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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第32話 セレブリティー

 翌日レオの気分は少し回復した。散々泣いたせいかもしれない。アントラ付近でニュースボーイをしていると、ビングが空からやって来た。

「レオさん! 良かった、いました!」ビングが地上に降り立って言った。「国王とのギャンブルの話聞きましたよ! あれは本当の話ですか?」

「うん」レオが頷いた。

「記事にする前にレオさんにファクトチェックとインタビューを行いたいと思ってるのですが、お時間いかがですか?」

「ガレクロ売り終わってからでいいかな?」

「勿論です!」

「えっと、周りに聞かれたくないんだけど、どっかいい場所ある?」

「それでは私の自宅はいかがですか?」

「オッケー——てか俺がここにいるってどうやって知ったの?」

「リアルトに手紙を直接届けに行ったのですが、レオさんは夜まで帰って来ないとドンテさんに言われたので、どこにいるか聞いたんです。これは至急記事にすべき内容だと思いまして」

「そういうことね。なるべく早く行くから」

 レオはガレシアクロニクルを売り切った後、ビングの自宅へ初めて訪れた。

「お待ちしてました! どうぞ」

 ビングに迎え入れられ、レオはビングと向かい合うようにテーブルに座った。

「お水です」ビングがコップの水を差し出した。

「ありがとう」レオは早速水を飲む。

「ではまずギャンブルの内容確認をさせて下さい」ビングが手元の書類を見て言った。

「それならこれ読んだ方が早いかも」

 レオがリュックからスミスの紙を取り出してビングに見せた。ビングは頷きながら紙に目を通した。

「はい、私が頂いた情報と一致しています——ではファクトチェックは済みましたのでインタビューに移りましょう。このギャンブルが成立した背景を教えて頂けますか?」

「タリアとジョマナを助けたかったから、ギャンブルすることを思い付いたんだ。負けたら金払えばいいと思って最初はそれを提案したんだけど、代わりに俺の首を賭けろって国王に言われた」

「そうですか。レオさんは2人のヒーラーと繋がりがありますか?」

「直接は知らないよ。でも彼女達に会えなくて苦しんでいる人は知ってる」

「はい。しかしレオさんの命を賭けるというのはかなり勇気の要る決断だったのではないでしょうか?」

「そうだけど、苦しんでる人がいるから見捨てられなかった」

「正義感溢れますね。この条件を承諾した時、次回のマッチで平民チームはどれくらいの確率で勝つとお考えでしたか?」

「う〜ん、確率で考えてた訳ではないけど、少なくとも平民チームに分があるとは思ってた」

「つまり勝率50%以上と予想したわけですね? それはやはり10月のマッチでの勝利体験からでしょうか?」

「そうだね。アスカが戻ったから勝てると思ったんだ」

「承知しました〜。しかし、もし負けたらレオさんの命は残り1ヶ月を切っております。マッチまでどう生きるつもりですか?」

「マッチに勝つために全力を尽くすまでだよ」

「例えば、セリエンテのご家族や友人と会うことは考えていらっしゃいますか?」

「あ〜、全然考えてなかったな。もうガレシアに移住した時点でそれまでの15年とはきっぱりお別れしてるから、地元の人と会ったりする予定は無いよ。そもそも手紙すら送ったこと無いし」

「非常にドライですね。逆に言えばそれほどガレシアの生活にコミットしていると言えますよね?」

「まぁそうだな。ガレシアは好きだよ」

「嬉しいお言葉です。ではガレシアでやり残したことはありますか? 来月以降やろうとしていたことを今の内にやっておいた方がいい気がしますが」

「そんな1ヶ月以上先のことなんて考えてないよ——あ、強いて言えば友達のキンセニエラが3月にあるから、それは出られないな。でも俺の為に前倒しするなんて変な話だろ? 俺がキンセニエラならまだしも」

 レオが鼻で笑った。

「まぁそうかもしれませんね。最後に言い残したことはありますか? もしかするとレオさんの言葉がガレクロに載るのはこれで最後になるかもしれません」

 ビングにそう言われレオは少し悩んだ。

「ここ数ヶ月満足したゲームを国民の皆さんに見せれてないから、次は最高のマッチにするよ。是非観に来てくれ」

「ラグスビー選手らしく締めて頂きました。ありがとうございました! いや〜レオさんもインタビュー慣れしてきましたね」

「そうか? ビングからしかインタビュー受けたこと無いけど」

「レオさんは話題に尽きないので、これからも末永くお願いします。今後何かあればここの家に手紙送って下さい」

「分かった」

 レオはインタビューを終えて家を出た。

 今夜はヒナの家で夕食を食べることにした。マットとアスカには自分で伝えたかった為、ヒナには夜まで黙ってもらった。

 レオが夕食の席でギャンブルの内容を話し終えると、アスカとマットは予想通りの反応をした。

「レオ、いくらなんでもそれはやり過ぎだよ!」アスカが叫んだ。

「レオが死んだら僕やって行けないよ……」マットが辛そうな顔を見せた。

 レオは昨日から1日経って、大分冷静になっていた。

「もうエドウィンが泣き崩れちゃって、完全に崩壊してたんだよ。あのまま城出たらマジでエドウィン自殺すると思ったもん。家に安楽死出来る薬置いてるんだぜ? 俺の命賭けるだけでエドウィンとタリアとジョマナ救えるならやるしか無いと思ってさ」

 レオが普段通りのトーンで言った。

「俺は昨日泣いたよ、もう虚無感でいっぱいになって。でももう充分だ。ギャンブルは決定事項だし、俺は自分の決断を後悔してない。後は勝利の為に突っ走る。だから2人も今日は泣くなりなんなり好きにしていいけど、明日から協力してくれる?」

「勝手なんだからレオは……」アスカが涙目で言った。

「僕は補欠メンバーのウルトラフィットを何とか作る」マットが暗い顔で言った。

「ありがとう」レオがマットに礼を言った。

「私も全力で平民チームの勝利の為にサポートしていくつもりだから」ヒナが言った。「皆お金の心配はしなくていいからね。皆の1ヶ月分の生活費なら私が賄える。だからレオ君とアッちゃんは練習に集中して、マット君はラグ作りに集中して」

「ありがとうヒナ。俺も仕事は最低限にして毎日練習するつもりだよ。アスカ、明日一緒に練習しよう」

 レオがそう言うと、アスカは膨れっ面で頷いた。

 国王とのギャンブルの記事は、インタビューの2日後にガレシアクロニクルのヘッドラインとなった。

———

  レオ・フィッシャー、次回試合負けたら処刑


 ラグスビー選手のレオ・フィッシャー(15)が、人生最大のギャンブルに出た——これは比喩ではない。レオは政府と博打を交わしたのだ。2月のラグスビーマッチで平民チームが勝った場合、政府所属のヒーラーであるタリア・ブランシェットとジョマナ・フォンテーヌを解放してもらうことになった。では代償は何か——レオの首そのものである。平民チームが負けた場合、レオ・フィッシャーは処刑されることになった。

 レオは何故このような条件を飲んだのか気になるところではあるが、まずはギャンブルの詳細を記載する。

 ・ラグスビーマッチのルール変更は行われない

 ・審判は公平にジャッジする

 ・ヒーラーの2人は観客席の見えやすい席に置く。親族はフィールドの反対側の席に座り、会話は許されない

 ・平民チームが勝利した場合、ヒーラーは速やかに解放される

 ・平民チームが敗北した場合、レオは控室で1時間猶予が与えられ、その後フィールドの中央で弓矢により処刑される。心臓を狙い即死させること

———

 この後にはレオのインタビューが掲載されていた。本部は大荒れで、レオはニュースボーイから質問攻めに遭った。しかしサブスクライバーに早く届けないといけないレオは彼らを適当にあしらって仕事に取り掛かった。

 仕事を午前中に切り上げ午後からアスカとローザンパークで練習をしたのだが、ここでもレオは声をかけられまくり、まともに練習出来る状況では無かった。夜が近づく頃にはレオはどこに行っても周りから凝視されるか声をかけられ、あたかも国民全員がレオを知っているかのような状況だった。

 レオは10月のラグスビーマッチでの勝利により一躍有名人となったが、その後人気は低迷し、アスカの人気が急上昇していった。しかしここに来てレオの知名度はアスカを遥かに凌ぐものとなった。

 夜レオが帰宅すると、沢山の手紙が届いていた。その中の1つはナターシャからだった。「近い内屋根裏で会える? 前と同じ時間 N.E」とある。

 面識が無い人からの手紙もあった。パール・メイソンという名前の人で、ガレシアクロニクルで「パール・メイソンのティールーム」という記事を担当している。インタビューをしたいそうだ。レオは彼女の記事を読んだことがあるが、ゴシップネタが多い。どんな形であれ露出が増えることは良いことだと思い、レオはインタビューに応じることにした。

 インタビューは翌日パールの自宅にて行われた。家はヴィルマリーストリートの建物の2階にあった。

「は〜い! レオ君! いらっしゃいいらっしゃい!」

 パールは笑顔でレオを家へ招き入れた。パールは20代前半の見た目で、金髪のロングヘアだ。派手なメイクをしている。

 レオは室内を見渡した。ティールームの中央にはローテーブルが置かれており、奥に1人用の椅子、横に3人座りのソファがある。窓からは通りの風景が見える。

「『パール・メイソンのティールーム』って本当にティールームなんだね」

「そうよ。座って」パールはレオをソファに座るよう促した。「今ハーブティー淹れるから」

 パールはキッチンへ行き、しばらくするとティーカップを持って戻って来た。

「はい」パールがティーカップをレオの前に置き、1人用の椅子に座った。

「ありがとう——パールって何歳なの?」レオがお茶に手を付けずに尋ねた。

「22歳よ。まぁこれはあたしのインタビューじゃないんだから、早速始めるわよ」

 パールが笑顔で言った。

「うん」レオはそう言ってお茶を少し飲んだ。

「随分と世間を騒がせてくれるわよね〜。見てて最高に面白いんだけど、レオ君のプライベートが気になるのよ。彼女はいるの?」

 パールが単刀直入に聞いてきた。やはり恋愛の話か。しかしレオはこういう質問には慣れている。

「いないよ」

「有名ラグスビー選手が? 信じられないわね。アスカちゃんとはどうなのよ? ビングの記事では『アスカが戻ったから勝てる』なんて熱いこと言ってたけど」

「アスカは良い友達だよ」レオは淡々と答えた。

「本当に? アスカちゃんとは以前ここで話したんだけど、あの子も同じようなこと言ってたわ。お互い淡泊ね〜——またビングの記事の話になるけど、3月に友達のキンセニエラがあるって言ってたじゃない? その子は誰?」

「プライバシーがあるから名前は言えないけど、俺の親しい友達」

「そう〜。親しいって言ってもレオ君ガレシアに移住したの最近よね? いつだっけ?」

「去年の7月。誕生日に出てきた」

「でしょ? この短期間で女の子と親しくなれるのはすごいわね。大抵の移民は溶け込むのに苦労するわよ?」

「そうなんだ。俺は人に恵まれたよ。てかパールも初対面なのにめっちゃ親しい人って感じるよ」

「きゃは! あたしはこれが仕事だから当然でしょ」パールが甲高い声で笑った。「それで、そのキンセニエラではエスコートやるの?」

「まだ分かんないよ。エスコートってそんな前から決めるの?」

「人によるけど、まだ誘ってなくても心の中では既に決めてる可能性が高いわね〜」

「パールはいつエスコート決めたの?」

「レオ君随分あたしのこと聞くのね!」パールが笑った。「あたしはもう彼氏がいたからとっくに決まってたわよ——そう言えばレオ君最近サーカスも始めたじゃない? レオ・シルバーなんてステージネーム付けちゃって。あれは一時的なものなの、それともラグスビーと同じくらい本腰を入れてやって行く予定なの?」

「シルク・ドゥ・パレットは本当に憧れの存在だったから、入れて光栄だよ。勿論本気で取り組むつもり」

「そうなの〜。シルク・ドゥ・パレットと言えばマディソンちゃんとミラちゃんがいるでしょ? あの2人もまた個性的よね〜。あの2人とはどうなのよ?」

「どうなのって何も無いよ」

「あらそ〜。でもね、一途の彼女がいるよりレオ君みたいにミステリアスな方が面白いわ! だって彼女と仲良くやってたらこっちは何を聞けっていうのよ? デートの内容? そんなもの1回書けば充分じゃない」

「そうか」レオは取り敢えず相槌を打った。

「そうよ〜。じゃあさ、レオ君今は恋愛興味無いのかもしんないけど、好みはあるでしょ〜? どんな子がタイプなの? 女性としてじゃなくて人間としてでいいから」

「う〜ん、面白い人が好きだな!」レオはそれしかパッと思い付かなかった。

「きゃは! 何それ! まぁでも大事と言えば大事ね〜。誰も退屈な人間の側に居たくないでしょ〜?」

「それは間違いない」レオが頷いた。

「そして10日後にはルパカリアが控えてるわよね。ガレシア中のシングル女子がレオ君とペアになりたいと思ってるはずよ!」

「それは言い過ぎでしょ」レオが鼻で笑った。

「言い過ぎじゃないわよ。一体何人の男の子がガレクロに名前載ると思ってるの? レオ君は名前が載るなんてもんじゃないわ。ここ1ヶ月で何度もヘッドラインに上がってるのよ?」

「名前載ったからってその人の価値が変わる訳じゃなくない?」

「レオく〜ん」パールが呆れ声を出した。「やっぱりレオ君はちょっと常識から逸脱してるから、一般人の感覚とズレてるわね。人は有名人が好きなのよ! 皆が知ってる人を自分のモノに出来たら羨ましがられるでしょ? 優越感に浸れるじゃな〜い」

「そういうもんか」レオがボソッと言った。

「そうよ。しかもレオ君はそれだけじゃないわ。何と今月末で死ぬかもしれないのよ! そしたら今回のルパカリアが最初で最後! そんなプレミアムな存在逃すわけにいかないでしょ」

「俺豚の丸焼きめっちゃ食いたいんだよ」レオが本題から外れた。

「きゃは! どういう話の流れでそうなるわけ?」パールが手を叩いて笑った。「あ、でも関係あると言えばあるわね。ほら、ルパカリアで余っちゃうと豚の丸焼き食べられないでしょ? 確実に食べられる方法教えてあげようか?」

「何?」レオが前のめりになった。

「どの会場に行くかここで教えるのよ! この記事に載れば、女子が殺到して男は皆ペアを手にすることが出来るわ」

「はぁ……でもそれやっちゃったら女子めっちゃ余るし他の会場で男子余って可哀想じゃない?」

 レオは何としても豚の丸焼きを食べたかったが、どの会場に行くかをリークして男女比率が極端になったら、ペアになれなかった人達から恨まれそうな気がした。

「レオ君も善人ね〜。女子が欲してる情報を提供してほしいものだけど。まぁこれもミステリーの1つね。答えが分かっちゃうより皆で予想し合う方が盛り上がるでしょ——じゃあさ、オフレコでいいから決まり次第あたしに教えてくれない? 当日様子を観に行きたいのよ。ルパカリアのペアリングは見てて本当に楽しいからね。記事のネタにもなるし」

「分かった。もう決まってるよ。ラグスビーフィールド」

「やっぱり? オッケーじゃあ観に行くわね!——切りもいいし、ここで終わりにしましょ!」

 パールはそう言って立ち上がって手を差し出した。レオも立ち上がって握手をする。

「行く会場変更になったら連絡してね? あとそれ以外でも何かニュースがあれば」

 パールが握手を終えて言った。

「オッケー」

 レオはティールームを退出した。ほぼゴシップネタだったが、パールとの会話は意外と楽しかった。

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