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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第28話 プロパガンダ

 翌朝はアスカがいち早くガレシアクロニクルの配達の為に病院を出た。7時にミラとサイモンが病院に到着した。

「レオ、おはよう」ミラが元気に挨拶をした。「雨も止んだし、運んじゃうよ!」

「ありがとう」

 レオはサイモンに支えられながら歩き、カートの上に乗った。

「よし、行くぞ!」

 サイモンがカートを押して歩き、ミラが隣を歩いた。ヒナとマットはラグで先に家へ帰った。

「カートに乗せられて歩くなんて初めてだぞ。ジャガイモになった気分だよ」

 レオが言った。

「ジャガイモって!」ミラが吹き出した。「これはワインを運ぶ高級なカートだからね? 揺れ少ないんだよ」

「そうなのか。じゃあワインになった気分だよ」

「レオ脚打たれて頭おかしくなったんじゃない?」

 3人は話しながらゆっくりとヒナの家へ行った。ヒナが3人を迎え入れ、レオは2階のベッドに横になった。レオがベッドでゴロゴロしていると、10時前にアスカが家へ帰った。

「ヒナっち! レオいる? 今日のガレクロヤバいよ!」

 アスカが大声を出した。

 ヒナとアスカが寝室に集まり、アスカが2人にガレシアクロニクルを渡した。レオはヘッドラインを早速読んでみた。

———

  若者が勘違いのデモ行為起こす


 昨日18日、約50人の若者集団が城前でデモ行為を行った。デモの内容は、政府所属のヒーラーであるタリア・ブランシェットとジョマナ・フォンテーヌの解放を求めるものであった。兵士による迅速な対応でデモは即鎮圧された。

 今回の騒動を受け、タリアとジョマナが胸の内を明かした。

「お節介です。放っておいてほしいです」タリアが話した。「私は憧れの政府の仕事に就くことが出来たんです。給料が高くて勤務時間が短いので、とても気に入っています。私の人生なのに何故他人にちょっかいを出されなければならないのでしょうか?」

 婚約者が会いたがってる件についてはどう思っているのだろうか?

「婚約と言っても口だけですし、今は役人の方と結婚を見据えてお付き合いしてます。もう住む世界が違うので、元婚約者には私に執着せず新たな人生を歩んでもらいたいです」

 タリアとジョマナは、エベディルクというハーブティーを国王に提供する仕事をしている。しかし、2ヶ月前にレオ・フィッシャーとヒナ・ローレントによってエベディルクの材料の入手が妨害された。以降彼らは勝手にエベディルクを独占している。その件についてもタリアに伺った。

「彼らのせいで私の仕事が奪われて給料が半分になりました。速やかにエベディルクの独占を止めて頂きたいです」

 続いてジョマナにも話を聞いた。

「私はこの仕事を12年もやってるの。好きだから続けてるのよ。なのに『ジョマナを返せ』ですって? 勘違いも甚だしいわ」

 今回のデモの主犯はレオ・フィッシャー本人であった。彼についてはどう考えているのだろうか?

「人助けでもしてるつもりなのかしら? ヒーロー気取りもいい加減にしてほしいわ。人の仕事勝手に奪っておいて、よく平気でくだらないデモなんか出来るわね。彼こそが問題の根源だということを周りは知るべきだわ」

 尚政府は、今後似たような反乱運動が起きた場合は更に強硬手段に出る姿勢を見せている。

———

「何だこれ……!?」レオはガレシアクロニクルを握り締めた。「しかも50人って、桁1つ少ねーよ!」

「完全に情報操作だよね」ヒナが言った。「どこまでが嘘なのか、本音を本人に確認した方がいいかも」

「まぁそうだな——エミリオならタリアとジョマナと接点あるだろうから、エミリオに聞けば分かるはずだ」レオはそう言うとアスカを向いた。「アスカ、エミリオに手紙送るようロゼーラおばちゃんにお願いしてくんない? 俺が直接送ると、もし盗まれた時に怪しまれるから」

「分かった」アスカが頷いて部屋を出た。

「エドウィンさんこれ読んだら辛いだろうな……ただでさえデモに失敗したのに」

 ヒナがヘッドラインを眺めて呟いた。

「本当だよ。あいつストレスで倒れないだろうな」レオもエドウィンを心配した。

 夜アスカが家に帰って来ると、寝室のレオを呼んだ。

「レオ、エミリオ今夜22時半に来るって」

「了解」レオが起き上がって返事をした。

「あと、リアルトにレオ宛の手紙届いてたよ」アスカが手紙を渡した。

「マジ? サンキュー」

 レオは早速手紙を開けた。「近い内に会える? N.E」とだけ書かれていた。こんな手紙をレオに送るのは1人しかいない——ナターシャだ。今日のヘッドラインを読んで詳細を知りたいのだろう。

 ナターシャと会う場合は盗み聞きされない場所でないといけない。いつも薬草採りの最中に遭っていたが、レオはもう薬草採りをしていないし、そもそも歩くことすらままならない。レオは返事を書いた——「怪我してて歩けない。21日の夜から歩ける。場所は屋根裏でどう? レオ」

 レオはヒナから封筒をもらい手紙を入れ、ナターシャの住所を書いた。

「アスカ、明日これギルドに持って行ってくんない? それか自分で届けてもいいけど」

 レオは手紙をアスカに渡した。

「オッケー——どうせガレクロ配達するし、ついでに配達するね」

 アスカが答えた。

「サンキュー——俺が手紙頼むとかめっちゃ違和感あんだけど」

「マジそれね」アスカが笑った。

 夜はマットもヒナの家を訪れ、いつも通り4人で夕食を食べた。

「今日早速フィリップモデルの注文が1件入ったよ」

 マットが嬉しそうに報告した。

「マジ!? やるじゃん!」レオの表情が一気に明るくなった。「久々に良いニュース聞いた気がするぞ」

「焼き芋買った時にフィリップに聞いたんだってさ——でもどれくらい売れるかは未知数だな〜。ウルトラフィットじゃないから予め作っておいた方がすぐ売れていいんだけど、在庫余ったらどうしようっていうのもあるし」

「1枚だけ作っておけばいいじゃん。店頭に飾ればインパクトあるし、もし売れ残っても1枚なら痛くないでしょ?」アスカが言った。

「確かにそうか。じゃあそうするよ」マットが納得した。「ちなみにアスカのラグダンス用ラグの問い合わせも幾つかあったけど、用途を説明したら遠慮された。まぁ当たり前なんだけどね」

「でも何か勿体無いよね——せっかくロゴがびっしり描かれてるから、あのデザイン自体は活かしたいところだけど。ラグダンス用だけ色固定するっていう手もあるけど、ミラが別の色欲しがったら困るし」

「そうだ。ミラのラグそろそろ作んないとダメだ。何リタにする?」

「コストはどれくらいなの?」

「リリースの調整ってあまりやらないから手間かかるんだよね。普通の利益取るならイージーラグと同じ7万リタかな」

「ミラにはもっと安く売ってあげたいところだけど、ラグダンスやる人なんていないから広告塔として機能しないもんね」アスカが悩む。

「ラグダンスやる人これから出て来るかもよ」ヒナが話に入った。「私は運動神経悪いしこの歳だから今からやってみようとは思わないけど、小さい子が昨日のアッちゃんのダンスみたら、やってみたくなると思うけどな」

「それは絶対あるだろうな。今の少女達からすればアスカとかミラって憧れの存在じゃん」レオが賛同した。「どうする、10年後にガレシアエンジェルスが皆ラグダンスやってたら?」

「それはちょっと面白いね」アスカがニヤけた。「『ダンス用ラグと言えばマットファクトリー』ってなれば最高だね——デザインは敢えてこれ専用にしよっか。ミラには好きな色選んでもらって6万リタで売ろう。マットファクトリーの宣伝にはなるし、6万リタでも利益出るでしょ?」

「ビジネスサイドはアスカに任せてるから、それでいいよ」マットが了承した。

「てかアスカ、今日ガレクロの残りどうしたの?」レオが話題を変えた。

「売り切ったよ」アスカが澄ました顔で答えた。

「え、アントラ付近でやったの?」レオは驚いた。

「アントラの観客席でランチ食べてたら色んな人が声かけてきたから、その人達に売った」

「いや……もうそれ……卑怯!」レオが呆れ声を出した。

「アッちゃんすご~い!」ヒナがニコニコした。

「えへへ。セレブの特権よ」アスカが得意気な顔を見せた。「本部でもニュースボーイに声かけられまくったし–—本当男しかいないよね。アスカ本気でニュースガールやれば15万リタは稼げるかも」

「俺の自尊心が壊れるから、それ以上何も言わないでくれ……」レオが口を尖らせた。

 夕食が終わるとマットは帰り、レオはベッド生活に戻った。22時半にエミリオがヒナの家を訪れた。

「レオ君、エミリオ来たよ」ヒナが1階からレオを呼んだ。

「マジで? 今行く!」

 レオは松葉杖で階段を降りる。アスカも一緒に1階へ行った。

「いや〜派手にやられたもんだな」エミリオがレオの松葉杖姿を見て言った。「お前を射った兵士が周りに自慢してたよ。バナスっつーんだけど、あいつラグスビー下手で政府チームに入れなかったから、お前を妬んで射ったんじゃないか」

「しょうもない奴……」アスカが吐き捨てた。

「アスカだよな? サタナリアでも見かけたけど、あの時は仕事中だったから何も話せなかった。エベディルクの一件に貢献したってレオから聞いたよ」

「あ、うん。初めまして! ヒナっち助けてくれてありがとう」

 アスカが笑顔に戻った。

「おう」エミリオはそう言ってレオに目線を戻した。「しかしレオを射ったのは愚策だな。お前が反乱グループのリーダーだろ? リーダー打たれたら逆に皆結束するだけじゃねーかよ」

「そうかもしんないけど、あれによってデモが終わったのは事実だよ」レオが言った。

「そうだけどよ、嫌な話普通の人間射っても同じ効果があったはずだぞ——まぁいいやこの話は。何で呼んだんだ?」

「エミリオ君座っていいよ」ヒナがスツールをエミリオに差し出した。

「お、サンキュー——久々にこの家来たけど、大分様変わりしたな」

 エミリオが周囲を見渡した。ヒナ、アスカ、レオもスツールに座った。

「今日のガレクロ読んだでしょ? タリアとジョマナの話はどこまで本当?」

 レオが本題を切り出した。

「あ〜あれな。ジョマナは俺が兵士になる前から城で働いてるからな。淡々と仕事してて、辞めたそうには見えないな。タリアは最初こそ抵抗してたけど、今は普通に働いてるよ。辞めたいか聞いたことあるけど、辞めるつもりは無いって言ってたな」

「そうか……」レオは考え込んだ。

「エミリオ君は兵士だから、本音を話せないんじゃないかな」ヒナが言った。「辞めたいなんて言ったら殺されちゃうでしょ?」

「辞めたいって言っただけじゃ殺されないけど、監視が強くなるのは確かだな」エミリオが納得した。「俺はある程度フレンドリーに接してるんだけどさ——でも逃がしてやるなんて俺の口からは言えねーし。他の兵士に告げ口されたら俺の首が飛んじまう。お互い本音が言えなくてステイルメイトになってる。ダニエルは俺を信頼出来るって察してくれたから、逃げたいって自分から言ってきた。ダニエル程の洞察力が無いと、兵士に逃げたいなんて言わないだろうな」

「じゃあ友達にだったら本音を話すんじゃない? 2人の友達って誰か知ってる?」

「ジョマナは知らねーな。タリアは若いし遊女と仲良いぞ。城にいる若い女なんて侍女と遊女と一部の看護師くらいだし」

「遊女? ジャスミンさんとは?」

「ジャスミンとも仲良いぞ」

「アッちゃん、ジャスミンさんに聞いてみたら?」ヒナがアスカを見た。

「——分かった。聞いてみる」アスカがか細い声で返事した。

「あ〜そっか、ジャスミン・クリスタルか。アスカの姉ちゃんだもんな」

 エミリオが納得するように頷いた。

「あとジョマナの話なんだけど、ジョマナの夫のジャファリが再婚してるの知ってる?」レオが聞いた。

「ん? それは知らねーぞ」エミリオが眉間に皺を寄せた。

「デンデラって女と再婚してるんだよ。じゃシオネっていう14歳の娘の存在は?」

「それは知ってる。手紙の内容見たことあるからな。再婚してたら仕送りなんて送んねーだろ普通」

「俺達もそう思ったんだよ。でもシオネに聞いたら、ジャファリとデンデラはちゃんと戸籍上結婚してるって言うんだ」

「おいおい何だそれ……国民の戸籍情報は役人しかアクセス出来ねーから何が真実か分かんねーけどよ、手紙の内容見る限り、ジョマナはジャファリとまだ結婚してると思ってるぞ」

「じゃあ戸籍上どうなってるかはもはや関係無くない? ジョマナがジャファリの再婚を知らないのは事実だから、それ教えてあげた方いいよね?」

「う〜ん、これ俺が教えるのは結構リスクあるんだよな……」エミリオが腕を組んだ。「俺が教えたらジョマナは役人に確認するだろ? そしたらどうやってこの話を知ったか聞かれるはずなんだよ。情報元が俺だとバレるとマズイな」

「何で?」

「仮に娘の話が本当だとすると、役人はジョマナの離婚を知ってて本人に知らせてないことになるだろ? そうなったら役人もグルじゃねーか」

「そういうこと? でも何で役人は離婚のことジョマナに隠すんだよ」

「確かにそうだな」エミリオは考え込んだ。

「ジャファリに仕送りを送らせ続ける為じゃない?」ヒナが言った。「ヒーラーを取られた親族は悲しむから、政府はヒーラーに仕送りを送らせることで親族を懐柔するでしょ? でも仕送りが止まったら、親族はヒーラーの軟禁のことを周りに愚痴るはず。そしたら軟禁の事実が平民の間に広まって、反乱が起きかねない」

「でもジャファリはジョマナと離婚したから、別に悲しんでなくないか?」

 レオが疑問を投げかけた。

「最初は素直に悲しんでたかもしれないよ。でも段々と仕送りの味を占めて吹っ切れたんじゃないかな。どうせジョマナさんと会えないなら離婚しようと思ったんだろうね。それで『離婚のことをジョマナに隠さないと軟禁のことを平民に言いふらすぞ』って政府に脅したのかも」

「なるほど! それなら筋が通るぞ! やっぱヒナ頭切れるな!」レオが感心した。

「だとしたらジョマナってめっちゃ可哀想じゃない? ジャファリっていつ再婚したの?」アスカが尋ねた。

「確かシオネちゃんが4歳の時だから、10年前」ヒナが答えた。

「10年も! ジョマナはずっと愛する夫と娘の為に仕送り送ってるって思ってるわけでしょ?」

「悲劇だよこれは。悲劇」エミリオが嘆いた。「ジョマナに匿名で離婚の事実を伝えることも出来なくはねぇが、ジョマナがこれ知ったらショックで自殺しちまうかもしれねぇ。あるいは逃げようとして殺されるか。解放出来るまでは知らせねぇ方がジョマナの為かもな」

「そうか……」レオが呟いた。

「まだ2人の解放は目指すのか?」

「いや、もう何も出来ること無いでしょ」レオは自分の右太ももを見つめて言った。

「まぁもし何かやるならいつでも連絡してくれ。内側から出来ることはやるからよ」

「分かった。ありがとう」

 エミリオはそそくさとヒナの家を出ていった。

「取り敢えず今出来ることは、タリアの本音をジャスミンから聞き出して、それをエドウィンに伝えることくらいか」

 レオがヒナとアスカに言った。

「うん……レオもう解放諦めるの?」アスカが言った。

「前も言ったけど、俺は生きてるだけで精一杯なんだよ。仕事は忙しいし、ラグスビーもシルク・ドゥ・パレットもある。そりゃ解放する手立てがありゃいいけどさ、分かんないもん」

「そうだよね……アスカも何か考えてみる」

 3人は2階に上がった。レオはベッドに横になりながらエミリオとの話を振り返った。しかしいくら考えても何も良い解決策が思い浮かばす、気付いたら眠りに就いていた。

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