第15話 ギフト交換
レオ、マット、アスカはヒナの家を訪れた。
「もうここでギフト交換しちゃう? そうすればヒナは1日中持つ必要無くなるじゃん」マットが提案した。
「アスカはそれでもいいよ」アスカが賛同し、ヒナとレオも続いた。
4人はテーブルを囲って座った。
「誰から行く?」アスカが皆に聞いた。
「俺が先にやるよ。先に終わらせてしまいたい」レオが名乗りを上げた。
「オッケー」
「これはマットに」レオはリュックからキャンドルを5本取り出し、マット渡した。
「ありがとう。実用的だね」マットは笑顔で受け取った。
「アスカとヒナにはこれ」レオは布袋に入ったソーセージをアスカとヒナに渡した。
「何これ?」アスカが尋ねた。
「ソーセージ」
「ソーセージ!?」アスカが布袋を開けて目を丸くした。「何でまた……」
「え、ダメ?」レオは急に背筋が凍る思いをした。
「ダメじゃないけど、女友達なんだからもっと可愛い物用意するのかと思って……」
アスカは目尻をぴくぴくさせながら袋の中のソーセージを見つめている。
「だって!——」レオはナターシャの助言に従ったことを言いたかったが、ナターシャとの関わりを知らないアスカには言うことが出来なかった。
「ふふふ、レオ君らしいね」ヒナが自分のソーセージを覗いて笑った。「大きいねこれ。どこで買ったの?」
「アゴラ。ヒナのはちゃんとハーブ入りにしたんだぞ!」
レオは必死に自分のギフトを正当化した。
「ありがとう。美味しく頂くね」
「ヒナはハーブ沢山持ってるからハーブ入りあげても嬉しくないんじゃない?」
マットが笑いながら指摘した。レオはガックリと肩を落とす。
——何故こうなってしまったんだ。ナターシャの千年の知恵は間違っていたということなのか。
「レオ君そんなに落ち込むこと無いよ。私だってルネヴェイラで茶葉買ったりするから、ハーブ入りソーセージ嬉しいよ」ヒナがレオを慰めた。
「うぅ、俺の味方はヒナだけだよ……」レオは腕を目に当てて泣くフリをした。
「レオのギフトが全部細長いのは何なの? こだわり?」アスカがイジった。
「たまたまだよ……」レオがボソッと言った。
「あっそう」アスカがニヤけ顔で言った。「マットは何にしたの?」
「僕はこれ」マットがリュックから取り出したのは、正方形のラグの切れ端のような物だった。「手作りのHAMLコースター」
「え、すごい! これアスカの?」アスカは「A」と文字の入ったコースターを手に取って目を輝かせた。
「うん。これがヒナとレオの分ね。僕のも作ったよ」
「すごい! マット君これラグ作る機械で作ったの?」
ヒナは喜んで自分のコースターを受け取った。
「うん。本来の機械の使い方じゃないけど、工夫すればこういうのも作れるよ」
マットが自慢気に語った。
「器用だね〜! 今日早速これにサタナリアのドリンク置こうよ」
「確かに! そうしよそうしよ!」アスカも嬉しそうに言った。
一方レオはアスカとヒナの明らかなリアクションの違いを見てふて腐れている。
「マットこれはズルい! 手作りはズルいぞ!」
「そんなこと言われても、僕はただ良いと思った物を作っただけだよ」
マットが澄ました顔で言った。
「次は私ね」ヒナがギフトを棚の引き出しから取り出した。「手作りの香水だよ」
「ヒナも手作り!」レオが叫んだ。
「レオ君とマット君はハーブを沢山使ったグリーン系。でも香りはちょっと違うよ」
ヒナがレオとマットに香水の瓶を渡した。アスカにも瓶を渡す。
「アッちゃんは普段シトラス系付けてるから、フルーツたっぷり使った物にしたよ」
「ヒナっちすごい!」アスカは早速手の甲に香水を付けてみた。「アスカこういうのめっちゃ好き! さすが分かってるぅ〜!」
「いいねこれ!」マットは瓶を開けて香りを味わった後、アスカに渡した。「アスカ、これキンセニエラのエスコートとして相応しい?」
「うん、バッチリ!」アスカは香りを確かめてグッドサインを出した。
レオはどんどん気まずくなり、テーブルの下に潜り込みたい気分だった。しかしレオは先程ヒナに助けてもらったので、しっかり礼を言った。
「ヒナありがとう! 大切に使うよ」
「じゃあ最後はアスカね〜」アスカがリュックから3つの小瓶を取り出した。「ナターシャ・エスコファーのプロダクトにした! レオはラグランジェで気に入ってたバーム、マットは仕事で手を使うだろうからハンドクリーム、ヒナっちにはリップクリームね」
3人にそれぞれ瓶を渡した。
「マジで!? 結局買ってなかったんだよね、バーム。サンキュー!」
レオは初めて素直に喜んだ。
「アスカ、気が利くな〜」マットも嬉しそうにハンドクリームを眺めた。
「アッちゃんありがとう! 嬉しい〜」ヒナもニコニコしている。
「よし、サタナリア行こうぜ!」レオが立ち上がった。
「うん——ヒナっち、レオのソーセージここに置いてもいい? アスカ料理出来ないから、今度焼いてー」
アスカが聞くと、ヒナは「いいよ」と承諾した。
レオはアスカにソーセージを捨てられなくてホッとした。
「ローザンパークとヴィルマリーストリートどっちから行く?」マットが全員に聞いた。
「ヴィルマリーストリートにしよう。ヒナは夜飛べないから、歩いて帰るのにローザンパークの方が近い」レオが提案した。
「おー、そうしようそうしよう」
「レオ君ありがとう〜」ヒナが礼を言った。
「レオ今日初めてカッコいいとこ見せたね」アスカが笑った。
「ダサいギフトで悪かったな……」レオが口を尖らせた。
HAMLはラグに乗りヴィルマリーストリートへ向かった。空から通りを覗くと、明らかにいつもと景色が違うのが分かる。通りの中央にはテーブルと椅子が凄まじい数配置されており、人で賑わっている。
ラグで降り立つスペースがまともに無いので、4人は通りの外れに降り立ち、歩いて中へ入って行った。
「座れる場所あるかな〜」アスカが必死に空いてる席を探す。
「めっちゃいい匂いするぞ!」レオはブッフェ形式で置かれたフードを眺めて言った。
しばらく歩いてHAMLはようやく4人座れる席を見つけた。
「僕が席取ってるから皆料理取ってきてよ」マットが言った。
「おー、サンキュー!」レオが礼を言い、アスカとヒナと共に近くのブッフェコーナーへ向かった。レオはブッフェ料理に目を奪われた——キッシュ、ラザニア、様々な種類のパン、リゾット、ローストビーフ、ローストポーク、ラムチョップ、野菜のマリネとテリーヌ、数種類のスープ、チーズ。レオが普段まず食べることの無い料理ばかりだ。
「取り過ぎないようにねー! 残したり持ち帰ったらダメだよ!」
スタッフが注意を呼びかけている。
レオは考える余裕も無かったので、皿にどんどん料理を乗せていった。
ドリンクコーナーには、ワイン、ハーブティー、レモン水、普通の水などがある。レオはドリンクをスキップし、クリームスープをスープカップによそってテーブルへと戻りマットの隣に座った。
ヒナとアスカもテーブルへと戻った。ヒナはハーブティー、アスカはレモン水を選んだようだ。
「マット君これ」ヒナがマットにフォークを渡した。「ドリンク何がいい?」
「ありがとう——取り敢えずヒナと同じのでいいよ」
マットがフォークを受け取って言った。
「持ってくるね。レオ君は?」
「俺は一旦大丈夫!」
レオは目の前の料理を食べたい気持ちを必死に堪えてヒナを待った。
ヒナがハーブティーを持って帰って来た。
「皆揃ったね!」アスカが声をかけ、コップを掲げてこう叫んだ。「ヨーサタナリア!」
「ヨーサタナリア!」
他の3人も声を上げ、乾杯をした。レオはスープカップで乾杯をした。
レオは数分間特に何も話すこと無く食べ続けた。
マットは適当に皆の皿から料理を取って食べると、自分の料理を取りに席を立った。
「美味しいね〜」ヒナは特に急ぐ様子も無く、ナイフとフォークで野菜のテリーヌを上品に食べている。「私ヴィルマリーストリートのサタナリアは初めてだな」
「うそ? やっぱここが一番美味しいと思う! 全部行ったこと無いから分かんないけど」アスカが言った。
「マジで旨い!」レオがやっと口を開いた。「でもそんな旨いなら何で皆ここ来ないの?」
「ラグ乗れない人は遠かったりするじゃん。それに近所のコミュニティで祝う文化があるから、よそで食べるとアウェイ感あるし。美味しいご飯を求めるって言うより、家族や友達と時間を共にするっていう意味合いの方が強いよね」
「まぁ俺もセリエンテではよそのサタナリアなんて当然行けなかったな。『お前誰?』って言われてお終いだよ——でもそしたら俺、パブが参加してるガレシアセントラルに行けば良かったのかな」
「まぁいいんじゃない別に?」
「アスカの家族もここで食べてんの?」
「ここよりもっと近い所があるから、そこで食べてると思う。姉2人は——知らない」
「マットの家族は?」
「僕の家族も家の近所で食べてると思うよ」マットが答えた。
「あ! マット君のコースター使うの忘れてた!」ヒナがそう言ってリュックからコースターを取り出し、ハーブティーのカップをその上に置いた。「オシャレ!」と手を叩いて喜んでいる。
「僕も自分の使ってみよう」マットも自分のコースターを取り出した。
レオとアスカも取り出し、HAMLコースターが揃った。
「これいいね!——いや〜レオのソーセージ思い出すとマジウケるんだけど」
アスカが笑みをこぼした。
「ソーセージはギフトとして無くはないけど、もうちょっと年配の人が送るイメージだよね」マットが言った。
「もうね、手に職ある人が2人もいるのが辛いよ。良かった〜アスカ何も作れなくて」
またギフトの話になり、レオが少し不機嫌そうに言った。
「失礼だなー、アスカ絵描けるもん。でも絵あげても仕方ないから既製品にしたけど」
アスカが口を尖らせた。
「あ、絵描けんのか——俺だけかい何も作れないの! ガレシアの教育ってどうなってるわけ?」
「皆が皆何か作れるわけじゃないよ」アスカが澄ました顔で言った。
自分の皿の料理を食べ終わったレオは、ブッフェコーナーに戻った。
「君2回目だよね?」スタッフがレオに声をかけた。「皿は皿? 洗うの大変なんだから使い回してよ」
「あ、そっか。ごめん」
レオはテーブルの自分の皿を取って来て、新たな料理を乗せていった。
「パン以外の料理コンプリートしたいけど、胃袋が持ちそうに無いな〜」
レオはテーブルに戻って嘆いた。
「お願いだから吐かないでね」アスカが眉間に皺を寄せて言った。「毎年必ず吐く人いるから。下品過ぎて見てらんない」
「夜までやってるんだから、焦らずにゆっくり食べなよ」マットも心配した。
「うん——食ったからか分かんないけど、暖かいな〜今日」レオが言った。
「多分人の熱気もあると思うよ」ヒナが周りを見渡して言った。「これだけの人が密集すると、人の体温で気温が上昇するから」
「そういうことか」レオは納得した。
4人がしばらく食べていると、聞き慣れた声が飛んできた。
「おい、負け犬じゃねーかよ」
レオが振り返ると、そこにいたのはグレゴーだった。隣にはもう1人政府チームの選手がいる。
「お前の居場所はここじゃねーぞ。もっと身分に合った会場で飯食えよ」
グレゴーがいつものようにレオを貶してきた。
「あのさー、フィールド外ではほっといてくんない?」
レオが呆れたように言うと、グレゴーは鼻で笑ってその場を去った。
「本当しょーもないよねあいつ」アスカが皿のラザニアをフォークで思い切り刺した。
「早く政府チームに勝ってあいつをぎゃふんと言わせてやりたいよ」
アスカはそう言ってラザニアを勢い良く口に入れた。
「でもあいつ試合に負けた直後にローブ&ホープで俺達に会った時も、あんなんだったじゃん。多分俺が役人にでもならない限り変わんないよ」レオが肩をすくめた。
「あんな奴は無視だよ無視」
HAMLの隣の席が空くと、若いカップルがそこへ向かい合わせに座った。レオの隣が男、ヒナの隣が女だ。
「ヨーサタナリア!」カップルの乾杯する声が聞こえた。
「アレクサンドル、あーん!」女はスプーンに乗せたリゾットをアレクサンドルの口へ運んだ。アレクサンドルは甘えた顔でリゾットを食べる。
「美味しいよロクサリーヌ! でも僕の一番の大好物は何か分かるかい?」
アレクサンドルが演劇をしてるかのような口調で言った。
「なーに?」ロクサリーヌが目をキラキラさせて聞いた。
「それは君さ!」アレクサンドルはそう言ってテーブル越しにロクサリーヌにキスをした。2人はそのまま5秒ほどディープキスをする。
ヒナが気まずそうに隣をチラチラ見た。レオ達はそれを見て静かに笑った。
「まだ昼だよ?」アスカが向かいのマットに囁くと、マットは苦笑した。
カップルがキスを終えて食事を始めると、ロクサリーヌがこう言った。
「私、奇妙な噂を聞いたの——実は国王は神の子ではないという噂」
ロクサリーヌの言葉を聞き、HAMLはお互いに目配せをした。会話を止めてカップルの話に耳を傾ける。
「どういうことだい?」
アレクサンドルがローストビーフをナイフで切りながら言った。
「国王はエベディルクという大好物のハーブティーを飲んでるじゃない?」
「ああそうだね」
「実はあれが老化を止める薬らしいの!」
「ロクサリーヌ、冗談も程々にしないかい? 老化を止める薬なんて存在するわけ無いじゃないか。ただのゴシップに過ぎないよ」
「でも私のお友達の中には信じている子もいるのよ? アレクサンドルは私を信じれないと言うの?」ロクサリーヌが悲劇のヒロインのように言った。
「そうは言ってないだろう。どこから始まった話かも分からないのに、闇雲に信じるのはおかしいと言っているんだ」
「アレクサンドルは国王を崇めているから最初から疑ってかかってるだけじゃない!」
「国王を崇拝出来なければどうするんだい! 僕らがやってる演劇は神の子である国王が正に題材なんだぞ。ロクサリーヌはどうやってこれから妻役を務めるつもりだ!」
「私の友達が指摘しているのはそこよ! 国王が私達に高いギャラを払って演劇を開催している理由は、国王が神の子であるというストーリーを国民に刷り込ませる為だって友達は言うの」
「その高いギャラのおかげで僕達は生活出来てるんじゃないか。よくも国王のことを平気で侮辱出来るね!」
2人の口論はしばらく続き、レオは興味津々と聞き続けた。
そこへジェニーとジャスミンが通りかかった。
「アスカじゃん! ここにいたんだ!」ジェニーがアスカに気付いて声をかけた。
「ジェニー! やっほー」アスカは姉を無視してジェニーに挨拶した。「近い内に店行くね」
「うん、キンセニエラ前にバッチリ決めないとね!」
「あ、ジェニー?」
レオが、テーブルの向かい側でアスカと話しているジェニーに声をかけた。
「レオ、久しぶり!」
「俺の髪もお願いしたいんだけどいいかな?」
「いいよー。レオもキンセニエラ来るんだっけ?」
「うん」
「ここの2人も来るよ」アスカがヒナとマットを指してジェニーに言った。「ヒナとマット!」
「そうなんだ! 初めまして!」
ジェニーが2人に挨拶した。マットとヒナも挨拶を返す。
「ほら、ジャスミンにも紹介しなよ」ジェニーがアスカを促した。
「——アスカの友達のヒナとマットとレオ」
アスカがぶっきらぼうにジャスミンに言った。
「初めまして、姉のジャスミンです」ジャスミンが笑顔で挨拶した。
「この前のアントラのイベント皆で観たよ。ダンス上手かった」とマット。
「本当? ありがとう」ジャスミンは礼を言った後、レオに目を移した「レオはラグスビーマッチで見たことある」
「俺もハーフタイムですれ違う時に見たことあるよ」レオが言った。
「キンセニエラでまた会おう」
ジャスミンは皆にそう言って、ジェニーとその場を離れた。
「やっぱ知り合いに遭うもんだね。食い終わったら他のテーブルも見に行こうよ」
レオが提案した。
「うん、そのつもり」アスカが頷いた。
アスカはその後も何人もの知り合いに声をかけられた。
「アッちゃん顔広いね」ヒナが言った。
「家近いだけだよ」アスカが謙遜した。
「よし! ご飯は充分食ったし、スイーツ食おうかな!」
レオはスイーツコーナーへ向かった。スコーン、パンプキンパイ、チーズケーキ、ブラウニー、カットフルーツなどが置かれている。レオは古い皿を返却所に返して、新しい皿にスイーツを乗せた。他の3人も次第にスイーツへと移行した。
「いや〜スイーツなんて普段フルーツ以外食べないから旨いな! 脳に甘味がガツンと来る」レオがチーズケーキを味わいながら言った。
「僕は甘い物に目がないから、よくスコーン買っちゃうな〜」
マットはスコーンを食べている。
「私はフルーツと焼き芋で糖分摂ってる」カットフルーツを選んだのはヒナだ。
「そうだ焼き芋があった!」レオがハッとした。「あれも充分甘いよね」
「アスカもうお腹いっぱい。レオ残り食べる?」
アスカがブラウニーの食べかけを差し出した。
「ちょっと待って。チーズケーキ食べ終わったら食べる」
「そう言えばさっきキンセニエラの話聞いてて思い出したんだけどさ、僕昨日キンセニエラの夢見たんだよ」マットがスコーンを食べ終わって話し始めた。「アスカのエスコートしてて、脚ガクガクに震えてさ、気付いたらおしっこ漏らしてたんだよ」
「何その夢!」レオがゲラゲラ笑った。
「それで周り見たらゲストが皆僕のこと指差して笑ってて。アスカは顔真っ赤にして、ケーキタワーを切るナイフを持ってきて僕のこと刺したんだ」
「ヤバっ!」
「僕は血めっちゃ流して、その場に倒れたところで目が覚めた——そして下の方向いたら——」マットはそこで話を止める。
「漏らしてたの!?」アスカが聞いた。
「ううん、何も無かった」マットはそう言って笑った。
「……マットね……今度おしっこ漏らす話したらレオにエスコート代えるよ!」
アスカが言葉を強めた。
「ごめんごめん」マットが笑いながら謝った。
4人はスイーツを食べ終わり、しばらく談笑した。
「いや〜ガレシアのサタナリア満喫した!」レオがお腹を擦って満面の笑みを見せた。
「どう、初めてのタダ食いは?」マットが聞いた。
「俺パブのテーブル移動するの手伝ったから厳密にはタダ食いじゃないかもな。でも働いた分罪悪感無くていいや!」
「そろそろ行く? 席ずっと占領してるの申し訳無いし」ヒナが言った。
「うん、そうしよう」アスカが賛同して立ち上がった。
HAMLは他のテーブルの様子を見る為に、ヴィルマリーストリートを1往復することにした。ブッフェコーナーは幾つも設けられており、大体同じ料理が置かれている。レオ達が食べていた場所とは別のブッフェコーナーに、見慣れた顔がいた。
「シャーロットさん!」
ヒナがハーブティーを補充しているシャーロットを見つけて声をかけた。
「ヒナちゃん! 皆揃ってる!」シャーロットが嬉しそうに言った。
「私達ずっとあっちで食べてたので気付きませんでした」
「そうだったのね!」
「全部のハーブティーを作ってるわけではないんですか?」
「さすがにこの量1人で作れないわよ。でも茶葉は他の店に卸したりしてるから、私のお茶に当たる確率は高いんじゃないかしら」
「はい。ルネヴェイラの味がしました」
「それは良かった」
「シャーロット姉さん、エベディルクの話って他の人にした?」レオが尋ねた。
「ええ、したわよ。せずにいられないじゃない。ダメだった?」
「いや、ダメじゃないよ。同じ話何度もすんの疲れるからむしろ国中に広まってほしいくらい。ロクサリーヌっていう女の子には話した?」
「誰? 知らない」
「じゃあもしかしたら結構広がってるかもな——」
「旦那さんには話したの?」今度はアスカが尋ねた。
「ええ。『エベディルク作れないのが悔しいから自分に都合の良い話を信じたいだけだろ』って言われて相手にされなかったわ。ヒナちゃんから買った瓶まで見せたのに」
「そっか……話せば誰でも信じてくれるってわけじゃないんだね」
「アレクサンドルとロクサリーヌの話と共通点があるよね。国王から恩恵を受けてる人は神の子ストーリーを信じる傾向にある気がする」レオが言った。
「アレクサンドルって誰?」シャーロットが聞いた。
「知り合いじゃないんだけど、さっき隣で話してるの聞いた。国王を題材にした演劇をやってるらしい。ギャラが高いんだって」
「その演劇って『アキロスの願い』のことじゃないの?」
「何それ?」
「レオ君観たこと無いの?」
「無いよ」
「あ、確かにレオ君に1度も『アキロスの願い』のこと話したこと無かったね」
ヒナが言った。
「私は仕事に戻るわ。後は皆で話してちょうだい」
シャーロットはそう言って空の鍋をカートに積んでブッフェコーナーを去っていった。
「え、ちょっと気になるんだけどその話」レオがヒナに聞いた。
「うん、後で座ってゆっくり話そう」
レオは気になる気持ちを抑えつつヴィルマリーストリートを歩き続けた。すると、ローブ&ホープのアーナードとキャロラインがテーブルで食事しているのを見つけた。アーナードの向かいには奥さんらしき人もいる。
「お、レオ君じゃないか! アスカちゃんも! 久しぶりだね!」
アーナードもレオ達に気付いたらしく、先に声をかけてきた。顔が真っ赤だ。
「アーナード久しぶり」レオは軽く笑顔を作り返事をした。
「いや〜、ローブ似合ってるよ!」
「ありがとう。本当気に入ってる! このローブに命救われたからね」
レオが礼を言った。このローブのおかげで洞窟生活を凌げたので、命を救われたのは本当のことだ。
「はは、レオ君酔ってるんじゃないかい?」アーナードはそう言ってしゃっくりをした。
「アーナードこそ酔ってるんじゃない?」
「お父さん、そろそろワイン飲むの止めたら?」隣でキャロラインが心配そうに言った。
「キャロラインさんの家族仲良くて羨ましいな〜」アスカの声だ。
「仲良いって言っても一緒にいるのキャロラインだけじゃないか。後の2人は家族でサタナリアを過ごしたがらないからね。今どこにいるんだかさっぱりだよ」
アーナードが仏頂面で言った。
「アーナードって子供3人いるの?」レオが聞いた。
「4人だよ。長男は結婚してるからいいとして、キャロラインの妹と弟は独身だよ。夜は友達や恋人と好きなだけはしゃげばいいけど、昼くらい家族と過ごしてほしいというのは親のわがままかね〜?」
「アスカはこうやって昼から友達と過ごしてるから何とも言えないな」
アスカが舌を出して笑った。
「まぁキャロラインだけでも居てくれるから嬉しいさ。一向に結婚する気配が無いから心配だけどね」
「お父さん、皆の前で言う話じゃないでしょ」キャロラインが恥ずかしがった。
「アーナードさん、そう言っておいて店でキャロラインさんにめっちゃ頼ってるじゃん。本当はこのままでいてほしいんじゃないの?」アスカが言った。
「ん〜、アスカちゃん痛い所を突いてくるね! そりゃ勿論ろくでもない男とでも結婚しようもんなら許さないよ!」
「2人共、お父さんに構わなくていいから」
キャロラインはこの会話をさっさと終わらせたくて仕方ない様子だ。
「うん、じゃあまた」
レオはアーナードとキャロラインに挨拶をして、その場を去った。
「やっぱアーナードはキャラ強いな〜」レオが苦笑した。
「あの親子微笑ましいよね」アスカがニヤケ顔で言った。
HAMLがヴィルマリーストリートを歩き続けると、途中アスカが何人かと出くわして話をした。
「で、さっきの話聞かせてよ」
通りを1往復し終えたタイミングでレオがヒナに言った。
「うん。どこ行こうか? 夜までまだ時間あるよね」ヒナが皆の方を見て言った。
「いつも皆は昼と夜の間何してんの?」
「どこ行っても混んでるだけだから、ご飯食べないなら会場行く意味無いよ。アスカは友達の家で夜まで時間潰したりする」とアスカ。
「じゃあそれでいいじゃん。久々に屋根裏に集まる?」
「アスカはいいよそれで」
ヒナとマットも了承し、4人はリアルトへ飛んだ。




