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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
33/65

第11話 シルク・ドゥ・パレット

 翌日14日の日曜日、ラグスビーの練習を終えたレオは、午後のアントラのイベントで頭がいっぱいだった。

「13時半スタートだから、早めに行って焼き芋でも食おうぜ」レオがアスカに言った。

「いいよー。まだ時間あるし、ヒナっちの家で時間潰す?」

「そうしようそうしよう!」

 レオは羨ましがるジェイソンを横目に、アスカとフィールドを去った。

 レオとアスカはヒナの家に到着し扉をノックした。

「レオ君、アッちゃん! 入って入って〜」ヒナが2人を迎え入れた。

「もう昼飯食った?」レオがヒナに尋ねた。

「ううん。せっかくだから焼き芋ジャグラーの焼き芋食べながら観ようと思って」

「やっぱ皆考えてること同じだな」レオは笑った。

「座って座って」ヒナがスツールを指してレオとアスカに言った。

「え、スツール増えてない?」

「うん。2脚じゃ足りないから、もう2脚買ったんだ。HAMLで座れるように」

「流石金持ち!」レオが煽てた。

「止めてよ〜」ヒナが恥ずかしがった。

「どういうこと?」アスカが聞いた。

「ヒナ、エベディルクでボロ儲けしてんだよ。役人より稼いでる」レオが情報共有した。

「うそ? やばっ!」

「アスカも金持ちだし、俺の友達金持ちだらけだな」レオがそう言って笑った。

「ハーブティー飲む?」ヒナが言った。

「うん! ルネヴェイラの?」アスカが聞いた。

「うん」ヒナが3人分のハーブティーを用意した。

「そう言えばさ、シャーロットさんにエベディルク売ったの?」

「あ、そうそう。小瓶を千リタで売ったの。その場でちょっと飲んだんだけど、顔しかめてたよ」ヒナがクスクス笑った。

「そうだ、それ忘れてた! シャーロット姉さんよく飲むな」レオがハッとした。

「『でもこれで10分くらい老化止まったんじゃない?』って言って笑ってた。ヒーラーだったらやっぱり好奇心で飲みたくなるのは分かるな」

「俺はあの臭いだけで充分」レオがエベディルクの臭いを思い出してげんなりした。

「レオ意外とチキンだよね」アスカが笑った。

 3人はしばらくハーブティーで和んだ後、アントラへ飛んで行った。焼き芋ジャグラーの屋台にはシオネのみいた。

「シオネちゃん働いてるね!」ヒナがシオネに声をかけた。

「ヒナさんこんにちは!」シオネが笑顔で挨拶した。

「フィリップは?」レオが聞いた。

「もうバックステージ行きました」

「そうか。今までイベント中は屋台営業出来なかったってこと?」

「はい。出番終わったらすぐに屋台戻って営業再開してたみたいです。せっかく大勢のお客さんにパフォーマンスを観てもらった後だから、ゆっくり休んでる暇は無いらしくて」

「多忙な奴だな……シオネいて助かってるだろ」

「だと言いですけど」シオネは自信無さげに言った。

「よし、ヒナとアスカも買うよね? ジャグリングセットお願い!」

 レオが勢いよく注文した。

「はい」シオネが笑って返事をした。

「やっぱり満足感ある?」ヒナがニヤケ顔でレオに聞いた。

「確かにあるね」

 3人は焼き芋を受け取った。

「知り合いなの?」アスカがレオに聞いた。

「うん。まぁ後で説明するわ」

「ふーん——マットここで待とうよ。中入っちゃったら探せないよ多分」

 レオとヒナが了承し、3人はマットを待った。

 ——待つこと15分。やっとマットが空から現れた。

「ごめんごめん、遅くなった!」マットがバタバタと地上に降りた。

「遅いよマット〜」アスカが愚痴を言った。

「これ作ってたら没頭しちゃって」マットがリュックから板を出した。「レオ、頼まれてた手持ち看板」

 木の板に穴が2つ空けられており、紐が通されている。板には白い文字で「ガレクロ毎日配達 月額1200リタ」と書かれている。

「もう作ったの!? めっちゃいい!」レオは感激した。

「でしょ? フフン」マットが満足気な表情を見せた。

「何これ?」アスカが尋ねた。

「これ首から下げたら目立つかなと思って」レオはそう言って看板を首から下げてみた。

「どう?」レオは3人に聞いた。

「いいね! 我ながらいい出来だよ」マットが自画自賛した。

「マットかけてみて。遠くからだとどれくらい文字見えるか確認してみる」

 レオはそう言ってマットに手持ち看板を渡し、遠くへ離れてみた。

「うん! 充分読める!」レオはそう言ってマットの所へ戻った。

「これで何、営業すんの?」アスカが再度尋ねた。

「うん。サブスクライバー増やせばもっと効率良く稼げるかなと思って。アスカの家はガレクロどうしてる?」

「お父さんが城で買ってるよ」

「え、城にニュースボーイいんの?」

「いや多分いないと思う。どっかの窓口で売ってんじゃない? ガレクロ置いてる店こっちにもあるじゃん」

「いや、俺見たことないぞ」

「じゃあアスカの家のエリアだけなのかな」

「ニュースボーイが店にバルクで配達して手数料もらうってことか。まぁそれも1つの稼ぎ方だな…」レオは考え込んだ。

「ともかく、ショー始まっちゃうし早く行こうよ」アスカが急かした。

「そうだな。空から行くっしょ?」レオはそう言ってラグに乗った。

 他の3人も乗り、アントラの頭上へ飛んだ。

「半分くらい入ってるね」マットが客席を見下ろして言った。

 どこの席に座ろうか4人が空中で悩んでいると、多くの観客がレオとアスカを指差した。

「アスカじゃん、あれ」観客が隣と話す声が聞こえる。

「2人やっぱそのラグだと目立つよ」マットが笑ってレオとアスカに言った。2人のカスタムモデルのデザインは表裏に施されているので、下からでもデザインが見える。

「だから皆こっち見てんの? 取り敢えず適当に降りよ」

 アスカがそう言って降り立った。他の3人も続く。HAMLは4人座れる場所を見つけ、マット、ヒナ、アスカ、レオの順番で座った。

「ヴィルマリーストリートにこのラグで行った時は何も起きなかったけど」

 アスカが言った。

「アスカこの辺あまり来ないでしょ? だから珍しいんだよきっと」とマット。

「よし、焼き芋食うぞ!」

 レオがリュックから焼き芋を取り出して食べ始めた。ヒナとアスカも食べ始める。

「あ、僕焼き芋買うの忘れちゃったよ〜」マットが悔しがった。「お腹減ったな。終わったら買いに行こう」

「昨日のガレクロにイベントの情報載ってたよね」

 レオはそう言ってリュックからガレシアクロニクルを取り出し読み直した。

———

  ウォーカー・ホプキンス主催 アントライベント


 日時:12月14日(日)13時半

 場所:アントラ

 アクト:

 1.シルク・ドゥ・パレット(サーカスグループ)

  オリバー・グレイ(はしごアクト)

  マディソン・ミント(チェアバランス)

  サイモン・レッド(ファイアーアクト)

  ミラ・ヴァイオレット(フラフープ)

  フィリップ・ブラウン(ジャグリング)

 2.オードリー・マクファーランド(シンガー)

 3.ガレシア・エンジェルス(ダンスグループ)

 ザ・ティビアス(バンド)

———

「アスカ、シルク・ドゥ・パレット1回だけ見たことある。面白いよ!」

 アスカが横で言った。

「フィリップは最後に出るのかな」とレオ。

 HAMLがしばらく談笑していると、ステージにミュージシャンの集団が現れ、演奏を始めた。

「あれラグスビーのハーフタイムで演奏してた人達じゃん」レオが言った。

「うん。ザ・ティビアスね」アスカが反応した。

 演奏は2分程で終わり、ザ・ティビアスが後方へ下がった。するとステージに30代くらいの男性が大きなメガホンを持って登場した。観客が拍手で迎える。

「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます! 主催を務めます、議員候補のウォーカー・ホプキンスです! 本日はホットなパフォーマーをご用意しております。サーカスグループのシルク・ドゥ・パレット! シンガーのオードリー・マクファーランド! そしてトリにはダンスグループのガレシア・エンジェルス! バンドはザ・ティビアスでお送り致します! 私の話には誰も興味無いでしょうから、早速ショータイム!」 ウォーカー・ホプキンスがスピーチを終えステージを去ると、観客がどっと笑った。

「いいねウォーカー・ホプキンス、話短くて」レオが言った。

「マジそれ。おっさんの長話なんて誰が聞きたいのよ。お父さんは見習ってほしい」

 アスカが悪態をついた。

 ウォーカー・ホプキンスがステージを去った瞬間、3メートルほどの木のはしごを持った黒髪の青年が出てきた。はしごを支えるものは何も無い。

「これがオリバー・グレイか!」レオはガレシアクロニクルを確認して言った。

 アップテンポな音楽が鳴り始めると、オリバーははしごに登り、はしごを自分の脚の分身のようにコントロールしてバランスを取った。

面白おもしれえ! これでサーカスになるんだな!」レオが言った。

「身近なものが何でも道具になりそうだよね!」とアスカ。

 オリバーははしごの片方の脚だけでくるくると回ったり、はしごから宙返りをしたり、手を使わずに脚だけでバランスを取ったり、色んなアクロバットを披露した。

 オリバーがパフォーマンスを終えて観客に手を振ると、拍手喝采で迎えられた。

 音楽が一転して、今後はスローテンポになった。背もたれの付いた正方形の椅子を持った女の子が現れた。ミント色の髪は後ろでまとめ、ピッタリとした衣装を着ており、裸足だ。

「次はマディソン・ミント」レオが呟いた。「何するんだろう」

 マディソンは椅子の上で逆立ちをしてバランスを取った。

「ひゃ〜、すげーバランス感覚」レオが顔を引き攣らせた。

 先程パフォーマンスを終えたオリバーが同じ形の椅子を2脚持ってステージに現れた。マディソンはオリバーから受け取った椅子を逆さにし、ブロックのように積み重ね、その上に登った。オリバーは次に椅子1脚とラグを持ってきた。ラグに乗って、椅子をマディソンに渡す。この時点でマディソンは4脚積み重なった上に乗っている。地面からの高さはオリバーのはしごと同じくらいの高さだ。

 マディソンはその椅子の上で逆立ちをし、そのまま体を反らせたり捻らせた。観客から拍手が巻き起こる。

 オリバーは更に2脚の椅子を持ってきた。

「まだあんの!?」レオが思わず声を上げた。

 オリバーがラグに乗り、地上3メートルにいるマディソンに椅子を渡した。マディソンは5脚目の椅子を普通に置き、6脚目の椅子は45度に傾けた状態で置いた。その椅子の上で逆立ちをする。

「おっかね〜」レオがマディソンを見守る。

 マディソンは1度逆立ちを止め、椅子を別の向きで傾けて置き直した。先程より安定感が無さそうに見える。

「怖い怖い……」ヒナが口を手で覆った。

 マディソンはその椅子の上に片手で逆立ちをし、色んなポーズを取った。観客から大歓声が巻き起こる。マディソンはラグで上がってきたオリバーに1脚ずつ椅子を渡し、椅子のタワーを解体していった。最後に観客に手を振ってステージを去った。

「いや本当すごかった!」レオが思い切り拍手をした。横を見るとマット、ヒナ、アスカも盛大な拍手を送っている。

 音楽はマイナー調の血の気が沸くような音楽へと変わった。マディソンが50センチほどの鉄棒を持って再度登場した。鉄棒の先端には大きな火が灯されている。そのすぐ後に出てきたのは全く同じ鉄棒を持った上裸の若者だ。アスカの赤髪とは違うオレンジがかった赤髪で、上半身にはペインティングが施されている。マディソン同様裸足だ。

「あれがサイモン・レッド! ムキムキやん! 寒そ〜」

 レオはサイモンの出で立ちに驚いた。

 サイモンは鉄棒をマディソンの鉄棒の火に近づけ、先端を火で灯した。サイモンは鉄棒をグルグルと回していく。

「やっぱ火って良いよな〜、華がある」マットの声だ。

 サイモンは鉄棒の火が付いた方を口に近づけ、火を食べた。

「熱い熱い!」アスカが叫んだ。

 サイモンは鉄棒の火に手を付けて火を手にし、鉄棒のもう片方に付けた。これで両先端に火が灯されている状態となった。

「あいつの体どうなってんだ? 何で口とか手の上で火が燃えてて平気なんだよ?」

 レオはサイモンに釘付けになった。

「多分鉄棒の先端から油ちょっともらってるんじゃない?」アスカが言った。

「そういうこと?」レオは少し納得した。

 サイモンは鉄棒を高く投げてキャッチしたり、股や背中を通してグルグル回していく。

次に頭をステージに向け仰向けになった状態で片足を上げ、鉄棒を膝の間に挟めてポーズをした。観客が拍手を送る。次の瞬間サイモンは鉄棒を取り、両先端を足の裏の上に乗せて5秒静止した。

「これはおかしいって! 足焼ける!」レオが口をあんぐり開けた。

 サイモンはマディソンの鉄棒をもらい、もう片方にも火を付けると、2つの鉄棒を思い切り体の横で振り回した。その後も色んな動きを見せて、最後は片手で鉄棒を十字の様に持ってポーズを決めた。

「これ夜だったらもっと綺麗だろうね」ヒナが言った。

「確かに!」アスカが同感した。

 音楽はパーカッションが止まり、ハープの様な弦楽器と笛で幻想的な音を奏で始めた。フラフープを持った女の子が登場した——ミラ・ヴァイオレットだ。紫色の髪をしっかりまとめ、マディソン同様タイトな衣装を着ており、靴はバレエシューズのような薄い靴を履いている。

 まずはゆっくりとした動きでフラフープを持ってダンスをする。笑顔は全く無く、むしろ観客を睨み付けるかのような眼力の強さがあるが、不思議と色気を感じる。

 足を頭の上まで垂直に持ち上げ、足でフラフープを回す。そのまま体を軸足まで倒しフラフープを回し続ける。

「体柔らか! アスカみたいだな」レオは仰天した。

「いやアスカもあそこまで出来ないよ!」アスカがミラをじっと見ながら言った。

 ミラがしばらく色んな動きをした後、上着を着たサイモンがフラフープを沢山持ってステージに戻り、ミラに1つ渡した。ミラは立っている脚と垂直に持ち上げた足でフラフープをそれぞれ回す。その後2つまとめて腰で回し、1つを手に取り高く投げてキャッチした。その瞬間ミラはウィンクをし、急に笑顔でパフォーマンスを続けた。音楽はパーカッションが参加し、一気に盛り上げる。

「うわぁ……今のは女のアスカでも惚れる……」アスカが溜め息をついた。

「ずっと真顔だったから、ドキッとしたよね」ヒナが言った。

 サイモンが2つのフラフープをミラの横に置いた。ミラはそれを1つ足ですくい上げ、手、腰、脚で3つフラフープを回す。脚のフラフープを腰まで上げた後にもう1つすくい上げ、4つのフラフープを回す。

「フラフープって本当に色んなことが出来るんだなぁ」マットが感心した。

 サイモンが一旦ステージを去り、カートの車輪を持って現れた。ミラはフラフープを1つずつ投げ、サイモンがキャッチをする。4つ全てキャッチしたところでサイモンはカートの車輪をミラに渡した。ミラは車輪を持ったり地面でスピンしながらダンスをする。

「車輪? 何で車輪なんだろ」レオが疑問を声にした。

「あれレオ、この人の名前何だっけ?」マットがヒナとアスカ越しにレオに尋ねた。

「ミラ・ヴァイオレット」レオがガレシアクロニクルを見て答えた。

「『ヴァイオレットカート』の人なんじゃない? カート屋あるじゃん、リアルトの近くに」

「あーそういうこと!? じゃあ店の宣伝も兼ねてるってことかな」

 ミラは車輪を地面でスピンして手を離し、その間にサイモンからフラフープを4つ受け取った。フラフープを腰と右手で回しながら、左手で車輪をスピンし続ける。その後フラフープを腰だけで4つ回し、どんどん位置を下げて両脚で回しながら地面に置いた。最後にスピンしていた車輪を止めてポーズを取って笑顔を見せた。観客から声援が巻き起こり、中にはスタンディングオベーションをする者もいる。

「いや〜面白かった!」レオが盛大な拍手を送った。「いよいよフィリップだな!」

 音楽はリズミカルなアップビートに変化した。フィリップが黄色のチュニックに紫色のローブといういつもの焼き芋ファッションで走って登場した。3本の焼き芋で早速ジャグリングを始める。ステージを所狭しと駆け回りながら軽快に焼き芋を投げる。

「来たー、焼き芋ジャグラー!」レオが両拳を高く上げた。

 ミラが焼き芋を2本持ってステージに戻った。焼き芋を差し出すように構える。フィリップはミラの元へ行き、焼き芋を1本取り4本でジャグリングをした。その後また1本取り、5本でジャグリングをする。

「スーパージャグリングセットを買えばこれが出来るんだな」レオが笑った。

 ミラがジャグリングクラブ5本とマディソンの椅子を持ってステージに戻った。フィリップは焼き芋5本を椅子に置き、ローブを脱いで椅子の背もたれにかける。ミラからクラブを3本受け取りジャグリングを始めた。股や背中を通して色んなパターンでクラブを投げる。

「これが本物のジャグリングか!」レオは興奮した。

 フィリップは最後のクラブを1本高く投げて3回転スピンをしてキャッチしポーズを決めた後、音楽に合わせ手拍子をして観客を煽った。観客が手拍子で応じる。HAMLも楽しそうに手拍子をする。

 フィリップはその後ミラから4本目、5本目を受け取り、どんどん高度なジャグリングを繰り広げた。クラブでのジャグリングが終わり観客が拍手をすると、音楽はパーカッションのみのスローテンポなリズムに変わった。

 フィリップはクラブをミラが持ってきたもう1つの椅子に置き、ミラからリンゴを3個受け取ると、ジャグリングをしながら、その内の1個のリンゴを食べ始めた。懸命に咀嚼そしゃくしながらリンゴをどんどんかじっていく。

「ヤバい! ウケるんだけど! これ初めて見た!」アスカが大笑いした。

 リンゴが1個だけ段々と小さくなっていくが、フィリップはまだ食べ続ける。焼き芋やクラブでのジャグリングよりも時間が経っている。

「これ食べ終わるまでやるのかな」レオが苦笑した。

「シュールなんだけど」アスカも笑った。

 フィリップがわざとらしく辛そうな表情を見せながらリンゴを食べる。観客からは「頑張れー!」という声や笑い声が聞こえる。

 リンゴが小さくなるに連れ、段々とジャグリングの難易度が増す。5分程経ち、ようやくフィリップはリンゴを芯以外食べ終わり、ジャグリングを終えた。観客から大きな拍手が送られてた。

「リンゴだけで他の人のパフォーマンスくらい時間かかったんじゃね?」

 レオが笑いながら言った。

「でも面白かったよね!」アスカが拍手をしながら言った。

 フィリップは食べていないリンゴ2個を椅子に置き、食べ終わったリンゴの芯をミラに渡した。ミラは汚い物を触るかのように芯をつまみ、観客に向かってしかめ面を見せた。観客がどっと笑った。

「ミラちゃん表情豊かだな〜」ヒナが笑いながらコメントした。

ミラはリンゴの芯を持ってステージを去り、フィリップは椅子に置いてあった小さなボールを3つ取ってジャグリングをした。上に投げる普通のジャグリングをした後は、地面にバウンドさせてジャグリングした。手だけでなく靴裏も使ってバウンドさせていく。

「そうか、ボールだとこういうことが出来るのか〜」レオが感心した。

 フィリップはミラからボールを更に2個受け取り、高度なジャグリングをした。

 今度はミラがラグを持ってステージに戻ってきた。フィリップはボールを椅子に置き、ラグをミラから受け取りバサッと広げた。ピーンと張ったラグの上に飛び乗り、ミラからクラブを3本受け取ると、空中でジャグリングを始めた。

「来たぞこれ!」レオはラグの登場に興奮した。

 フィリップはステージ上空を旋回したり八の字で飛びながらジャグリングをした。その後ステージを飛び出し、観客席の頭上を飛びながらジャグリングをした。観客がフィリップを見上げながら拍手を送る。

「フィリップー!」レオは近くを飛んで来たフィリップに手を振った。フィリップは流石に一人一人の客とアイコンタクトを取る余裕は無さそうだ。

 フィリップはステージに戻り高度を下げ、ミラにクラブを渡した。ミラはクラブを椅子に置き、先程持ってきていたフリスビーを3枚フィリップに渡した。

 レギュラースタンスのフィリップは、左手のバックハンドでフリスビーを斜め上に軽く投げ、それをラグに乗って追いかけて次々にキャッチした。「ラグに乗ってフリスビーのジャグリング!? やられた……」レオは度肝を抜かれた。

 ステージ内で投げられる距離は限られているので、フィリップは再びステージを飛び抜け、もっと強くフリスビーを投げていった。それをラグで追いかけキャッチしていく。

「これマジでカッコいいね!」アスカも大興奮だ。

 フリスビーを3つキャッチしたフィリップは、ゆっくり観客席上を旋回して観客の声援に応えた。

 音楽がドラマチックなスローテンポの曲に変わり、オリバー、マディソン、サイモンがラグに乗ってステージにやってきた。

「お! これからグループパフォーマンスかな? やっぱ皆ラグ乗れるんだ」

 レオはこれから何が起きるか大いに期待した。

 フィリップはミラにフリスビーを渡すと、4人で反時計周りにステージ上を小さく旋回した。4人共レギュラースタンスなので、観客側に顔が見えるようになっている。ミラはフリスビーを椅子に置くと、旋回中のオリバーのラグに飛び乗ってオリバーの肩に軽くしがみついた。今度は後ろを旋回するマディソンのラグに飛び乗り、サイモン、フィリップ、またオリバーと、どんどん飛び乗っていく。

「これヤバ過ぎるぞ!」レオが叫んだ。

 その後ラグに乗っている4人は階段を作るようにラグの高度を変えてステージに並んだ。ミラは一番下のラグからどんどんと上のラグへ飛び乗る。一番上まで来ると、今度は下の段へ下がっていく。

「すごい、色んなこと出来るんだね!」アスカは目を見張った。

 今度はミラがラグに乗り、オリバー、マディソン、サイモンはラグを降りた。グーフィースタンスのミラとレギュラースタンスのフィリップがステージ中央で間隔を少し空けて向かい合わせになる。マディソンが2人のラグに片足ずつ乗り、しゃがんで片手ずつ2人のラグに付けて逆立ちをした。ミラとフィリップは同じ速さでゆっくりと高度を上げていく。

「マディソン凄すぎ!」アスカが叫んだ。

 上空3メートルまで上がったところでミラとフィリップは静止した。マディソンは逆立ちを止めてステージ側を向くと、後ろに宙返りをし、オリバーとサイモンがキャッチをした。観客から拍手が巻き起こる。

 ミラとフィリップは高度を下げ、マディソンが先程と同じように2人のラグに乗る。ミラが右方向、フィリップが左方向にラグを曲げて進み、2人の間隔が広がる。マディソンは脚をどんどん開脚していく。マディソンが180度まで開脚したところでミラとフィリップが静止した。2人は間隔を維持しながらステージを飛び出し、観客席の頭上を旋回して行く。マディソンは開脚をしながら観客に手を振る。

「これちょっとでも間隔開いたらマディソン落ちちゃうよ!」レオが必死に3人を見守る。「いや〜でも面白いなー!」

 今度は全員がラグに乗り、最初と同様に反時計周りにステージ上を小さく旋回した。フィリップの掛け声と共に、全員一気に前を飛ぶラグに飛び乗った。それをどんどん繰り返していく。

「これ皆同じラグってわけじゃないよね? 別のラグにすぐ乗って操作するってかなり難しそう」マットがラグ職人らしいコメントをした。

「確かに!」とアスカ。

 一周して皆が自分のラグに戻ると、一列になって観客席上を旋回し、観客に手を振った。

「もう終わりかな〜」レオがガッカリしながらも5人に手を振った。今度はフィリップもレオに気付いたようで、アイコンタクトをした。

 5人はステージに戻ると、横1列に並んだ。先頭のオリバーがラグから飛び降り、オリバーのラグに後ろのマディソンが飛び移った。同じように、後ろの3人も前のラグに飛び移る。それを繰り返し、全員がオリバーのラグから飛び降りてステージの前に並ぶ。ラグは5秒以上体が触れていないと魔法が解けて落ちる仕組みになっている為、最後尾のフィリップのラグから順番にバサバサと地面に落ちた。

 5人は手を繋いで掲げ、深く礼をした。拍手喝采が起こり、3割くらいの観客はスタンディングオベーションをした。HAMLも皆立ち上がり盛大な拍手を送る。

「前観た時よりめっちゃ進化してた!」

 アスカがスタンディングオベーションをしながら言った。

「シルク・ドゥ・パレット最高!」

 レオはもう充分に満足し、ショーが終わったかと錯覚した。しかしシルク・ドゥ・パレットがステージを去ると、オードリー・マクファーランドがステージに出て来て歌い始めた。歌は上手いのだが、レオはシルク・ドゥ・パレットに比べて彼女に物足りなさを感じてしまった。

 オードリーがステージを去ると、6人の女性がステージに現れた。会場が一気に盛り上がる。レオは女性達に見覚えがあった。

「あれアスカの姉ちゃんじゃね?——名前何だっけ?」レオがアスカに尋ねた。

「ジャスミン」アスカが真顔で答えた。

「え、アスカのお姉さんいるの? どれ?」マットが聞いた。

「真ん中の左」アスカがマットをチラッと見て答えた。

「アスカのお姉さんが遊女だなんて知らなかったよ。ヒナは知ってた?」

 マットは隣のヒナに聞いた。

「知ってたけど、あの人だって知ったのは今初めて」ヒナが答えた。

「アスカのお姉さんダンス上手いな〜。ラグスビーマッチの時は遠いし国王の方向いてるから、あまり分からなかった」

「てかこれラグスビーマッチのハーフタイムと同じダンスだよね? ラグスビーの時もっと人多くない?」レオが言った。

「今日の主催は役人でしょ? 多分そんな予算無いんだよ」アスカが答えた。

「そういうことか。でもウォーカー1人でこれだけの人数にギャラ払ったら結構な額だよな。バンド6人、ダンサー6人、オードリーとシルク・ドゥ・パレットで6人だから、18人。1時間500リタで雇ったとして、約1万リタ!」

「1万リタでイベントで開催出来るわけないじゃん! それじゃ誰でも出来るよ。練習もしなきゃいけないんだから、もっと払わなきゃダメでしょ」

「そっか、そうだよな。そこまでしてなるくらい議員っていい仕事なの?」

「さあね。でも役人の中でもトップクラスの役職だから、待遇はいいんじゃない?」

「ふーん。アスカの父さんは?」

「違うよ。普通の役人」

「まぁ普通って言っても役人は役人だからな。俺からしたらスゲーよ」

 ガレシア・エンジェルスのパフォーマンスが終わると、今日一番の拍手が観客から送られた。

「何だよ、シルク・ドゥ・パレットの方が面白かったのに」

 レオはつまらなさそうに言った。

「所詮エロオヤジ達は女が腰振ってるのを観たいんでしょ。アスカからしたらマディソンとミラの方がよっぽど芸があるしセクシーだけどね」

「それは分かる」レオが激しく首を上下に振って同感した。

 ガレシア・エンジェルスがステージを去り、ウォーカー・ホプキンスが登場した。

「どうですか皆さん! 最高だったでしょ! 改めて本日はありがとうございました! ウォーカー・ホプキンスでした! 皆様のご支援よろしくお願い致します!」

 ウォーカーはメガホンでそう言って、観客に手を振りながらステージを去った。

「何か役人のイメージが変わったなー。ウォーカーはクールだよね」マットが言った。

「分かるかも」ヒナが同意した。

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