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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
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第7話 シオネ

 翌朝レオは急ピッチで動いた。7時前にガレシアクロニクル本部に並んで、ほぼ待ち時間無く20部を購入。マットファクトリーに新聞を配達した後ミミベーカリーでハーフバゲットを買って、ジャファリの家へと急いだ。

 ジャファリの家の上空に着いたレオは、周りをぐるりと見渡した。すると、ヒナは数軒先の建物の影に隠れていた。

「ヒナみーっけ」レオがラグから降りて声をかけた。

「空からだとすぐ見つかっちゃうもんだね」ヒナが笑った。

「ジャファリはまだ?」

「うん、まだ」

 レオはバゲットを頬張りながら見張りをした。

「何かワクワクするね、こういうの」ヒナが嬉しそうに言った。

「まぁな」レオが笑った。「仕事は大丈夫なの?」

「うん。エベディルクは前倒しで作ってるから、こういうことがあっても平気」

「流石ヒナ! ニュースボーイの仕事はサブスクライバー増やせば楽になるかと思ったけど、スケジュール縛られるのが難だな。ガレクロ届けるの朝じゃなくてもいい?」

「うん、いいよ」

「助かるわ。マットにもお願いしてみよう」

 2人が話しながら見張りをすること約30分。家の扉が開いた。

「ジャファリだ!」レオが声を殺して言った。「こっち来る!」

 レオとヒナは隠れている建物の更に後ろに隠れて様子を伺う。ジャファリは建物を通り過ぎて行った。

「よし、もう大丈夫だ」レオはヒナを手招きし、ジャファリの家へ向かった。

 レオが家の扉をノックすると、娘が扉を開けた。

「はい」娘が応対した。茶髪を後ろでまとめていて、エプロンをしている。体はかなり細い。

「俺はレオ、この子はヒナって言うんだけど、君のお母さんについて話したいことがあるんだ。ちょっと時間いいかな?」レオが優しいトーンで言った。

「母がどうかされましたか?」娘はそう言って、家の中を一瞬見た。

「君のお母さんは政府で仕事をしているよね? もうずっと会ってないでしょ?」

「え?」娘は驚いた。「私の生みの母は私が3歳の時に病気で亡くなりました。父は再婚して、義母は今家にいます」

「え!?」今度はレオとヒナが驚いた。

「どうしたのシオネ?」

 家の中から女性のだらしない声が聞こえてきた。娘はシオネと言うらしい。

「何でもないです!」シオネが振り向いて声を上げた。

「生みの母の名前はジョマナ?」レオが小声で聞いた。

「はい」シオネも小声で答えた。

「まだ政府で働いてるよ。って言っても会ったわけじゃないから証明出来ないけど、兵士の人に確認すればすぐ分かる」

「え? ちょっと……」シオネは動揺を隠し切れない様子だ。「ちょっと待っててもらっていいですか?」シオネはそう言って扉を閉めた。

「訳ありだね」ヒナが心配そうに言った。

「ああ。道理でジャファリの奴何か変だと思ったんだよな」

 数分後にシオネが出てきた。エプロンは外しており、買い物カゴを持っている。

「近くに公園があるのでそちらで話しませんか?」

「オッケー」レオは承諾した。

 シオネは早足で歩いた。

「買い物に行くと言って出てきたので、あまり長居出来ないんです」

「勝手に外出出来ないの?」ヒナが尋ねた。

「はい。家は厳しいので」シオネは表情1つ変えず答えた。

 3人は小さい公園に到着した。ヒナとシオネはヒナのラグに座り、レオは自分のラグに座った。

「何で君の家を訪れたかって言うと——あ、名前はシオネだっけ?」レオが聞いた。

「はい、そうです」

「何でシオネと話そうと思ったかというと、俺達ジャファリに昨日脅されたんだよ」

「はい!?」シオネは声を裏返らせた。

「エベディルクの存在は知ってる?」

「知らないです」

「そうだよな——ジョマナは、城でエベディルクっていう超貴重な薬を作る仕事をしてるんだ。その作り方が平民に漏れないように、ジョマナは城で軟禁されてるんだよ。でもヒナが作り方を知って、エベディルクを作って政府に売り始めたんだ。その結果不要になったジョマナの月収は20万から10万に半減したんだ。それでジャファリは俺達に怒ったんだよ」

 レオは頑張って手短に説明した。

「ちょっと難しくて分からないです……何故父は母が死んだと私に嘘を付いたんですか?」

「何でだ……」レオは考え込んだ。

「ジャファリさんの印象が悪くなるからだと思う」ヒナが代わりに答えた。「シオネちゃん、もしジョマナさんが城で軟禁されてるって知ってたら、せめて手紙書きたいって思うよね?」

「勿論です」シオネが答えた。

「そしたらジョマナさん絶対仕送りのことを話すはずなんだ。でもお父さんが再婚してるのにも関わらず元妻から仕送りもらってたら、どう思う?」

「それはおかしいですよね。私の親権を生みの母が持ってるなら別ですけど、その場合は仕送りを受けるのは親じゃなくて私になるはずです」

「そうだよね。でもそのおかしい状況が今起きてるの。ジャファリさんはジョマナさんからずっと仕送りをもらい続けてたんだと思う」

「そんな……でも何で生みの母は仕送りを送ってるんですか?」

「そこだよね問題は。2パターン考えられると思う。1つは、シオネちゃんの親権をジョマナさんが持ってる場合。この場合ジョマナさんは、シオネちゃんとだけやり取りしてると思ってなきゃおかしいよね。だから、ジャファリさんがシオネちゃんになりすまして手紙を書いてることになるかな」

「キモっ」レオが言った。「でもさ、ジョマナは10年以上軟禁されてるんだぞ? シオネ何歳?」レオがシオネに尋ねた。

「14歳です」シオネが答えた。

「ってことは4歳と手紙でやり取りするんでしょ。それはおかしいって気付くでしょ」

「そうだね」ヒナが納得した。「そもそもジョマナさんが親権を持ってたら、シオネちゃん今の家じゃなくてせめて孤児院で暮らしてたと思うな。だからやっぱりこれは違うね」

「もう1つのパターンは?」レオが聞いた。

「ジョマナさんが離婚のことを知らない場合。今でも夫婦円満だと思ってれば、仕送りするんじゃないかな」

「知らないって、離婚したの知らないわけ無くない?」レオが言った。「義母の名前は何て言うの?」シオネに尋ねた。

「デンデラです」

「ジャファリとデンデラは本当に結婚してる? それともただ同棲してるだけ?」

「ちゃんと戸籍上結婚してるはずです」

「う〜ん。じゃあジョマナは絶対知ってるはずだよな」

「そうだね……」ヒナは考え込んだ。「一旦ジョマナさんの仕送りの動機は置いておいて、仕送りしてることは事実だよね。シオネちゃんは今日の話聞いて、これからどうしたい?」

「父にはガッカリです……元々父も義母も好きじゃなくて、ずっと召使いのような扱いを受けて生きてきました。その上私に隠れて仕送り使ってたなんて知ったら、もう私限界です。家出したい……」

 シオネが下を向いて話した。

「そうだよね。誕生日いつ?」

「10月です」

「じゃあ自立出来るまで1年近くあるかぁ——お父さんはいつ再婚したの?」

「私が4歳の時です」

「じゃあ再婚生活が本当に長いんだね」

「デンデラにこのこと話せばさ、家庭環境改善するんじゃない?」レオが提案した。「今から話しに行こうよ」

「はい、そうします」シオネが承諾し、3人は家へ戻った。

「今呼んでくるので、ちょっと待っててもらっていいですか?」

 シオネはそう言って家の中へ入ると、すぐにデンデラを連れて戻ってきた。

「何の用?」デンデラはぶっきらぼうに聞いた。ジャファリ同様汚い身なりをしている。

「俺はレオでこの子はヒナって言うんだ。シオネの生みの母のジョマナはまだ生きてるって知ってる?」レオが声を発した。

「え? し、知らないわよ」デンデラは動揺して答えた。

「じゃあ病死したってジャファリには言われたの?」

「……そうよ」デンデラは目線を逸らした。

「しかもジャファリはジョマナから10年以上仕送りもらって生活してきたんだぜ。どう思うよ?」

「どうって、別にいいんじゃないの……」デンデラはボソッと答えた。

「は? 良くないでしょ。何で元妻から仕送りもらうんだよ。しかもシオネは仕送りのこと全く知らなかったんだぞ」

 レオにそう言われデンデラは黙りこくった。

「お義母かあさん、まさか知ってたんですか?」シオネが顔を強張らせた。

「——ええ、知ってたわよ! でも仕送りのおかげであんた養えてたのよ」

 デンデラは急に開き直った。

「養われてたのはお義母さんの方じゃないですか! 私に家事を全部押し付け、お義母さんは仕事もしないでダラダラしてばかり!」

 シオネがヒステリックに叫んだ。

 騒ぎに気付いた通行人が、扉の前で話している4人の方を向いた。何やら心配そうにシオネ達を見つめている。

「さあ家に入りなさい」

 通行人の視線が気になったデンデラは、シオネの背中を押して家に入ろうとした。

「嫌です!」シオネがデンデラの手を振り払った。

「あんた達もう帰って! 他人の家庭事情に口突っ込むんじゃないわよ!」

 デンデラがレオとヒナに怒鳴った。

「ちょっと待ってください」ヒナが強い口調で声を発した。「話はまだ終わってません。シオネちゃんの外出を制限してると聞きました。幼児ならまだしも、シオネちゃんはもうすぐ成人です。自由に行動させてあげて下さい。家事は親であるデンデラさんがやるべきです。仕事も家事もしないなんて、親として恥ずかしくないんですか?」

 ヒナが鬼ヒナモードに突入した。レオはスミスがヒナの家に押しかけた時を思い出した。普段おっとりしている分、鬼ヒナは怖い。

 デンデラはヒナの威圧感に押された。野次馬は5人に増えている。

「おい皆聞いたか!」レオが野次馬に向けて大声を発した。「このおばさん、娘に家事させてダラダラ生活してんだよ! みっともねーよな!」

 野次馬は隣とコソコソ話し始めた。

「ちょっと! おばさんって、あたしはまだ30代よ!」デンデラが声を荒げた。

「知るかよ」レオは吐き捨てるようにデンデラに言って、野次馬に視線を戻した。「この子が奴隷扱いされてないか今後監視してくれないか? この辺に住んでんだろ?」

 野次馬は、分かったという風に頷いた。

 デンデラは居ても立っても居られなくなり家に入ろうとしたが、レオが扉を押さえた。

「最後に1つ。これで終わりじゃねーからな。もし状況が改善されなかったら今度は、元妻のスネかじって生活してること言いふらすぞ」

 レオは小声でデンデラにそう言って扉を離した。デンデラは顔をしかめて、勢い良く扉を閉めた。

「これで大人しくするだろ」レオは鼻で笑い、ヒナとハイタッチした。

「レオ君流石だね」ヒナが感心した。

「国王やスミスとの修羅場くぐってんだよ、こんな雑魚屁でもないね。ヒナこそ、スイッチ入るとおっかないよな〜」

「2人共すごいです」シオネが拍手をした。

「あ、そうだ」レオはリュックからガレクロの束を取り出して野次馬の方へ行った。

「ガレクロいかがですか? この子まともに小遣いもらってないはずだから、少しでもサポートしてほしい」

「勿論だわ」野次馬の中年女性がお金を取り出した。

「シオネ、こっち来て」レオがシオネを呼び寄せた。「シオネがお金受け取って」

「え、でも」シオネが遠慮した。

「いいんだよ」レオがシオネの背中をぐいっと押した。

「あなた体細いものね〜。ちゃんと食べてるの?」

 中年女性はそう言ってシオネに50リタを渡し、レオからガレシアクロニクルを受け取った。

 他の野次馬も次々とお金を取り出し、シオネに渡した。

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 シオネは涙目になりながら野次馬にペコペコとお辞儀した。

「今日元々何する予定だったの?」野次馬が帰った後に、レオがシオネに尋ねた。

「特に予定は無いです。普段通り家事をするつもりでした」

「じゃあ家にいる必要無いよな。どっか店入って今後のこと話そうぜ」

「はい。そしたらアントラ行きませんか?」シオネが提案した。

 アントラとは屋外の半円形劇場の名前である。リアルトから見て、ラグスビーフィールドとは真逆の北西に位置している。キャパシティ1万人を誇り、音楽ライブ、ダンス、サーカス、演劇など、様々なパフォーマンスが見られる。

「アントラね。確かにここから近いな」レオが賛同した。

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