第30話 結婚促進イベント
その後レオの生活はしばらく落ち着きを見せた。スミスと話した週の金曜日、レオはいつも通りニュースボーイをした。その日の記事に興味深いものがあった。
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ルパカリアの調理師募集
2月15日(日)にルパカリアが開催されます。開催場所は昨年と同じく以下の9ヶ所です。
・ラグスビーフィールド
・ローザンパーク
・アントラ
・第二訓練場
……
その後も会場が掲示されている。レオは続きを読んだ。
開始時刻は全会場一律13時半です。
豚の丸焼きの調理を担当したい方は、ルパカリア運営事務所までご連絡下さい。
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レオは夜ヒナの家でHAMLと夕食を食べた。
「今日のガレクロにルパカリアの情報載ってたじゃん? あれ何すんの?」
レオが皆に疑問を投げかけた。
「あ〜、レオは知らないか。セリエンテではルパカリアある?」マットが聞いた。
「あるよ。男女ペアになって、女が男の家行ってご飯作る」レオが答えた。
「何それ!」アスカが驚いた。「それじゃ女がただの召使いじゃん!」
「その代わりご馳走なんだよ。食費は男持ちで、必ず肉用意する。俺は1回もやったこと無いけど」
「そういうこと?」
「それはそれで面白いね」ヒナが言った。「結婚を促進するなら、セリエンテのルパカリアの方がダイレクトで効果的かも」
「ガレシアは?」レオが聞いた。
「結婚を促進するっていう目的はガレシアも一緒だけど、内容は全然違うよ」マットが説明を始めた。「男女がペアになって、2人乗りで街をゆっくり低空飛行するんだよ」
「何だって!?」レオが大声を出した。
「『取り敢えず体密着させれば結婚するんじゃない?』っていう発想。そう考えるとガレシアはセリエンテより大分ワイルドだよね」アスカが笑った。
「会場毎にルートが定められていて、脇には国民が立ち並んで声援を送るんだよ。飛び終わったら会場に戻って、豚の丸焼きを一緒に食べる」
マットが説明を続けた。
「それめっちゃ面白そう! 豚の丸焼きってタダで食えんの?」
やはりレオはタダ食い出来るかどうかを一番に気にした。
「参加したペアはタダで食べられる。残ったら一般人に売ったりするけど」
「最高じゃん! 俺出よう。何歳から?」
「15歳〜19歳」
「よっしゃー、出れるじゃん!」レオはガッツポーズを見せた。
「セリエンテは何歳なの?」
「こっちは14歳〜19歳だね。俺は金かかるし結婚願望無いから去年参加しなかった」
「へ〜。ヒナとアスカは出る?」マットが2人に話を振った。
「どうしようかな。ちょっと恥ずかしいよね」ヒナがためらった。
「アスカは出るよ。楽しそうじゃん。ペアの男が誰になるかは興味無いけど」とアスカ。
「ちょっと待って。今気付いたんだけど、2人乗りするってことはラグ乗れる人しか参加出来ないじゃん。操作するのは男?」
レオがハッとなった。
「うん。アスカより下手な男だったらアスカが操作したいくらいだけど」
アスカが鼻で笑った。
「多分女が操作しちゃダメっていうルールは無いけど、見物人に笑われること間違い無いから、男は絶対に女に操作させないはず」マットが笑顔を浮かべて言った。
「てか男はラグ乗りしか参加出来なかったら、女めっちゃ余るんじゃね?」
レオは次から次へと疑問が出てきた。
「そう思うじゃん?」アスカが言った。「これがそうでも無いんだな〜。見知らぬ男と体密着させたい女はそんなに多くないでしょ。でも男は喜んで参加するし、普段乗らないような人も頑張って練習して参加する。低空飛行だから安全だしね。だから結局男女比率は同じくらい」
「マジで? そういうもんか」
「もうルパカリアまであと2週間だし、男同士で2人乗りの練習する人が出てくるはずだよ」アスカが鼻で笑った。
「待って、俺それ公園で見たぞ!」レオが記憶を蘇らせた。「俺も最初は男同士で2人乗りの練習したから何も不自然じゃなかったけど、ルパカリアに向けて練習してたのか」
「ちょうどいい機会だから、イージーラグをこの2週間集中的にプロモーションしたいと思ってるんだ」マットが言った。「ラグ乗るの苦手な人に『これ買えば君もルパカリアで女の子と抱き合えるよ!』って言ったら売れそうじゃない?」
「マット、それ天才!」アスカが高い声で笑った。「アスカでも思い付かなかった! やっぱ男の気持ちは男が一番よく分かってるね」
「当日も会場でプロモーションする予定だよ。流石に当日買う人はいないかもしれないけど、良い宣伝になるから。去年はラグスビーフィールドでやった。その時は普通のラグだったけど」
「いいね、やろうやろう! マットは参加はするの?」
「僕は参加しないつもりだよ。プロモーションに注力する。去年も参加しなかった」
「うそ? 仕事人だね〜」アスカが溜め息を漏らした。
「マット出ないのか! まぁでも仕事大事だもんな」とレオ。
「じゃあアスカ明日からイージーラグ持って公園回ろうかな。2人乗りの練習してる人なんて一発で分かるから、楽に営業出来そう」
アスカは上機嫌に言った。
「うん、よろしく。アスカが2人乗りの練習台になったらかなり売れそうだけど」
マットは期待を膨らませた。
「アスカそこまで落ちぶれてないから」アスカがマットを睨んだ。
「会場はどこに行ってもいいの?」レオが尋ねた。
「うん、自由。ラグスビーフィールドが人が一番多いから僕はそこに行くけど、皆もどう?」マットが提案した。
「いいよ俺は別に。初めてだから良し悪しなんて分かんないし」
「アスカもそれでいいよ。ラグスビーやってる人が結構集まるんだよね?」
アスカが聞いた。
「そう。だから女性にかなり人気。あわよくば憧れの選手とペアになれるから」
マットが説明した。
「俺が言うのも変な話だけどさ、そしたら女の子皆ラグスビーフィールドに集まって他の会場行かないんじゃないの?」レオが言った。
「女の子はほとんど飛べないから、遠い人もいるじゃん。それに付き合ったり結婚っていうのを見据えるから、近所の男性と知り合う為に家の近くの会場に出る人が多いよ。見物人も知り合いの方がやりやすいし」
「そっか見物人もいるのか」
「私見物したことあるけど、やっぱり知り合いだと皆応援するよね」ヒナが言った。
「てかこれ結婚相手見つけようとして参加する人どれくらいいるんだ? 俺なんてタダ食い出来るのが一番のモチベーションなんだけど」
「レオみたいな人も当然いるよ。恋人いるのに参加する強者もいるからね」
アスカは笑った。
「え? 同じ会場で参加すんの?」レオが目を見開いた。
「豚の丸焼き目当ての人は同じ会場で参加して、飛び終わったら合流して一緒に食べるんだってさ」
「それいいの? ペアで食べるもんかと思ったんだけど」
「別にルールは無いからね。ペアの人からは恨まれるっぽいけど」
「うん。ちょっと可哀想だよな」
「そんで浮気目的の人は、何とか見つからないような会場を探して出る。でもアスカの友達の彼氏がそれやったら、人づてでソッコーバレたけど」
アスカが鼻で笑った。
「そいつアホだな」レオが真顔で言った。「しかもランダムでペアって決まるんでしょ?」
「ランダムだけど、選択肢はあるよ」マットが再度説明モードに入った。「グループが9つあって、その中から選べる。まず『エイジ』。15歳から19歳までで5つグループがあって、自分の年齢のグループに入れる。同い年とペアになりたい人はエイジを選ぶ」
「そういうこと? それはいいな」レオが感心するように頷いた。
「次に『レンジ』。これは3つある。『アンダー』は15、16歳、『ミドル』は16〜18歳、『オーバー』は17〜19歳。該当する年齢のグループなら入れる。年上とか年下と出会いたい人はレンジ選ぶね」
「面白いな〜。じゃ俺はアンダーしか選べないか」
「最後に『オール』。その名の通り誰でも入れる」
「なるほど。じゃ俺が入れるのは15歳のエイジとアンダーとオールってことね」
「そう。で、ここからが面白いんだよ。最初に女子がグループを選んで、自分の名前を書いた紙を箱に入れるんだ——何時だっけスタート?」
「13時半」ヒナが答えた。
「13時半ね。だから13時半〜14時の間に女子がそれやる」マットが続けた。「14時から男子のドローがスタートするんだけど、ドローの順番はグループに早く並んだ順。遅いと当然余る可能性もあるんだけど、目当ての女子がどのグループに入るか見てから決めたい人もいるから、早く並べばいいってものでも無いんだ。逆に早く並んで、自分を選びたい女子に自分のグループを選んでもらうっていう方法もある。だから駆け引きだね」
「ふ〜ん。俺は目当ての子とかいないから、余らないように先に並びたいぞ。歳が近い方がいいからエイジにしようかな」
レオが言った。
「アスカはアンダーにしようかな〜。年上の方がラグ乗るの上手そうだし。かと言ってオールにして19歳と当たると、ちょっと離れ過ぎな気もする」
アスカは悩んだ。
「これさ、15歳の女子が皆アスカみたいな考えだったら、俺余るんじゃね?」
「あ、そうそう。それは普通に有り得る」マットが補足した。「15歳のエイジの男子と19歳のエイジの女子は余りやすいよ。15歳の女子は年上望むし、19歳の男子は年下望むからね」
「そしたら俺ダメじゃん。俺もアンダーにしようかな」
「そこも駆け引きで、男女比率によって選択肢が決まる。男子が多ければ、男子はあまり贅沢言ってられないから、人気の無いグループでも積極的に選ぶ。それこそ19歳のエイジとか」
「むー。とにかく余らないようにするにはオールを選んだ方がいいよな」
レオは頭を悩ませた。
「レオのチョイスがどんどん変わってくのがウケるんだけど」アスカが笑った。
「確かにオールは余らないようにする為には安全なグループなんだけど、ちゃんとデメリットが用意されるんだよ」
マットが言った。
「全グループのドローが終わった時点で、男子と女子が両方余る可能性があるんだ——あるグループで男子が余って他のグループでは女子が余る。そうなったら、『セカンド』っていうグループを作って残りをペアリングするのね。でも一気にペアリングしないで、優先順位がある。エイジ、レンジ、オールの順。だからオール選んで余ったらセカンドチャンスはほぼ無いけど、エイジならまだチャンスがある」
「う〜ん、何となく理解したけど、いまいち想像出来ん」レオが頭を悩ませた。
「まぁ1回経験すれば分かるよ」
「ラグスビーフィールドなら男余らないよね?」
「去年は女子が余ったけど、今年は分かんないよ」
「マジで? 一番女子に人気なんじゃないの?」
「一番女子に人気なのは第二訓練場でしょ?」アスカが答えた。「兵士は基本皆そこに参加するもん」
「は? そういうことか〜!」レオが肩を落とした。
「第二訓練場に参加する女は政府関係者の娘が大半なんだけど——家から近いし——わざわざ遠くから参加する平民の女も沢山いる。それによって役人の娘が余ったりすると、すごい愚痴るよ」
「高給取りが分かりやすく固まってるんだから、そりゃ女子が殺到してもおかしくないよな」レオは納得した。「でも役人の娘なんてキンセニエラとかで幾らでも兵士と接点あるんじゃないの? それこそこの前のアスカみたいに」
「そう。だからルパカリアで余ったくらい何てこと無いんだけどね本当は。よそ者がズケズケ来るのが気に食わないんでしょ」
「マット、やっぱイージーラグのプロモーション止めよう! ラグ乗る人増えたら俺が豚の丸焼き食えなくなる!」レオが抗議した。
「イージーラグが数枚売れたところでそんな変わらないよ」マットが笑った。
「レオはマットファクトリーの繁栄よりも豚の丸焼きの方が大切なわけ?」
アスカが呆れるように言った。
「くぅ……」レオが歯を食いしばった。




