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第6話 デビュー戦

 翌日レオは配達中に空中でルイスを見つけた。

「ルイス! おーい!」

「おう、レオ」ルイスは振り返り停止した。

「俺、昨日初めてラグスビー見たよ。ルイスめっちゃカッコ良かった!」

「おう、ありがとう。ボロボロだったけどな」

「そんでさ、俺ウィングやりたいんだけど、練習参加してもいいかな?」

「ウィング? まぁいいよ。でも昨日初めて見たんでしょ?」

「うん。マットが色々教えてくれて。昨日あの後マットと一緒に練習もしたんだ」

「そうか。じゃあ土曜の14時にフィールド来てよ」

「オッケー! それまでにもっと練習しておくよ!」レオは意気揚々と配達へと戻った。

 レオはヒナから買った薬を全部売り切った後にヒナの家を訪ねた。

「はーい。あ、レオ君」

「ヒナ、俺ヒナの薬全部売ったよ!」

「え、すごいじゃん!」

 レオが誇らしげに報告すると、ヒナは口を手で覆って喜んだ。

「薬買ってくれた家は覚えてるから、配達の用事無くても普通に訪問すれば売れると思う。だから次はもっと沢山の種類の薬売ってよ。傷薬や風邪薬何個も売るわけにいかないし」

「分かった。作っておくね」

「で、次また別の薬草採るの手伝ってくれる?」

「うん、いいよ」

 数日後レオはヒナと薬草採りに出かけた。マットとは毎朝ラグスビーの練習をしているが、今日はさすがに休まなければならなかった。

 出来るだけ多くの種類の薬草の採り方を覚えれば、もっと効率良くお金を稼げ、ラグスビーの練習にもっと時間を割ける。将来への投資だとレオは自分に言い聞かせた。

 レオは、未だにヒナやマットより全然貧乏であることは自覚しつつも、収入の増加よりラグスビーの上達に重きを置くようになった。

 そして土曜日。レオは初めて平民チームの練習に参加した。

 地上からフリスビーを投げるマットとの練習では不足しているものが沢山あった。相手のかわし方、ポジション取り、ディフェンス、そもそもルールの把握。課題だらけではあったが、今後どういう練習をすればいいかより鮮明になった。何よりも、レオはラグスビーの楽しさに虜になった。

 毎週末チームでの練習に参加する度に、レオは段々と自信が付いてきた。

 

 そしてとうとう試合当日。マットファクトリーにまず立ち寄った。

「遂に来たね、試合の日」マットはレオよりもワクワクしていた。

「うん。試合に出たいなー」

「出れるよレオなら。チームの練習見てても、この1ヶ月でレオみるみる成長してるもん」

「じゃ行ってくるわ」

「あとで応援しに行くよ」

 試合開始の2時間前にレオは会場に着いた。控室に入ると既にルイスがいた。

「これレオのユニフォーム。何とか間に合ったよ」

 ルイスがレオにユニフォームを渡した。背番号は2。『レオ』と名前が入っている。

「うおー! ありがとう」レオは早速ユニフォームに着替えた。

 メンバーが全員揃ったところで、ルイスがスタメンを発表した。やはり予想通りレオはベンチスタートだった。レオはいつ交代しても大丈夫なように、入念にストレッチとイメージトレーニングをする。

『さー皆さん、ようこそラグスビーマッチへ! ゲームの実況を務めますのは、わたくしMCサントス!』

 お馴染みの声が聞こえてきた。

 スタメンの5人がフィールドへの入口でラグに乗り、勢いよくフィールド上に舞い上がった。補欠のレオはてくてくと平民チームのベンチへ歩いた。会場には前回と同じくらいの客が入っている。国王も見えた。ということは今日も政府チームは一軍だ。

 前半は2対6と、前回よりはマシな内容だった。

 後半開始時はポッパー1人の交代があったが、ウィングの交代は無かった。

 後半は完全に政府チームに掌握された。平民チームはゴールを決められないまま、2対9と突き放される。

 ウィングの選手が1人フィールドからベンチへ降りてきた。

「レオ、交代だってよ」

「俺?」レオは急いでラグを広げ、飛び乗った。チームに合流すると、皆の顔が暗いのが分かった。

「レオ、頼むぞ」ルイスが声をかけた。

「お、おう」レオは緊張した声で返事をし、右端にスタンバイした。

 ホイッスルが鳴り、試合が再開した。

 レオは一気にスピードを上げ、相手選手を一旦全員かわした。相手エンドゾーンの近くまで行き味方のパスを待つ。

『さあゲームは終盤に差し掛かっております! ここで平民チームはメンバーチェンジだ! えー、ちょっと背番号がここから確認出来ませんが……、あ、今見えました。2番レオ! おそらく初出場ではないでしょうか。え~……』

 MCサントスが手元の資料を確認する。

『はい、2番レオ・フィッシャー。セリエンテ出身の15歳! 国外出身の選手は今まで何人もおりましたが、セリエンテ出身は珍しいのではないでしょか。わたくしMC務めてかれこれ10年経ちますが、記憶にございません! さー一体どんなプレイを見せてくれるのか!』

「レオ頑張れー!」観客席からはマットが声援を送っている。

 レオは何とかパスを受けようとスペースを探す。相手はマンツーマン・ディフェンスだ。レオは小刻みにラグの進行角度を変え、相手ディフェンスを振り払う。

『おっと何だあの動きは!? 平民チーム2番レオ、いきなり魅せてくれました!』

 しかしルイスからのパスに合わせられず、フリスビーを取り逃す。レオは申し訳なさそうな表情でルイスを見るが、ルイスはグッドサインを出した。

 今度はディフェンスだ。自陣のエンドゾーン近くまで一気に戻る。

 マークしてるウィングへのロングパスが相手から出た。レオは全速力でフリスビーを追いかける。

『さーパスが出た! 政府チームのゴールチャンスだ! っとそこへ2番レオがブロック! フリスビーは落としてしまいましたが、ゴールを防ぎました!』

「ナイス、レオ!」ルイスが声をかけた。

 その後もレオは何とか相手の攻撃をしのぎ、平民チームに再びオフェンスのチャンスがやってきた。

 今度は浅く待機して、自分でフリスビーを運ぶことにした。ポッパーの3番ゴメスからパスを受け、前を向く。

『そしてレオ。おーっとまたこの動き! 一瞬でディフェンスを突破したぞ! まるでライトニングのようだ!』

 観客がざわめいた。

 レオは相手エンドゾーンまでフリスビーを運び、レフトウェイングの6番マルシオへとパスした。しかしコントロールを外し、パスが通らない。レオは悔しがりマルシオに謝った。

『パスは残念ながら繋がりませんでした! しかしレオ、なんていう動きだ! 空中に透明のレーンが存在するかのように、ギザギザと向きを変えて飛んで行くその様!』

 その後平民チームは1点失い、後が無くなった。

「レオ、いいぞ。確実に相手のペースは落ちてる」

 ルイスに褒められたが、レオは自分が出場してから初めての失点を悔しがった。

 その後試合は硬直する——

『得点は10対2で政府チームがリード! しかし政府チーム、あと1点を中々押し込めずにいます!』

 そして、ゲームはようやく動く。

『おっと、レオがスイッチした! そしてゴーーーーーール!! 一瞬の出来事だ! レオが両足を入れ替え逆方向に進んでディフェンスをはがし、ルイスからのパスを受けてゴールしました!』

 観客から大歓声が上がった。

「うおー! レオ!」マットが立ち上がって大声で叫んだ。

「ナイスパス!」レオはルイスとハイタッチした。

 レオはゴールを決める感覚を初めて味わった。ぐるりと観客席を見渡すと皆が歓声を上げている。その瞬間レオは、観客席にいる国王なんかよりもこの国の王になった気分だった。

その後レオは何度も相手パスを阻止するも、最終的に1点を押し込まれ、平民チームは3対11で負けた。

「リアルトで打ち上げ&反省会するけど、来るか?」

 試合後控室でルイスがレオに聞いた。

「あ、行く! でもリアルト日曜日休みじゃない?」

「試合の日はいつもパブ開けてもらってるんだよ」

 レオは他のメンバーと一緒に空を飛んでリアルトへ向かった。

 中へ入るとマットが既にいた。

「レオ! ナイスゴール!」

「サンキュー」レオは浮かない表情でマットの祝福に答えた。

「何だよ、嬉しくなさそうじゃん」

「いやゴールはめっちゃ嬉しいよ。でも俺入ってから2点取られちゃったから、負けだよ」

「何言ってんだよー。まだ初出場じゃん。しかもレオ入ってから試合終わるまでめっちゃ長かったよ。レオ入る前までと同じくらいの長さなんじゃないかと思ったし」

「そりゃ言い過ぎでしょ。でも俺思ったんだけどさ、ディフェンスの方が得意だなと思ったわ」

「いや~すごかったよディフェンス」マットが感心するように称賛した。

「そう言えば、レオの名字ってフィッシャーなんだね」

「あ、うん。普段名字なんか名乗らないからな」

「ハーフバゲットかと思ったよ。毎日ミミベーカリーのバゲット半分だけ買ってるじゃん」

 マットの冷やかしにレオは爆笑した。

「ハーフバゲット! レオ・ハーフバゲットはヤバいな! 改名するか!」

 その後もレオはマットや他のメンバーと試合について語り明かした。

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