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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第19話 ジェニーとの取引

 レオはフィリップとミラと別れ少しニュースボーイの仕事をした後、予約の14時にラグランジェに行った。

「やっほー、ジェニー」レオが挨拶した。

「レオ、いらっしゃい! 何アスカと同じような挨拶してんの?」ジェニーが笑った。

「あ〜、アスカいっつもジェニーにやっほーって言ってるから無意識で」

「君達仲良すぎでしょ。はい、座って」ジェニーが椅子に誘導した。

 マリネッテは隣で他の客の対応をしている。とくにレオに目配せをする様子も無かったので、レオは挨拶をせずに椅子に座った。

「今日はどうする?」ジェニーが鏡越しにレオを見て尋ねた。

「前と同じツーブロックで」

「了解〜」ジェニーが軽快に返事をして、カットに取り掛かった。

「サタナリアはあの後どうだった?」ジェニーがカットしながらレオに尋ねた。

「色々あったけど、夜もあのメンバーでローザンパーク行ったよ」

「そうなんだ!」

「ジェニーは夜もジャスミンといたの?」

「あたしは——まぁ男と」ジェニーはそう言ってクスッと笑った。

「彼氏?」

「ううん。ただの『ホリデート』」

「何『ホリデート』って?」

「聞いたこと無い? 祝日だけのデート相手だからホリデー+デートでホリデート」

「へ〜。ジェイソンっていうラグスビーメンバーも、サタナリア独りで過ごしたくないから埋め合わせで女誘ったって言ってた」

「まぁそんなもんね。レオ達のあれは何、付き合ってんの?」

「ううん。ただの友達」

「ふ〜ん。随分と健全だこと」

「それ推しの子にも言われたんだけどさ、俺恋愛興味無いし生きていくだけで精一杯だよ」

「推しの子?」

「あ、うん。『俺推し』の子とサタナリアの夜に偶然会って」

「まぁラグスビーメンバーはモテるからねー。あたしの推しはルイスだな」

「政府チームの選手じゃないんだ?」

「政府チームの男とは充分遊んだけど、飽きた」

「飽きた!?」レオは思わず頭を動かしそうになり、頑張ってこらえた。

「なーんか兵士って皆型にはめたように同じようなことばっか言ってつまんないんだもん。『給料高い俺カッコイイっしょ? イェーイ』みたいな」

 ジェニーが馬鹿にするように低い声で兵士の真似をした。レオはニヤニヤ笑ってしまった。

「役人より全然稼げないくせにさ、平民より稼げてるっていう優越感に必死にしがみついてんのよ。あたしなんか兵士より稼いでるから、そういうの見てるとシラケるわけ」

「マジで? スゲー」

「そうだよ。役人の娘で働いてる女って珍しいからね。兵士の男達は専業主婦希望の女の口説き方には慣れてんだろうけど、あたしには通用しないのよ」

「確かにアスカも言ってた。役人の娘は大抵結婚するか遊女になるって」

「そう。アスカは遊女嫌ってるけど、遊女もれっきとした仕事だからね。専業主婦も仕事っちゃ仕事だけど、ピンキリだから。しっかり夫や子供をサポートする人もいれば、ただ寄生虫のようにスネかじって生きてるだけの女もいるし」

「アスカがジェニーと仲良い理由が分かった気がするよ。ヒナともめっちゃ仲良いし」

「あ、もう1人の女の子?」

「うん。俺とタメのヒーラー」

「ヒーラーは女の職業でトップクラスに難しいからね。相当頭良くないとなれないよ」

「やっぱそうなんだ! うん、ヒナはめっちゃ頭良いよ——え、じゃあ男の職業でトップクラスは何なの?」

「給料で言ったら役人だけど、コネ採用もあるし一概に難しいとは言えないかな。難しさで言ったら医者とラグ職人じゃない?」

「マジ!? マットじゃん! ラグ職人だよ」

「あの人ラグ職人なんだ!」

「うん。しかも自分の店持ってる。平民チームのラグ全部マットが作ってるんだよ。あ、キンセニエラのエスコート、マットだよ」

「マジで? アスカも良い男捕まえたね〜」ジェニーが満足気に微笑んだ。「ちょっとトボけた顔してるけど」

「トボけた顔!」レオが爆笑した。「まぁ俺も最初会った時はそんなすごい人だとは思わなかったな」

「そう言えばキンセニエラにルイス来るよね?」ジェニーが話題を変えた。

「うん」

「ルイスって彼女いんの?」

「いや——あんまりこういうの言いふらしたくないんだよね……」

「そんな真面目にならずにさ〜」ジェニーが色目を使ってねだった。

「——そうだキンセニエラで思い出した。ジェニーにお願いしようと思ってたんだよ。俺アスカにヴィルマリーストリートでちゃんとした靴買ってって言われたんだけど、どうしていいか分かんなくて。この前ウィキンズの前まで行ったけど怖くて中入れなかった……だから靴選ぶの手伝ってくんない?」

「怖くて中入れなかったって、ケルベロスがいるわけじゃないんだし!」

 ジェニーはケラケラ笑った。

「ヴィルマリーストリートの店って足すくむんだよ〜。こっちで生まれ育ったジェニーには分かんないかもしんないけど」

「いいよ、じゃあ一緒に行ってあげるよ。すぐそこだし」

「マジ!? ありがとう!」

「その代わりルイスのこと教えてよ」

「えっ!」

「何そんな渋ってんの? 情報なんてタダじゃん」

「まぁそうだけど……分かったよ」レオは渋々了承した。

「交渉成立〜」ジェニーが満足気に言った。「ちょうどこの後1時間予約無いから、さっと行けば仕事に間に合うけど」

「おうそりゃ有り難い!——いや〜、ヘアカットに靴にギフト——キンセニエラは金かかるな……」

「レオが元々身だしなみに金かけなさ過ぎなだけだよ。フォーマルブーツなんて結婚式とか葬式でも履くんだしさ、一足持っておかないと」

「う〜ん——でもギフトも5千リタだよ?」

「5千リタしか出さないの?」

「何、『しか』って。5千リタが相場ってアスカに言われたもん」

「アスカは優しいからそう言ったかもしんないけど、親しい友達だったら1万リタ払ってあげた方がいいと思うけどな〜」

「1万リタも!?」

「1万リタで驚いちゃダメだよ。親戚は1〜3万出すんだからね。友達が5千〜1万、知り合いは3〜5千が相場。レオが5千リタしか出さなかったら、その辺の知り合いと同じくらいの関係ってことになるんだよ。いいの?」

「いいのって言われても、それじゃあたかも金払えば誰でも友達になれるみたいじゃん——大体何でキンセニエラなんかやるんだよ? 男は無いぞ。15歳を祝うって、歳取るだけなら誰でも出来るのに祝う必要ある?」

 レオがムキになった。

「まぁ男がそう思うのも理解出来るけどさ、女は弱い生き物だから男の影に隠れてずっと生きてんのよ。だからキンセニエラみたいに女性にスポットライトが当たる機会を用意してあげることでバランスを取ってるんだと思うな」

 ジェニーが優しく言った。レオはジェニーの言葉の意味をしばらく考えた。

「はぁ……結局世の中金だよな……」レオは深く溜め息をついた。

「ま、本当にお金が無いなら無理する必要無いよ。惨めな姿のゲストを見たいキンセニエラはいないでしょ」

 レオのカットが終わると、会計を済ませて2人は店を出た。

「やっぱジェニーがここ歩くのは自然に見えるな」

 レオがジェニーの足取りを見て言った。

「そりゃそうでしょ、家からちょっと出ただけなんだもん」ジェニーが鼻で笑った。

「てか靴屋ってウィキンズで良かった? 他にいい所ある?」

「ウィキンズでいいと思うよ。他はレディース中心だから」

 2人がウィキンズに着くと、ジェニーは何のためらいも無く扉を開けて中に入った。

 店内は白で統一されており、ブーツやバッグがスペースを贅沢に使ってディスプレイされている。

「足のサイズは?」ジェニーがレオに尋ねた。

「27」

「27ね——これなんかどう?」ジェニーがブーツを取ってレオに渡した。

 レオは椅子に座り履いてみる。

「いいけど、ツルツルしてね? これじゃラグ乗れないよ」

 レオが困った顔でジェニーを見上げた。

「何でラグ乗る必要あんの? 正装用じゃん」ジェニーが笑った。

「だって会場はヴィルマリーストリートでしょ? 家から遠いもん」

「リュックに入れて、会場着いたら履き替えればいいじゃん」

「あ、そういうこと? 荷物増えるな……まぁ仕方無いか」

 レオはジェニーが選んだ幾つかのブーツを試し、気に入った物を購入した。

「2万5千リタ……辛い……」レオが店を出て呟いた。「金貯めといて良かった……」

「じゃ、手伝ったんだからルイスのこと教えてよ」

 ジェニーが暗い顔のレオを無視して言った。

「あ、そうか。手伝ってくれてありがとう——えっと、ルイスは彼女いるよ」

 レオが我に返って言った。

「で、どんな子?」ジェニーは表情を1つ変えずに聞いた。

「別に驚かないんだね」

「そりゃイケメンラグスビー選手なんだから彼女の1人や2人くらいいるでしょ」

「1人や2人って!——でもサタナリアでちょっと会っただけなんだよ。24歳で、名前は——忘れた」

「大分歳上だね。ルイスって20歳でしょ? どんな性格?」

「う〜ん——冷たい。まともに挨拶しなかった。あと知り合いのルイス推しの子が話しかけに行ったんだけど、彼女にブロックされたらしい。ルイスの番人的な」

「ルイスの番人! 響きが良いね!」ジェニーがケラケラ笑った。「じゃああれだ、ルイスの上に立つお姉さん的な立場なんだろうね。ルイスは普段キャプテンとしてチームを引っ張ってるから、逆にプライベートでは彼女に甘えたいのかも」

「今の情報だけでそんなことまで分かんの!?」

 レオはジェニーの推測力に驚いた。

「カップルのパターンなんて決まってるんだから、ある程度は分かるよ——まぁこれで作戦が練れそうだね」ジェニーが悪者らしい笑みを浮かべた。

「作戦って——何すんの?」レオが恐る恐る聞いた。

「ルイスを奪うんだよ」ジェニーがさも当たり前のように言った。

「奪うって!」レオが顔を引き攣らせた。

「恋人は奪うもんでしょ。シングルになるまで呑気に待ってるつもり? 恋愛に法律なんて存在しないんだから、どんな手使ってでも手に入れたもん勝ちでしょ」

「ジェニー怖えな……でもちょっと尊敬するよ」

 レオはエベディルクを巡っての国王との戦いを思い出した。ガレシアに法律はあれど、国王と戦う限り法律は何の意味も持たない。レオが国王との第1ラウンドを制した理由は、法律にすがらず解決策を導き出したからだ。

「それじゃ、キンセニエラで」

 ジェニーはレオに手を振ってラグランジェの方へ歩いて行った。


 土曜日の練習でレオはルイスにビングのことを相談した。

「俺達が次のマッチ出ないことを知らせれば、ガレクロに記事が載るんじゃないかと思うけど、どう?」

「いいね。取り敢えずビングにコンタクト取るだけ取ってみるか。明日の練習後に来てもらうよう頼んでみるよ」ルイスが了承した。

 翌日レオ、アスカ、ルイス、ジェイソンが練習をしていると、11時過ぎにフィールドにビングが現れた。ビングは適当に練習を眺め、練習後に5人は控室に集まった。

「来てくれてありがとう」ルイスがビングに言った。

「いえいえ、とんでもない。早速インタビュー始めてもよろしいですか? 普通に話したい人が話して頂いて結構です。普段の会話だと思ってリラックスして下さい。水飲みながらで構いませんので」

 ビングがそう言うと皆頷いた。ビングは4人の顔が見える位置に座り、インタビューを開始した。

「ルイスさんから手紙で頂いた情報ですと、次回の試合はルイスさん、レオさん、ジェイソンさんが欠場するとのことです。こちらは間違いありませんか?」

 ビングがレオとジェイソンの方を向いた。2人は頷く。

「はい、これはどうしてでしょう?」ビングがアスカ以外の3人を見て言った。

「アスカがバンされたからだよ」

 レオがルイスとジェイソンの視線を受けて口を開いた。

「平民チームで試合を棄権しようと俺が提案したんだ。くだらねぇルールを作った政府に対する俺達なりの報復の仕方だよ」

「なるほどですね。平民チームは棄権するのですか?」

「いや、他のメンバーを説得出来なかったから、残りのメンバーが出場するよ」

 ルイスが答えた。

「そうですか。いや〜、アスカさん含め、この4人は10月の試合で歴史的な勝利を飾った時のスタメンですよね。それを欠くとなると、政府チームの一軍はおろか二軍への勝利も難しいのではないでしょうか。平民チームが負ける姿を外から眺めるのは辛くないですか?」

「辛くねぇって言ったら嘘になるけどよ、アスカがいねぇ中試合する方がよっぽど辛いんだよ」ジェイソンが言った。

「はい——この3人が欠場するという情報はラグスビーファンの国民にとって色んな意味を持ちそうな気がしますが、少なくともスポーツベッティングの観点から言うと、非常に有益な情報と言えますね」

「それが今回ビングに連絡した一番の理由だよ」レオが言った。「別にスポーツベッティングする人達にロスターを公開する義務が無いのは知ってる。でもスタメン3人がいきなり抜けたら平民チームに賭けた人は怒るだろ? だからちゃんと情報を伝えたかったんだ」

「素晴らしい配慮ですね——ちなみに、御三方は次回以降の試合についてはどうされる予定ですか?」

「アスカのバンが無くなるまで欠場するつもりだよ」

 ルイスがそう言い、レオとジェイソンが頷いた。

「そうですか。それは中々大胆な決断ですね——ルイスさんは14歳で平民チームデビューし、1年前からキャプテンを務められています。キャプテンの座を自ら退くというのはどのようなお気持ちでしょうか?」

「別にそこに大きな執着があるわけじゃないよ。それにキャプテンだからと言って平民チームを棄権させる権力は無いし、あるべきでも無いだろう」

「はい、平民チームは民主的な組織のようですね——続いてジェイソンさんは16歳でデビューし、ここ最近はスタメンでの起用が増えております。あなたのワイルドなプレイを期待するファンの方々はガッカリされると思いますが、何かメッセージはありますか?」

「いずれ戻るから待ってろ!」ジェイソンがビングに指を差しポーズを決めた。

「——シンプル且つワイルドなメッセージですね——そしてレオさんはまだ4試合しか出場しておりません。多くの選手がラグスビーマッチで国民のスポットライトに当たることを夢見ているはずですが、レオさんはその機会をいとも簡単に捨てる決断をしました。葛藤はありましたか?」

「良い質問だね。不思議と無かったよ。ガレシアに移住してラグスビーの存在を知った時は、試合に出ることが夢だった。でも試合に出始めてからは、当然勝ちたいという気持ちが強くなった。アスカが加わったことによって政府チームに勝つことが出来たんだ。だからアスカを取り戻す為だったら試合に出なくても平気だね」

「そうですか——ではアスカさん本人にも話を伺いたいと思います。前回のマッチでロスターにアスカさんの名前がありました。スタメンで出場する予定でしたか?」

「うん」アスカが答えた。

「それが急遽参加を禁じられたわけですが、その時の心境はいかがでしたか?」

「ショックだよそりゃ。でもすぐ試合が始まっちゃうから、ベンチで出来ることはやろうと思って何とか気持ち切り替えたけど」

「そうでしたか。強い精神力をお持ちのようですね。今後試合に出場することが出来ないとなると、練習のモチベーションを維持するのが大変ではないですか?」

「ううん。こうやってアスカの為に頑張ってくれるメンバーがいるから平気。それに3人だけの練習だとやれること限られるでしょ? アスカが参加することで少しでも皆の役に立てれば嬉しいし」

「はい、練習についてお聞きしようと思ってました。現在この4人だけで練習を行っておりますが、これはどういった背景でしょうか?」

 ビングが4人を見て質問した。

「想像すれば分かると思うけど、意見が対立しちゃってる者同士がまともに練習出来るわけ無いよ。だから時間をずらして俺達だけで練習してるんだ」

 ルイスが答えた。

「完全に分かれてしまってると——いや〜平民チームにとっては気の毒な状況ではありますが、コンテンツとしては非常に面白いです。ガレクロは国営の新聞ですから政府に不都合な情報は排除されますが、これくらいライトな内容でしたら通るでしょう。どの道試合後には明らかになる情報ですし。何よりガレクロが売れなければ政府の収入が減るわけですから、エンタメ性は大事です——数日後には掲載されるでしょう。当然来週末のマッチには間に合わせないといけませんから」

 ビングはそう言って立ち上がった。

「では私はこれで失礼します。また何か進展がありましたらご連絡下さい」

 ビングは一礼して控室を出た。

「ガレクロに載るの楽しみだな! その日は大量に売ってやる」

 レオは期待を膨らませた。

「俺も記事載った日だけニュースボーイやろうかな!」ジェイソンが笑みを浮かべた。

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