国王様へ近づくな! 射つぞ!」

 護衛の1人が叫んだ。エミリオは傍観している。

「審判は公平にジャッジするっていうルールが破られた。俺達の勝ちだぞ」

 レオが空中で静止して国王に言った。

「審判とて人間。ミスはするものだ。試合はまだ終わっていない」

 国王が澄ました顔で言った。

「その理屈が通るならこっから何点入れたってアウトオブバウンズにされちまうじゃねーかよ! どうやってあいつら脅した? 政府チームが負けたら殺すとでも言ったのか?」

「そんなことが今関係あるか?——おい」国王はエミリオを呼んだ。「これ以上試合を止めるようならこの小僧にファールを出すように審判に伝えて来い」

「——かしこまりました」エミリオは暗い顔で返事をし、審判の元へ飛んだ。

「お前こんな汚いやり方してどうなるか分かってんのか? 1万人が見てるんだぞ?」

 レオは国王にそう言い捨て、隣の夫人を一瞥した。夫人は緊張した様子でレオを見ている。レオは国王から離れ審判達の元へ戻った。選手と審判は全員ラグを降りている。メンバー達はまだ抗議を続けている。

「試合妨害でファールだ! ファール2個で退場!」

 主審がジェイソンに赤いカードを見せた。

「おう! いくらでも退場にしやがれ! こんな試合続けれるわけねーだろ!」

 ジェイソンはその場を離れない。

「お〜い、さっさとゲーム再開してくんないか? こっちは退屈してんだよ」

 グレゴーが気怠そうに言った。

「あんたが出てくるとこじゃないんだよ! クズは引っ込んでて!」

 アスカがグレゴーを睨んだ。

「おい、兵士に向かって何て態度取ってんだ」グレゴーがアスカに掴みかかろうとする。

「アスカに手出すんじゃねーよ!」ジェイソンがグレゴーを止めに入った。

「2人共落ち着け!」エミリオが2人を引き離した。

「お前ら政府と取引してるだろ?」レオが審判3人を見た。「どうすればこの判定が覆るんだ? 金か? 金ならいくらでも用意するから頼むよ」

「スポーツに賄賂を持ち込んでいいとでも思ってるのか!」主審が怒鳴った。「お前もファールだ。2個目で退場!」主審はレオにもレッドカードを突き出した。

「俺を退場にすんのか? じゃあいいよ。今から控室行ってナイフ持って来るから。こういうことも想定して今日持って来たんだよ。戻って来てお前ら3人刺殺してやる。俺はもうすぐ死ぬんだから人を殺すなんてためらわないぞ」

 レオがそう言うと主審は青ざめた。

「レオを退場にするのはマズイですよ……」副審が小声で主審に言った。

「……今のファールは無しだ」主審が咳払いをして言った。

 そこに弓矢を持った空軍兵士が3人飛んで来た。

「さっさと試合を再開しろ! 射つぞ!」兵士が平民チームを脅した。

「納税してる平民を堂々と射ってもいいと思ってるのか? お前を食わせてるのは誰だよ」ルイスが言った。

「『射つぞ! 射つぞ!』ってお前らそれしか脳無いの?」レオが呆れた。

「このままでも平行線を辿るばかりだ。再開しよう」

 ゴメスがメンバーに言った後、審判3人を睨んだ。

「どちらの味方に付くべきかよく考えるんだな」

 ジェイソンはベンチに行き補欠のポッパーを呼ぶと、控室へ行った。

『え〜、どうやら試合は続行するようです——政府チームのオフェンスです』

 MCサントスが気まずそうに声を発した。会場から大ブーイングが起きる。

「これで負けたらどうすんだよ!」サイモンが怒りを顕にした。「しかもジェイソン退場しちまったじゃねーか!」

 政府チームがパスを回しながら前進して行く——エンドゾーンへパスが出る。レオは相手ウィングと競り合うが、手で体を押される——レオはバランスを崩した——このまま粘ることも出来るが、それでは相手に競り負けてゴールを許してしまうし、ファールの笛は鳴っていない。審判は政府贔屓を貫いているようだ——なら転倒してファールを取るしか無い。

 レオは敢えて転倒した。大した怪我ではない。しかし笛が鳴らない——ウィングがフリスビーをキャッチした。主審がゴールの笛を吹く。

「ファールはどうした! レオ押されて転んだじゃないかよ!」ルイスが猛抗議した。

「今のはわざと転んだようにしか見えない」主審が言った。

「どんな屁理屈だよ! 押されても『見えなかった』って言って、転んだら『わざと転んだ』だと? お前の判定によってレオの命が失われるんだぞ!」

 MCサントスは政府チームのゴールをアナウンスせずに黙っている。それを見かねてか、国王の護衛がメガホンでアナウンスをした。

「11対10で政府チームの勝利! よって、レオ・フィッシャーは処刑される!」

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