第33話 結束
夜は21時50分にパブでナターシャと待ち合わせて、屋根裏へ上がった。
「ボウヤやるじゃない」ナターシャがラグに座って言った。「前回あたしと会ってから2週間で解決策を導き出したわけでしょ?」
「うん。アイディアを思い付いたのは1週間後だね。『アキロスの願い』からアイディアを得た」レオも座って答えた。
「そう。ピンポイントに攻めるっていうのは正にこういうことよ。ニカウバは合法的にボウヤを始末するチャンスが欲しかったみたいね。そこを上手く利用することが出来た」
「でもまだ腑に落ちないんだよな。1万人の前で公開処刑したら、そっちの方が国民の反感買うんじゃないの? 暗殺して事故死とか言っておいた方がいい気がするけど」
「だって正々堂々ギャンブルした結果ボウヤが死ぬんなら、誰も文句の言いようが無いでしょ。事故死って、ラグ乗るの下手な人なら落下死の可能性はあるけど、ボウヤに限ってはそんなことあり得ないじゃない。そんな簡単に死因を隠せないわよ」
「そういうことか……」レオは少し納得した。
「それで、勝つ見込みはあるの?」
「ビングのインタビューで言った通りだよ——あ、ナターシャ救護係やる? ヒナがやってるけど、2人いれば盤石じゃん」
「救護係なんて目立ち過ぎてダメよ。それにあたしじゃなくたっていいじゃない。人数制限はあるの?」
「いや、無いんじゃない?」
「じゃあ雇えるだけ雇いなさいよ。命が懸かった試合なんだから」
「確かにそうだな。てかこれくらいボランティアでやってほしいよ、当日1〜2時間いるだけなんだからさ。選手なんて毎週練習に何時間も割いてるのに」
「選手は試合に出て栄光を手に入れられるから無償でも率先してやるでしょ。ヒーラーは違うじゃない。でも好きなラグスビー選手がいるなら喜んでやりそうな気がするけど。単純に応募の仕方を知らないだけなんじゃない? あたしヒーラーだけどどうやってなるか知らないもん」
「そういうこと? まぁヒナは俺と知り合いだから直接話したもんな。募集かけてみるか。どうすればいいんだ?」
「インタビューで話せばそれが手っ取り早かったわね。わざわざガレクロに広告出すのは勿体無いし。でもヒーラーって的が絞れてるんだから、ヒーラーが集う場所を狙えばいいだけよ。ハーブショップに掲示板あるから、そこに募集の紙貼ればいいわ」
「なるほど! じゃあそれはヒナに頼んでおこう」
「タリアの本音は聞けたの?」
「あ、うん。記事のは全部嘘で、エドウィン愛してるし辞めたがってる」
「なら助け甲斐があるわね。命懸けで助けたのに『余計なお世話』なんて言われたら報われないじゃない」ナターシャが鼻で笑った。
「そうだな」
「じゃ、もしかしたらボウヤと話すのはこれで最後になるかもしれないから、別れを告げておくわ」
「何だよそれ。負けたらせめて控室にお別れに来てくれよ」
「ごめんね、それは出来ないのよ」ナターシャはそう言って深呼吸をした。「短い間だったけどレオと知り合えて良かったわ。あたしの長い人生でもボウヤみたいな刺激的な人に会えることはそう多くないから」
「俺もナターシャと出会えて良かったよ。この世にはとんでもない人間がいるなって気付かされた」
「それじゃ」ナターシャは立ち上がった。「最後にハグしよう」そう言って手を広げた。
レオは立ち上がり、ナターシャとハグをした。
「何かこういうことすると本当に死ぬみたいで縁起悪いな」
レオがハグを止めて笑った。
「そうかもね」ナターシャも軽く笑った。「でもボウヤ、どこかで『多分死なないだろう』って思ってない? 『多分勝てるし、負けそうになったら飛んで逃げればいいや』なんて思ってない? 楽観的になるのは良いけど、死ぬ可能性もちゃんと想定しなきゃダメよ? じゃないと最後の1時間で『あれもすれば良かった、これもすれば良かった』って後悔しちゃうじゃない」
レオはナターシャの言葉を受け止めた。
「確かにそうだけど、余命が宣告されてる訳じゃないからどうしても向き合えなくてさ。残りの人生1ヶ月しか無いって思って、色々やりたいことやった結果練習が疎かになって負けたら本末転倒じゃん。だったら考えない方がマシだなと思って」
「まぁね。死が確定してる方がむしろ楽かもしれないわね。あたしはエベディルク1日飲み忘れただけじゃ死なないけど、千年近く20歳の体で生きてると、1日歳取ることが死ぬのと同じくらい怖いのよ。死を受け入れてエベディルクを飲まずに生きた方が楽なのかなって何度も考えたけど、結局あたしはエベディルクを止める勇気が湧かなかった」
「なるほどな……そう考えるとエベディルクって呪いの薬だね」
「そうね。存在を知らない人の方が幸せかもしれないわ。手に入れられない人は欲して苦しむし、手に入れたら手に入れたで死を更に恐れるようになる」
「じゃあエベディルクの正体を国民に話すのは良くないのか……」
「ヒーラーを解放する為にやったんだから良いと思うけど、もし今回本当に解放することが出来たら、それ以上は無理に広める必要無いかもね」
「う〜ん。取り敢えず解放出来てから考えるよ。その後国王が何してくるかも分かんないし」
「そうね」ナターシャが軽く笑った。「それじゃ」
レオはナターシャを見送って屋根裏に戻った。
翌日の土曜日、ガレシアクロニクルの「パール・メイソンのティールーム」でレオのインタビューが公開された。午後からは、ギャンブルの記事が公開されてから初のラグスビーのチーム練習が行われた。既にほとんどのメンバーはレオと会ってギャンブルについての話をしていたので、練習前の控室のムードは重苦しくなかった。
「レオが遂に『パール・メイソンのティールーム』に出ちまったか」ジェイソンがニヤけ顔で言った。「あれは役人界隈のゴシップが主だからな、平民が出ることはあまりねぇけど、流石にレオくらいの大物になると出るか」
「記事面白かったよ」アスカが笑顔で言った。
「で、ルパカリアはどこ行くんだよ?」ジェイソンがレオに尋ねた。
「言わねーよ。ジェイソン絶対言いふらすだろ」レオが口を尖らせた。
「おいおい、俺はお前のデモにまで参加したんだぜ? 信用してくれないって言うのか?」ジェイソンが冗談っぽく言った。
「ジェイソンはどこ行くの?」
「俺はここだよ」
「ふ〜ん」
「話逸らすな!」
「はいこの話お終い〜!」アスカが割って入った。「レオは絶大なプレッシャー抱えて生きてるんだから、余計なストレス与えないでよね。『ルパカリアどこ行く? ルパカリアどこ行く?』って皆に聞かれたらウンザリするでしょ」
「へい、了解!」ジェイソンは素直に従った。
全員がフィールド中央に集まると、ルイスが言葉を発した。
「皆もう知ってる通り、次のマッチはかなり重要なものになる。俺達の大事な一員であるレオを失いたくなければ、皆死ぬ気で練習に励んでくれ。練習のスケジュールは大幅に拡大する。土日の練習は10時〜16時までで中1時間ランチ休憩。平日は月曜日以外の13時〜16時までローザンパークで行う。筋トレはそれ以外の時間で各自行うこと。当然皆ギルドワーカーだから収入が減ることになる。生活が苦しくなる奴は遠慮せずに今教えてくれないか?」
ルイスがメンバーを見回した。
「俺はちょっと厳しくなるかも」ウイングのマルシオが手を挙げた。
「どうすればお前が厳しくなんだよ? 実家暮らしだろ? 3週間くらい何とかなんねーのかよ?」ジェイソンが言った。
「あ、次のマッチまでってこと?」
「そのつもりだ」ルイスが答えた。
「じゃあ何とかなる」
「他はいないか? 後でもいいから遠慮せずに言ってくれよ。食事ケチることになったら力出なくて意味無いだろ。金に余裕あるメンバーで何とかサポートしながら3週間乗り切ろう」
「俺からもいいか?」ゴメスが図太い声を出した。「アスカ含めスタメンが揃った。かと言って補欠は安心しないでくれ。次はベンチメンバー含めて総力戦だ。審判が公平にジャッジすることが条件に含まれているが、俺はあまり信用していない。公平かどうかなんて最終的に誰が判断しようって言うんだ? 国王は審判を脅して政府チーム贔屓にさせるはずだ。10月の試合みたいにガンガンチャージングしてレオやアスカを削ってくる可能性がある。だから皆スタメンを奪い取るくらいの気持ちで練習をしてほしい」
「ゴメスの言う通りだな」ルイスが頷いた。
「アスカからも報告があるよ」アスカが手を挙げた。「マットが全員分のウルトラフィットを作ってくれるって! だからまだウルトラフィット持ってない人は、練習後にアスカに体重教えて。今分かんない人は、各自マットファクトリーに言ってマットに教えてね」
「マジで? やったー!」マルシオが喜んだ。「え、デザインは? デザイン?」
「お前はどこまで図々しいんだよ!」ジェイソンが叱った。「マットが自腹切ってラグ提供してやってんだぞ? 有り難く思え。しかもルイスがカスタムデザインじゃねーのにお前に作る訳ねぇだろうが!」
ジェイソンに怒られマルシオは縮こまった。
「1万リタ貰えれば後からカスタムデザイン入れること出来るから。でもマッチまでは忙しいから、来月以降にしてね」アスカがマルシオに優しく言った。
「マジで? そうするそうする!」マルシオが笑顔を取り戻した。
「レオからは何かあるか?」ルイスが話を振った。
「そうだな——」レオは少し考え込んだ。「次のマッチは本当の意味で平民VS政府だ。タリアとジョマナを救えるのは俺達しかいないんだよ。だから平民代表として誇りを持って生きよう」
レオがそう言うと、拍手が起こった。
その日の練習はいつに無く真剣に行われた。
それから1週間、レオはラグスビー漬けを生活を送った。朝2時間サブスクライバーにガレシアクロニクルを届けた後は筋トレや自主練。午後からはローザンパークでのチーム練習に励んだ。
夕食は相変わらずヒナの家でご馳走になっているし、ミミベーカリーと焼き芋ジャグラーでは無料で食べ放題の特権をもらった。レオの生活費はほとんどかからず、サブスクライバーからの収入で充分賄うことが出来た。レオは全平民の強力なバックアップを受けながら生きている実感がした。




