第34話 ルパカリア
2月15日、日曜日。ルパカリアがやって来た。レオが10時前にラグスビーフィールドに行くと、フィールドの脇で調理をしている人が10人ほどいた。レオが近づいてみると、何とMCサントスとドミンゴがいた。
「レオ、来たな!」ドミンゴが威勢良く挨拶した。
「おはよう! 2人共ここの調理担当なの?」レオが聞いた。
「おう。毎年やってんだよ」
「スゲ〜な。豚10匹もいんじゃん!」
レオは吊るされている10匹の豚を見て感激した。
「もう焼くの?」
「もうすぐだな」ドミンゴが答えた。
「だってルパカリアって午後だよ?」
「豚を丸焼きにするんだぞ。4時間かかるんだ。15時に皆2人乗り終わって到着することを考えると、もう焼き始めないといけねぇんだよ」
「そんなにかかるんだな。知らなかった——てかケバブ・サントスにポークって無くない?」
「無いな。ケバブにはあんま合わねぇんだよ」
「そうなんだ。でも豚の丸焼きの作り方は知ってるの?」
「豚の丸焼きなんてルパカリアでしか作んねぇからな。誰も本業じゃねぇよ」
「そういうことか。いや〜早く食いてぇ!」
「レオはここに参加すんのか?」
「うん。そのつもり」
「じゃあ待ってるぜ」ドミンゴが笑顔を見せた。
「MCサントス、この前は棄権してごめんな。棄権をアナウンスすんの嫌だっただろ?」
レオがMCサントスを向いた。
「平民チームはやるべきことをやったまでだろう? 仕方無いよ。次のマッチは一大イベントになるはずだから、気合を入れて実況するよ!」
MCサントスが笑顔で語った。
「うん。ありがとう!」
レオはそう言って調理場を離れた。
豚の丸焼きが焼かれている様子を見ながらの練習は中々独特だった。会場準備の為、練習は12時で終了となった。レオは一旦帰ってシャワーを浴び、バームで髪をセットし香水を付けた。ラグをウルトラフィットからレギュラーモデルに替え、12時半頃家を出た。すると女の子が10人ほどレオを待ち伏せしていた。
「レオ、今日どこの会場行くの?」
「グループはどれにする?」
女の子達から声をかけられた。
「あ、ごめん俺急いでるから……」
レオは適当にあしらい、普段だったら歩いて行くヒナの家までラグに乗って行った。
「外でめっちゃ女の子に声かけられたんだけど」
レオが逃げるようにヒナの家に入って言った。ヒナ、アスカ、マットが全員揃っていた。
「何が起きたの?」アスカが尋ねた。
「ルパカリアどこ行くか聞かれた」
「ヤバっ! レオ、モテモテじゃん」アスカがニヤけ顔で言った。「で、教えたの?」
「ううん」
「何で? わざわざレオのこと待ち伏せしてまで知りたがってるんだから、教えてあげなよ」
「そうか……いや、パニックになって」
「歩きだと今出ないと13時半には間に合わないよね」とマット。
「まだ外にいるかもしれないから教えてあげたら?」アスカが言った。
「いや、取り敢えず飯食っていい? 腹減った」レオがそう言ってパンを食べ始めた。
「じゃあアスカが言ってくる」アスカが家を出た。
「何時に会場行けばいいの?」レオがマットに聞いた。
「13時半スタートだけど、男子はその前から並ぼうとすれば並べるから、早い方がいいよ。というか僕はイージーラグのプロモーションしたいからもう行くよ」
「マジか、了解。豚の丸焼きだけじゃお腹一杯になんないし、ある程度食っとかなきゃな」
「でもサイドディッシュもあるよ。トウモロコシとかジャガイモとか」
「そうなん? じゃ軽めにしとくか」
「じゃあ僕は先に行ってるよ」マットがそう言って家を出た。
すると、すれ違うかのようにアスカが戻って来た。
「すぐそこに女子の集団いたんだけど!」アスカが興奮するように言った。
「この家の前で待ち伏せてたの?」レオが聞いた。
「うん。で、レオはラグスビーフィールド行くって教えてあげたけど、信じない人もいた。『競合減らす為に嘘付いてるんじゃないの?』って」
「何か怖いねそれは」ヒナが言った。
「マジそれ。失礼しちゃうよ。信じた人はすぐ歩いて行ったけど」
「てか何で俺の住所知ってんだ?」レオが疑問を口にした。
「人づてで知ったんじゃない? レオの家知ってる人なんて沢山いるんだから、そんな難しくないと思うよ」とアスカ。
「そういうことか」
3人は13時にヒナの家を出た。待ち伏せはまだ4人いた。
「レオ、本当にラグスビーフィールドなの?」女の子がレオに尋ねた。
「そうだよ」レオは素っ気なく答えてラグに乗った。
「マジ!? え、今何時だろ。もう急がないと間に合わないよね?」
女の子は隣の子に言い、皆走って行った。
「けっ、何なのあいつら」アスカが女の子達の後ろ姿を睨んだ。
3人がフィールドに到着すると、若者が500人程度集まっていた。フィールドの中央にはテーブルが設置されており、9つのグループ毎に、上に穴が開いた箱が置かれている。その前には既に青年達が並んでいた。ラグスビーメンバーもちらほらいる。
「おいおい、男子のドローは14時からだろ? 30分以上並び続けんの?」
レオが列を見て言った。
「そりゃ年に1度のイベントだからね、それくらいするでしょ」アスカが言った。
テーブルの周りには女子達が散らばっており、話をしている。レオに気付いた者達が歓声を上げる。
「レオ来た! やった!」
「やっぱ予想当たったじゃん!」
女子達は抱き合ったり飛び跳ねて喜びを顕にした。
一方アスカに気付いた男子陣はジロジロとアスカを見ている。
「おいアスカいるぞ!」
「どのグループ入ると思う?」
男子が隣同士で話をしている。
「2人共すごいね」ヒナが言った。
レオは声を出しているマットにすぐに気付いた。
「ラグ乗るのが苦手な男子の皆さん。まだ間に合います! このラグなら簡単に乗れますよ! マットファクトリーのイージーラグいかがですかー」
マットがイージーラグを広げて持ち、プロモーションをしている。
「マットやってるね!」アスカが声をかけた。
「うん。声かけてくれる人はいるよ。お金持ち合わせてないから後日店にまた来るって」
マットが嬉しそうに言った。
「やっぱイージーラグとルパカリアの相性抜群だよね!」
「アスカ結構売ったんだっけ?」
レオが尋ねた。この2週間アスカはイージーラグの営業に注力していた。
「うん。6枚売ったし、お金貯めて買いたいって言ってくれた人もいっぱいいた」
「スゲ〜!」
HAMLが話してると空からミラとマディソンが降りて来た。
「え、ミラ、ダンスラグで来たの!?」マットがミラの紫色のラグを見て驚いた。
「うん。なるべく普段から乗って慣れようと思って。久々にラグ買ったからウキウキしちゃう」ミラが嬉しそうに言った。
「ウキウキするのはいいけど、帰り暗くなるんじゃない? 危ないよ」
「まぁ最悪歩くよ」
「ミラがダンスラグの2人目の利用者か〜。こっからジワジワ増えるの楽しみだな!」
レオが言った。
「皆はどのグループ入るか決めたの?」マディソンがHAMLに聞いた。
「私は見物だけしようかなと思ってる」ヒナが言った。
「そうなの? ヒナのこと抱きたい男いっぱいいると思うけど」
マディソンが真顔で言った。
「抱きたいってマディソンちゃん、表現が卑猥だよ〜」
ヒナが手で顔を覆った。皆恥ずかしがるヒナを見て笑った。
「あ、僕も参加しないんだよ。イージーラグのプロモーションしに来ただけ」
マットが言った。
「マットも? 何イージーラグって?」マディソンが聞いた。
「初心者でも簡単に乗れるんだ。傾き辛くしてるんだよ」
「そんなこと出来るの?」
「出来るけど、やろうなんて発想が全く無かったんだよ。わざわざ曲がり辛くしてどうするのって思うじゃん。でも安定感が増すから初心者には嬉しいみたい。ヒナも使ってる」
「え、それちょっと興味あるんだけど」マディソンが食いついた。
「何言ってんの? マディソン初心者じゃないじゃん」
「違う違う、逆立ちの話。カーブだけバランス崩して出来ないんだよね」
「あ、そういうこと!?」
「ちょっと乗ってみていい? それ?」
マディソンがマットの持っている緑柄のラグを指差した。
「うん、いいよ」マットがラグを渡した。
マディソンはまず普通に足で乗って、カーブしてみた。
「本当だ。曲がんないね。すごく固い」マディソンが感触を確かめた。
「固さは調整可能だよ」マットが言った。
「そうなんだ〜」
マディソンがそう言って、今度は逆立ちをした。ゆっくりカーブしてみる。
「曲がれてる曲がれてる!」ミラは興奮した。
会場の若者達は次々とマディソンに気付き、注目している。
「これ良い! すごく良い!」マディソンが逆立ちを止めて言った。「これなら逆立ちしながらステージ飛び出せる!」
「いや〜、まさかイージーラグがこんなところで役に立つとは」マットが笑顔を見せた。
「やっぱサーカスって面白いよな! 普段使わないような使い方するじゃん」とレオ。
「これいくら?」マディソンがマットに尋ねた。
「7万リタだけど、マディソンだし……アスカどうする?」マットがアスカに聞いた。
「悩ましいね。ダンスラグと違って一般人の需要が高いから、プロモーション効果抜群だよね。タダにしてもいいのかな。カスタムデザイン入れて目立たせるか、敢えて通常のデザインのままにしてイージーラグであることを強調するかによっても変わってくるし……」アスカが悩んだ。
「今決めなくてもいいよ。また話そう!」マディソンが目を輝かせて言った。
「オッケー!」アスカが元気に言った。
「フィリップ達も来る?」レオがミラとマディソンに聞いた。
「来てるんじゃない?」ミラが答えた。
「マジか、探してみよ。じゃあまた」
レオは皆と一旦別れた。男子の列をもう一度見てみると、ほぼ全グループ10人以上並んでいるが、16歳の「エイジ」だけは数人しかいない。「オール」には50人以上の長蛇の列が出来ている。15、16歳枠の「アンダー」には16歳のオリバーが並んでいた。列から外れてフィリップとサイモンが話をしている。
「皆も来てたんだ!」レオが3人に話しかけた。
「おーレオ!」オリバーが振り向いた。
「レオ達がここ来るってシオネから聞いてな。ミラ、マディソン、シオネも来るよ」
「シオネまだ14歳じゃん」レオが言った。
「見物だよ。いっぱいいるからね」
「確かに、明らかに20代以降の人も沢山いるな」
レオは周りを見回して言った。観客席で見てる人達も大勢いる。
「レオはどのグループにすんの? ここにいる女子全員が気になってるだろ」
オリバーが尋ねた。
「パールみたいなこと言うなよ。俺は元々エイジにするつもりだったけど、一番は豚の丸焼きを食うことだな」
「それなら心配する必要無いだろ。明らかに女の方が多いぞ? しかもレオが先に並べばそのグループに女が集まるから、レオは余る心配無いよ」
「そうか——え、フィリップとサイモンはどうすんの?」
「俺はミドルかオーバーかな」サイモンが答えた。
「並ばなくていいの?」
「こんな早くから並んでたらダセぇじゃねぇかよ」サイモンがオリバーを一瞥して鼻で笑った。「どうせ女の方が余るんだし」
「サイモンだって早く来てる時点で同じなんだよ」オリバーがサイモンを睨んだ。
「こうやって隣に立って暇つぶしの相手してあげてんだから感謝しろよ」
「へっ」オリバーがそっぽを向いた。
「暇潰しって言うなら、はしごに立って待ってればいいんじゃね?」
レオがオリバーに提案した。
「それヤバいな!」サイモンとフィリップは爆笑した。
「俺どんだけアホくさく見えんだよ! 1人だけ目立ち過ぎじゃねーか!」
オリバーが苦笑した。
「フィリップはどのグループにすんの? 17歳だからミドルもオーバーも行けるよね?」レオがフィリップに話を振った。
「俺はやらないよ」フィリップが軽く笑顔を作って答えた。
「え!? 何で?」レオは予想外の回答に驚いた。
「シオネに悪いじゃん」
「え? 付き合ってんの?」
「いや、付き合ってる訳じゃないけど」
「好きなの?」
「……まぁね」フィリップが少し恥ずかしそうに答えた。
「そりゃ好きに決まってんだろ。毎日家で一緒に過ごしてんだぞ?」サイモンが言った。
「付き合わないの?」レオが答えた。
「レオ、いつから恋愛に興味持ったんだよ? 俺達がそういう話するの似合わなくないか?」フィリップがはぐらかした。
「いや基本興味無いけど、フィリップとシオネだよ? めっちゃ大切な2人だからそりゃ気になるでしょ」
「こいつは昔から自分に自信が無いんだよ」サイモンが代わりに話した。「家が貧しかったからな。それで人に好かれようとしてジャグリングを始めたんだ。今では人気者だしシルク・ドゥ・パレットのディレクターとして偉そうにしてるけど、心の底じゃ劣等感まみれなんだよ」
「マジか……」レオは言葉を失った。
「シオネまだ14歳じゃん。それに家庭環境も複雑だし、俺がもし傷付けちゃったら可愛そうだろう? 今は仕事と家事手伝ってもらって、俺が家を使わせてあげてる。この関係で上手くいってるから壊したくないんだよね」
フィリップが語った。
「なるほどね〜」レオは少し納得した。




