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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
36/65

第14話 フィリップモデル

 翌日はサタナリアの前日準備で、8時からロゼーラの手伝いをしなければならなかった。レオはガレシアクロニクルを20部だけ購入し、サブスクライバー4軒へ配達した後リアルトに戻った。

 ロゼーラとドンテは既にパブで朝食を摂っていた。

「おはよう、レオ。今日よろしく頼むよ!」ロゼーラが言った。

「うん」

 レオもパブで朝食を摂っていると、扉の鍵を空ける音がし、エミリオが入って来た。

「レオじゃん。グッドモーニング」エミリオが挨拶した。

「エミリオ! どうしたの?」

 レオは思わずスクランブルエッグを口からこぼしそうになった。

「サタナリアの手伝いに来た。各店舗に1人兵士がアサインされるんだよ。家族は自動的にアサインされるから、パブの手伝いは毎年俺がやってる」

「そういうことね!」

「エミ、朝ご飯は?」ロゼーラがエミリオに聞いた。

「もう食って来たよ」

 レオはこの家族3人が集まってるのを初めて見たので、やり取りを聞くのが新鮮だった。

「そう言えば今更だけど皆の名字ってリアルト?」レオが3人に聞いた。

「そうよ」ロゼーラが答えた。

「知らなかった。キャッチーだよね」

「店が名前をキャッチーにさせるのよ。結婚して名字変えた当時は随分変な名字だと思ったけどね、今ではすっかりガレシアのブランドでしょ」

「うん。こんなクールな空間は他に無いもん」

 レオはお世辞抜きに褒めた。オシャレな店はヴィルマリーストリートに沢山あるし、ラグスビーフィールドやアントラのような巨大イベントスペースも存在する。しかしリアルトはレオのガレシア生活のスタートを象徴する場所であり、一番思い入れが深い。

「嬉しいこと言ってくれるじゃねーか!」ドンテが満足気な表情を見せた。

 エミリオが到着して数分後に扉をノックする音がした。ロゼーラが扉を開けると、現れたのはルイスだった。

「ルイス!?」レオはまたもや驚いた。

「レオもか」ルイスは特に驚きを見せなかった。「まぁここ住んでるんだし、手伝うのは自然だよな」

「ルイスも毎年手伝ってんの?」

「まぁギルドで働き始めてからほぼ毎年かな」

「ルイス久しぶりだな!」エミリオが元気良くルイスに挨拶した。

「エミリオおはよう」ルイスも笑顔で挨拶した。

「皆揃ったし、始めるわよ」ロゼーラはそう言って、指揮を執った。

 レオとドンテ、エミリオとルイスがペアとなってパブのテーブルを外へ運び出した。ロゼーラは椅子を持って先頭を歩いた。着いた先は近所のパブリックスペース「ガレシアセントラル」だ。普通に歩けば10分程で着くのだが、テーブルを運びながらだと当然時間がかかる。他の店舗の人間も続々とテーブルや椅子を持って現れた。

 レオ、エミリオ、ルイスはラグに乗ってリアルトまで戻った。

「エミリオがラグに乗る姿初めて見たよ」

 レオが空中で言った。エミリオの飛ぶ姿はとても絵になっていた。

「俺は散々レオの飛ぶ姿をラグスビーマッチで見てるな」エミリオが返した。

「エミリオとルイスって平民チームで一緒にプレイしてたことあるの?」

「無いよ。ルイスとは8歳も離れてるし、俺は途中でペルフガになっちまったからな」

「俺は13歳で平民チームに入って1年後くらいから試合に出始めたけど、その頃にちょうどエミリオが引退したんだよね。憧れの選手だったから1度は対戦したかったけど」

 ルイスが言った。

「こっちは対戦しなくて良かったよ。恥かかずに済んだぜ」エミリオが謙遜した。

「ルイスってペルフガ嫌いだからエミリオと親しいの意外なんだけど」レオが言った。

「チームメイトがペルフガになっていくのはキツイけど、エミリオみたいな大先輩は別だよ」

「そうか。いや〜エミリオのラグスビー見たかったな。今でもやるの?」

 レオがエミリオに聞いた。

「おう。政府チームが練習してない間に引退組で紅白戦やったりするぜ。当然オフの時間でやるから休み合う奴らとじゃないと出来ねーけどな」

「空中から覗きたいけど、平日は護衛が監視してるもんな〜」レオが悔しがった。

「引退した老いぼれのプレイ見てどうすんだよ」エミリオが鼻で笑った。

 3人がリアルトに到着すると、今度はレオとエミリオがテーブルを運び、ルイスは椅子をラグで運んだ。ドンテは9時からギルドを開けなければいけないので作業を途中で抜けた。レオ達は引き続き空と陸を駆使してテーブルと椅子を運び、3時間しない内に無事作業が完了した。

「やっぱり人が多いと早く終るわね! お疲れさん」ロゼーラがレオ達に礼を言った。

 レオは昼食を済ませ、ガレシアクロニクル本部で20部を追加購入した。売れ残りだけは絶対に避けたかったので、少なめに買って売り切ったら残りの時間でギルドワークをすることにした。

 アントラへ行くと、焼き芋ジャグラーは営業をしていた。フィリップとシオネ2人共いる。

「フィリップ! この前凄かったよ! めっちゃ興奮した!」

 レオがフィリップに声をかけた。

「ありがとう! 観客席にいたの見たよ」

「うん、目が合ったの気付いた。いや〜サーカスってこんなに面白いんだね。フリスビーのジャグリング! あれはズルい! どうやって思いついたの?」

「常にジャグリング出来るものを探してるからさ。最初は普通にフリスビーを上に投げてみたんだけど、垂直に投げる為に作られてないからコントロールが難しいんだよね。そんで斜め上に投げてみたら、もっと綺麗に飛ぶしある程度戻って来るしこれはいいと思って。走ってキャッチしても充分見応えあるけど、ラグ乗れば更に迫力あるしラグスビーっぽくっていいっしょ!」

「発想力がすごいな〜。俺もフリスビーあと2枚買って練習してみようかな」

「いいじゃんいいじゃん! レオもシルク・ドゥ・パレット入る?」

「俺が!? 俺何も出来ないって!」

「だからラグのアクロバット出来るじゃん。トルネード以外にも色々出来るんだっけ?」

「うん」

「今度見せてよ!」

「いいよ。どこでやる?」

「普通にローザンパークでいいんじゃない? 今はサタナリアで使えないから、終わったらやろうよ」

「オッケー——てか焼き芋ジャグラーはサタナリア参加するの?」

「しないよ。何でもタダで食えんのにわざわざ焼き芋食う人いないっしょ」フィリップはそう言って鼻で笑った。「パンならまだ肉とかと一緒に食べるからサタナリアでも需要あるけど、焼き芋って単体で食うからさ」

「そういうことか〜」レオは納得した。

「それに祝日くらい休みたいよ。シルク・ドゥ・パレットで集まって飲み食いする予定なんだ!」

「そうだよな——シオネは明日どうすんの?」

 レオはフィリップの隣で仕事をしてるシオネに話を振った。

「私は、特に決まってません……」シオネが恥ずかしそうに言った。

「じゃあ俺達に混ざりなよ!」フィリップが誘った。

「いえ、皆さんの邪魔をするわけには……」

「何言ってんだよ。皆1回ここで会ってるっしょ? それにミラもマディソンも15歳だから、仲良くなれるよ」

「……分かりました。じゃあお邪魔します」シオネが微笑んだ。

「ミラとマディソンって15歳なの!?」レオが驚いた。「オーラ半端ないだろ……」

「ラグスビースターが何言ってんだよ」フィリップが笑った。「シルク・ドゥ・パレットは皆ラグスビー大好きでいつも一緒に観てるんだけど、レオとアスカのことは皆崇拝してるよ」

「崇拝っていやいや……」

「誰でも自分の専門分野のスキルを過小評価しがちだからな〜。レオは自分の凄さがまだ実感出来ていないっぽいね!」

「実感してたつもりだけど、前回のマッチで自信を打ち砕かれたよ……」

「あれは残念だったね。アスカがこれから観れないのも寂しいし」

「うん。あ、アスカで思い出したけど、マットがフィリップのラグ作るって話したらしいじゃん? アスカもマットファクトリーで働いてて、近い内にミーティングのアポ取りにここ来るはずだよ」

「そうなの? 了解!」

「俺もミーティング参加させてもらう予定だから! じゃあ仕事に戻るわ」

 レオはそう言って焼き芋ジャグラーを離れた。

 手持ち看板を首からぶら下げ、ラグに乗りガレシアクロニクルを売った。しばらく仕事をしているとアスカが空から現れた。

「レオ何それ!」アスカはレオを見た途端に笑い出した。「目立ち過ぎでしょ」

「目立ったもん勝ちなんだよこの商売」レオはラグに乗りながら言った。

「そうかもね。フィリップにアポ取ってくる!」

 アスカはそう言って焼き芋ジャグラーの方まで飛んで行った。

 レオがアスカとフィリップを眺めていると、アスカは焼き芋を持ってすぐに戻って来た。

「レオさ、明日の10時空いてる? マットファクトリーでフィリップとミーティングすることになった」

「早速だね! いいよ。サタナリアはもうちょっと後なんだっけ?」

「うん、11時から。じゃよろしく!」

 アスカはそう告げて焼き芋を食べながら空へ飛び立った。

 レオはこの日サブスクライバーを1人獲得した。残りの時間はギルドワークをこなし、今日の仕事を終えた。屋根裏でギフトのキャンドルとソーセージを眺めながら、明日のサタナリアに期待を膨らませた。


 次の日レオはいつも通り6時過ぎに目が覚めた。祝日の今日はガレシアクロニクルの休刊日だ。サタナリアで沢山食べる為に朝食を抜き、ひたすら水を飲んで空腹を堪えた。

 フィリップとのミーティングに出席する為、ギフトをリュックに入れて10時前にマットファクトリーへ向かった。店内に入ると既にマットとアスカが待ち構えていた。

「何だレオか」アスカがテンション低めに言った。

「『何だ』って何だよ! 悪かったなフィリップじゃなくて」レオが口を尖らせた。「何か2人共そわそわし過ぎじゃない?」レオは2人の緊張を読み取った。

「レオとかアスカに作るのとはまた違うからさ、どうなるのか分かんなくて」

 マットは青ざめている。

「別に無料で作るんだから心配すること無いだろ」

 10時くらいにフィリップがマットファクトリーに現れた。

「いらっしゃい!」アスカが元気に挨拶した。

「うわ、こんな大勢に出迎えられると緊張するね!」

 フィリップは少し面食らったように言った。

「緊張って、皆会ったことあるでしょ?」アスカが言った。

「ごめん、人数分椅子が無いから、ここにラグ敷いて座るのでもいいかな?」

 マットがフィリップに聞いた。

「勿論!」

 フィリップの了承を得ると、マット、アスカ、レオはラグを取り出して床に敷いて座った。フィリップも自分のラグの上に座る。

「じゃアスカよろしく」マットがそう言うと、アスカが頷いて話を始めた。

「今回の提案はフィリップにラグを提供することなんだけど、フィリップにそのラグでサーカスに出てもらうことでラグの知名度を上げようと思ってるの。結果的に同じモデルが一般客に売れるようになれば、マットファクトリーも儲かるし、ウィンウィンだよね」

「そうだね。レオとアスカのモデルも一般客に売ってるの?」フィリップが聞いた。

「うん。あのラグはウルトラフィットって言って乗る人の体重毎に大きさが違うから、受注生産のみ」

「そうなんだ。いくらで売ってるの?」

「10万リタ」

「高っ! すごいね!」

「でしょー」アスカが微笑んだ。

「何枚くらい売れたの?」

「予約も含めると、レオモデルとアスカモデル合計で20枚くらいかな」

「へ〜、じゃあ1つ10枚くらいか」フィリップは考え込んだ。「例えばさ、俺のラグは有料で、一般客へのラグが1枚売れる度に俺にロイヤリティが入るっていうのはどうかな?」

「アスカ達もそれ考えたんだけど、何枚売れたかを証明するのが難しいんだよね。それにフィリップは焼き芋屋とサーカスで忙しいでしょ? ずっとラグの売上のこと頭の片隅に置いてたら疲れちゃうと思うな」

「まぁ確かにそうか——でももし俺が何らかの理由でラグを使わなくなったらどうすんの? 損失被るよね?」

「勿論それはリスクとしてあるけど、そうならない様にフィリップが使い続けたいと思えるようなものを作ろ!」

「オッケー。ちなみにマットファクトリー製のラグだっていうのを客はどうやって知るわけ?」

「打ち上げで平民チームの選手に聞いて知ったかな。後は口コミ」

「それでよくそんなに売れたね!」

「元々売るつもりは無かったんだ。アスカがオシャレなラグ欲しいってマットにお願いしたら作ってくれて、それで試合出て勝ったからバズったの」

「まぁあのマッチは伝説と化してるからな——でも今回は違うっしょ? 初めから利益を得ることを考えてるわけだから、偶然に頼れないよね。俺は全然聞かれたらマットファクトリー製だって答えるけど、自分から広めるようなことは出来ないよ?」

「勿論! だからね、ラグにマットファクトリーのロゴを入れようと思うんだ」

「ロゴ?」

 マットがテーブルの上に置いてあるラグを広げて見せた。

「これがマットファクトリーのロゴだよ。MとFを重ねただけだけど」

 ラグの右隅にロゴが描かれている。

「普通に『マットファクトリー』ってどデカく書けば一番分かりやすいけど、そんなの誰も乗りたがらないじゃん。だからロゴにしたんだ。これならラグ一面に敷き詰めても模様みたいに見えるし使いやすいから」

 マットが説明した。

「これ結構イカすな! 何で今まで無かったの?」レオが言った。

「マットがアホだから」アスカが即答すると、マットがアスカを睨んだ。

「もっと早く思い付かなかったアスカも悪いんだけどね。ロゴがあるラグ屋は幾つかあるけど、どれもオシャレじゃないし、そもそも売ってるラグが普通なんだよね。だからマットファクトリーはラグジュアリー感を出して差別化したくて。実際売ってるラグも最高級に高いし」

 アスカが補足した。

「このロゴなら全然入れても気になんないよ!」フィリップも賛同した。

「良かった! 他にマーティング関連で質問はある?」

「そうだな——焼き芋のデザインにしたいんだけど、それはいいの?」

「焼き芋ね! やっぱそうだよね。全然いいよ。焼き芋ジャグラーの宣伝になるし」

「そうそう。焼き芋3本書いて、ジャグリングされてるのが分かるのがいいな。別に人は書かなくていいんだけど、手だけでもいいし、焼き芋3本がいい感じに飛んでるのが分かればそれでいい」

「うんうん、いいね! 焼き芋屋は沢山あるから、分かる様にしなきゃね。でも『焼き芋ジャグラー』って文字は入れられないよ?」

「勿論! それは俺も乗りたくない」フィリップはそう言って笑った。

「あとは一般人でも乗りたいと思えるようにポップなデザインにするのがミソかな」

「フェニックスとドラゴンはアスカがデザインしたの?」

「そうだよー」

「センス抜群だね!」

「うへへ。でしょー」アスカが自慢気な顔を見せた。

「デザインはその方向性で行くとして、機能面はどうする?」マットがフィリップに尋ねた。「今座ってるのがサーカスで使ってるやつだよね?」

「うん。これで普段乗りからサーカスまで全部賄ってるよ。特に機能にこだわりは無いかな。グループアクトで他の人のラグに飛び移ったりするから、あんまり奇抜なラグだと皆困っちゃうし」

「そっか。2人乗りもするし、ウルトラフィットには出来ないね。素材はもっと良い物使えるから、それでもいい?」

「試しに乗ってもいい?」

「いいよ。僕のに乗ってみて」マットが立ち上がって自分のラグをフィリップに渡した。

 フィリップは外に出て、マットのラグに乗ってみた。

「いいね! 脚の負担が少ない!」フィリップはラグから降りてマットに返した。「これでよろしく!」

「うん。デザインが出来次第作るよ。アスカ、納期どれくらいにする?」

「う〜ん、余裕持って2週間かな。ちょうど今年中だね」アスカが答えた。

「オッケー。まぁ別に急がないよ。今年はもう出るイベント無いし」

 フィリップが言った。

「あと一般価格の保証は出来ないんだけど、10万リタで売れるように頑張るから! とにかく希少価値を高めて、ステータスを感じさせるのが狙いね」

 アスカが付け足した。

「俺もそれに見合うようなパフォーマンスが出来るように頑張るよ!」

 フィリップは意気込んだ。

「フィリップ充分すごいから。グループアクトの動きって誰が考えてるの?」

「大枠は俺がディレクションしてるよ。ミラとマディソンがラグ乗ってない時の振り付けは、当然個々に任せてるけど」

「すご!」

「じゃあ後何も無ければ俺は行くよ! 楽しみにしてる!」

「うん! ありがとう!」

 アスカ、マット、レオは空を飛ぶフィリップに手を振った。

「ふぅ、何とか無事話がまとまったよ」マットが一息ついた。

「お疲れ!」アスカがマットとハイタッチした。

「何でマットがそんな疲れてんだよ。話してたのほぼアスカじゃん」レオが笑った。「俺アスカがマットファクトリーで何してんのかよく分かんなかったけど、他のラグ屋のリサーチしたりロゴのデザインしてたってこと?」

「そういうこと! 利益率上げるにはブランド作りが大事だからね」

「スゲーな〜。俺がガレクロ50リタでチマチマ売っても1ヶ月で6万リタにしかならないのに、かたやラグ1枚10万リタで売れるんだから」

「誰でも得意不得意あるよ——さっ、ヒナっちと合流してサタナリア行こ!」

「行こう行こう! 俺朝飯抜いたからめっちゃ腹減った!」

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