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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
42/65

第20話 キンセニエラ

 翌週の12月23日火曜日。アスカのキンセニエラ当日が遂にやって来た。レオは会場オープンの16時前に帰宅して準備することにし、朝はいつも通りに出かけた。

 レオはガレシアクロニクル本部に辿り着くと目を疑った。2階の大きな黒板に、「レオ、ルイス、ジェイソン次回欠場」と大きく書かれている。列に並んでいると、ヘンリーが新聞の束を持ってやって来た。

「レオ、これ見ろよ! お前らの記事ヘッドラインだぞ!」

 ヘンリーが興奮気味にガレシアクロニクルをレオに見せた。

「ヤベーなこれ……」レオが口をぱっくり開けてヘッドラインを見つめた。

「これはめちゃくちゃ売れるぞ〜! ありがとな! お礼に1部くれてやるよ。ほんじゃお先!」ヘンリーは1部レオに渡し、アゴラの方面へ走って行った。

 レオは強気に100部購入した。今まで100部売ったことは無いし、夜キンセニエラに行かないといけないのであまり時間が無い。しかしサブスクライバーは12人まで増えたし、このヘッドラインなら自分が一番よく理解している。

 レオはサブスクライバーを回った後にアントラ付近へ着いた。手持ち看板をぶら下げラグに乗り、ガレシアクロニクルを掲げながら思い切り叫んだ。

「レオ、ルイス、ジェイソンが今週末のラグスビーマッチ欠場! アスカをバンした政府へ報復するつもりだ! ビッグニュース!」

 近くのニュースボーイも懸命に売る。しかしレオ本人が売っていることは大きなアドバンテージの様だ。続々と人がレオの元へ集まる。

「レオってお前のことじゃないか! えらいこっちゃね」

 おじさんがそう言って1部購入した。

「おいおい、これじゃマッチ行く意味ね〜よ」

 若い男性も購入してかじりつくようにその場で読み始めた。

 購入者がどんどん立ち読みをし、レオに追加で質問をしてきた。気付くとレオの記者会見のような雰囲気になり、その騒ぎを嗅ぎ付けて更に人が集まるという現象が起きた。

 レオがラグに乗っているのがここで約に立つ。地上40センチ程を浮遊することで、周りの人に隠れずに自分の存在を通行人にアピールし続けることが出来る。

 途中でシオネも買いにやって来た。

「すごい騒ぎですね! フィリップさんの分と合わせて2部下さい」

 シオネは2部受け取ると焼き芋ジャグラーへ戻った。

 ガレシアクロニクルは飛ぶように売れ、昼には100部売り切った。いつもの倍以上のペースだ。サブスクライバーも一気に5人獲得した。レオはヘトヘトになりながら焼き芋ジャグラーに焼き芋を買いに行った。

「記事読んだよ、レオ。君やっぱ面白い奴だな!」

 フィリップが屋台越しに言った。

「へへ。やってやったよ」レオが得意気な表情で言った。「焼き芋1本ちょうだい」

「おう。あとその配達興味あるんだけど」フィリップがレオの手持ち看板を指差した。「配達先は家って決まってんの?」

「そうだね。郵便受けがある場所」レオが答えた。

「例えばさ、朝俺がここに居たら俺に直接渡して、居なかったら家に届けるって出来たりする?」

「普通はしないけど、フィリップだったらいいよ!」

「助かる!」

 レオはフィリップに紙を渡して情報を記入してもらい、その間にシオネから焼き芋を受け取った。アントラの観客席に飛び、ステージでリハーサルしている人達を眺めながらバゲットと焼き芋を食べた。レオは観客席とステージの広さを見て、自分がラグアクロバットをする姿を想像した。オープンステージが今週の日曜日にあるから、ボチボチ本格的に5分のアクトを組み立てなければならない。

 レオは紙を取り出し、自分が出来る技を羅列していった——ライトスクリュー、レフトスクリュー、フリップ、スクリュー・フリップがライトとレフトで2つ、フリップ・スクリューも同じく2つ、スピンとスパイラルはアップダウンとライトレフトがあるから4つずつ、そしてキッカー。これらを上手い具合に披露する必要があるのだが、如何いかんせん5分がどれくらいなのかイメージが湧かない。

 レオは今日の仕事は終わりにし、キンセニエラまでサーカスの練習をすることにした。雑貨屋に行って5分の砂時計を購入し、マットファクトリー脇の広場へ行った。ローザンパークの方が広くて練習しやすいが、今日行ったら記事のことで質問攻めに遭うのは目に見えている。

 レオは砂時計をひっくり返して、技を一通りこなしてみた。砂時計を見てみると砂はまだ半分しか落ちていない。レオは砂が落ち切ったところで砂時計をひっくり返し、再度アクロバットを試した。今度は観客の姿をイメージしながら、間を取ったりして時間を稼いだ。単調にならないように技の順番を入れ替えたりして、何度も試行錯誤を繰り返した。

 レオは練習を終えてリアルトに戻りシャワーを浴びた。ナターシャ・エスコファーのバームで髪をスタイリングし、ヒナの香水を付ける。ローブ&ホープのローブを羽織り、ウィキンズの革靴をリュックに入れる。ギフトは6千リタを封筒に入れた——親しい友達であることをアスカに伝えたいが、1万リタ出す余裕は無い。

 レオが身支度を終え1階に降りると、パブの客に今日の記事のことで声をかけられた。適当に返事をしてリアルトを出て、ラグに乗った。空は既に暗くなり始めていた。

 レオがヴィルマリーストリートへ近づくと、一際明るい場所を見つけた。イベント会場の「フュージョン・ヴィルマリー」だ。2階に位置しており、屋根が無く三方面が薄紫色の壁に囲まれている。残りの一面からは景観を楽しむことが出来て、空からは星と月が自然光を提供している。メインの灯りは無数に配置されたキャンドル、色鮮やかなランプ、そして焚き火。

 レオはフュージョン・ヴィルマリーに行くのは初めてで、下から階段を上がって入った方がいいのか分からなかった。取り敢えず空から直接会場へ着陸することにした。レオが会場へ着陸した途端、周りの視線が一気にレオに集まった。

「レオ、ようこそ」声をかけてきたのはジャスミンだ。チュニックドレスを着ている。

「上から来たらマズかった? めっちゃ見られたんだけど」

 レオがラグを畳みながら言った。

「あまり良いマナーとは言えないけど、いいんじゃない?」ジャスミンがそう言って笑った。「気にするのは年配層くらいだし——あの辺のアスカの親戚とかね。というか私の親戚でもあるけど」

「やっちまったなぁ」レオが頭を掻いた。

「取り敢えず、受付あっちで済まそうか?」ジャスミンがレオを誘導した。

 レオが受付に行くと、もう一人女性がいた。20歳くらいの見た目だ。

「会ったことある? 姉のマチルダ」ジャスミンがレオに聞いた。

「無い。一番上の姉さん?」レオがマチルダを見て言った。

「そう。えっと……」マチルダはレオを見て言葉に詰まった。

「レオだよ。ラグスビー選手の」ジャスミンがマチルダに言った。

「あ、この子が噂の? 随分若いね。今日のガレクロの記事読んだよ」

 マチルダが言った。

「親戚も皆その話してるからね。まさかキンセニエラの当日に出るなんて」

 ジャスミンが苦笑した。

「狙ったわけじゃないんだよ」レオが恥ずかしそうに笑った。

「ここでギフト頂戴していい?」ジャスミンが聞いた。

「うん」レオがリュックを開けて、封筒をジャスミンに渡した。

「ありがとう」ジャスミンが礼を言って封筒を受け取った。「バーはオープンしてるから、ドリンクでも飲んで開始までゆっくりしてて」

「分かった」

 レオはメインスペースへ戻った。しかしまだ靴を履き替えていないこと気付き、トイレへ行って革靴に履き替えた。バーへ行ってドリンクを飲んでいると、ジェニーがやって来た。

「レオ、お疲れ」ジェニーがレオに声をかけた。

「お、ジェニー。いたの?」

「うん。レオが空から降りてきたの見てたよ。ウケるね」ジェニーが笑った。「しかもガレクロのヘッドラインになってるしさ、どんだけお騒がせ者なの?」

「ね」レオが他人事のように言った。「髪すごいね。流石美容師」ジェニーの髪型を見て言った。複雑に後ろでまとめてある。

「おー、女の子の髪型を褒めれるとは、レオも意外と出来る男じゃん。アスカに会ったら必ず見た目褒めるんだよ?」

「うん。てかこの会場すごくない? 流石ヴィルマリーストリートって感じ」

 レオが改めて会場を見渡した。6人席の丸テーブル6台の他に、小さなハイテーブルも沢山配置されている。

「でしょ。あたしもキンセニエラここでやったよ」

「そっか〜。何か妙に緊張してきたし。マットとヒナどこだよ! てかアスカは?」

「アスカは裏で準備してるだろうから、もうすぐ出て来るんじゃない?」

 ジェニーはそう言って女友達の方へ行った。

 その後マットが現れた。フォーマルなチュニックを着ている。

「マット、バッチリ決めてるね!」レオが声をかけた。

「サンキュー。レオもいい感じじゃん」マットが返事した。

「俺は靴買ったくらいだよ」

 その後間もなくしてヒナが現れた。見たことのない緑のチュニックドレスに身を包んでおり、メイクもしている。

「お疲れ〜」ヒナがレオとマットに挨拶した。

「うわ、ヒナ! いつもと全然違うからビックリした!」レオが率直な感想を言った。

「オシャレだね」マットが褒めた。

「ありがとう。2人もね」ヒナが笑顔で言った。

「飛んできたの?」レオが尋ねた。

「まさか、この格好じゃ無理だよ。普段の靴で歩いて来て、さっきヒールに履き替えた。遠かったなぁ」

「マジか、疲れてるっしょ? 座ろうよ」

 レオがそう言って、空いてる丸テーブルに向かった。3人が丸テーブルで話していると、ようやくアスカが現れた。赤のチュニックドレスを着ており、ティアラを身に着けている。

「皆ようこそ!」アスカが元気に挨拶した。

「アッちゃん綺麗〜!」ヒナが立ち上がって目を輝かせた。

「ヒナっちも可愛い!」

「アスカ、メイクしてるじゃん!」レオがまた率直な感想を言った。

「そうだよ。やっとメイク出来る歳になったんだもん」

「え、メイクって15歳からなの?」

「うん。セリエンテは?」

「誰もメイクなんてしないから知らん」レオがそう言って笑った。

「ポニーテールじゃないアスカ初めて見たよ」マットが言った。

「そうかもね。ラグ乗るにはポニーテールが一番楽だし」

「やっぱりアッちゃんは赤が似合うね」ヒナが再度褒めた。

「えへへ。嬉しい〜」アスカが照れた。「取り敢えず皆に挨拶して来るね。開始前になったらマット呼びに来るから」そう言って他のゲストの方へ去っていった。

 続々とゲストが到着する中、最後の方にルイスが現れた。

「よっ」ルイスが3人に声をかけた。

「ルイス、随分ギリギリに来たね」マットが言った。

「知り合いお前らしかいないから、先に着いたら気まずいなと思って。やっぱ20歳でシャンベランは気後れするもんだな」ルイスがそう言ってマットの隣に座った。

「ルイス、今日ガレクロの売れ行きヤバかったよ。いつもの2倍速で売れたもん」

 レオがルイスに報告した。

「マジか。他のメンバーとギルドでちょっと顔合わせたけど、青ざめてたよ。欠場を決めた俺達の名前が大々的に報道されたから、後悔してんじゃないかな」

「まぁ記事のトーンから言って、俺達の方が良い人っていう扱いだもんね。でもガレクロ買った客の中には、批判的な意見を言う人もいたよ」

「そりゃいるだろ。でもぶっちゃけ批判の矛先はどこでもいいんじゃないか? アスカをバンした政府、出場し続ける平民チームのメンバー、欠場する俺達、どれかには絶対怒ってるだろ? でも結局のところ平民の皆が望んでることはアスカのバンを無くすことで一致してるわけで、そこさえブレなければ良いと思う」

 ルイスが冷静に言った。

「確かに! 出場するメンバーへの批判が充分な数になれば、皆欠場してくれるかもな!」

「今週末の試合までにそれが出来れば理想だけど、どうだろうな。本来の敵は政府だからこうやって仲間を悪者扱いするのは嫌だけど、ここは我慢比べだよ。批判に負けて逆サイドに流れたら負けだ」

「そうだね」レオはルイスの言葉を噛み締めた。

 アスカがレオ達のテーブルへ戻って来た。

「あ、ルイス来たね! じゃあマット、始めるから裏来て」

 アスカに呼ばれてマットが席を立った。

「それじゃまた」マットが緊張した様子で言った。

「おう、頑張れよ」ルイスがニヤけ顔でエールを送った。

 アスカが居なくなったのを察したのか、立っているゲストが適当に丸テーブルに座り始めた。

「ここいい?」ジェニーがそう言って、ジャスミンとやって来た。

「うん」レオが言うと、2人はレオ達のテーブルに座った。

 ルイスがマットの席に詰め、ルイス、レオ、ヒナ、ジャスミン、ジェニー、空席という形で座った。

「ルイスだよね? アスカの友達のジェニーって言うんだ。この子はアスカの姉のジャスミン」ジェニーが空席越しにルイスに話しかけた。

「よろしく」ルイスが軽く笑顔を作った。

 レオはこれからジェニーが何をするのか気になったが、男性の大きな声によって会場は静まり返った。

「皆様お待たせ致しました。グラスをお持ちでない方は、バーカウンターでドリンクをお取り下さい。席は自由ですので、どうぞお好きな席へお座り下さい」

 40代くらいの男性が会場の奥から声を発した。数人がバーカウンターへドリンクを取りに行く。ゲストが全員席に着くと、男性が再び話し始める。

「本日は娘アスカのキンセニエラにお越し頂き、誠にありがとうございます。父のリチャード・クリスタルでございます。それでは早速アスカにご登場頂きましょう。皆様どうぞ温かい拍手でお迎え下さい」

 アスカとマットが腕を組んで入口の方から入場した。アスカはゲストに笑顔を振りまいているが、マットは真正面を向きながら真顔で歩き続ける。

「マット君何かおかしいね」ヒナが拍手しながらクスクス笑った。

「マットの首動いてねぇ!」レオは爆笑した。

 2人はリチャードの所まで歩き終わると、ゲスト達の方を振り返った。バースタッフがドリンクをアスカとマットへ渡す。

「それでは皆様グラスをお持ち下さい。アスカのキンセニエラを祝しまして、乾杯!」

 リチャードが乾杯を告げると、ゲストがテーブル内で乾杯をした。

 アスカとマットは乾杯後ブッフェコーナーに行き、他のゲストも2人に続いた。

 ブッフェは料理が既に皿に取り分けられており、それを受け取る形のようだ。最初はサラダとパンしか無かったので、レオはそれぞれを受け取り席に戻った。

 レオ達の席には既にアスカとマットが座っていた。アスカ、マット、レオ、ルイス、ジェニー、ヒナという順に座った。ジャスミンは親族のテーブルに移動した様だ。

「アスカ、キンセニエラおめでとう」ルイスがアスカと乾杯し、他の皆も続いた。

「皆ありがとう!」アスカはテーブルの皆と乾杯を終え、サラダを食べ始めた。

「こうやって皿に料理が盛られた状態でどんどんブッフェコーナーに並んでいくの?」

 ルイスがアスカに尋ねた。

「そうだよ」アスカが答えた。「後でパスタとかピザも出てくる」

「これいいな。コース料理とブッフェの良さを掛け持ってるよね。コース料理だと出来立て食べられるけど、席が決まってるじゃん。せっかくのパーティーなのに色んな所行けなくて勿体無い。でもブッフェだと出せる料理に限りがあるから、それこそパスタとかピザは出せないもんね」

「そうそう」

「これ同じ人が1つの料理2つ食べたらどうなんの? 数足りなくなんないの?」

 レオが尋ねた。

「ジェニー、代わりに答えて」アスカがジェニーに回答を任せた。

「そうなっても大丈夫なように多めに作るんだよ。でも全種類食べるとかなりお腹いっぱいになるから、大抵皆1皿ずつしか食べない。そもそも同じのばっか食べ過ぎたら足りなくなるって皆知ってるから、常識ある人は1皿しか食べないね」

 ジェニーが答えた。

「だってさ。レオの常識が試されてるよ」マットが隣で笑いながら言った。

「大丈夫だよ。俺は常識あるぞ」レオが背筋を伸ばして言った。

「常識ある人は空から会場入りしないから」ジェニーが笑いながら指摘した。

「レオ、ラグでここ降りたの?」アスカが聞いた。

「え、うん」レオが恥ずかしそうに答えた。

「まぁレオがやりそうなことだよね」アスカが笑った。

「ギルドワークだろうがニュースボーイだろうが常に時間との戦いだからさ、徹底的に時間の無駄を省く癖が付いちゃったんだよな〜」

 レオは言い訳がましく言った。

「まぁそれは分かるな。職業病だね」ルイスが同感した。「薄利多売の仕事は仕方無いよ」

「ルイスもギルドワークやってるの?」ジェニーが隣のルイスに聞いた。

「うん。平民チームは皆ギルドワーカーだよ。たまにレオみたいにニュースボーイやる奴もいるけど」

「ジェニーさんは美容師なんでしたっけ?」ヒナが隣のジェニーに尋ねた。

「うん。近くのラグランジェって店」ジェニーが答えた。

「アスカの今日の髪、ジェニーがセットしてくれたんだよ」アスカが言った。

「そうなんだ、すごい。ジェニーさんの髪型も素敵」

 ヒナがジェニーの髪をまじまじと見て言った。

「ありがと〜。ヒナもエレガントで素敵! サタナリアで会った時より大人びて見える」

 ジェニーがヒナを褒めた。

「ありがとう。久々にメイクしてみたの」

「ヒーラーだっけ? メイクする必要無いもんね」

「うん」

「アスカはこれからどうすんの? 毎日メイクするの?」

 ジェニーがアスカに話を振った。

「どうだろうね〜。マットファクトリーの仕事は人と会うっちゃ会うけど、美容師ほどじゃないからな〜」アスカがぼんやりと考えた。「ラグスビーマッチの時は絶対するけどね」

「そりゃそうでしょ——てかワイン飲んでるのあたしだけ?」

 ジェニーが5人を見て言った。

「飲むわけ無いじゃん、飲酒飛行になっちゃうんだもん。そうじゃなくても俺は飲まないけどな」レオが言った。

「ラグ乗る人は基本飲まないよね」マットだ。

「うん」ルイスが頷いた。

「私はラグ乗れるようになったの最近だけど、元々ハーブティーの方が好きだから飲まないな」とヒナ。

「そっか。じゃあたしも次はノンアルにしよっ」ジェニーが言った。「アスカは? 15歳になったけど飲みたいとは思わない?」

「いつか試すかも。でも今日は踊るから飲まない」アスカが答えた。

「踊るの?」レオが聞いた。

「うん。楽しみにしててね」アスカがニヤッと笑った。

 そこへリチャードがテーブルへ来た。

「アスカ、そのサラダ食べ終わったら他のシャンベランのテーブルへ行きなさい」

「え〜、何でよ〜」アスカが面倒くさそうに答えた。

「せっかく部下を誘ったんだ。友達とはいつでも話せるだろう」

「友達と祝うのがキンセニエラじゃ〜ん」

「大人の階段を上るのがキンセニエラだ。お前が全然部下達と話さなかったらお父さんが恥ずかしい思いをするだろう。恥をかかせないでくれよ。分かったね?」

「分かったよ〜」アスカはふてくされたように返事した。

「あと君達——」リチャードは今度はレオとルイスに話しかけた。「アスカがせっかくラグスビーを止めて女性らしい生き方が出来るようになったんだ。それを妨害するような動きは止めてもらえないか?」

 レオはリチャードの言葉が信じられなかった。

「お父さん、アスカがあれだけ試合で活躍して国民的セレブリティーになってるのに、嬉しくないの?」ルイスが聞いた。

「役人である私の娘が政府チームと戦っているんだ。私の置かれている状況が分かるだろう?」

「何も戦争をしてるわけじゃないんだ。ただのスポーツだろ? 純粋に楽しめばいいじゃん」

「そういう問題じゃないんだ。これ以上国王様のご意向に逆らうと、君達どうなるのか分かっているのかね?」

 レオはリチャードの脅しに声を出して笑ってしまった。テーブルの皆が不思議そうにレオを眺める。

「何がおかしい? レオだよね?」リチャードが眉をひそめてレオに言った。

 レオはドリンクを飲んで一息置いた。

「アスカ、お前の父さんにエベディルクのこと話した?」レオがアスカに尋ねた。

「ううん」アスカが首を振った。

「そうか、なら今俺が話してやるよ」レオは席から立ってリチャードと面を向いた。「リチャード、エベディルクは今平民で作ってるって知ってるよね?」

「何故いきなりその話になる?」

「その主犯がここにいる4人なんだよ。俺、マット、ヒナ、そしてアスカ」

「何を馬鹿なことを言ってるんだ!」リチャードは声を荒げた。

「アスカ含め俺達はもう既に国王に喧嘩売ってんだよ。だから『国王様のご意向に逆らう』なんてね、とっくにやってるわけ。あんたが国王の駒として動いてる間、アスカはもっと偉大なことを成し遂げてるんだよ。だからさ、アスカを子供扱いしない方がいいよ、見てて滑稽だから」

 レオは余裕の笑顔を見せながら言った。ヒナ、マット、ルイスは満足気にレオのことを見ている。アスカは気まずそうな表情を見せ、ジェニーは口を開けて驚いている。周りのテーブルのゲストもリチャードとレオに視線を集めている。

「大体君はね——」リチャードが反論しようとしたタイミングで、女性がやって来た。

「あなた、何大声出してるの! 周りに見られてるじゃない。恥ずかしいから席に戻ってちょうだい」

 女性はリチャードの肩を押して、彼をその場から離れさせようとした。

「……とにかく、身をわきまえるように……」

 リチャードは最後にモゴモゴと言い放ってテーブルを去った。

 レオは視線を集めるゲスト達に肩を竦めるジェスチャーをし、席に着いた。

「アスカごめんな、せっかくのパーティーが台無しになっちまったよ」

「ううん、いいの。アスカじゃお父さんにあんなこと言えないから」

 アスカが何とか笑顔を作った。

「やっぱレオは持つもの持ってるよな〜」ルイスがニヤニヤと笑った。

「だからレオはHAMLのリーダーなんだよ。全く物怖じしないからね」

 マットがレオの肩を叩いた。

「レオ、一体何者なの……? ウィキンズ入るの怖がってたのにアスカのお父さんが怖くないなんて……」

 レオを見るジェニーの目が、子供扱いするような目つきから、尊敬と恐怖が入り混じった目つきへと変わった。

「ジェニーさんもエベディルクのことアッちゃんから聞いてない?」ヒナが尋ねた。

「聞いてないけど、エベディルクを平民が作り始めたっていう噂は最近聞いた——じゃあエベディルクが老化を止める薬だっていうのは本当なの?」

「うん。私が作ってる」

 ヒナがさも当たり前のように答えると、ジェニーは呆気に取られた。

「アスカ、父さんの部下のテーブルに行ってあげてくんない? あのままじゃ可哀想だから」レオがアスカに頼んだ。

「——分かった」アスカがグラスを持って席を立った。

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