第29話 棄権
翌日もレオのベッド生活は続いた。昨日は何もしないでゴロゴロするのが新鮮だったし、ガレシアクロニクルのヘッドラインの騒ぎがあって頭がそれなりに占領されていた。しかし2日目の今日はいよいよ退屈してきた。レオはヒナから「アキロスの願い」を借りて読んだ。小説を読むのは苦手で時間がかかった為、良い暇潰しになった。
3日目の朝ロゼーラがヒナの家に来て、レオに手紙を渡した。「21日の21時50分にパブで待ち合わせて屋根裏で話そう。N.E」と書かれている。今夜だ。
レオは夜から歩けるようになり、荷物を屋根裏に運んだ。21時半からパブに座ってナターシャを待った。閉店は22時なので客はあまりいない。21時52分にナターシャが颯爽とリアルトに現れた。
「久しぶり」レオが声をかけた。
「上行く?」ナターシャは挨拶をすっ飛ばした。
「うん」レオは返事をし、一緒に屋根裏に上がった。
「ここがボウヤの住処? 随分質素ね」ナターシャが屋根裏を眺めて言った。
「ちょっと前まではベッドすら無かったんだぞ」レオが質素さを自慢した。
「へ〜。座るよ」ナターシャがレオのウルトラフィットの上に座った。レオも座る。
「何で怪我したの?」
「デモした時に空軍に弓矢で打たれた」レオは太ももを指して言った。
「そういうことね。デモは実際何があったの?」
「アントラでイベントしたんだよ。そこで俺がスピーチして、500人が城まで付いて来たんだ」
「500人? 50人じゃないのね」
「うん、あれは嘘。で、まずサイモンっていうサーカスの人が『アキロスの願い』を燃やした」
「それは面白いわね」ナターシャが鼻で笑った。
「めっちゃ盛り上がったよ。その後に、タリアのフィアンセのエドウィンがメガホンで叫んだ。『タリアを返せ! ジョマナを返せ!』って。皆で叫んでたんだけどすぐに兵士がやって来て、空軍の奴と俺が言い争ったらそいつに弓矢で打たれた。それで皆ビビって逃げて、デモ終了。もう全部で10分くらい」
「ふ〜ん。で、タリアとジョマナの話はどこまで本当なの?」
「俺もそこを今突き止めようとしてるんだよ。タリアは遊女と仲良いらしいから、遊女に本音を聞いてもらう。アスカの姉ちゃんが遊女なんだよ。ジョマナの本音は分かんないんだ。でもジョマナを取り巻く状況は大分分かってるよ」
レオはジョマナ、ジャファリ、デンデラ、シオネのことを説明した。ナターシャは真剣にレオの話を聞いた。
「随分と複雑な状況ね。ボウヤもよくそこまで突き詰めたこと」
話を聞き終わったナターシャが口を開いた。
「ヒナのおかげだよ。ヒナはこういう謎解きに長けてるね」レオが謙遜した。
「取り敢えずボウヤ達のエベディルクのオペレーションはスムーズに行ってるのよね?」
「うん。もうジャファリは邪魔しなくなったし、月曜の記事の後も特に何も無い」
「それならいいのよ」
「ナターシャはタリアとジョマナが解放されてもされなくてもどうでもいい感じ?」
「まぁ今の話聞く限りだと、政府は手を出し尽くした感じよね。ジャファリ使ってボウヤ達の邪魔しようとしたけど失敗したわけだし、月曜の記事も特に何の効果も無い。これから政府が何もしなければ、ボウヤ達は今まで通りエベディルクを売り続けられるわけでしょ? そしたらあたしは2人のヒーラーがどうなろうが関係無いと言えば無いわ。勿論解放されるに越したことは無いけど」
「何か良い案無い?」
「少なくともデモじゃ無理よね。平民が1万人武器持って城襲うならまだしも。でも武力行使したら、たった2人のヒーラーじゃ済まないほど犠牲者が出るわよ。本末転倒じゃない」
「それは間違い無いな。俺もデモには懐疑的だったんだよ。でも皆にリーダーは俺じゃなきゃダメだって言われてさ。一先ずアントラに集まった6千人にエベディルクの真相を話せたのは良かったけど」
「真実を知るのは第一歩ね。本来であれば新聞で伝えちゃうのが一番早いけど、当然政府もそれを分かってて、ガレクロ以外の新聞は禁止してるし」
「やっぱそうなの?」
「そうよ。国民が自由に新聞なんて発行出来たら制御効かなくなるでしょ。6千人にリーチしたのは多いように感じるかもしれないけど、国民の1%にも満たないからね? 一方ガレクロは毎日10万部売ってるんだから、どっちの情報が勝つかなんて明らかでしょ」
「なるほどな〜」
「大衆に訴えかけて地道に反乱起こすのもいいけど、もっとピンポイントに攻めた方がいいわね。それこそボウヤ達が薬草買い占めたように」
「でもエベディルクを脅しに使うと逆効果だと思うんだよ」
「勿論今それやっちゃダメよ。発想の話をしてるの。ニカウバの立場に立って考えるのよ」
「う〜ん——てかニカウバで思い出したんだけどさ、俺サタナリアの時に初めて『アキロスの願い』のこと知ったんだよ。最近やっと本も読んだんだけど、国王の本名ってどっちなの?」
「ニカウバよ。アキロスなんてクールな名前なわけ無いじゃない」
「やっぱそうか。俺もそれは思った」レオが笑った。「国王は100年独裁してるから、今生きてる人は誰も国王になる前のニカウバを知らないと思うけど、100年前の人は知ってたはずだよね? 『アキロスの願い』は自分の自伝だって国王が言いふらしたら、名前違うだろって皆思わなかったの?」
「そう思うでしょうね。これはニカウバの長年の努力の賜物というしか無いわ。あたしはちょうどニカウバが国王に就任した時にガレシアに住んでたけど、当時は『アキロスの願い』は無かったわ。8年目辺りから演劇がスタートしたの。その時はただの娯楽という体で、自分の自伝だとは謳わなかった。でもそのタイミングで、国王は自分の名前をアキロスと改名したのよ」
「最初は演劇だったんだ。てか改名なんてしていいの?」
「国王なんだから好き放題でしょ。で、当然この時は、誰も演劇のアキロスと国王を同一人物だと思わなかった。国王の実年齢が58歳だから、国王が17歳の頃を知ってる人は沢山いるでしょ?」
「うん」
「だから国王は『物語の勇者にちなんで自分も同じ名前にした』って公言したのよ」
「は〜。そういう始まり方ね」
「次にあたしがガレシアに住んだのは40年後、つまり今から約50年前なんだけど、その時は誰も国王の若い頃を知らないわけ。だから『アキロスの願い』が始まってから40年の間に、ジワジワとアキロスと国王が同一人物だと認識されるようになったってことね」
「とんでもない話だな。本はいつ出始めたの?」
「調べた限り、演劇が始まってから10年後くらいね」
「10年って長くね? さっきのナターシャの話だと、劇場で数千人に伝えるよりも新聞の方が圧倒的に強いんでしょ。何でさっさと本作ってばら撒かないの?」
「あたしもそう思うわ。でもね、40年後に演劇観たけど内容がまるで違ってたのよ。タイトルも初めは『勇者アキロス』だったし。本にする前に、演劇で観客の反応を見ながら何度も何度も改善を繰り返したんだと思うわ。エベディルクを安定して手に入れる為の最適なストーリーを見つけるのに10年かかったってことね」
「そういうことか。本読んで、国王って俺が思ってたより頭良いなって思ったけど、10年も試行錯誤すれば当然か」
「そうね」
「いや〜、そんな長い年月かけて出来上がったプロパガンダが簡単に消えるわけ無いよな。道理で真実を知った俺が殺されないわけだ。昔はそんな人いっぱいいたんだもんね」
「まぁそうだけど、ニカウバにとってレオが危険人物なのは間違い無いはずよ。本当はボウヤのことを殺したいでしょうね」
「たまに俺思うよ。よくまだ生きてるなって」
「ボウヤは殺せないのよ」
「何で?」
「レオ・フィッシャーはあまりに有名過ぎるから。政府がボウヤを殺したもんなら、平民はガチ切れするわよ。反乱のリスクが大きい。だからボウヤは、有名で居続けることが生命線になるの」
「なるほどな……」レオはナターシャの言葉の意味をじっくり解釈した。
「ところでサタナリアはどうだったの?」
「ん?——あ、そう! ヒナとアスカにソーセージあげたら反応微妙だったぞ!」
レオが急に声を荒げた。
「本当にあげたの? ボウヤやっぱ面白いわね。あれはからかったのよ」
ナターシャは笑い転げた。
「何でだよ! 千年の知恵だと思って信じたんだぞ!」
「男の子が女友達にソーセージあげたらおかしいって普通気付くでしょ!」
ナターシャはまだ笑っている。
「だから俺はキャンドルの方が良くないかって聞いたじゃん!」
「2人は何て言ってたの?」
「ヒナは優しいから、美味しく頂くねって言ってた。アスカはまぁ、笑われた程度。捨てはされなかったよ」レオが気を落ち着かせて言った。
「じゃあいいじゃない、笑い話になったんだから。それが最高のギフトよ」
「だってさ、ラグ職人のマットは手作りのコースター作ったんだぞ。しかもイニシャル入りの。てか今あるわ——これね」
レオが自分のコースターをナターシャに見せた。
「ヒナとアスカは超喜んでて、先にソーセージあげた俺が馬鹿みたいだったもん」
「ふ〜ん、これは手が凝ってるわね」ナターシャがコースターを見つめた。「でも手作りでイニシャル入りって相当諸刃の剣よ。マットって子は2人と既に良好な関係だったんでしょうね。関係が微妙だったらゴミ箱行きもあり得るわよ。結果受けが良かっただけだから、あまり気にしないことね」
「ふんっ。もうナターシャにはエベディルク以外の相談はしないぞ。今では相談出来る女友達出来たんだからな」レオがふて腐れた。
「そう。からかい甲斐が無くなるわね」ナターシャがニヤニヤした。「じゃあボウヤの方から聞きたいこと無ければあたしは行くわ」
「うん。じゃまた」
既にリアルトは閉店しているので、レオはナターシャを見送った後に扉を施錠した。
その夜からレオは屋根裏で寝るようになった。しかし長距離を歩くことも立ち続けることも未だに困難で、ニュースボーイの仕事をすることは出来なかった。結局しばらくヒナの家に入り浸って三食世話になった。
ラグスビーマッチ3日前である翌日の木曜日に、ルイスの計らいでビングとのインタビューが再度実現した。リアルトにレオ、ルイス、アスカ、ジェイソン、ゴメスが集結し、ビングが後ほど到着した。
「皆さんお時間ありがとうございます」ビングは5人に挨拶すると、椅子に座った。「前回と同じく、普通に話して頂ければ結構です。参加される方はこれで全員ですか?」
「うん」ルイスが返事した。
「しかし満場一致で次回のマッチを棄権されると?」
「そうだね。本当はメンバー全員揃えて証明したいところだけど、皆仕事で忙しいし、土曜日の練習じゃガレクロに間に合わないだろうから」
「ええ、仰る通りです。棄権する旨は運営に連絡済みでしょうか?」
「話したけど、別に試合が中止になるようなことは言われなかったね。そもそも棄権っていうプロトコルは存在しないんだよ。今まで誰もしてこなかったから無理も無いけど」
「はい。私にも試合が中止になるという連絡は入っておりません。となると、このインタビューを読んでも平民チームの棄権を信じない人は、当日会場に足を運んでしまう可能性はありますね」
「そうなるかもな」
「ですからこうやって棄権を知らせて頂いたのは非常に助かります——前回お話を伺った時は、3人だけ欠場を決め残りの選手が試合に出ました。ゴメスさんは試合に出ましたが、その後心境の変化があったということですよね?」
ビングはゴメスに話を振った。
「そうだ。試合後の観客のリアクションを見れば、棄権すべきというのは明らかだった」
ゴメスが答えた。
「そうですか。ではここにいない残りの選手も試合後に同じ結論に至ったのでしょうか?」
「いや違う。俺も試合後すぐ心変わりした訳じゃない。数日考えて決めたんだ。ビングの翌日の記事もそうだし、平民の皆さんと会った時の反応もそうだし。ジワジワとボディーブローのように効いてきた。それでカウントダウンの時にここの4人に棄権に賛成すると話したんだ。残りのメンバーに関しては、俺が一人一人説得した。全員が棄権に賛成したのはつい先週の日曜日の話だ」
「そういう成り行きでしたか——はい、私はアナリストとして試合の感想を正直に書かせて頂きました。それでは日曜日一体どうなるのか、見守りましょう。インタビューは以上です。ありがとうございました」
インタビュー記事は土曜日に「ラグスビーアナリスト・ビングの前日予想」の中で掲載され、予想自体は書かれていなかった。イベント情報には依然としてラグスビーマッチが載っている。
「明日何人くらいマッチ観に行くと思う?」
レオはヒナの家で夕食を食べている時にHAMLに聞いた。
「いつも1万人くらいだから……千人くらい?」マットが予想した。
「そんなに行く? 100人も行かないんじゃないの?」アスカが言った。
「客もだけどさ、政府チームどうするんだろうね。あとMCサントスとか」レオが言った。
「『平民チームの登場です!』って言ってシーンとしたらヤバくない?」
アスカは笑った。
「政府チームが普通に登場したらもっとウケるな」レオが笑った。「俺明日からラグ乗れるし、どうなるか見に行かない?」
「行こう行こう!」
「僕も行く」
「私も行こうかな」
皆明日の試合を見に行くことになった。
翌日HAMLはヒナの家に集合に、試合の15分前にラグスビーフィールドに到着した。ケバブの屋台は通常時の5店舗ではなく2店舗しか無かった。ケバブ・サントスは営業していた。
4人は観客席に座った。
「意外と人いるぞ! 千人以上いるんじゃないか?」レオが観客席を見渡して言った。
「やっぱり僕の予想が当たったね」マットが満足気に言った。
「何で?」アスカは驚きを見せた。
「皆私達と同じこと考えてるんじゃない? 試合があるとは思ってないけど、何が起こるか見てみたいだけとか」ヒナが言った。
「そういうこと? まぁラグ乗ればすぐ来れるしね」
「確かに皆ラグ乗ってないか? 階段から上がってくる奴ほとんどいないぞ」
レオは来場してくる観客を眺めて言った。
時計は14時を回る。
「ここからどうなるんだ……当然国王はいないしな」レオがソワソワする。
14時を数分過ぎたところで、MCサントスがいつものスタッフ席に現れた。
「皆さん! 本日のラグスビーマッチは、平民チームが棄権した為、政府チームの勝利となりました!」MCサントスがメガホンで叫んだ。
観客は怒りを爆発させた。
「ふざけんな!」
「アスカのバンを止めろ!」
「月に1回の楽しみなんだぞ!」
MCサントスは早足でスタッフ席から姿を消した。
「明日のガレクロが楽しみだ」レオは笑みを浮かべながら、怒る観客を眺めた。
翌日レオは1週間ぶりにニュースボーイの仕事を再開した。ヘッドラインをいち早く知る為に、6時45分に本部に到着した。既に並んでいる人がいたが、ヘッドラインはまだ書かれていなかった。朝日が徐々に登り始め、ニュースボーイが続々とレオの後ろに並ぶ。
数分後にスタッフが階段を上って黒板にヘッドラインを記入し始めた。ニュースボーイは皆並びながら黒板を見上げる。
最初に記入された言葉は「アスカ」だった。周りがざわつく。
「来たんじゃないか、これ!」ニュースボーイが期待を膨らませる。
スタッフが記入し終えて階段を降りた。ヘッドラインは「アスカのバン解除」だ。100人を超えるニュースボーイが歓声を上げた。レオの前後に並ぶニュースボーイがレオとハイタッチをする。
「やったなレオ! これで次の試合出るだろ?」
前に並ぶニュースボーイが興奮気味に言った。
「おう! 出るぞ!」レオがガッツポーズを見せた。
レオは強気に160枚購入した。このヘッドラインなら、サブスクライバーを抜いても100枚売る自信があった。レオは並んでいるニュースボーイとハイタッチをして回った。そこにはヘンリーの姿もあった。
「レオ、お前最近ガレクロに載り過ぎなんだよ!——ビングのインタビューは出るしサーカスするしデモはするし! どんだけお騒がせやねん! 脚治ったのか?」
ヘンリーが笑顔で声をかけた。
「うん! 何で打たれたの知ってんの?」
「俺も居たんだよデモに! あとアスカにもここで話聞いたしな」
「居たのか! 気付かなかった!」
「ニュースボーイは皆お前のこと信じてるからよ、あのクソ記事のことなんて気にすんな!」
「ありがとう!」
レオは空を飛び立ち、サブスクライバーへガレシアクロニクルを届けた。その後アントラ付近で1週間ぶりにヘッドラインを叫ぶ。
「アスカのバン解除! 平民チームは次の試合出るぞ! 勿論俺も出る!」
客が次々とレオの元へやって来た。新聞は飛ぶように売れ、14時までに全て売り切った。今日ほどニュースボーイが楽は日は無かった。
夜ヒナの家に行くと、ヒナはご馳走を用意していた。
「今日はお祝いしなきゃ!」ヒナがぎこちないスキップをして言った。
マットが最後に到着し、HAMLがテーブルを囲んだ。
「じゃー乾杯の音頭はレオかな!」アスカが言った。
「よし! アスカのラグスビー選手復活を祝して、乾杯!」レオがコップを掲げた。
「乾杯!」
4人はしばらく食事を堪能した。
「今思うとさ、何でルイスが棄権を知らせた時点で政府はアスカのバン解除しなかったんだ?」レオが口を開いた。
「本当に棄権すると思わなかったんじゃない? 負けを認めたくなかったんだよ」
アスカが言った。
「いや〜、ルネヴェイラでレオが棄権案を出してから丸2ヶ月経ったけど、本当に達成しちゃったね」マットが尊敬の眼差しでレオを見た。
「2ヶ月か。長いようで短かったな。随分色んなことが起きた」
レオがしみじみと振り返った。
「本当だよね。サタナリアあって、アッちゃんのキンセニエラあって、カウントダウンあって、アントライベントあって、デモあって」ヒナが言った。
「以前だったらラグスビーマッチが月のハイライトだったのに、マッチ無しでここまで充実するとは」
「アスカとレオはこれからラグスビーとシアターの掛け持ちでしょ? 大忙しだろうね」
マットが言った。
「シアターはオファー貰わないと出られないよ」とアスカ。
「貰えるでしょ。1人であれだけ集客力あるんだから」
「——そうだ。今日ジャスミンと会ったよ」アスカが話題を変えた。
「マジで!? 何だって?」レオが食いついた。
「タリアはやっぱ辞めたがってるって。エドウィンのこと今でも愛してるし、役人と付き合ってるのは嘘だってさ」
「よっしゃー!」レオは思わず立ち上がった。「エドウィンに伝えようぜ!」
「もう伝えたよ。ジャスミンと別れた後病院に直行して伝えた」
「アッちゃん仕事が早い!」ヒナが褒め称えた。
「これで少なくともエドウィンは報われるな……いや逆に辛いかもしんないけど」
レオが急に元気を無くした。
「うん。エドウィンはそこまで喜ぶわけでも無かった。記事は嘘だって分かってたんだと思う。それよりも、希望を賭けてたデモがポシャったから、成す術無くて絶望してる感じだった」
アスカが暗い表情で言った。
「お〜い、重い話だなこれは」
「でもアッちゃんジャスミンさんあまり好きじゃないのに、聞いてくれてありがとう」
ヒナがお礼を言った。
「うん。タリアとエドウィンの為だもん、そんなこと言ってらんないじゃん」
アスカは笑顔を作った。
レオは屋根裏に帰って今後について考えた。大好きなラグスビーをアスカとまた出来ることは嬉しいのだが、どうしてもタリアとジョマナのことを考えてしまう。
レオは最近ヒナから借りて読んだ「アキロスの願い」の内容を思い返した。ナターシャの言う通り国王の立場に立って考えてみるには、この本の内容が参考になると思ったからだ。
物語の中でアキロスは国王に就任した後様々な娯楽を楽しんだが、中でもギャンブルは大好きだった。身内で賭けるだけでなく、国民が参加出来るギャンブルを企画した。金持ちになるチャンスと娯楽を国民に提供することで、更に民衆の人気を獲得した。今で言うとラグスビーのスポーツベッティングがそれに当たるのだろう。昔はもっと色んなギャンブルがあったのかもしれない。
そこでレオは閃いた——国王とギャンブルをすればいい。ギャンブルで勝ったらタリアとジョマナを解放してもらう。負けたら金を払えばいい。アントラでまたイベントを開いて募金を募れば、大金でも何とか払えるかもしれない。
では何のギャンブルをするか。平民はダイスを使ったゲームやボードゲームでよく金を賭けている。それをどうやって国王とやるのか。仮に城でやったところで兵士に囲まれているから、レオが勝ってもヒーラーを解放してもらえる保証がどこにも無い。もみ消されてお終いだ。国王が負けたらヒーラーを解放せざるを得ない状況を作る必要がある。
全国民が見ている中で国王とギャンブルをすれば、逃げられないはずだ。しかし全国民を集めるなんて出来ない。一番国民が集まるのがラグスビーマッチ。ラグスビーマッチのハーフタイム中に国王とギャンブルをするか——いや違う。レオは自分の馬鹿っぷりに呆れた。わざわざ国王とダイスを転がして遊ぶ必要など無い。ラグスビーマッチがあるじゃないか。平民チームが勝ったらヒーラーを解放してもらえばいい。
レオは自分のアイディアに興奮した。明日はスミスがエベディルクを受け取りにギルドに来る。その時にこのギャンブルを提案することにした。
翌日レオがリアルトで待っていると、スミスが現れた。
「よぉスミス、久しぶりだな」レオが立ち上がって挨拶した。
スミスは無視してギルドへ向かった。
「ちょっと話があるんだ」レオがスミスを呼び止めた。
「何かね。まず私はエベディルクの支払いを済ませたいのだが、これに関係あるのかね?」スミスが振り向き、苛立った表情で言った。
「分かった。じゃあその後でいい」
レオがそう言うと、スミスはドンテに料金を払ってエベディルクの瓶を受け取った。
「まぁ座ってよ」
レオはテーブルの反対側の椅子をスミスに指した。スミスは眉間に皺を寄せながら座る。
「タリアとジョマナの件で提案があるんだ」レオが話を切り込んだ。
「まだそれに執着してるのかね! 脚を打たれても懲りないのか?」
スミスが呆れるように言った。
「そうみたいだな。お互いメリットがある話だから聞いてくれ——次のラグスビーマッチで平民チームが勝ったら2人を解放するのはどうだ? 負けたら金を払う」
「金を払うなんて簡単に言うが、平民共がまともな金を払える訳が無いだろう」
スミスが鼻で笑った。
「やってみなきゃ分かんないだろ? この間アントラで6千人にエベディルクの真相を伝えたんだ。デモには500人が集まった。これくらいの人数から募金を募れば、かなりの額が集まるぞ」
レオにそう言われてスミスは考え込んだ。
「これで大金手にしたらスミスの手柄になるじゃないか」レオが追い討ちをかけた。
「——一旦国王様に伝えておく」
「よし! ありがとう。結論出たらここのリアルトに俺宛で手紙送ってくれ」
レオが明るい表情を見せた。
「あまり期待するな」スミスはそう言い捨ててリアルトを去った。




