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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第12話 アスカの報告

 観客がぞろぞろと退場し始めた。

「お腹減った! 混む前に焼き芋急いで買って来る!」

 マットはそう言ってラグに飛び乗りアントラを去った。

「俺らも行こうぜ」レオがヒナとアスカにそう言って、マットの後を追った。

 レオ達がアントラの外に降り立つと、周りの飲食店はごった返していた。焼き芋ジャグラーには長蛇の列が出来ており、フィリップとシオネが2人体制で客を捌いてる。

「フィリップに声かけたいけど忙しそうだから明日にしよう」

 レオが笑顔で客対応するフィリップを眺めて言った。

「フィリップさん、スターさながらだね」ヒナが言った。

「本当だよ。昨日まで普通に話してたのに、急に遠い存在に感じる。シルク・ドゥ・パレット皆良かったけど、フィリップは特に良かったな。尺他の人の2倍以上あったけど全然飽きなかったし、コメディ要素もあるし」

「分かる〜。オーディエンスの操り方が上手いよね。それにラグでステージ飛び出すとやっぱり迫力あるし!」アスカもフィリップを褒め称えた。

 レオ、ヒナ、アスカが焼き芋ジャグラーの賑わいを眺めていると、マットが嬉しそうに焼き芋を持って3人の元へやって来た。

「フィリップに今度ラグ提供するって話したよ。レオとアスカのラグ作ったの僕だって言ったら、是非作ってほしいって言われた!」

 マットが目を輝かせて3人に報告した。

「やるじゃんマット! セレブリティーマーケティングが身に付いてきたね」

 アスカが褒めた。

「この後どうする?」レオが皆に聞いた。

「アスカちょっと皆に話したいことがあるんだけど、どっか落ち着けるところ行かない?」アスカが言った。

「家で良かったら来ていいよ」とヒナ。

「うん。ヒナっちの家落ち着くからそうしよ!」

「オッケー、じゃあ行くか」レオが言った。

「待って、少しだけ焼き芋食べさせて」マットがそう言って焼き芋を早食いした。

「焼き芋くらいなら飛びながら食えないの?」

「そんな器用じゃないよ僕は」

 マットが口いっぱいに焼き芋を頬張りながらモゴモゴと言った。

 マットが半分近く焼き芋を食べ終わったところで、HAMLはヒナの家へ向かった。4人は大きなテーブルを囲うようにスツールに座る。

「あれエベディルク?」マットが棚に置いてある瓶を指してヒナに聞いた。

「そうだよ」

「しれっとエベディルクが置いてあるのがすごいね。これがニュー・ノーマルになったってことか」マットがしみじみと言った。

「マット君いつでも夜ご飯食べに来ていいよ。エベディルクで結構お金稼いでるから、皆に還元しなきゃ。アッちゃんとレオ君も来てるよ」

「そうなの? 僕料理あまり得意じゃないから、お邪魔しようかな」

「マットもしかしてまだヒナご飯食ったことない? めっちゃ旨いよ!」

 レオが太鼓判を押した。

「そうなんだ! 楽しみだなぁ。でも僕店閉めるの19時だからここ来るの19時半頃になっちゃうけど、大丈夫?」

「うん、合わせるよ」ヒナが言った。

「——アスカ、話って何?」レオが聞いた。

「うん、12月23日はアスカのキンセニエラなんだ」

 アスカが発表した。

 キンセニエラというのは女性の15歳を祝う特別な誕生日パーティーを指す。15歳になる女性のこともキンセニエラと呼ぶ。

「アスカ、もう15歳になるんだ!」マットは驚いた。

「もうって言うかやっとだよ。これで家出れる」

「どこ住むの?」

「ここ」

「ここ!?」

「『一緒に住まない?』ってアッちゃんに言ったんだ。元々お母さんと住んでたから広いし、家賃の負担減るから」ヒナが言った。

「HAMLがこれで大分近くなるな。俺は徒歩圏内だし、遠いのマットだけだね」とレオ。

「で、本題はそこじゃなくて、キンセニエラに皆を招待したいの」

 アスカが嬉しそうに話した。

「招待って大げさだな。ちょっと豪華な飯食うだけじゃん」

「セリエンテではそれだけなの?」

「うん。友達のに2つ行ったけど、家行って飯食うだけだよ」

「それは味気無いね。キンセニエラはドレス着ないの?」

「ドレスって何だよ! ちょっと髪整えるくらいだよ」レオが笑った。

「うそ! 靴をヒールに履き替えたりケーキタワーは?」

「アスカ、質問する労力を無駄にさせない為にもう1度言うわ。飯食うだけ! 以上!」

「そうなんだ……」アスカは寂しそうな目で言った。

「ガレシアでも人によって違うよ。僕も友達のに行ったことあるけど、ケーキタワーは無かった。お金持ちしか出来ないと思う」マットが言った。

「そっか——ヒナっちは?」

「私はやらなかった。それどころじゃなかったし、家族も友達もいなかったから——ロゼーラさんからギフトもらっただけ」ヒナが特に悲しむ様子も無く淡々と言った。

「そんな……」アスカの表情は罪悪感に溢れている。

「気にしないで。アッちゃんの特別な日なんだから、アッちゃんの好きな様にすればいいよ」

「うん、分かった。それでね、サタナリアの直後で申し訳ないんだけど、ギフトが必要なんだ」アスカが申し訳無さそうに皆に言った。

「またギフト!」レオが顔をしかめた。

「その代わりにこっちが食事を提供するっていう仕組みだから、よろしく」アスカがお茶目に舌を出した。「ギフトって言っても普通にお金ね。2千リタくらいでいいから」

「2千リタじゃ足りないんじゃないの?」マットが言った。「他のゲストが皆大金出して自分だけ少額だったら恥ずかしいな」

「……分かったよ。本当は5千リタが相場なんだけど、レオはお金無さそうだし……」

 アスカがレオの顔色を伺った。

「おい舐めんなよ。5千リタくらい俺だってあるぞ」レオがムキになった。

「でもレオ身だしなみにもうちょっとお金かけてほしいんだ——ローブはそれでいいとして、靴はそれだとマズイかな〜」アスカがレオのボロボロのブーツを見て言った。「あと髪型もね。もしかしてまたバーバー・ギンに行ったの?」

「うん。ツーブロックにして下さいって言ったら、ラグランジェの時とは似ても似つかない髪型にさせられた」

「もう切ってから大分経つんだし、ラグランジェで切ってもらってよ」

 アスカは溜め息をついた。

「分かった」

「靴はヴィルマリーストリートで買おう。アスカが選んであげるから」

「いや、ヴィルマリーストリートで買うのは分かったけど、そこまで面倒見てもらうわけにいかないよ。俺だってプライドがあんだぞ」

 レオは子供扱いされているように感じて腹が立った。

「何でよ、そんなムキになんなくたって良いのに」アスカが口を尖らせた。

「キンセニエラ本人に選んでもらった靴でパーティー行ったら格好付かないでしょ。分かってあげてよ」マットが言った。

「分かったよ……」アスカは渋々了承した。

「どこでやんの?」レオが聞いた。

「ヴィルマリーストリートにあるイベント会場『フュージョン・ヴィルマリー』。16時オープンで17時スタートね」

「23日って何曜日?」

「火曜日」

「平日じゃん! 俺は大丈夫だけど、皆仕事どうすんの?」

「早退したり休むに決まってるじゃん」

「そうか。セリエンテでは日曜日にやってたな。複数人まとめてやることもある。わざわざ誕生日の当日にやんなくてもいいのに」

「日曜日にやれば確かに来やすいかもしんないけど、イベント会場の値段がもの凄く上がるんだよ」

「レオ君、キンセニエラって女性にとって結婚式と同じくらい大事なイベントだから、皆仕事休むくらい平気だよ」ヒナが教えた。

「ふーん。皆って誰来るの?」レオがアスカに聞いた。

「アスカの家族でしょ。両親の親や兄弟もそうだし、上の姉は結婚してるから当然その家族も。『ダマ』はヒナっちの他にアスカの昔からの女友達6人——ラグランジェのジェニーも来るよ。『シャンベラン』は、アスカが誘ったのはレオ、マット、ルイスだけ。他のラグスビーメンバーも誘いたかったんだけど、お父さんがアスカの結婚相手の候補として部下の若い役人とか兵士を誘ったから、枠が無くなっちゃたの」

 アスカが溜め息をついた。

「何、『ダマ』と『シャンベラン』って?」レオが聞いた。

「キンセニエラに招待する女友達と男友達の呼び方だよ。それぞれ7人ずつ呼ぶのが王道だけど、別に多くても少なくても良いし、ダマだけとかシャンベランだけ招待する子もいるよ」

「ふ〜ん。ジェイソンは来たかっただろうな」レオはそう言って笑った。

「シャンベランの枠増やせばいいんじゃないの?」マットがアスカに聞いた。

「それお父さんに言ったんだけど、会場のキャパあるし、シャンベランの方が多いのははしたなく見えるから止めなさいって言われて……」

「アッちゃん、いい人いたら結婚するの?」ヒナが聞いた。

「クソジジイの手下となんか結婚するわけないじゃん」アスカが鼻で笑った。

「ふふふ。そうだよね」

「クソジジイで思い出した!」レオが手を叩いて大声を出した。「今週やべぇことが起きたんだよ! 軟禁されてるヒーラー2人の給料が半分になったらしくて、仕送りもらってた人が俺に連絡してきてさ」

「何それ!?」アスカは驚いた。

「まー連絡してきた2人が面白いくらい対照的で。1人は18歳のイケメンドクターで、同い年のフィアンセがヒナの母さんの後釜として1年前から働いてるんだよ。給料カットなんかどうでもいいから彼女の解放を手伝ってくれって。何も成す術が無いから一旦話は終わったけど」

「辛いねそれは」

「やばいのはもう1人だよ。ジャファリって奴なんだけど、妻のジョマナが10年以上軟禁されてるのに、内緒で他の女と結婚して仕送りもらい続けてんの。ジャファリはジョマナのことなんてどうでもいいから、仕送り減って当然怒るじゃん。それで『お前らのせいだからエベディルク作るの止めろ』って俺とヒナ脅してきて」

「やば! どうしたのそれで?」

「ジョマナの娘が一緒に住んでんだよ。シオネって言って、今日焼き芋ジャグラーで働いてた子な。シオネはジョマナが病死したと思ってずっと生きてたんだけど、俺とヒナが真実を話したらショック受けて。それで義母のデンデラに話したらデンデラもグルだったって言うオチ。取り敢えずシオネが真実を知ったことでジャファリの脅しは無くなったけど」

「あの子が?」

「アスカとタメだよ。キンセニエラは来月10月だけど」

「アスカと比べて大分幼く見えたな〜」マットが言った。

「まだあそこで働き始めて数日しか経ってないの。それまでずっと家で家事を強いられててまともに外出出来なかったから、仕方無いよ」ヒナが言った。

「道理で。アスカは年上の僕と働いたことで大人びたんじゃないかな!」

 マットが自信あり気に言った。

「2人が仕事の話してるの聞いてるとアスカが上司に見えるけどな」

 レオがそう言って笑うと、アスカは満足気な表情を浮かべた。

 一方マットは不機嫌そうだ。

「——アスカ仕事はこれからどうするの?」

「取り敢えずやりたいこと決まるまでマットファクトリーで働きたいんだけどいい?」

「いいけど、1人前の給料払う為にはもっと売らないといけないよ。それも低利益の普通のラグ売ってたら僕のキャパオーバーになるだけだから、高利益のラグをどんどん売っていかないと。レオモデルとアスカモデルの新規の予約はもうほぼ無いから、今ある予約を捌いたら次の策考えないとね」

「そうだね。アスカに加えてレオもラグスビーマッチ出なくなるから、セレブリティーマーケティングはもう機能しなくなっちゃう。次の狙い目はフィリップだね! どんなラグにするか打ち合わせしないと。アスカがミーティングセッティングしていい?」

「うん。僕も参加する」

「それ俺も行きたい!」レオが手を挙げた。

「いいよー。日程決まったら教える」とアスカ。

「よろしく!」

「そうだ! キンセニエラの話に戻るけど、マット、エスコートお願いしていい?」

「僕!? 光栄だな〜」マットが驚きを見せた。

「エスコートって何すんの?」当然レオが質問した。

「その名の通りキンセニエラの登場をエスコートする役だよ。シャンベランから1人選ばれる」マットが答えた。「レオじゃないの?」

「マットとレオで悩んだけど、マットには仕事でお世話になってるし。それにマットの方が服装ちゃんとしててキンセニエラのことも分かってるだろうから」

 アスカが答えた。

「確かにキンセニエラの経験はあるけど、エスコートはしたこと無いよ——どうしよう、緊張しておしっこ漏らしたら」マットが不安そうな顔をした。

「漏らしたら殺す!」アスカがマットに釘を刺すと皆大笑いした。

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