第17話 ヨーサタナリア!
4人はラグに乗りローザンパークへ向かった。
公園へ近づくと、レオは空から中央広場を見下ろした。無数のテーブルと椅子が配置されており、多くの人で満ち溢れている。
「おいおい、スゲーなこの光景は」レオは期待を膨らませた。
「皆お腹減ってる? 僕まだ減ってないんだよね。離れた所にラグ敷かない?」
マットがそう言うと皆賛成した。
HAMLは木の下にラグを敷いて座った。他にもラグの上に座ってる若者が沢山おり、中にはコップを手にする者もいる。
「ドリンクこっちまで持ってきたってことかな?」
レオがコップを持つ若者の集団を遠目から見て言った。
「だと思うよ」マットが答えた。
「ラグ乗ってる人多くない?」
「そりゃそうさ、ラグの練習場なんだもん。こことラグスビーフィールドはラグ乗りがサタナリアでよく行く場所だよ」
「ラグ乗りがここまで一堂に会すると圧巻だな〜」
HAMLは小一時間木の下で過ごした後、会場へ歩いて行った。
空は真っ暗になり、会場は無数のランプとキャンドルで灯されている。若者達の賑やかな声が響き渡る。
「いや〜、ここからがサタナリアの本番って感じがするな!」レオは胸を躍らせた。
4人は席を探していると、ルイスとジェイソンを見つけた。2人は向かい合わせに座っており、それぞれの隣には女性が座っている。
「ルイス! ジェイソン!」レオが声をかけた。
「おーレオ!——げっ、アスカ……!」
ジェイソンはレオに挨拶をした後、アスカの存在に気付き顔を渋らせた。
「やっぱお前らもここ来たんだな」ルイスがHAMLを見て言った。
「初めて近くで見た」ルイスの隣の女性がレオを一瞥し、ルイスに言った。落ち着いた声をしており、ルイスより年上に見える。
「えっと——」レオがルイスに、隣の女性の紹介を目で促した。
「あ、俺の彼女。フランシスカ」ルイスがレオに彼女を紹介した。
「ども」レオがフランシスカに軽く挨拶をした。
フランシスカはただ軽くお辞儀をした。HAMLの他の3人には目もくれていない。
「ルイス、ドリンク取りに行こうぜ」
ジェイソンがドリンクを一気に飲み干し、ルイスに目配せをした。
「——おう」ルイスがそう言うと、ジェイソンと席を立った。
ジェイソンはレオ達に一緒に来るように首で合図をしている。レオは無言で付いて行った。HAMLはルイスとジェイソンと合流したが、ジェイソンは無言でドリンクバーへと歩いた。座っていた席から大分離れた所で、ようやくジェイソンが口を開けた。
「アスカ、今の女は何でも無いからな! サタナリアを独りで過ごすのが嫌だから埋め合わせで呼んだだけだぞ!」ジェイソンは必死に弁解をした。
「別にアスカ達付き合ってる訳じゃないんだから好きにすればいいじゃん」アスカが鼻で笑った。「てかあの子に失礼だから、ドリンク取ったらさっさと戻ってあげてよ」
「だってさ」ルイスがニヤニヤ笑いながらジェイソンの肩をぽんと叩いた。
ジェイソンは頬を染めてドリンクバーへ行った。
「ルイスの彼女何歳?」アスカがルイスに尋ねた。
「ん? 24」ルイスが答えた。
「へ〜、ルイスって年上好きなんだ」アスカがニヤけ顔で言った。
「何だその反応は」ルイスが鼻で笑った。
「別に。ちょっと面白いなーと思っただけ」
「キンセニエラまであと1週間だろ? この歳になるとシャンベランで呼ばれる機会がめっきり減るから楽しみにしてるよ」ルイスが話題を変えた。「お前らも皆来るんだよな?」
「うん。僕エスコートだよ」」マットが自慢気に言った。
「マジか、それは見物だな!」ルイスは笑ってそう言うと、ジェイソンの後を追った。
「取り敢えずあの4人からは離れて座るか」アスカが笑いながら言った。
HAMLは空いてる席を見つけ、今度はアスカが席取りをした。
ローザンパークのブッフェコーナーはヴィルマリーストリート程の高級感は感じられないものの、ご馳走だらけだ——ミートパイ、ペンネのアラビアータ、ピラフ、ソーセージ、ミートローフ、グリルチキン、マッシュポテト、フムス、ピクルス、山程のパンと数種類のスープ。
レオは肉を中心に皿に盛り、ドリンクは再度スキップしてオニオンスープをカップに注いだ。3人が席に戻ったところでアスカがドリンクを取りに行き、ようやく4人が席に着いた。
「ヨーサタナリア!」本日2回目の掛け声と共に、HAMLは食事を堪能した。
レオはそこまで空腹ではなかった為、昼よりは落ち着いて食べることが出来た。
「カップル率高いな〜」レオが周りを見渡して言った。
「カップルとは限んないじゃん。アスカ達だって男女2、2なんだし」アスカが言った。
「まぁそうか」
レオ達がしばらく食事をしていると、近くから聞き慣れた声がしてきた。
「すみません、城に軟禁されたフィアンセの解放にご協力下さい」
レオが声のする方を見向くと、数席先でエドウィンが、食事をしている人達に声をかけていた。
「エドウィンさんだね」ヒナも気付いたようだ。
「あ、前話してた?」マットが聞いた。
「うん。署名活動してるのかな」
エドウィンは全員に声を掛けながら歩き、やがてレオ達のテーブルへ到着した。
「ヒナさん! レオさん! お久しぶりです!」
エドウィンは目を大きく見開いて挨拶した。
「久しぶりって言っても1週間しか経ってないけどね」レオが返事した。「友達のマットとアスカ」エドウィンに2人を紹介した。
「どうも初めまして、エドウィン・クーパーです!」
エドウィンがお辞儀をした。マットとアスカもお辞儀をする。
「エドウィンさん、署名活動ですか?」ヒナが聞いた。
「ええ。意味が無いとレオさんはおっしゃいましたが、黙って何もしない訳にはいかず……昨年はここでメガホンで叫んでデモ活動を行いましたが、一瞬で兵士に止められてしまったので、今年はこうやってコソコソとやってる次第です」
「スゲ〜な。せっかくのサタナリアだからエンジョイすればいいのに——って言ってもタリアがいなきゃ意味無いのか」
レオが言った。
「おっしゃる通りです。彼女を救えてないのに呑気に遊べる訳がありません」
「私署名しますよ」ヒナが軽く手を挙げた。
「ヒナさん、ありがとうございます!」エドウィンは深々とお辞儀した。
ヒナはエドウィンから紙が挟まれたボードを受け取り、署名した。
「アスカもする」今度はアスカが署名をした。マットとレオも次々と署名する。
「頑張ってね」レオが最後にボードをエドウィンに返した。
「皆さん本当にありがとうございます! ヨーサタナリア!」
エドウィンはそう言って、すぐさま隣の席のグループへ声を掛けた。
「心苦しくなるね……」アスカがエドウィンを眺めて呟いた。
「うん……」ヒナもエドウィンを憐れむように眺めた。
「俺料理取ってくるわ」
レオはエドウィンの署名活動を聞いてるのが辛くなり席を立った。レオがブッフェコーナーに並んでいると、レオを呼ぶ声がした。
「あ、レオだ! レオ!」
若い女性3人組がレオの方を見ている。
「だからラグスビー選手はローザンパークに来るって言ったでしょ!」
ロングヘアの子が他の2人に自慢気に言った。
「あ〜! ケバブサントスで会った子?」レオは3人をようやく認識した。3人の名前を以前聞いたのだが、思い出せない。「えっと——マートル?」ロングヘアの子に言った。
「マーセラだよー!」ロングヘアの子が膨れっ面を作った。
「だっさ! あんだけレオと知り合いって皆に言いふらしてたのに名前覚えてもらってないじゃん!」ショートヘアの子がマーセラをいじった。
「マーセラね、ごめんごめん! 単純に俺名前覚えるの苦手なだけだから。俺の刻印ケバブ注文したのは覚えてるよ!」レオが必死に謝った。
「えっと——2人は何だっけ?」レオは1人だけ名前を覚えているのだが、マーセラに申し訳無いので覚えていないフリをした。
「テスだよ!」ショートヘアの子が言った。
「リンデです!」ポニーテールの子が敬礼をした。
「そうそう、テスにリンデね! ルイス推しにアスカ推しだよね」
レオは誰が誰推しなのかはハッキリと覚えていた。
「ねぇルイスってここにいる?」テスがレオに尋ねた。
「俺に遭う度にルイスの居場所聞くの止めてくんない?」
レオが冗談っぽく言うと、マーセラが手を叩いて笑った。
「レオ、超オモロイ!」
「頑張り過ぎだから」リンデがわざとらしく笑うマーセラを肘で突いた。
「ルイスここにいるよ」
ブッフェコーナーに並び終えたレオが、ピラフを皿に盛りながら言った。
「うそ! 連れてって!」テスが飛び跳ねた。
「でも彼女と来てる」
レオがピラフを盛り終え、ブッフェコーナーからようやく離れて言った。
「うそー!」テスが肩を落として顔をしかめた。
「ダサいのはどっちよ! 『ルイスは彼女いない』って呪文のように唱え続けてたじゃん!」今度はマーセラがテスをいじった。
「彼女可愛い?」テスがレオに尋ねた。
「いや、俺がどうこう言える問題じゃないからさ……」レオは対応に困った。
「あたしの方が可愛いって言ってよ!」テスが駄々をこねた。
「ちょっと、これ以上レオを困らせないでよ!」マーセラがテスの肩を押した。
「もう面倒くさいからさ、自分で確かめてきなよ。こっから3列目のテーブルにいるから。まだいるか分かんないけど」レオが遠くのテーブルを指差して言った。
「え、ちょっと皆行こうよ!」テスがマーセラとリンデを誘導しようとした。
「レオは行く?」マーセラがレオに聞いた。
「いや、俺はテーブルに戻るよ」レオが答えた。「あ、アスカいるよ」リンデに言った。
「え、一緒に座ってるんですか!?」リンデが鼻息を荒くして聞いた。
「うん。全然会わせてあげれるけど」
「本当ですかー!?」リンデは顎が外れそうになるくらい口を大きく開けた。「テス、勝手に行ってきて! 私アスカ様拝んでくる!」
「うちもレオと行く!」マーセラが手を挙げた。
「え、ちょっと待ってよ! どこにいるか分かんなくなっちゃうじゃん!」
テスが困った表情を見せた。
「俺達はこっちの2列目にいるから。もし迷子になったら皆ここに30分後くらいに集まればいいんじゃね?」レオがテスに言った。
「それいい! レオ天才!」マーセラがレオを持ち上げた。
「だからやり過ぎだって」リンデがまたマーセラを肘で突いた。
「う〜……分かった! 行ってくる!」テスが決心した様に去って行った。
「よし行くか。あ〜ピラフ冷めるー」
レオはマーセラとリンデを連れてテーブルへ戻った。
「遅かったねレオ」マットがレオに気付いた。
「うん。知り合いと話してた。アスカ、この子アスカの大ファンだから連れて来た。リンデ」レオがリンデを紹介した。
「は、初めまして! リンデと申します! アスカ様崇拝してます!」
リンデが手を合わせて拝んだ。
「どうもー! ウケるねこの子」アスカがリンデを見て笑った。
「こんなんだけど、割とまともな子だから」レオが言った。「座っていいよ。俺立ってピラフ食う」レオは自分のスプーンを取り、リンデを自分の席に座らせた。
「レオはアスカと付き合ってるの?」
マーセラがピラフを食べるレオに尋ねた。レオは首を振る。
「じゃああの子は?」
マーセラがヒナを指差した。ピラフがまだ口の中に入ってるレオはまた首を振った。
「レオは彼女いないの?」マーセラの質問にレオはまた首を振る。
「いるの!?」マーセラが大声を出した。レオは焦って大きく首を振った。
「いない」
まだピラフを食べ終わってないレオは、口に手を当ててようやく言葉を発した。
「何だビックリした……好きな人とかもいないの?」マーセラが胸を撫で下ろした。
「いないね」
「恋愛興味無いの?」
「うん。何か照れ臭くなっちゃうし、俺はラグスビーが好きかな!」
「そうなんだ……」マーセラがガッガリした表情を見せた。「うちウザい?」
「ウザくないよ! 前回のマッチボロボロだったから、色んな所行く度に批判されてさ。だからマーセラが普通に接してくれるのは嬉しいよ」
「良かった!」マーセラが久々に笑顔を見せた。「次のマッチも応援してるから!」
「ありがとう。でも俺次出ないんだよ」
「何で!?」
「アスカがバンされたじゃん? それを止めさせる為に試合棄権しようって提案したんだけど、メンバー全員説得出来なくて。だから次の試合は俺とルイスとジェイソンが出ないよ。勿論アスカも」
「何それ! いいのそんなこと話して?」
「まぁ隠すことじゃないしな——てかスポーツベッティングする人もいるから、むしろ皆に知らせてあげないと可哀想な気がする」レオは少し考え込んだ。
「マット」レオは3人の女性に囲まれているマットを呼んだ。「次のマッチで俺とかルイスが出ないのって、スポーツベッティングする人に知らせた方がいいよね?」
「あ〜確かに」マットが席から立った。「平民チームに誰も賭けなくなれば、手数料の収入減るし役人は勝っても儲からなくなるから、プレッシャー与えられるかもしれないし」
「おう、そうだな! どうやってやる? スポーツベッティングに並ぶ人に大声で呼びかける?」
「いや、それだと大変だから——ガレクロに載せちゃうのが早いんじゃない? ビングがたまにラグスビー選手のインタビュー記事載せるじゃん。それこそ平民チームが勝った試合の後とか。ビングにコンタクト取ればいいよ」
「それいいな! でもどうやればいいんだ? 前はビングが直接練習に来てインタビューしたし……」レオが考え込んだ。「てかマーセラごめん、この話興味無いよね」
「ううん! レオの内輪に入れた気がして嬉しい!」マーセラが目を輝かせた。
「ならいいんだけど。あ、この人マットって言って、平民チームのラグを強化して勝利に貢献した影の立役者だよ」レオがマットを紹介した。
「そうなんだ! レオのトカゲラグも?」マーセラがマットに尋ねた。
「うん。あれトカゲじゃなくてドラゴンなんだ。デザインしたのはアスカ」
マットが笑いながら答えた。
「うそ! ハズい……」マーセラが顔を手で覆った。
「MCサントスの罪は重いね」マットが笑った。「ビングのコンタクトはルイスが知ってるんじゃない?」
「そうか。どっち道キャプテンの承認は取らないといけないから、今度の練習の時に聞いてみるよ——いや〜TODOが溜まっていくな……」
レオが表情を曇らせた。
「レオ忙しいの?」マーセラが聞いた。
「——まぁ色々ね」
そこでテスが険しい表情で現れた。
「テス、良かった無事合流出来て!」
マーセラが安堵の表情を見せた。リンデも座ったままテスの方を振り向く。
「ルイスと会ったよ……」テスがボソッと言った。
「どうだった?」リンデが尋ねた。
「『大ファンです』って言ったら、ルイスの返事を聞く間もなく彼女に邪魔された……『隣に私がいるのが見えないの? デートの邪魔しないでくれる?』って……」
「う〜わ、性格ブス!」マーセラが吐き捨てた。
「彼女どんな人だったの?」リンデが席から立ち上がって聞いた。
「めっちゃ歳上」
「めっちゃってどれくらい?」
「24」レオが代わりに答えた。ここまで来たら教えてもいいだろうと思った。
「あたしの10個上じゃん!」テスが声を荒げた。「あたしじゃ子供過ぎて無理なんだ……」
「そんなこと無いよ。彼女がいない時にまた話しかければいいじゃん」リンデが慰めた。
「簡単に言わないでよ! リンデは推しが女だからこういう心配しなくていいでしょ!」
「そんな失礼な言い方無いでしょ!」
レオはこの状況をどうすればいいのか分からず、一歩下がって傍観した。
そこへエドウィンがやって来た。
「レオさん! 良かった、まだここに居て」
何とエドウィンの後ろにはフィリップとシオネがいた。
「何この組み合わせ!」レオは驚いた。
「エドウィンさんが私達のテーブルに署名活動に来て、もしかしたら私と同じ状況の人なのかなと思ったんです」シオネが説明した。「軟禁されてるのはヒーラーなのか聞いたらそうだと仰るので、驚きました」
「こんなとこでチマチマ署名活動なんかしないで、アントラでイベント主催してスピーチすればいいじゃんって俺が言ったんだよ」フィリップが付け足した。「そしたら、レオ呼んで来るから詳しく教えてくれって言われて」
「レオさん、今から脇の方でお話出来ませんか?」エドウィンが言った。
「まぁいいよ、飯食い終わったし」レオはテスとリンデのゴタゴタから離れたかったので快諾した。「皆も来る?」HAMLに聞いた。
「行く」ヒナが席を立ち、アスカとマットも続いた。
「皆またね」レオがマーセラとテスとリンデに挨拶をした。
「うん。ごめんね騒ぎ起こしちゃって」マーセラが謝った。
HAMLは食器を返却所に返し、エドウィン達と再合流した。一行は中央広場の喧騒から離れ、ラグを敷いて座った。
「フィリップさん、改めてイベントについて教えて頂けますか?」
7人全員が座ったところで、エドウィンがフィリップに話を振った。
「アントラは5万リタ払えば1日貸し切れるんだよ。まぁ平日は3万なんだけど、日曜日に開催しないと人があまり来ないから、平日にイベントを主催する人はほぼいないね——で、イベントを主催するのは国と役人しかいないんだ。国主催のイベントの目的は、平民からの印象アップとカルチャーの発展、そしてプロパガンダの発信。役人が主催する目的は人気集め。でも一般人も実は主催出来る。メリットが無いから誰もやらないだけで」
フィリップが一気に説明をした。
「つまり5万リタの費用対効果が得られないということですか? 入場料を取れば利益を出すことも可能ではないでしょうか?」
エドウィンが聞いた。
「君アントラ行ったことある? 屋外シアターなんだからラグで上から入れちゃうに決まってんじゃん」フィリップが呆れるように言った。
「でもラグに乗れるのはほんの一部ですよね? 彼らからは入場料を取れなくてもさほど重要ではない気がするのですが」
「同じようなことを考えた人が昔いたよ。入場料取ってみたの。どうなったと思う? ラグ乗りが少額を客から頂いて、2人乗りで客を観客席まで運んだんだよ——すごい光景だったよ、何十人っていうラグ乗りが客を運ぶ姿。後にこの人達は「飛ばし屋」って呼ばれるようになって、以降誰も有料イベントを開催しなくなった」
「そうだったのですね……」
「てな訳でアントラのイベント主催しても金儲け出来ないけど、エドウィンの場合は金儲けが目的じゃないっしょ? 『フィアンセを取り戻す為に、城にデモを起こしに行こう!』って言えば付いて来てくれる人がいるかもしんないじゃん」
「随分と大胆な発想ですね……帰り際に出口で署名を頂くのではダメなのでしょうか?」
「君は何故そこまで署名に拘るわけ? 医者だから一人一人丁寧に対応することに慣れてるかもしんないけど、俺はエンターテイナーだから集団を動かすんだ。人はギブ&テイクの心が備わってるから、何かを受け取ったらお返しをしようとする。面白いショーで観客を喜ばせれば、その分こっちの要望にも答えてくれる。せっかくショー観終わったばっかで気分が高まってるんだから、その勢いでデモ起こさないと勿体無いっしょ。署名に観客の高揚感が詰まってる? 署名で終わらせたら観客のエネルギーの無駄遣いだよ」
「なるほど……」エドウィンがゆっくりと何度も頷いた。
「では主催するとしたら、誰を出演させればいいのでしょうか? フィリップさん達は出演して頂けますか?」
「シルク・ドゥ・パレットはギャラ貰えれば出るよ」フィリップが澄ました顔で言った。
「ギャラはおいくらでしょうか?」
「40分のパフォーマンスで3万リタ+バンドにも3万リタ」
「そうですか——会場代と合わせて11万リタ……私には出せない額です……」
エドウィンが肩を落とした。
「医者なのに11万も出せないの?」
「フィアンセからの仕送りが止まったから、以前同棲してたアパートの家賃を払うのがキツくなってるんだよ」レオが代わりに説明した。「エドウィンだけじゃなくてシオネにも関係ある話だからさ、ボランティアってわけにはいかないかな?」
「勿論レオからエベディルクの話を全部聞いてるから状況は把握してるよ。でもこっちはプロなんだ。対価をもらうことで最高のパフォーマンスが発揮出来る。別にオープンステージに出てるアクトならギャラ無しで出てくれるだろうから、そういう奴らをかき集めてもいいだろう。でもオープンステージなんて千人も入んないからね? この前のイベントは5千人くらい入っただろ? 3アクトだったけど、仮にどれか1つだけでも3千人は入ったはずだよ。それに観客の満足度も当然違うから、アクトはケチっちゃダメだよ」
「そうか、そうだよな」レオは納得した。
「そう言えばさ、ガレクロにイベントの告知が載るじゃん」マットが初めて口を開いた。「あれはお金かからないの?」
「会場代に含まれるから、広告費は無料だよ」フィリップが答えた。
「そうなんだ——あそこに主催者の名前載るって結構大きくない?」
「大きいね。ガレクロは発行部数が10万部って言われてるから、1世帯3人だと仮定して30万世帯あるとすると、3世帯に1つが読んでることになる」
「マジか。『マットファクトリー主催』って掲載されたらすごい広告効果だろうな〜」
「じゃあそうしようよ」アスカが言った。「マットファクトリー主催にしちゃうの。コストは全部こっち持ち」
「でもさっきエドウィンの話聞いてたでしょ? 費用対効果があるなら一般人でもとっくに主催してるはずだよ。流石に11万リタの効果は無いんじゃない?」
マットは懐疑的だった。
「イベントと全く関係無いビジネスだったらそうかもね。でもマットファクトリーはラグジュアリーブランドを目指すんだよ? ラグのトップパフォーマーを支援するのはブランド作りにおいて効果的だと思うな。ラグスビーの平民チームとシルク・ドゥ・パレット両方スポンサーしたら、そのラグ屋はガレシアのラグカルチャーの頂点に立てるよ」
「そう言われればそうかもね……」
「今決めなくてもいいよ。仮にマットファクトリーが主催するとしたらどう、エドウィン? 別にマットファクトリーの宣伝スピーチなんかする必要は無いから。単純に主催者の名前が変わるだけ。エドウィンの名前載ったって何の得も無いでしょ? 病院の名前載せれば別かもしれないけど」
アスカがエドウィンに話を振った。
「費用を負担してくれるならこれほど有り難いことはありません! 病院はしがらみがありますので、お金が出ることは無いと思います」
エドウィンの顔色が明るくなった。
「じゃその方向性でいいじゃん! 後はデモをどう起こすかだよね」
「ええ。スピーチを考えておきます」
「エドウィンには悪いけど、適任は君じゃないよ」フィリップが水を差した。「君は知名度も無ければ大衆を動かすだけのカリスマ性も無い。被害者としてちょっと話すくらいはいいとして、デモのシンボルはレオにするべきだ」
「俺!?」レオは驚いた。
「当たり前じゃん。エベディルクを作ることに成功したのはレオの功績だろ? 城に侵入して国王と直談判までするくらい勇気に満ち溢れてる。それにラグスビー選手としての知名度もある。他に適任は誰がいるって言うんだよ? 仮に3千人にスピーチして1割の300人がデモに付いて来てくれるとするよね。アントラから城まで1時間以上かけて大勢が歩くんだよ? 先頭に立つ人間が有名人じゃないと皆そのうち飽きて帰っちゃうよ」
「——ええ、言われてみればその通りです。レオさんの方が適任ですね」
エドウィンは納得した。
「ちょっと待ってよ。別にスピーチはしてもいいよ。皆が真実を知らなきゃ、仮にヒーラーが解放されたところでまた別のヒーラーが雇われて同じことの繰り返しになるだけだからな。でもデモやってタリアが解放されるイメージが湧かないんだよな」
「レオさんがスピーチをしてデモを率いれば、多くの国民が真実を知ることになるはずです。そうすれば国王の求心力が弱まり、タリアの解放に繋がるかもしれません!」
「レオ君、やってみたら? 城に侵入する訳じゃないんだし、もし失敗に終わっても失うものは無いはずだよ」ヒナが背中を押した。「シオネちゃんはどう思う?」
「はい。私もレオさんがデモやってるところ見てみたいです」
シオネが初めて口を開いた。
「あのな〜、俺は見世物じゃないんだぞ」レオが苦笑した。「まぁいいや。これ以上エドウィンが苦しんでる見るの辛いし、やってみるよ」
「ありがとうございます!」エドウィンが土下座をした。
「ヨーサタナリア!」エドウィンは顔を上げると、拳を突き上げて叫んだ。
「ヨーサタナリア!」他の6人は笑いながらも一緒に拳を突き上げた。
こうしてレオのガレシア初のサタナリアは幕を閉じた。




