第27話 デモ運動
まず現れたのはラグに乗った観客約100人だ。レオはメガホンを持ってラグに乗り、彼らと目線を合わせた。
「歩くと1時間以上かかるから、今から1時間後くらいに城に来てくれるか?」
レオが空中で叫んだ。
「了解!」ジェイソンが叫んだ。「それまでローザンパークで暇潰そうぜ! ラグスビーメンバーはエベディルクのこと知ってるから、質問あったら何でも聞いてくれ!」
ジェイソンが空中で浮遊している人達に伝えた。
「おう、めっちゃ助かる!」レオが礼を言った。
ラグ乗り達はラグスビーメンバーを先頭にローザンパークの方面へ飛んで行った。
次に観客が続々と出口から出て来た。飲食店に並ぶ人も多く、付近はあっという間にごった返していく。
「取り敢えず歩き始めなきゃダメだ。俺はここに残って誘導するから、飛べないエドウィンとシオネが先頭歩いてくれ。あとアスカな。1人有名人がいないとダメだから」
「オッケー!」アスカが快諾した。
「分かりました!」エドウィンが返事をした。「皆さん、城へ向かいますのでこちらへお願いします!」エドウィンが大声を出し、アスカ、シオネと共に先陣を切った。
多くの観客がアスカと話そうとして、アスカに付いて行った。しかしシルク・ドゥ・パレットと話したい人達がメンバーの前にごった返す。
「これじゃダメだ」サイモンがそう言い、ファンを避けるように空中に飛んだ。オリバー、マディソン、ミラも同様に地上3メートル付近に浮遊する。
「俺達と話したきゃ城へ向かってくれ! 後で行く!」サイモンが空中から声をかけた。
「質問があったら私に聞いて下さい! 国王に今エベディルクを作ってるのは私です!」
ヒナが地上から呼びかけた。
「僕も質問に答えるよ!」マットが隣で声を張った。
一方で焼き芋ジャグラーには長蛇の列が出来ており、フィリップが対応に追われている。
200人以上がエドウィン達の後を付いて行った段階で、1度列が途切れる。
「中間の誘導が必要そうだから、俺が行くよ!」オリバーがレオに言った。
「おー助かる!」レオが礼を言った。
「あたしも行く」マディソンがオリバーの後を追った。
レオ、サイモン、ミラは引き続き空中に浮遊する。
その後更に200人ほど城へ向かったが、大半の観客はデモに参加せずに帰って行った。30分以上経ち、ようやくアントラ付近が落ち着いてきたところで3人は地上へ降りた。
「俺はそろそろ皆に合流しようかな」サイモンが言った。
「オッケー」レオが答えた。
「良いこと思いついたんだけど、ミラ、『アキロスの願い』持ってる?」
サイモンが尋ねた。
「家にあるよ。何で?」ミラが聞いた。
「デモ行って燃やしたら面白くないか?」
「は?」ミラが笑った。「サイモンらしい発想だけど、何で私のなの?」
「俺のはどっか行っちまったんだよ」
「そう。もうどうせ読まないからいいけど」
「じゃミラの家寄ってから城行こうぜ」
「いいよ」
サイモンとミラはアントラを離れた。
「ヒナお疲れ。ずっと声張りっぱなしだっただろ」
レオがヒナの肩をぽんと叩いた。
「うん。レオ君ニュースボーイで1日中こんな感じなの?」ヒナが疲れた様子で言った。
「まぁそうかもな。最初はめっちゃ喉痛くなったからね」
「やっぱ僕にこういう役は向いてないよ。疲れた……」マットもヘトヘトだ。
「焼き芋でも食って元気出しなよ。焼き芋ジャグラーもやっと空いてきたし」
レオが屋台を見て言った。長蛇の列がきれいに無くなっている。
レオ、ヒナ、マットはフィリップの所へ行った。
「フィリップはデモ行く?」レオが尋ねた。
「うん。客引いたし、店閉めて行こうかな」フィリップが答えた。
「オッケー。俺は先に行ってるよ」
3人は焼き芋を1本ずつ購入し、城へ向かった。
城の近くまで飛ぶと、街を練り歩く数百人の団体を一瞬で見つけた。3人は先頭に降り立ち、エドウィン、シオネ、アスカと合流した。
「やっと来たね皆!」アスカが嬉しそうに言った。
「アッちゃんお疲れ〜。先頭歩くの大変だった?」ヒナが聞いた。
「別に。こんな長距離歩いたの薬草採り以来な気するけど」
「あ〜、懐かしいね」
6人で歩いていると、小雨が降って来た。
「こんな時に雨が降るなんて……!」エドウィンがフードを被りながら嘆いた。
他の5人もローブのフードを被る。
「タイミング悪いですね……」シオネが表情を曇らせた。
20分以上歩き、先頭集団がようやく城の門に到着した。
「何事だ!」門番をしている兵士が集団を見て怒鳴った。
「大勢で歩いてちゃ悪いか?」レオがとぼけた。
「門からどけろ!」
「へいへい」レオが適当に返事し、集団は門から離れた所で待機した。
「大丈夫なの?」デモ集団から不安の声が聞こえる。
「大丈夫大丈夫。取り敢えず皆集まるまで待とう」レオが集団を安心させた。
その次にラグ乗り集団が空から一斉にやって来た。先頭集団が拍手で迎える。
「いるね〜」ルイスが集団を見て嬉しそうに言った。
「そっちは何してたの?」アスカが尋ねた。
「ローザンパークで会合してたよ。質疑応答だね」
最後に後続集団が現れた。フィリップも含めたシルク・ドゥ・パレットの5人が集団を率いている。
「これは絵になるな〜」マットがうっとりと集団を眺めた。
「おいおい、すごい数だなこりゃ。全部で500人以上いるんじゃないか?」
フィリップが合流して言った。
「よし、皆集まったな……こっからどうするんだ?」レオはきょとんとした。
「僕がメガホンで訴えます」エドウィンが言った。
「あ、ちょっとその前に一発ショーをやってもいいか?」
サイモンが鉄棒を取り出して言った。
「いや、どういうことでしょう……?」エドウィンがサイモンをポカンと見つめた。
「3分で終わるから」
サイモンはそう言うとラグに乗り、マッチで鉄棒に火を付けた。地上2メートルくらいの低空で、ファイアーアクトを始めた。500人の集団が歓声を上げる。近くの門番も興味津々とサイモンのアクトを見物する。
1分ほど鉄棒を振り回し集団の注目を集めたサイモンは、地上にいるミラに目で合図をした。ミラがラグに乗り、サイモンに「アキロスの願い」を渡す。サイモンは本を集団へ見せた。
「『アキロスの願い』を燃やすぞー!」
サイモンが大声で叫んだ。その声はメガホンが無くても充分に響き渡る。集団が大きな歓声を上げる。
「燃やせ! 燃やせ! 燃やせ!」集団がコールを始めた。
サイモンは集団を更に煽った後、鉄棒の火で本を燃やし始めた。
「燃やせ! 燃やせ! 燃やせ!」コールはまだ続く。
本が火まみれになった段階で、サイモンは集団の真ん中にラグで降りた。本を地面に捨て、集団にガッツポーズを見せる。集団は本が灰になるまでコールを続けた。
「何の騒ぎだ!」兵士が数人やって来た。
そこでエドウィンがメガホンを持つ。
「タリアを返せー!——ジョマナを返せー!」エドウィンが思い切り叫んだ。
レオがエドウィンに続いた。続々と集団も声を出し始める。
「タリアを返せー!」エドウィンが拳を突き上げる。
「タリアを返せー!」集団が拳を突き上げて答える。
「ジョマナを返せー!」エドウィンが叫び続ける。
「ジョマナを返せー!」シオネが声を振り絞って集団と共に叫ぶ。
「いい加減にしろ!」
兵士がエドウィンのメガホンを取り上げようとするが、集団が妨害をする。兵士は邪魔する者を盾で殴る。
空からは続々と空軍がやって来て、集団へ弓矢を向けて脅す。
「とっととここから離れないと射つぞ!」
集団の一部が怖がってその場から逃げる。
「自国民を射つなんてお前正気か!?」レオがラグに乗って空軍を目線を合わせる。
「秩序を乱す者は抑制するまでだ!」空軍兵士が怒鳴った。
「お前の言う秩序は何だよ? ヒーラーが2人軟禁されてることを秩序と呼ぶのか? 秩序を乱してるのは政府の方だろ!」
レオが食いかかった。
「そうだそうだー!」地上にいる集団がレオを応援した。
「お前かリーダーは! ラグスビーでチヤホヤされて調子乗りやがって!」
空軍兵士がそう吐き捨てると、弓を引き、近距離でレオの右太ももを射った。レオは一瞬にして立つ力を失い、悲鳴を上げながらラグから転び落ちる。下で見ていたオリバーとサイモンがレオを受け止めた。
「レオ君!」ヒナが顔を引き攣らせて叫んだ。
集団はレオの名前を呼ぶ者と、恐れて逃げる者に分かれる。
「レオ射つなんてどうかしてんのあんた!」アスカが地上から空軍兵士を睨んだ。
「おい! 近くに住んでる奴いねーか! レオを運んで看病するぞ!」
オリバーが叫んだ。
「そんなことはどうでもいい! 適当に店入るぞ!」サイモンが言った。
2人は矢が刺さったレオを、レオのラグに乗せて運んだ。
「私薬持ってるから手当する!」ヒナが2人に付いて行く。
「弓矢を抜くのはヒーラーの手では終えません! 私は外科医ですから私が対応します! 近くの病院へ運んで下さい!」エドウィンが叫んだ。
「俺一番近い病院知ってるぞ! 俺が案内する!」ルイスが先頭を切った。
アスカ、マット、シオネ、シルク・ドゥ・パレット、ラグスビーメンバーが全員後を追う。
「見たか! 我々は射つことをためらわない! 命が惜しければとっととここを去れ!」
レオを射った空軍兵士が空から叫んだ。主要メンバーを欠いた集団は次々とその場から逃げ、デモは10分程で鎮圧された。
「ルイス、その病院は今日開いてるの?」マットが尋ねた。
「待てよ——俺日曜日ギルドワークしないから覚えてないぞ」ルイスが立ち止まった。
「しまった! 今日は日曜日でした!」エドウィンがおでこを叩いた。「殆どの病院は閉まっています! 私の病院でしたら開けることが出来ます!」
「でもここから遠いですよ?」ヒナが懸念を口にした。
「俺とミラで空中を運ぶ」フィリップが声を発した。
「そんなこと出来るの?」マットは驚いた。
「グループアクトと同じさ。俺とミラが平行に飛びながらレオを乗せたラグを持てばいいだろ」
「でもあれはあたしが2人のラグに足かけてるだけじゃん? 持つってなったら力要るよ? しかも雨だし」マディソンが懸念を口にした。
「大丈夫、私やるよ」ミラが決意した。
「そしたら俺は落ちてもいいように下飛んでサポートするぞ」サイモンが言った。
「俺もやる」オリバーが手を挙げた。
「よし、誰か前飛んでくれ。場所分かんない」フィリップが周りに聞いた。
「私が分かるから前飛ぶ」ヒナが立候補した。
「オッケー。じゃあ運ぶぞ——レオ、辛いと思うけどあまり動かないでくれよ?」
フィリップがもがき苦しむレオに言った。レオは険しい顔をしながら頷いた。
サイモンとオリバーは一旦レオを乗せたラグを地面に置き、レオの頭と足側のラグを持つ。レギュラースタンスのフィリップが左側、グーフィースタンスのミラが右側に立ち、サイモンとオリバーからラグを受け取る。フィリップとミラは合図と共に高度を上げていき、サイモン、オリバー、マディソンが下を飛んでサポート体制を取る。ヒナが先頭に立ち、移動を開始した。
エドウィンが猛ダッシュして追いかけようとするが、ルイスが止める。
「どこ行くんだ医者? 走ったってラグには追いつかないぞ」
「そんなこと言ったって私は飛べませんから!」エドウィンが振り向いて言った。
「2人乗りすりゃいいじゃねーか。俺が乗せる」
「は……はい! それではお願いします!」
「荷物だけは誰か持ってくれ。一応俺のもな」
「僕がエドウィンのを持つよ」マットがエドウィンのバッグを受け取った。
「俺がルイスのを持つぞ!」ジェイソンがルイスのリュックを担当した。
「2人乗りしたことあるか?」ルイスがエドウィンに聞いた。
「いえ、ありません」エドウィンが答えた。
「男は乗る側をほとんど経験しないからな。背中に手回すんだ」
ルイスの言われた通りにエドウィンがラグに乗り、2人は空を飛んで行った。
「シオネはどうする?」アスカがシオネに聞いた。
「私は歩いて行きますので、どうかお構いなく……」シオネが遠慮した。
「アスカいつもなら2人乗り出来るけど、今日はダンス用のラグを背負ってるから荷物多いんだよね——じゃあ先行ってるから。場所分かる?」
「はい」
シオネを置いて、アスカ、マット、残りのラグスビーメンバーがルイスとエドウィンの後を追った。
2人乗りをしていてもルイスは充分速く、フィリップ達にすぐ合流した。空中に20人の大所帯が出来た。
「私は先に行って準備をしますので!」エドウィンが、レオを運ぶシルク・ドゥ・パレットに言った。「ヒナさん、出来ればヒナさんにも先に行ってほしいのですが」
「分かりました!」ヒナが承諾した。「誰かこちらの先導お願い出来ますか?」
「俺がやる!」ジェイソンがヒナの場所へ入った。「ギルドワーカーは住所分かるからこういう時便利だな」
ヒナはエドウィン達と合流しようとしたところで、バランスを崩しラグの上でふらついた。
「ふわぁぁぁ」ヒナが悲鳴を上げながら必死にラグの上に留まろうとする。
「ヒナっち危ない!」後ろを飛んでいたアスカがヒナの体を抑える。
「ヒナっち雨の日飛ばないでしょ? 無理しない方がいいよ!」
「ありがとう、アッちゃん……でも私頑張る」ヒナが姿勢を取り戻して言った。
「分かるけど、レオ助けようとしてヒナっち死んだら洒落にならないからね!」
「うん……横一緒に飛んでくれる?」
「——分かったよ」アスカは渋々了承した。
「僕が逆側飛ぶよ」マットが言った。
「ありがとう」ヒナが2人に礼を言った。
遅れを取ったヒナ、アスカ、マットは、まずシルク・ドゥ・パレットに追いつく。
「レオしっかり! アスカも先に病院行って手伝って来るから」
アスカが横からレオに声をかけた。レオはアスカの声が聞こえたが、声を出す余裕が無い。
「レオ頑張れよ!」マットも声をかけ、アスカとヒナと共にエドウィン達を追った。
現時点でレオの集団は、先頭を飛ぶジェイソン、レオを乗せたラグを持つフィリップとミラ、サポートに回るサイモン、オリバー、マディソンとなった。
「ミラ辛くないか? 無理して落とすくらいなら1回休憩していいんだぞ?」
フィリップがミラの顔色を見て尋ねた。
「分かった。30秒だけちょうだい」
ミラがそう言うと、サイモンとオリバーが交代して、空中で静止した。
「レオはそんな重くないんだけどよ、雨でラグが重くなってるよな」
サイモンがラグを持って言った。
「もう何でこんな時に雨なの……」マディソンが泣きそうな声を出した。
レオは矢が刺さった太ももを手で抑えて顔をしかめている。痛みはどんどん強くなり、レオはいっそのこと脚を切断して痛みから解放されたくなった。
「レオ、死んだら許さないからね!」マディソンがレオの顔を覗いて叫んだ。
「分かったよ……頭に響くから大声出さないでくれる?」
レオが弱々しい声で言った。
「あ、ごめん……」マディソンが小声で謝った。
「お前は何ちゅうことしてんねん」オリバーがマディソンを睨んだ。
「オッケー、もう大丈夫」ミラがそう言って、フィリップと再度ラグを持った。
「病院もう見えてるから、もうすぐだぞ!」ジェイソンが皆を元気付けた。
フィリップとミラは若干スピードを上げてレオを運ぶ。病院へ着くと、入口でマットとアスカが待機していた。
「入って入って!」マットがドアを抑えて叫んだ。
サイモンとオリバーがラグを持ち、マットとアスカの誘導の元レオを運ぶ。エドウィンとヒナが待ち構える部屋へようやく到着した。
「ここにラグのまま置いてください!」エドウィンが手術台を指して言った。
サイモンとオリバーがラグごとレオを台に乗せると、エドウィンはヒナの助手の元、即手術に取り掛かった。傷口を消毒し、麻酔を打った後、傷口を慎重に開いて矢を抜き取る。傷口を再度消毒して薬を塗り、糸で縫っていく。15分程で手術が終了した。
「ではベッドに運びましょう」
サイモンとオリバーがラグを持ってベッドに移動し、フィリップとエドウィンがレオをラグからベッドに移した。
「今日初めて君のことを尊敬したよ」フィリップが笑顔でエドウィンに言った。
「医者ですからこれくらい当然です。フィリップさん達がラグで運んでくれたおかげですよ。傷口の感染が拡大する前に処置することが出来ました」
エドウィンが真顔で言った。
「レオさんゆっくり休んで下さい」
レオは単純に頷いた。
「レオ君、私ここに座ってるから、何かあったら言ってね」
ヒナが椅子に座って言った。
レオはまた頷いた。麻酔によって痛みは引いたが、それでもレオは疲労困憊だった。今日はラグスビーの練習をした後にサーカスをやって、その後デモをしたのだから当然だ。
「今何時?」レオが顔を若干ヒナの方に向けて聞いた。
「16時20分」
レオはそれっきり何も話さずに目を瞑り、気付いたら眠りに就いていた。
レオが脚の痛みによって目を覚ますと、部屋は若干の灯りのみで暗かった。
起き上がろうとしたが、太ももに負担がかかって再度横になった。
「レオ君起きた?」横でヒナの声がした。
「うん。今何時?」
「17時50分。ご飯あるけど食べる?」
「そうなの? じゃあ食べる」
レオはヒナに介助してもらい起き上がると、ベッドの上で黙々と食事をした。
「これいつになったら治るの?」食事を半分食べ終えたところでレオが尋ねた。
「歩けるようになるまでは3日、ラグ乗れるようになるまでは1週間だって」
ヒナが答えた。
「マジ? 俺ガレクロのサブスクライバーに配達しなきゃいけないんだけど」
「そっかぁ……」
「誰かにお願いしなきゃダメだな」
「聞いてくる? 皆待合室にいるけど」
「え、まだ皆いんの?」
「うん。アッちゃん、マット君、シオネちゃん、シルク・ドゥ・パレット、ラグスビーメンバー。勿論エドウィンさんも」
「マジか。アスカ呼んでもらっていい?」
「分かった」
ヒナは部屋を退室し、アスカを連れてすぐ戻った。
「レオ調子はどう?」アスカが心配そうに尋ねた。
「まだ痛いけど、大分落ち着いたよ——でさ、俺ガレクロを毎朝サブスクライバーに配達してるんだけど、それ1週間アスカにお願い出来たりする?」
「いいよ。どうやってやるの?」
「俺のリュックの中に顧客リストが入ってるんだ」
「ここにレオ君のリュックあるけど、勝手に開けていいの?」ヒナが尋ねた。
「うんいいよ」
レオの承認を得ると、アスカは部屋のランプを点け、リュックを開けて顧客リストの紙を取り出した。
「これ?」アスカがレオの顔の前に紙を見せた。
「それ。住所の横に時刻が書いてるでしょ? その時刻までに届けなきゃいけない」
レオが説明した。
「そういうこと? 何これスゴっ——62件もあんの?」
「うん。ガレクロ本部は7時に開くんだけど、ニュースボーイは皆7時から働きたがるからスゲー混むのね。7時に行くと10分以上待たされるから、10分前に行って並んだ方がいい。じゃないと配達間に合わないかも」
「だってこれほぼ9時までだから、1時間に30件でしょ? 2分に1件じゃん。しかもアスカ住所そんな詳しくないし」
「そうだよな……どうしよ、やっぱギルドワーカーに頼むか」
「——いや、アスカやる。最短ルートを今日のうちに整理すればいけるはず」
アスカが強い眼差しでレオを見た。
「——流石アスカだな——あと、ガレクロは最小20部単位でしか買えないから、80部買ったら18部余ると思う。その分売らないとアスカの収入減っちゃうけどいい?」
「アスカの収入ってどういうことよ? レオのでしょ?」
「いや、働くのアスカだからアスカの収入に決まってんじゃん」
「とぼけたこと言わないでよ。デモに参加したのは皆だよ? たまたまレオだけが怪我して働けなくなったんだから、皆でサポートするのが当たり前でしょ?」
「レオ君、皆に頼っていいんだよ」ヒナが後押しした。
「……分かった」レオが了承した。「3日間歩けなかったら俺明日からどうすればいいの? この部屋いれるの?」
「もう私の看護だけあればいいから、歩けるようになるまで私の家に住むのはどう? ミラちゃんが明日カート手配してくれるから、それで家まで運ぼうと思うの」
ヒナが言った。
「そうなんだ。でも部屋一緒じゃん」レオが懸念を口にした。ヒナの家の寝室は1つしか無く、そこにベッドが2つ置かれている。
「そんなこと気にしてる場合?」アスカが呆れた声で言った。
「——じゃあそうするよ」レオが顔を赤くした。「アスカはどこで寝るの?」
「ヒナっちと一緒に寝るから大丈夫だよ」アスカが笑顔で答えた。
「オッケー——あとトイレ行きたいんだけど、どうすればいい?」
レオが気まずそうに言った。
「松葉杖あるけど、まだちょっと早いから私が支えるよ」ヒナが言った。
「待ってそれは恥ずかしい……マット呼んでくれる?」
「分かった」ヒナは部屋を出てマットを連れて帰った。
レオはマットに右から支えてもらい、左手で松葉杖を持って左足で歩いた。
「あの兵士、俺の軸足打ちやがって……」レオが歩きながら嘆いた。
「軸足射つように訓練してるんじゃない?」マットが言った。
トイレを済ませて食事も終えたレオは、大分気分が良くなった。
「皆が会いたがってるけど、呼んでもいい?」マットが聞いた。
「オッケー」レオが了承した。
シオネとシルク・ドゥ・パレットが先に部屋に入って10分程話し、その後ラグスビーメンバーが入った。HAML以外は全員帰り、ヒナ、アスカ、マットが交代で朝までレオの付き添いをした。




