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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第36話 マディソンの本音

『それではペアリングが終了しましたので、2人乗りを開始します! あちらの出口を出て、コースに従ってゆっくり低空飛行して下さい! エンジョイ!』

 MCサントスが言葉を締めた。300近いペアがゾロゾロと出口へ流れる。

「レオとマディソンか〜」マットが2人に声をかけた。「唯一僕の知り合いのペアだよ。脇で見物してるね!」マットはそう言ってラグに乗り、観客席の頭上から出て行った。

「マディソン、ルパカリアを見物したことある?」レオが歩きながら尋ねた。

「あるよ勿論。子供の頃から毎年見てる。10歳くらいからはペアリングから見てたかな」マディソンが答えた。

「そうなの? 道理で皆15歳でも戦略を理解してるわけね。俺なんか隣でパールが説明してくれなきゃチンプンカンプンだったよ」

「何でパールが一緒に居たの?」

「インタビューの時にオフレコでどこ行くか教えてくれって言われたんだよ。観に行くからって。だから教えた」

「ふ〜ん」

 2人は会場を出た。見物人が道の脇にズラリと並んでいる。

「コース分かんないけど、取り敢えず前の人に付いていけばいいか」

 レオはそう言って、ラグをリュックから取り出して広げた。ラグに飛び乗って手を広げる。

「行くよ?」

 マディソンがそう言ってラグに飛び乗り、レオに抱きついて背中に手を回す。

 マディソンの心臓の鼓動が聞こえる。レオの心拍数も高まる。

「いい?」レオが確認するとマディソンが返事をした。

 レオはゆっくりと低空飛行を始めた。前後左右に他のペアもいる。

「これはこれで結構難しいような気がするんだけど」レオが飛びながら言った。「普段飛ぶ時こんなに混んでないじゃん。上から越したくなる」

「間隔しっかり空けた方がいいよ。転ぶ人いるから」マディソンが言った。

「マジで? 気を付けよう」

 脇では見物人が声援を上げている。

「レオく〜ん、マディソンちゃ〜ん」

 ヒナがマットの隣で歓声を送っている。レオは軽く手を振った。

 沢山の人がレオの名前を呼んだ。レオは頑張って笑顔を振りまく。

 前が急にスピードを落としたので、レオが慌てて止まった。

「うわっ! 何だ?」

 レオが落ち着いて前のペアを越すと、その先でアスカがラグから降りていた。

「アスカ大丈夫?」マディソンが尋ねた。

「うん……」アスカが不機嫌そうに返事した。

「ごめんごめん! バランス崩しちゃった!」ニキビ顔の青年がアスカに謝った。

「アスカ様に無礼だぞ!」脇でリンデが青年に怒鳴っている。

「はぁ——レオ、先行こう」

 マディソンが溜め息をついた。レオは黙って従った。

「まともに乗れないなら恥かくだけなのに、何で参加するかな……」

 マディソンが悪態をついた。

「恥より豚の丸焼きが勝つんじゃない?」レオが言った。

「男って本当恥知らずだよね」

「すんません」レオは取り敢えず謝った。

「別にレオのことは言ってないから」マディソンがぶっきらぼうに訂正した。

 しばらく飛んでいると、ミラのペアが追い越してきた。周りは迷惑そうに道を空ける。

「もっとスピード落として。迷惑になってるでしょ」ミラが首の短い青年に注意した。

「大丈夫! 僕はこれくらい平気さ!」青年は聞く耳を持っていない。

「何であたしの友達は皆あんなクズ男に当たってるわけ?」

 マディソンがまた溜め息をついた。

「アスカもミラもラグ乗るのめっちゃ上手いから余計可哀想だよな」レオが同調した。

「そうなんだよ。上手いとか自分で言う奴に限って下手くそだからね」

 先を進むと、フィリップとシオネが手を振っている。

「マディソンさ〜ん、レオさ〜ん!」シオネが声援を送った。

「よっ、お似合い!」フィリップが茶化した。

「あんたは黙ってな、チキン野郎」マディソンがフィリップに吐き捨てた。

「チキン野郎って」レオが苦笑した。

「シオネとグズグズしてんだもん、チキン野郎じゃん」

 段々とラグスビーフィールドが見えてきた。そろそろ終わりのようだ。マーセラとテスが立っていた。

「レオー!」マーセラが手を大きく振っている。

「え、テス余ったの?」レオが2人の前で静止した。

「うん。でもね、あたしはルイスと結ばれるべきってことなんだよ!」

 テスが爽やかに言った。

「テスのポジティブさ分けて」マーセラが鼻で笑った。

「そうか、じゃあ余って良かったな……」レオはそう言ってスピードを再度上げた。

「友達?」マディソンが聞いた。

「まぁ知り合い」

 2人はようやくフィールド入口まで到着した。時刻は15時前。20分程飛行したことになる。レオがラグを静止すると、マディソンが飛び降りた。

「ふぅ——中々面白い経験だった」レオがラグから降りて言った。

「そうね。お疲れ」マディソンが普段通りのトーンで言った。

 2人はフィールド内に入り、フードコーナーへ向かった。

「これこれ! これを待ってたんだよ! 良い匂いするなー!」

 レオは期待を膨らませた。

 何台もテーブルがあり、その上に豚の丸焼きがほぐされた状態で大皿に乗っている。レオはドミンゴとMCサントスがいるテーブルに行った。

「ようレオ! 紙あるか?」ドミンゴが聞いた。

「あ——はい」レオはローブのポケットから紙を出してドミンゴに渡した。

 ドミンゴは紙を受け取り、豚肉を約200グラムずつ2つの皿に乗せてレオとマディソンに渡した。

「肉は貴重だからこれだけな。サイドディッシュは皿に盛りたいだけ盛ってくれ」

「うん、ありがとう」レオが礼を言った。

 サイドディッシュは、ローストされたトウモロコシ、ジャガイモ、芽キャベツが置いてあった。良い塩梅に焦げ目が付いている。

「これも旨そうだな」レオは全種類皿に盛った。

「レオどれが一番食べたいの?」マディソンが尋ねた。

「う〜ん、芽キャベツかな」

「そう」マディソンはそう言うと、トウモロコシをスキップして、ジャガイモ少量と芽キャベツを大量に皿に乗せた。

「何で? マディソンが食いたいもん食ったらいいじゃん」レオが言った。

「あたし少食だし、お腹減ってないもん」

「そうなの? 分かった」

 2人はフードコーナーを出て座る場所を探した。フィールド内で、沢山のペアがラグの上でフードを食べている。

「まぁ適当に座るか」

 レオがそう言って歩いていると、オリバーがフードの皿を持ってやって来た。

「レオ、マディソン。俺も一緒に食っていいか?」オリバーは少し焦った表情で聞いた。

「何でよ。ペアで食べてよ」マディソンが冷たい声で言った。

「彼氏と合流するって言って消えちまったんだよ」

「マジで?」レオが驚いた。「本当にいるんだな〜そういう人」

「どこにいるのその女?」マディソンが聞いた。

「ん? いや知らん」

「ただの口実じゃない? 一緒に居たくないからもう帰ったのかもよ?」

「お前は何でそういう発想になるんだよ? 普段いくら冷たい態度取ってもいいけどよ、今日くらい優しく接することは出来ないのか?」

 オリバーが悲しげに言った。

「一緒に食おうよ。マディソン、いいじゃん」レオが言った。

「何で? ご飯くらい1人で食べれないの?」マディソンがオリバーに言った。

「ただのご飯じゃねーだろ。ルパカリアだよ! ルパカリアで独りで食うのがどれだけ惨めか分かるか? ペアリングで余った方がマシだよ!」

 オリバーが声を荒げた。

「独りになるリスクも承知の上で参加してるんでしょうが!」

「お前はレオ引いたからそうやって言えるんだよ。今年初めてだし、まだ苦い思いしてねーだろ」

「もういいよ2人共!」レオがついに痺れを切らした。「俺は今月死ぬかもしんないんだよ! 今日くらいギャンブルのこと忘れて楽しみたいのにさ、これじゃ全然楽しくねーよ。フード冷めるし、俺独りで食うから、2人で食ってくんない?」

 レオはそう言ってその場を去ろうとした。

「だからじゃん!」マディソンが涙目で言った。「レオもういなくなっちゃうかもしれないから、ルパカリアだけはあたしが独り占めしたかったんだよ! ミラは紙結んでないの。あたしの為に嘘付いてくれたんだよ!」

「え?」レオはマディソンの言ってることが信じられなかった。

「レオはどうせあたしのこと興味無いの知ってるから、そこまでしないとペアになれないと思ったの! せっかくペアになれたんだから、2人で時間過ごしてよ……」

「何で俺が死ぬかもしれないって時にマディソンのわがまま聞かなきゃいけないんだよ! 俺はタリアの為に、ジョマナの為に、エドウィンの為に、シオネの為に生きてんのに、更にお前の為にも生きろって言うのか! 俺と過ごしたかったら正直に言えよ! いつも俺のこと興味無いみたいなこと言ってさ」

 レオは怒りが込み上げた。周りの人達は3人の口論をジロジロと見ている。

「いや〜絵になる!」

 パール・メイソンが大袈裟に拍手をしながらレオ達の方へやって来た。

「やっぱ今年はここのルパカリア来て良かったわ〜。ドラマに溢れてるわね。あなた達俳優なの? 脚本家どこ?」

 ハイテンションのパールにレオは拍子抜けしてしまった。

「いや今そういうノリじゃないんだけど……」レオが呆れるように言った。

「レオ君、ヒーラーを解放する為に沢山の重圧背負って生きてて辛いわよね〜。だからプライベートくらいわがままになる気持ち分かるわ〜。興味の無い人と一緒にいるのしんどいものね〜」

 パールはハイテンションのまま続けた。

「レオ君、今一度2週間後に死ぬこと想像してみて。ここでマディソンちゃんと二人きりの時間を過ごすかどうかで、あなたの死後の印象がガラリと変わるわよ〜」

「どういうことだよ……」レオは話がどこに進んでるのか分からなかった。

「ここでマディソンちゃんに尽くせば、世の女性が妄想に浸れるのよ。『もうすぐ死ぬかもしれないのにこんなに尽くしてくれるなんて、最上級の愛だわ! 私もレオ君とペアになりたかった!』ってね。レオ君、ガレシア中の女が崇める神になれるわよ。神になりたくない?」

「神って言われても……てか俺は元々マディソンと2人で食うつもりだったよ。じゃあオリバーはどうなるんだよ? 1人で食えって言うの?」

「オリバー君、あたしと時間潰さない? あたし結構良い話し相手よ〜」

 パールがオリバーを誘った。

「俺はそれでいいよ」オリバーが頷いた。

「これで一件落着じゃな〜い? じゃあね、神様!」パールがレオに手を振った。

 レオは何が起こったのかよく分からなかったが、怒りは収まっていた。マディソンと無言で歩き、ラグを敷いて座った。

 レオは豚の丸焼きを食べた。

「旨っ」レオは、ほっぺが落ちるほどの美味しさに感動した。

 肉はハーブとニンニクの風味がしっかりと行き渡っている。ジャガイモと芽キャベツは付け合せに非常に良く合う。レオはしばらく食事に没頭した。食べていく内に段々と気分が良くなってきた。マディソンはレオを気まずそうに見ながらも、黙々と食べた。

 レオはトウモロコシ以外を全部食べると、一息ついた。

「食いもんが目の前にあったのが良くなかったな」

 レオは唐突に言った。

「俺料理冷めるのスゲ〜嫌いなんだよ。豚の丸焼きがどんどん冷めていくのを見てイライラしちまった、ごめん」マディソンの顔を見て謝った。

「どういう謝り方?」マディソンが吹き出した。「やっぱレオってぶっ飛んでるよね」

「よく言われる」レオはそう言ってトウモロコシをかじった。

「こんなあたしと一緒にルパカリア過ごしてくれてありがとう」

 マディソンが無理矢理笑顔を作って言った。

「あたし男の子に正直になるのが苦手で、いつも突き放すようなこと言っちゃうの。好意を伝えて返って来なかったら辛いから」

「別に俺恋愛に興味無いだけで、女の子と接したくないわけじゃないからね? 毎晩ヒナの家でアスカとマットと4人で飯食ってるし。だから普通に飯食おうよ。ランチとか」

「いいの?」マディソンは驚いた。

「いいに決まってんじゃん」レオが笑った。「マディソンは既に友達なんだからさ、わざわざルパカリアで複雑なスキームなんか組まなくたって2人きりになれるよ」

「そうだよね。あたし馬鹿だな……」

「ランチはいつもどうしてんの?」

「お客さんの引き具合を見て家で食べてるから、時間が決まってないんだ」

「じゃあ夜は? 俺20時半くらいに夕食食い終わるから、そこから22時までパブで時間過ごせるけど」

「本当? それなら行ける」

「じゃあそうしようよ。疲れてる日もあるし毎日は無理だと思うけど——どうやって日程決めればいいんだろうな……」

「そしたらあたし20時半から21時の間にパブに行くようにする。その間にレオが来なかったら帰るし、レオもあたしがその時間にいなかったら気にしなくていいよ」

「うん、それいいね!」レオが笑顔を見せた。

 マディソンも笑顔を返したが、すぐに深刻な表情になった。

「これ食べ終わったらオリバーの所行こう。あとミラも。ミラもレオとペアになりたかったはずなのにあたしに譲ってくれた。その結果あのクズ男とペアになっちゃって、あたし申し訳無さ過ぎる」

 マディソンが俯いて話した。

「そうしよう」レオが頷き、トウモロコシを高速で食べた。

 レオが先に食べ終わると、マディソンから豚の丸焼きと芽キャベツを半分ほどもらった。

「ペアリングで余るかもしれないから昼しっかり食ってきたってこと? せっかくの豚の丸焼き全部食えないの勿体無いよな」

 レオが遠慮気味に言った。

「それもあるけど、レオが豚の丸焼きすごく食べたがってるの知ってたから、少しでも多く食べてほしいと思って。好きでもない人と一緒に過ごすんだからそれくらいしてあげないと申し訳無いじゃん……」

 マディソンは恥ずかしそうに話した。

 レオは気まずくなったので、フードを一気に平らげた。

「ご馳走様〜。行く?」レオがそう言うとマディソンは頷いた。

 2人は皿を返却するとフィールドを見回した。時刻は15時40分。何百ものペアが食事や会話を楽しんでいる。フィールドの中央では間隔を空けて3つ焚き火の用意がされている。

「オリバーとミラどっち先に探す?」レオがマディソンに尋ねた。

「オリバーにはパールがいるから、先にミラかな」

 しかし2人を別々に探す必要は無かった。ミラはオリバーとパールと一緒にいた。

「ミラ、あの男とはどうなった?」マディソンが申し訳無さそうに聞いた。

「2人乗り終わったら即別れたよ。キレられたから、ラグ乗ってしばらく避難してた。フィールドに戻ったらオリバーとパールがいたから合流した」

 ミラが澄ました顔で答えた。

「え、ご飯は?」

「食べてない」

「え!?」マディソンが顔をしかめた。

「いいの、オリバーから少しもらったし」

「ダメだよ! まだ残ってるかもしれないから行こう。千リタ払えば買えるはず」

「いいって」ミラが笑顔を作った。

「お願いだから。ただでさえレオ奪って申し訳無いのに、これじゃミラ可愛そう過ぎるよ」マディソンが必死に訴えた。

「ミラちゃん、行ってあげなさいよ〜」パールが後押しした。

「はい、レオと行ってきて」マディソンが千リタをミラの手に押し込んだ。

「分かった、ありがとう」ミラはそう言って立ち上がった。

 レオとミラはフードコーナーへ向かった。10個あったセクションは4つにまで縮小されていた。

「千リタ払えば買えるの?」レオがMCサントスに尋ねた。

「買えるけど、追加で食べるの? しかも2人ペアじゃないよね?」

 MCサントスが不思議そうに聞いた。

「ミラのペアは2人乗り終わった直後に別れたから、ミラはまだ食べてないんだ」

「そういうこと? そう言えば僕ミラのペアの男対応したよ。1人で来たから1人分しかあげなかった。だからミラはタダでいいよ」

「マジ? ラッキーじゃんミラ」レオが嬉しそうにミラを見た。

「うん」ミラが笑顔で頷き、フードを皿に盛った。

「皆の所行く?」ミラが言った。

「それでもいいけど、まず2人で過ごさない?」レオが提案した。

「いいよ」ミラが笑顔で答えた。

 レオは先ほどマディソンと一緒にいた場所にラグを敷いて座った。

「豚の丸焼き美味しい」ミラが幸せそうに食べた。

「もらった千リタさ、マディソンに返さない方がいいよ」レオが言った。

「何で?」

「マディソンは罪悪感でいっぱいだから、罪を償った方がスッキリすると思う。ここで千リタ返したらマディソンまたモヤモヤしちゃうよ。千リタ払ったって嘘付こう。ミラ嘘付くの得意でしょ?」

 レオがそう言って笑った。

「何それ?」ミラも笑った。

「聞いたよ、ミラは紙結ばなかったって。俺完全に騙されたもん」

「マディソン何でそれ話すかな〜」ミラが呆れ声を出した。

「ミラはスゲ〜優しいんだな」

「マディソンは親友だから。私はカート屋の娘でマディソンは家具屋の娘でしょ? どっちもラグ乗れてサーカスやってる。しかも同い年。これだけ共通点あれば仲良くなるし、自分と同じくらい大切にしたいって思う」

「そりゃそうだよな」

 レオはしばらくミラが食事するのを眺めた。

「ありがとう、ルパカリア一緒に過ごしてくれて」ミラが食事を一段落して言った。「一生の思い出にするね」

「そんなに?」

 レオが苦笑した。しかしレオにはミラの言わんとしてることが分かった。レオはあと2週間で死ぬかもしれない。ミラがレオと過ごせる時間は限られている。それはレオも同じだった。

 途端にレオは悲しくなってきた。どれだけ現実から目を逸らして今日この日を楽しもうとしても、死の恐怖が脳裏から消えることは無い。

 時刻は16時を過ぎ、焚き火が始まった。レオとミラは焚き火の方を向いて座り直した。空はゆっくりと暗くなり始め、フィールドの雰囲気は一転した。

 レオは焚き火を眺めながら物思いにふけた。今日の昼まで、レオはただ豚の丸焼きを食べることしか考えてなかった。今はその自分がちっぽけな存在に感じた。レオと時間を過ごしたいと思ってくれる人がこれだけ大勢いるのに、レオは彼女達を思いやる気持ちがまるで無かった。

 ——人生残りあと少しかもしれないからこそ、他人に焦点を当てて生きるべきなのかもしれない——レオは今日マディソンとミラと時間を過ごしてそう感じた。

 暗くなるに連れ、多くのペアが2人乗りでフィールドを去っていった。

「仲良くなったペアは、ああやって男の子が女の子を家まで送るんだ。これがルパカリアのハイライトと言ってもいいかもしれない」

 ミラが空を飛ぶペアを見て言った。

「そうなんだ」レオは単純に返事をし、ボーっと他のペア達を眺めた。「——まぁでもミラ飛べるし——あれ、今日ダンスラグで来たんじゃないっけ? マットが危ないって言ってたよね?」

「うん」ミラが嬉しそうに頷いた。

「家まで送って行こうか? マディソンに許可取った方がいいかもしんないけど」

「うん、嬉しい」ミラが満面の笑みを浮かべた。

 2人はマディソンの許可を得て2人乗りで帰った。日は完全に暮れていた。

「やっぱレオの2人乗りは安定感が違うね。グーフィースタンスだから最初はちょっとビックリするけど」ミラが空中で言った。

「普通の子は乗りやすいんだけどね、ミラだけはちょっと大変かもな」とレオ。

「ううん、今日のペアの男なんかより100倍マシ——今まで何人の女の子乗せたことあるの?」

「何だよそれ〜——数えてないよそんなの」レオは回答に困ったのではぐらかした。

「数え切れないくらい沢山ってことだね」ミラがからかった。「レオに帰り送ってもらったら私マディソンより得しちゃったな〜。私の方が申し訳なくなってきた」

 その後も2人は話しながら空を飛び、無事ミラの家へ着いた。レオは地面ギリギリまでラグの高度を下げた。

「ありがとうね、送ってくれて」

 ミラはレオにそう言うと、少しかかとを上げてレオのほっぺにキスをした。それから背中に回していた手を解き、ラグから降りた。レオはほっぺに手を当てて唖然とする。

「今のはマディソンには内緒ね」ミラはウィンクをして家の中へ入った。

 レオは脚の力が抜けてラグから降りた。頭が真っ白になり、しばらくその場で棒立ちした。

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