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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
45/65

第22話 オープンステージ

 翌日からのレオの生活は良い意味で単調だった。サタナリアとキンセニエラというビッグイベントを終え、レオは肩の荷が下りる気分だった。

 直近のレオの心配事は日曜日のオープンステージ。毎日1時間練習し、5分のアクトを組み立てていった。アントラのリハーサルにも行き、会場のスペースを確認しながら練習した。夜は毎日ヒナの家で夕飯をご馳走になった。ハウスメイトのアスカは勿論毎晩いたし、マットもほぼ毎晩顔を出すようになった。

 土曜日のラグスビー練習はいつも通り9時から4人で行われた。レオはメンバーにガレシアクロニクルを見せた。

「ビングの前日予想読んだ?」

———

  ラグスビーアナリスト・ビングの前日予想


 女性選手の参加禁止という新ルールによってアスカ・クリスタルを欠いた平民チームは、ただでさえ不利な状況に立たされているのに、それに追い討ちをかけるようにレオ・フィッシャー、ルイス・ベッカー、ジェイソン・マエストロが先日のインタビューで欠場を宣言した。この情報が正しいという前提で話を進めると、平民チームはスタメンを4人欠くことになり、実質二軍となる。新たなスターが生まれる可能性に期待したいが、勝利が遠のくのは間違いない。


 勝利確率 平民チーム1% 政府チーム99%

 政府チームが一軍で来る確率 60%


 平民チームからの情報提供のおかげで、勝利を予想するのは非常に容易となった。政府チームは一軍であれば勝利はほぼ確実。二軍でも勝てる確率の方が高いだろう。一方政府チームが一軍で来る確率は予想が難しい。前回二軍で来たのは10ヶ月前。平均1年に1回二軍で来ることを考えると、そろそろ来てもおかしくない。二軍でも勝てるチャンスがあれば、良い機会だと思って今回二軍を出してくるかもしれない。

 政府チームが二軍を出す目的は、平民チームへ勝利のチャンスを与えることと、スポーツベッティングを盛り上げることである。2試合前に敗北を喫したばかりの政府チームが、わざわざ負けに来るとは思えない。よって、一軍だろうが二軍だろうが、政府チームは勝ちに来るだろう。

 スポーツベッティングでのオッズは政府チームが100分の1以下になってもおかしくない。ここまで小さなオッズだと、勝っても手数料分損してしまう。明日はどちらのチームにも賭けずに、黙ってケバブにお金を使う方が懸命だろう。

———

「『ケバブにお金を使う方が懸命』ってウケるよね」

 アスカが新聞から目を離して言った。

「スポーツベッティングの収入が無くなれば政府は困るだろうから、俺達の思惑通りに進んでるよな」ルイスが言った。

「ルイスとジェイソンは試合観に行く?」レオが2人に尋ねた。

「行くぞ俺は。裏切り者達がボコボコにされる姿を見物させてもらうぜ!」

 ジェイソンが鼻で笑った。

「俺も補欠メンバーがどれだけ試合で戦えるか見たいから行くよ」とルイス。「観客席で観るなんてガキの頃以来だから変な感じするな」

「せっかくだからフランシスカと一緒に観ろよ」ジェイソンが提案した。

「まぁそれでもいいけど、俺がラグスビーのウンチク垂れてんの聞いても面白くないだけだろ」

「そうか〜。フランシスカ美人だけどラグスビーの話マジで興味無いよな。何の為にラグスビー観てんだ?」

「じゃあさ、皆で観に行こうよ。あとマットも」レオが提案した。

「いいんじゃねーか?」ジェイソンが賛成した。

「そうだな——あとジェニーも誘ってみるか」

 ルイスがそう言うと、レオとアスカが目を合わせた。

「誰?」ジェイソンが聞いた。

「アスカのキンセニエラに来てたダマ。結構ラグスビー詳しいよ。政府チームの選手の名前全員知ってるし」

「いやお前それはいいけど、2人で一緒に観戦してるとこフランシスカに見られたらどうすんだよ? 公開浮気じゃねーかよ」

「俺の彼女下手したら明日観に来ないよ。それにさ、ジェニーはアスカの隣に座って俺がジェイソンの隣に座れば不自然じゃないだろ?」

 ルイスが淡々と公開浮気の作戦を述べた。

「俺はお前の浮気の道具じゃねーんだぞ!」

「ジェイソンがダメならレオに頼むよ。レオ、どう?」

「俺は全然いいよ」レオが笑いながら答えた。

「——分かったよ! 俺がやるよ!」

 役が奪われて面白くないのか、ジェイソンがルイスの友達役を買って出た。

「じゃあケバブ・サントスに13時半集合とかにするか?」ルイスが全員に聞いた。

「オッケー」アスカが承諾した。

 ルイスとジェイソンが先に帰り、レオとアスカが控室に残った。

「ジェニー順調にルイスの懐に入り込んでるね」

 アスカがニヤけ顔でレオに言った。

「本当だよ。これも棄権を提案した俺のおかげだからね? 次ラグランジェ行ったらディスカウントしてもらおう」レオが言った。

「そんなこと言ったらルイスをキンセニエラに誘ったアスカの功績の方が大きくない?」

「確かに。てかこれ何の争いだよ?」レオが笑った。

「そうだね」アスカも笑った。


 翌日日曜日はオープンステージの日だ。レオはウルトラフィットに乗ってアントラへ向かった。開始30分前の9時半に到着すると、焼き芋ジャグラーが営業していた。フィリップとシオネ両方の姿がある。

「いよいよだね」フィリップが屋台に来たレオに声をかけた。

「うん。緊張するよ」レオが青ざめた表情で言った。

「シルク・ドゥ・パレット皆観に来るから」

「マジ? うわ〜」

「オーディションの時を思い出しなよ。あの時点で俺はめっちゃ興奮したからね。大丈夫、自信持って」

「オッケー——焼き芋1本ちょうだい」レオが200リタを出した。

「はい。私は観に行けないですけど、頑張って下さい」

 シオネが笑顔でそう言って焼き芋を渡した。

「サンキュー」レオは焼き芋を受け取り、バックステージへと向かった。

 バックステージには7名ほどのパフォーマーが待機していた。

「あれ? ラグスビーのレオじゃない?」

 ジャグリングクラブを持った少年がレオに声をかけた。レオより若く見える。

「うん」レオは少年ではなくクラブに目を向けて答えた。

「今日のマッチ出ないんだっけ? それにしてもここで何やるの?」

「ラグのアクロバット」

「へ〜」

「君はジャグリング?」

「うん。焼き芋ジャグラーのフィリップに憧れてね! シルク・ドゥ・パレットに入るのが夢なんだ!」

「そうか。頑張ってな」

 レオは自分がシルク・ドゥ・パレットに加入したことは言及しないことにした。

「はいオープンステージ参加希望者、こちらで名前書いてー」

 スタッフと思われるスキンヘッドの男性が声を出している。近くの壁には大きな黒板があり、名前とアクトの種類が記入されている。

「俺出たいんだけど」レオがスタッフに声をかけた。

「はい、じゃこの下に書いて」スタッフが黒板を指差した。

 レオは「バグウィス・ブルー ジャグリング」と書かれている行の下に「レオ・フィッシャー ラグアクロバット」と記入した。

「この順番で出るの?」レオがスタッフに尋ねると、スタッフは無言で頷いた。

 レオはジャグリングを持った少年の元へ戻った。

「君の名前はバグウィス・ブルー?」

「そうだよ。本名はバグウィス・ブランだけど」

「何で変えたの?」

「シルク・ドゥ・パレットは皆名字が色の名前だろ? だから僕も色の名前に変えたんだ。じゃないと加入出来ないと思うから」

「え、色の名前じゃないと加入出来ないの?」

「じゃないの? シルク・ドゥ・パレットって言うくらいだし」

「そうなんだ……」

「何で? レオも入りたいの?」

「——いや、まぁ」レオは言葉を濁した。

「じゃあ名字色の名前にした方がいいよ。じゃないと断られちゃうよ? あ、でもレオの名字はもうラグスビーやってるからバレてるか。残念!」

 バグウィスはどちらかというと嬉しそうに言った。

 レオはその後出番が来るまでバグウィスとは距離を取った。セットリストが書いた紙を眺めながら、アクトのシミュレーションを続ける。

 10時になり、最初のパフォーマーがステージに上がった。レオは脇から眺める。観客席も少し見えるが、観客の数はかなり少ない。

 1人5分以内でサクサクと終わり、あっという間にバグウィス・ブルーの出番になった。バグウィスはクラブ3本でジャグリングを始めた。しかしどこか単調で物足りない。更に途中でクラブを落としてしまう。観客からは失笑の声が聞こえる。レオはバグウィスのレベルの低さに少し安心したが、同時に自分が観客から笑われたらどうしようという不安にも襲われた。

 バグウィスは2分ほどでアクトを終えてステージを去った。観客からはパラパラと拍手が送られる。バグウィスは俯いたまま早足でレオを通り過ぎバックステージへと消えて行った。

 ついにレオの出番がやって来た。ドラゴンのラグに乗り、勢い良くステージへ入場した。観客が拍手で迎える。レオは早速ステージを飛び出して観客席をゆっくり1周する。観客は千人もいなさそうだ。シルク・ドゥ・パレットの5人が固まって座っているのがすぐに分かった。ミラが手を振っている。

「やっと来たなレオ!」フィリップが拍手を送った。

 HAMLの3人は立ち上がって声援を送っている。

「レオー!」マットが大きな声でレオを呼ぶ。

 レオはステージに戻ると、まずは高速スピンを始めた。その後スピンをしながら勢い良く高度を上げて行く。10メートル以上上昇し、1度静止した。

「レオのスピン、ヤバっ! アスカのより全然速いじゃん!」アスカが声を上げた。

「レオどこまで上がんの」ミラが苦笑した。

「いや、でもサーカスで高さは正義だよ。あそこまで極端に上がるのは悪くないね。オーディエンスの首を動かせるのは大事じゃん。首が固定すると客は飽きてくるっしょ」

 フィリップが冷静に分析した。

 レオが観客席を見下ろすと、観客が拍手をしながらレオを見上げているのが分かる。今度はスピンしたまま高速で降りて、ステージの地面ギリギリで止まった。静止して再度観客の声援に応える。

 次はフリップだ。助走するスペースがステージには無いので、レオは観客席の方からスピードを上げ、ステージの端から端を使って鮮やかに宙返りを見せた。

「アスカあれ初めて見た! エグいんだけど!」アスカが叫んだ。

「レオ君よく落ちないね」ヒナが不安そうに言った。

 レオは同じ様にライトスクリューとレフトスクリューも披露する。毎回観客席に戻って助走をするので、その度に観客を煽った。

「いい演出だね!」フィリップが褒めた。

 レオは技の合間に所々でスイッチを使って方向転換をした。スイッチだけでは派手さは無いが、色んな動作を混ぜることで少しでも見応えがあるだろうと思ったからだ。

 レオはスクリュー2本が終わった後、観客席の近くへ移動してレフトスパイラルを披露した。グーフィースタンスのレオにとっては、観客に背を向けて回転する格好になる。5メートル上がった所で1度静止し、スパイラルダウンをする。

「目の前飛ぶから迫力あるな〜!」マットがレオを目で追いかけた。

 下降が終わると、今度はライトスパイラルで同じ動きを繰り返す。観客に顔を向ける格好になるので、観客はより大きな歓声を上げた。スパイラルを終え、レオは一度休憩も兼ねて静止し、観客に手を振る。

 休憩が終わるとレオはゆっくりとステージ後方まで下がり、スイッチで観客席側を向き静止する。深呼吸をし、一気にスピードを上げて観客席へ向かう。キッカーを披露し、観客にぶつかりそうな所でターンする。レオは色んな観客を目指してキッカーで進んでいき、その度に観客が怖がって仰け反った。レオはHAMLとシルク・ドゥ・パレットにもキッカーでギリギリまで迫ってからターンした。

「レオ危なっかしいことするね〜」ミラがニヤニヤとレオを見た。

「サーカスのもう1つの正義は恐怖っしょ。普通はパフォーマーが自分を恐怖にさらしてオーディエンスがそれを共有するけど、オーディエンスを直接怖がらせるのは手っ取り早いね」

 フィリップが言った。

「そう考えると俺もラグに乗って観客に火を近づければいいのか!」

 サイモンが隣で閃いた様に言った。

「だからラグ乗って出来るようにしなって前から言ってんじゃん」

「ラグに着火したらお終いだろうが。クラブと違うんだぞ」サイモンが反論した。

「だから着火しないように練習するんだよ」

 レオはキッカーを終えて観客の声援に応えた後次の技に移ろうとするが、立ち上がって必死に手を上げてアピールする観客を見つけた。

「俺にもやって!」青年がレオに叫んでいる。

 レオは青年に気付き、戸惑った。

「レオ、ライトニングやれ!」フィリップが青年を指差してレオに叫んだ。

 レオはフィリップの声を聞いて、青年の方へ向かってキッカーをした。青年は両拳を上げて喜んだ。

「オーディエンスとエンゲージするとこういうことが起きるんだよな。ショーがもっとインタラクティブになる! レオはまだ自分で気付いてないみたいだけど」

 フィリップが感心するように頷いた。

「サイモンもさ、難しいことしなくていいんだよ。着火する危険の無い簡単な動きだったらラグ乗りながらでも出来るっしょ?」

「そうだな。今の見たら悔しくなったよ」サイモンが図太い腕を組んで唸った。

「レオはサーカスのエッセンスを直感的に理解してるんだろうな〜。一発目でこの完成度は見事だよ」フィリップが頷いた。

 レオは次に観客席側からステージに向かってスピードを上げ、大技のレフトスクリュー・フリップをした。技を終えて観客席側へ戻って来ると、大きな歓声が上がった。

「何今の! ヤバっ!」アスカが思い切り拍手をした。

 今度は更に難しいライトスクリュー・フリップ。レオはかかとに力を思い切り入れてライトスクリューをする。しかしフリップに切り替えるタイミングが遅すぎてバランスを崩し、地上3メートルからステージに転倒してしまった。こういうことはよくあるので頭から落ちることは無かった。しかし足から落ちても石の上だと結構痛い。レオは足首を抑えて顔をしかめた。

「レオ君大丈夫!?」ヒナが立ち上がった。

 レオは足首を抑えながら観客席を見た。皆心配そうに彼を見つめている。まだレオはこの後フリップ・スクリューをやって最後にスピンでフィニッシュする予定だった。しかし転倒した時どう対処すればいいか考えていなかった。頭が真っ白になる——とにかくここにずっと座り込んでるわけにはいかない。レオは立ち上がってラグを拾い、観客に軽く手を振って脚を引きずりながらステージを去った。観客からは大きな拍手が送られた。

 バックステージに下がると、ヒナ、マット、アスカがいた。

「レオ君足痛い?」ヒナが心配そうに声をかけた。

「うん……」

「今日ちょうどラグスビーの救護係だから、薬あるんだ。今治療するね」

 ヒナがリュックを開けて薬を取り出した。

「サンキュー……」

「レオ、すごかったけど危ないよこれ」アスカが言った。

「ヒナいて助かったよ」

 ヒナがレオの足首に薬を塗っていると、シルク・ドゥ・パレットの5人が現れた。

「レオ、良かった!——と言いたいけど、惜しかったな〜最後!」

 フィリップがレオに声をかけた。

「うわっ、シルク・ドゥ・パレットだ」マットが5人の存在に気付き身を引いた。

「まだ技残ってたんだけど、続けられなかった……」

 レオが悔しそうにフィリップに言った。

「だろうね。手元の砂時計はまだ終わってなかったもん」フィリップが砂時計を見せた。

「計ってたの!?」レオはフィリップの用意周到さに感心した。

「そりゃそうでしょ」

「レオ、大丈夫?」ミラがレオの近くにしゃがんでレオをじっと見て言った。

「うん……ありがとう」レオが目を逸らして答えた。

「他の3人まだ会ってないっしょ?」

 フィリップがサイモン、マディソン、オリバーを指してレオに言った。

「サイモンだ。迫力あるパフォーマンスだったよ」

 サイモンが大きな手を差し出した。レオは握手をする。

「よろしく——手が硬い!」レオはサイモンの手の皮膚に触れて驚いた。

「ファイアーアクトは皮膚が厚くないと出来ないんだよ」サイモンが得意気に言った。

「逆でしょ。火に触れまくってるから皮膚が厚くなったんでしょ」

 マディソンが冷たい表情でサイモンにツッコんだ。

「どっちだっていいだろ——こいつマディソンな」サイモンがマディソンを紹介した。

「よろしく。勿論知ってるよ」レオがマディソンに挨拶した。

「初めてにしてはまぁまぁの出来じゃない? コケるようじゃまだまだだけど」

 マディソンが両手を腰に当てて言った。

「レオ、気にするな。マディソンはこういう性格だから」

 オリバーがニヤけ顔で言った。

「さっきまで『すごいすごい!』って叫んでたのによ、本人の前じゃツンツンしてんの」

「うるさいな……」マディソンが顔を赤くしてオリバーの肩をパンチした。

「オリバーだ。よろしく」オリバーがレオに手を差し出した。

「よろしく」レオが笑顔で握手した。「マディソンは15歳って聞いたけど、2人は何歳?」サイモンとオリバーに聞いた。

「俺は16歳。サイモンは18だよ」オリバーが答えた。

「そうなんだ。皆歳近いね」

「もうオーディションの時点でレオのシルク・ドゥ・パレットの加入は決まったから、これからレオのアクトをどうするか考えなきゃな」

 皆の自己紹介が終わったところでフィリップが言った。

「今日みたいにコケたらもう終わっちゃうだろ? それは避けたいよね。2人でラグ広げてレオが落ちてもキャッチ出来るようにするのはどうよ?」

「そんなこと出来るの?」レオが聞いた。

「出来るっしょ。2人がしゃがんでラグを地面に置いた状態で待機すれば邪魔になんないだろ? んでレオが技をやって宙ぶらりんになった瞬間に2人がラグを持って構える」

「そういうことか……」

「フリップとスクリューだろ危ないの? その時にサポート入ってもらえばいいよ。サイモンとオリバーどう?」

 フィリップが2人に打診した。

「勿論やるよ」サイモンが同意した。

「俺も!」オリバーが続いた。

「ルーキーなのにサポート2人も付くってどういうこと? あたしなんか落ちてもオリバーしかサポートいないからね」マディソンが悪態をついた。

「お前は軽いし落ちる場所予測出来るからいいんだよ」オリバーがマディソンに言った。

「サポートはスゲー助かるよ——そしたら俺は誰のサポートをすりゃいいんだ?」

 レオが尋ねた。

「オリバーとサイモンのサポートが2つになるから、どっちかをレオにやってもらう?」

 フィリップがオリバーとサイモンに尋ねた。

「てかフィリップ誰のサポートもしてないじゃん」とマディソン。

「ま〜俺はディレクターだからさ!」

「何それ」マディソンが吐き捨てた。

「それにオリバーとサイモンはグループアクトでマディソンをキャッチするだろ? だからキャッチするの慣れてるんだよ」

「言い訳言い訳。ディレクターだからってサポートやらないとかただの怠け者じゃん」

「俺達が進んでやってるんだから文句言わなくていいだろ?」オリバーがマディソンに言った。「俺は出番多い方が嬉しいけどね。脇でずっと見てんの暇じゃん」

「それは分かるな」サイモンが同意した。

「ほら、皆自分の意志でやってんだよ」

 フィリップがマディソンに満足気な表情で言った。

「ふんっ」マディソンがそっぽを向いた。

「じゃあマディソンかミラにサポートを選んでもらおう。レオにお願いしたい人いる?」

 フィリップがマディソンとミラに聞いた。

「あんたなんかにサポートされても嬉しくないからね」マディソンがレオに言った。

「私のサポートの方が簡単だから、私のをレオにお願いするよ」ミラが手を挙げた。

「よし、決まりー。じゃあレオは適当にミラと時間作ってサポートの練習してね」

 フィリップがレオに言った。

「オッケー!」レオはやる気満々で承諾した。

「あと当然オリバーとサイモンはレオとリハーサルの時間合わせて、アントラでサポートの練習。まぁ最初は公園でやってもいいと思うけど。任せるよ」

「了解!」オリバーが返事した。

「あの〜」側で話を聞いてたバグウィスがフィリップに声をかけた。

「僕バグウィス・ブルーって言うんだ。シルク・ドゥ・パレットに入りたいんだけど、僕のパフォーマンスどうだった?」

 フィリップは一瞬きょとんとした後、我に返った。

「あのジャグリング? ダメダメ。出直してきな」

 フィリップはバグウィスを冷たくあしらった。

「——でも僕の名字ブルーなんだよ?」バグウィスが粘った。「レオの名字はフィッシャーだよ? 色じゃないじゃん!」

「あんたね、名字が色だったら誰でも入れると思ってんの? 頭ん中どんだけお花畑なのよ」マディソンがバグウィスの前に立った。「レオは実力示したから入れたの! あんたレオのアクト見てたの? あんたのへなちょこジャグリングなんかと比べ物になんないんだからね。邪魔だからとっとと消えて」

 マディソンは一気にまくし立てた。

「うう……めっちゃ口悪いじゃないかよ……このブス!」

 バグウィスはそう言い放って走り去った。

「ブスって、何なのあいつ!」マディソンがバグウィスを追いかけようとしたが、サイモンが太い腕1本でいとも簡単にマディソンを止めた。

「無駄な労力だから止めとけ」

「俺のこと庇ってくれてありがとう、マディソン」レオが礼を言った。

「別にあんたの為にやったわけじゃないからね」マディソンがボソッと言った。

「めっちゃレオのこと褒めてたじゃねーかよー!」

 オリバーが両手の人差し指でマディソンを突いた。

「もう止めてよ、恥ずかしいから……」マディソンがオリバーの指を振り払った。

「ちなみにあいつの本当の名字ブルーじゃないからね。ブランだかブリンだか、そんな感じの名字」レオが笑った。

「しょうもな〜」ミラが苦笑した。

「実際皆の名字は本名なの?」レオが聞くと、マディソンが溜め息をついた。

「この話何回もしないといけないんだよね。耳にタコが出来るよ」

「じゃあマディソンどっか行ってろ。俺は何度話しても疲れないから」

 フィリップが笑顔で言った。マディソンは降参するように両手を上げて、皆から少し距離を取った。逆にHAMLは興味津々とフィリップに注目を集める。

「元々このグループを結成したのは俺とサイモンとミラなんだよ」フィリップが語り始めた。「グループ名何にしようかって考えた時に、皆名字が色だからシルク・ドゥ・パレットになったんだ。その後ミラに誘われてマディソンが入った。ミントは一応色の名前だから、マディソン・ミントも本名。最後にオリバーが入ったんだけど、オリバーだけは名字が色じゃなかったから、ステージネームとしてオリバー・グレイを名乗ってる」

「マジか、面白おもしれえ! 結構皆本名だな。じゃあ俺もステージネーム作った方がいいよね?」レオが言った。

「って言いたいところだけど、レオ・フィッシャーは既にラグスビーで有名だからな〜。変えたら皆混乱しそう」

 フィリップが悩んだ。

「いいよ。名前違うと気持ちも切り替わるだろ? 変えるよ」

「レオ、男だな!」サイモンが笑顔で言った。

「分かった、ありがとう。じゃあ好きなの決めておいて」フィリップも嬉しそうだ。

「うわ〜、名字決めるとか悩みそうだな〜。色っていう制限があるだけまだいいけど」

 レオが難しい顔をした。

「ダサい名字にしたら許さないからね」マディソンが言った。

「了解、ミント先輩!」レオがマディソンに敬礼した。

「ミント先輩って! こいつに先輩が務まるかよ!」オリバーが爆笑した。

「あたし一応あんたの先輩だからね?」マディソンがオリバーを睨んだ。

「図書館に色彩図鑑があるから、私とサポートの練習した後とかに一緒に行って決めようよ」ミラが提案した。

「それ助かる!」レオが感謝を伝えた。

「ミラと一緒に決めるなら安心ね」マディソンが落ち着きを取り戻した。

「じゃ、俺達は飯食ってラグスビーマッチ観に行くよ」フィリップが場を締めた。「レオも行くの? 今日出ないんだよね?」

「俺は欠場するメンバーと一緒に観る予定」レオが答えた。

「そうかそうか」

「あ、皆揃ってるからここで報告したいんだけど」マットが声を発した。「フィリップ以外の皆は初めましてだよね。マットって言うんだ。エドウィンのフィアンセを救う為のイベントの話はフィリップから聞いてると思うけど、その主催を務めることになったんだ。で、アクトはシルク・ドゥ・パレットの他に、アスカも出ることになったんだよ」

 マットはそう言って隣のアスカを指した。

「そうなの? アスカ何するの?」フィリップが当然の疑問を投げかけた。

「ラグダンス」アスカが笑顔で答えた。

「この前のキンセニエラでザ・ティビアスの伴奏で踊ったんだけど、めっちゃすごかったんだよ」マットが太鼓判を押した。

「俺とヒナも見てた」とレオ。

「ラグに乗って踊るの? 観てみたい!」ミラがはしゃいだ。「というかアスカちゃん初めましてだよね? ラグスビー観て大ファン!」

「嬉しい〜! アスカもミラの大ファン!」2人が両手で握手をした。

「おい、これめっちゃ時間かかりそうだぞ」サイモンが苦笑した。「面倒臭いから女だけでランチ食ってくんないかな?」

「そうするー」マディソンが賛成した。

「ヒナっちも行こ!」アスカが誘った。

「いいの? 私だけ一般人だけど……」ヒナがためらった。

「何言ってんの!」アスカがヒナの腕を引っ張った。「ヒナっちスーパーすごいからね。エベディルクの話しなきゃ」

「じゃあ俺達は一旦ここ出ようぜ」

 フィリップがそう言って、男性陣はバックステージを出た。

「サイモンとオリバーの住所教えてよ。てか皆はどうやって連絡取ってんの?」

 レオが2人に聞いた。

「シルク・ドゥ・パレットの連絡は俺を通してやってんだよ。俺が一番動かないからな」

 サイモンが答えた。

「俺は『レッズ』って言う鍛冶屋をやってるんだ」

「鍛冶屋? だからファイアーアクト?」レオが聞いた。

「そうだな」

「俺は大工だから仕事場がコロコロ変わるんだよ。だから基本俺がレッズに行って何かしら連絡するね」オリバーが言った。

「ふ〜ん——あ、大工だからはしごってこと?」

「そうそう」

面白おもしれえな〜!——じゃあマディソンは?」

「勿論家具屋の娘だよ。『ミントファニチャー』の」

「ミントファニチャーって俺手紙届けたことあるぞ! マディソンあそこに住んでんのか!」

「接客してるから今度顔出しなよ。喜ぶぞあいつ」オリバーがニヤけ顔で言った。

「『誰が来てって言ったの?』とか言われそう」レオがマディソンの真似をした。

「めっちゃ似てる!」オリバーが爆笑した。

「店入ったらマディソン椅子の上に逆立ちしてるの?」マットが聞いた。

「それマディソンに聞いてみ。『そんな訳無いじゃん。あんたバカなの?』って言われるから」オリバーがニヤニヤしながら答えた。

「マディソン面白えな〜。どんだけ貶されても憎めないんだけど」

 レオが楽しそうに言った。

「レオのことは貶してないだろ。ツンツンしてる時は可愛いもんよ。本気で貶す時は結構怖えけどな。さっきの雑魚ジャグラーみたいに」

「確かに。あれは普通に怖かった」

「んじゃ、今度レッズに顔出しなよ。そん時レオのサポートのスケジュール決めようぜ」

 サイモンが話をまとめた。

「オッケー。じゃあまた!」

 レオはフィリップ、サイモン、オリバーと別れ、マットとマットファクトリーで時間を潰してからラグスビーフィールドへ行った。

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