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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第9話 エドウィン・クーパー

 レオがエドウィンの病院に着く頃には日が暮れていた。冬の昼は短い。ヒナは既に待合室で待っていた。

「お疲れ〜」ヒナがおっとりと挨拶した。

「おう、お疲れ」

「受付の人に話せばいいかな」

 ヒナはそう言って受付へ向かった。病院の勝手が分からないレオは、詳しいであろうヒナに任せることにした。

「すみません、ヒナ・ローレントと申します。エドウィン・クーパーさんに私用で会いに来たのですが、いらっしゃいますか?」

 ヒナが受付の女性に言った。

「はい。事情は伺っております。本日既に退勤しておりまして、このビルの302号室におります。1度外へ出て頂いて、外階段をお上がり下さい」

 女性が返答した。

「ありがとうございます」ヒナは礼を言って、レオと共に病院を出た。「病院と同じビルに住んでるってことなんだね」

 302号室に着くと、ヒナが扉をノックした。

「はい」青年が出てきた。黒髪のオールバックをびじっと決めており、凛々しい目をしている。

「私ヒナ・ローレントと申しますが、エドウィンさんですか?」

「あ、はい!」青年の表情が一気に明るくなった。「こちらはレオさんですか?」

「うん」レオが頷いた。

「早速お越し頂きありがとうございます! どうぞ中へ!」

 レオとヒナは中へ入った。アパートは広く、綺麗に整っていた。無数のランプやキャンドルが室内を灯している。

「こちらへどうぞ」エドウィンは4人席のダイニングテーブルへと案内した。

 レオとヒナは隣同士に座った。

「ハーブティーはいかがですか?」

「では頂きます」ヒナが答えた。レオは黙って頷いた。

 エドウィンは笑顔で頷き、お湯を沸かし始めた。

「広いねこの家。さすが医者だな」レオは室内を眺めて言った。

「いえ、医者と言えど1人じゃここの家賃は払えません。タリアと同棲していたんです。彼女が城に軟禁された時点で引っ越せば良かったのかもしれませんが、どうにかなる、どうにかなると自分に言い聞かせ続けた結果1年以上経ってしまいました。彼女の仕送りを家賃に当てているので、無駄ですよね」

 エドウィンがティーカップを用意しながら話した。

「どれくらい同棲してたんですか?」ヒナが聞いた。

「1年くらいです。でも思い出が詰まった場所です」

「タリアの給料も20万から10万に減ったの?」レオが聞いた。

「はい。何故ご存知で?」エドウィンは少し驚いた。

「ジョマナっていうヒーラーもそうなったから。エドウィンと同じように親族が俺達に連絡してきたんだよ」

「そうでしたか。ジョマナ氏はタリアの上司です」

「そうなんだ。てかエベディルクのヒーラーって何人いるの?」

「私の知る限り2人ですね」

「そうか。で、タリアの給料が減ったらここ住めなくなるんじゃないの?」

「勿論それは心配事の1つですが、そんなことよりも私はタリアを救出したいんです」エドウィンはそう言ってレオとヒナにハーブティーを渡し、椅子に座った。

「まずエドウィンさん、エベディルクの正体はご存知ですか?」ヒナが尋ねた。

「正体と言いますと?」

「あれはハーブティーではないですよ」

「え?」

 そこからヒナはエベディルクの真相を説明した。

「そういう経緯でしたか……」話を聞き終わったエドウィンは深刻な表情を見せた。

「お母さんが亡くなられた日は覚えてますか?」エドウィンがヒナに尋ねた。

「去年の9月7日です」

「タリアが仕事を始めたのが9月22日なんです——約2週間後ですね」

「——つまり、タリアさんが私の母の後釜ということですか?」

 ヒナが顔をしかめた。

「そういうことになりますね……」

「母がそのまま仕事をしていたら、タリアさんがこんな目に遭うことは無かったんですよね」ヒナが落胆した。

「ヒナの母さんのせいじゃないだろ」レオがヒナを慰めた。

「分かってるけど、どうしてもそう考えちゃうじゃん……」

「ええ。決してお母さんのせいではありません。むしろお母さんのおかげで政府に風穴を開けることが出来たわけですから、感謝の気持ちでいっぱいです」とエドウィン。

「タリアさんっておいくつですか?」

「私と同じ18歳です」

「そんな若くして軟禁されるなんて……」ヒナが俯いた。

「手紙で『力を貸してくれって』書いてたけど、具体的にどういうこと?」

 レオが本題を切り出した。

「署名活動に協力してほしいと思っていたのですが、先程の話を聞いて別の案を思い付きました。ヒーラーを解放するまでエベディルクと薬草の販売を停止するのはどうでしょう?」

 エドウィンが案を出した。

「それは俺も考えたけど、マズイと思うんだよな。無闇にエベディルクを脅しの道具に使うと、かえって逆効果な気がする。『平民は、何か不満があったらエベディルクの販売を止めてしまう』って政府に思われたら、それこそ城で内製しなきゃダメだって結論になるでしょ。それに、役人のスミスとは取り決めを交わしたから、簡単に破るわけにはいかないんだ。そんなことしたらまた前みたいにヒナが捕まるかもしれない」

「そうですか……」エドウィンはガッカリした。

「勿論最初の取り決めの時にヒーラーの解放まで条件に含めてれば良かったんだけど、俺とヒナが追われる身になってて、そんな余裕無かったんだよね。生産の民営化が出来ただけで大手柄だったし、そのうち自動的に政府のヒーラーは解放されると思ってたんだよ」

「——どうすればいいんだ……!」エドウィンは頭を抱えた。

「ごめんな。俺もこれ以上はどうしたらいいか分かんないよ」

「署名活動というのはどのようなものですか?」ヒナが聞いた。

「タリアの軟禁に反対する人の署名を集めて、政府に提出するんです。今までは30人程度しか集まりませんでしたが、もっと多く集まれば変わるかもしれません」

 エドウィンが答えた。

「署名で変わるかな〜」レオは懐疑的だった。「国王と話したことある?」

「勿論無いですよ」

「国王ってさ、ロジカルに動くタイプじゃないんだよ。行動原理は恐怖心だね。ここまでの苦労をしてエベディルクを飲んでるのって、老いて死ぬのが怖いからでしょ? 怖くて怖くて仕方ないから、エベディルクのサプライチェーンをなるべくコントロールしたいんだよ。だから、命が狙われでもしない限りは変わんないんじゃないかな」

「では、国王を暗殺するということですか?」

「まぁ殺せば済むかもしんないけど、そしたら多分自分が兵士に殺されるよね」

「はい。そもそも私は人殺しではありませんので、そのようなことは出来ません」

「だよな——でもエドウィンすげーよ。1年以上タリアに会えてないのに今でも一途でいるわけでしょ。ジョマナの夫なんか酷いぞ。ジョマナに内緒で再婚してずっと仕送りもらい続けてるからね」

「何と……穢らわしい!」エドウィンはカッとなった。

「取り敢えず今日は帰るよ。お茶ありがとう」レオはそう言って席を立った。

「あ、はい……」エドウィンはガッカリした。

「エドウィンさんごめんなさい。私もどうしていいか分からず……」ヒナが謝った。

「いえ、とんでもないです。また何かありましたらいつでもいらして下さい。手紙でも結構です」エドウィンがお辞儀をした。

 ヒナも席を立ち、レオとアパートを後にした。

「じゃあね」ヒナがレオに挨拶をして歩き始めた。

「え、飛んで帰らないの?」

「私夜は怖くて飛べないんだ。お母さんも日中にしか乗らなかったし」

「そっか、確かに危ないよな。じゃあ俺も歩くよ」

「え、いいよ。遠いじゃん」

「女の子1人で夜歩いたら危ないじゃん。それに今日のこと色々振り返りたいし」

 レオはそう言ってラグをリュックにしまい、一緒に歩き始めた。

「分かった。ありがとう」

「エドウィンってどうやって手紙送ったんだ? まさか歩いて来たのかな」

 レオは疑問に思った。ガレシアで郵便配達が出来るのはギルドと城のみであり、城の配達屋は政府関係者専用である。平民がレオの家であるリアルトに手紙を送る場合は当然ギルドを使う意味が無いので、自分で何とかするしかない。

「飛べる知り合いに頼んだんじゃない? ラグ持った人が家の扉ノックして、直接手紙渡してくれた。郵便受けに入れなかったってことは、なるべく早く渡したかったんじゃないかな」

「そうか。いや、相当切羽詰まってるのを感じたよな」

「うん。可哀想」

「にしても、出来る医者って感じの風貌だよな〜、エドウィン。医者とヒーラーって、パワーカップルじゃん」

「ね。病院も大きかったし」

「ヒナはあの病院には薬卸してる?」

「ううん。もっと近い病院に卸してるよ。今ではラグ乗れるようになったから、行けなくはないけどね」

「そうか」

 2人はその後しばらく無言で歩いた。

「てか思ったんだけど」レオが口を開いた。「ジョマナとタリアって20万ももらってたってすごくね? 役人と同じ額じゃん。ヒーラーだけで40万かけてエベディルク作ってたってことでしょ。ヒナは1人で作ってて忙しくないの?」

「1人でも全然やっていけるよ」

「そうか」レオはナターシャのことを思い出した。ナターシャは薬草採りからエベディルク作りまで全部1人で行っている。その上に生活費を稼ぐ為に美容薬を作って売っている。であればエベディルクを作るだけなら1人で充分だと気付いた。

「1日分1万5千リタで売るってスミスと交渉したから——1ヶ月で45万リタだよね。薬草採りのギルドワーカーのコストとドンテへの手数料引いたら、ヒナの稼ぎってどれくらいになるんだ?」

「まだ1ヶ月経ってないから分かんないけど、ざっと計算してみたの。28万リタくらいになると思う」

「は!?」レオは思わず叫んだ。

「レオ君の交渉のおかげだよ」ヒナが笑顔を見せた。

「いや、最低でも1日1万リタ取らないとダメってヒナが言ったから、じゃあもっと上げないとと思って1万5千リタにしたんだけど……」

「1万リタだと月15万リタ減るから、私の取り分が13万リタでしょ。それだと普通のヒーラーより少ないから、もう少し他の薬も作らないといけないかな」

「え、13万でも少ないの? ヒーラーの給料っていくら?」

「15万くらいだよ。でもキッチンと広い作業スペースがある家に住まないといけないから、家賃が重くのしかかるんだ。だから5万リタが経費だと思えば、手取りが10万リタで、平均的な額になるの」

「そういうことか。でもその分立派なアパートに住めるもんな。じゃあマットも同じなのかな? 戸建てに住んでるから、収入は10万リタ以上ってこと?」

「そうだと思う」

「マットも防水ラグとかイージーラグとか新製品バンバン作って、調子良いもんな〜」

 レオは自分の友達が今まで以上に遠い存在に感じた。一方レオの収入は、仕事をギルドワークからニュースボーイに変えたことによって、上がるどころか下がっている。

「28万リタから経費の5万リタを引いたら、手取り23万! 役人以上じゃん!」

 レオがヒナを煽てた。

「レオ君にもエベディルクの取り分あげるよ。レオ君が大部分の仕事をしてくれたんだし」

「いや、いいよ。今後は俺いなくたって回るんだしさ」

「う〜ん——じゃあ夜ご飯いつでもご馳走するから食べに来て。アッちゃんもたまに食べに来るよ」

「マジ? ヒナのご飯美味しいしな。じゃあ行く!」

「この後来る?」

「うん、行く行く! 焼き芋も全部食っちゃったし。今日はハードな1日だったからめっちゃ腹減ったよ」

 レオはヒナの家にお邪魔し、夕食をご馳走になった後家に帰った。

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