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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
27/65

第5話 ニュースボーイ

 レオは翌日いつも通りギルドワークをしたが、対立しているラグスビーメンバーと遭う度気まずくなった。こんな時に限って薬草採りの依頼も全く無い。メンバーに遭遇したくないからと、皆率先して薬草採りをしているのかもしれない。

 レオは街中でガレシアクロニクルを売っている若者達を思い出し、新聞売りの仕事について話を聞いてみることにした。レオは「アゴラ」という屋外市場に向かった。アゴラはガレシア最大の屋外市場で、食料品から雑貨まで、様々なものが売られている。リアルトから徒歩圏内で、いつも多くの人で賑わっている。ガレシアの心臓とも言える場所だ。

 アゴラに着くと、新聞売りの人が沢山いた。レオはラグスビーマッチの前日と翌日だけガレシアクロニクルを買っているのだが、いつも同じ人から買っている。今日もその人は元気良く仕事をしていた。

「サタナリア募集店舗、残り21枠! 残り少ないよー!」

 その男の子はガレシアクロニクルを掲げて声を張っている。

「レオ、いらっしゃい」男の子はレオに気付くと、新聞をレオに渡そうとした。

「いや、今日は買いに来たわけじゃなくて、新聞売りの仕事について聞きに来たんだ」

 レオは申し訳無さそうに言った。

「ニュースボーイしたいの?」男の子は少しガッカリした表情で言った。

「ニュースボーイって言うの?」

「うん。別に話聞きたいならいいけど、ガレクロ買わない?」

 話を聞くならそれくらいはした方がいいと思い、レオはガレクロを買った。50リタなので大した出費ではない。

「まいど」男の子は笑顔を見せた。

「名前まだ知らないや。何て言うの?」

「ヘンリー」

「ヘンリーね。ニュースボーイってどうやってなるの?」

「なるとか特に無いよ。ガレクロ本部でバルクで買って、それを売るだけ」

 ヘンリーは新聞を掲げて通行人を見ながら答えた。

「それだけ? いくらで買うの?」

「半値の25リタ。20部、40部、100部単位で買える」

「売れ残ったら?」

「それはもう自分の損失」

「マジか」

「うん。一方で売り切っちゃった人はまた本部戻んなきゃいけなくて面倒臭いから、近くの売れてないニュースボーイから卸値で買ったりするよ。だから日が暮れる頃になるとニュースボーイ同士で取引が発生する」

「なるほどね〜面白いな。結構稼げる?」

「ん〜、俺の場合は6万リタくらいかな」

「そうか……」レオは思ったより少なくてガッカリした。

「そんなもんだよ。でも子供にとっちゃ良い小遣い稼ぎだろ?」

「そう、前から気になってたんだけど、子供が売ってるよね? ヘンリーは何歳?」

「俺は15だけど、何歳でも出来るよ」

「俺とタメなんだ。何で子供でも出来んの?」

「まぁ表向きは『ガレクロの手伝い』だからね。皆小さい頃から家業の手伝いするだろ?それと同じような感覚だよ。仕事の責任を取れるのが15歳からってだけで、仕事が出来ないわけじゃないじゃん。しかも食中毒の危険がある飲食業と違って新聞だろ? 子供が売ったところで何のトラブルにもならないよ」

「確かに」

 そこで食材が入ったカゴを持った女性が寄って来て、ヘンリーから新聞を買った。

「え、じゃあさ、どこで売るとかそういう持ち場の制限も無いわけ?」

 レオは今までの話を頭の中で整理して、疑問を投げかけた。

「無いけど、大体皆ナワバリがあるよ。顔覚えてもらった方が有利だから、やたらめったら動き回ったって仕方ないっしょ」

「そうだよな。うーん、どこで売ったらいいんだろ。ここもう既にいっぱいいるもんな」

「レオは飛べるんだから、郊外で売ったらいいじゃん」

「そうか」

「そうだよ。飛べる人の特権なんだから、使わなきゃ損でしょ」

「でも郊外って人が密集してないから効率悪そうじゃない?」

「そうだけど、その分競合も少ないじゃん。固定客見つけりゃやっていけるよ」

「そうか——他に何かコツある?」

「おい、どこまで俺から知恵を盗もうって気だい?」ヘンリーが冗談交じりに言った。

「頼むよ〜。どうせ客はバッティングしないんだからさ」

 レオは手を合わせて頼み込んだ。

「まぁそうだな——レオは何で俺から買ってるの?」

「うーん——歳近そうで親近感湧いたし、押し売りっぽくないから」

「そこに答え出てるよね。当然見た目の印象は大事でしょ。押し売りしないのは重要だね。『ガレクロいかがですかー!』とか一番ダサいから。初心者がよくやるけど。ガレシアに新聞は1種類しか無いんだから、ガレクロ売ってることくらい見りゃ分かるっつの。客は2種類いるんだよ——毎日買う客と、面白い記事が載ってる時だけ買う客。後者に売る為には、ヘッドラインを伝えてあげなきゃ」

 ヘンリーにそう言われ、レオは買ったガレシアクロニクルを読んでみた。本日のヘッドラインは「サタナリア募集店舗、残り21枠」だ。

「そういうことか、理解したよ」レオが納得して頷いた。「月収6万か——1日何部売る計算なの?」

「1日100部売って2500リタ。ガレクロは日曜休刊だから、1ヶ月25日あるとすると、6万くらいになる」

「100部か、思ったより少ないな。1時間で10部売って10時間か。12部売れば8時間くらいで済むから、5分に1部ペースか」

「そう。これが意外と難しいんだな」

「取り敢えず20部だけ買ってやってみるよ。本部まだ空いてる?」

「うん。7時〜19時まで」

「オッケー」

 レオはヘンリーから本部の住所を教えてもらい、礼を言って空を飛んだ。

 ガレシアクロニクルの本部は、城の近くの3階建てビルの1階にあった。2階の外壁には長さ3メールほどの大きな黒板が埋め込まれており、外階段で足場へ登れるようになっている。黒板には「サタナリア募集店舗、残り21枠」と大きく書かれている。その日のヘッドラインをここに書くのだろう。

 1階の窓口にはニュースボーイらしき人達が数人並んでいた。レオもその後ろに並ぶ。レオの番が来て、20部を500リタで購入した。

 レオはどこで売ろうか考えた。郊外と言って真っ先に思い浮かんだのが、マットファクトリーだ。あの近くの商店街で売り歩くことにした。商店街に着くと、他にもニュースボーイは数人いた。普段レオはここで買い物をしないので、かなりアウェー感がある。適度に距離を取って、ヘンリーの真似をするようにガレシアクロニクルを掲げた。

「サタナリア募集店舗、残り21枠!」レオはぎこちなく声を張った。

 数分もしない内に、ヘッドラインをずっと言い続けるのは飽きることに気付いた。レオは売るのを一旦止めて、ガレシアクロニクルを読むことにした。

———

  サタナリア募集店舗、残り21枠


 12月17日のサタナリアまであと10日を切りました。店舗枠は残り21となり、枠が空いている会場は以下の16ヶ所です。

 ……


 この後にガレシア内の様々な場所の名前が記載されている。レオは続きを読んだ——


 参加希望の店舗は、以下の情報を記入の上、サタナリア運営事務所まで送付下さい。

・店舗名

・希望会場

・提供したい飲食物の名前、数(量)、総額


———例———

店舗名:ガレシアレストラン

希望会場:ローザンパーク

提供したい飲食物:

パン・ド・カンパーニュ 200個 16万リタ

ワイン 60L 6万リタ

クリームスープ 100L 12万5千リタ

———————


 尚、全会場の詳細は裏面をご覧下さい。

———

 レオが裏面を開くと、100ヶ所以上の会場が記載されており、開催時間やキャパシティが記されていた。

「スゲーなこりゃ……巨大ポットラックか」

 レオはスケールの大きなに圧倒された。内容は理解した為、少し自信を付けた。

「サタナリアの情報載ってまーす! 店舗枠は残りわずか!」

 レオは色々と言い回しを変えながら声を張った。1部売れる毎にレオは嬉しくなった。今までもヒナの薬を売っていたが、それとはまた違った面白さを感じた。

 結局レオは3時間以上かけてやっと21部売り切った。ヘンリーから買った新聞も売った。

「これで500リタか。しんどいな……」

 レオは慣れない仕事でヘトヘトになりながら家へ帰った。


 翌日レオが目を覚ますと、喉に痛みを感じた。

「あー……あー……」声を出してみたらかすれている。昨日声を出し過ぎたようだ。

 レオにとってはラグに乗るよりも声を張る方が大変で、ニュースボーイの仕事が向いていない気がした。しかし、新たな仕事をすることでガレシアの理解が深まったことが嬉しかった。どれだけ稼げるか試してみたかったので、レオは今日もニュースボーイをすることにした。

 7時にガレシアクロニクルの本部に行ってみるとレオは目を疑った——そこには50人以上の列が3つ出来ていた。10分以上待ってやっとレオは窓口にたどり着き、40部購入した。後ろを振り返ると、列はまだ続いている。

「お、レオじゃん」列に並んでいるヘンリーがレオに気付いて声をかけた。

「あ、ヘンリーおはよう」レオはガラガラ声で挨拶をした。

「何だその声!」ヘンリーが指を指して笑った。

「昨日声出し過ぎた」

「俺も最初はそうなってたな。その内慣れるよ」

 レオはガレシアクロニクルをリュックに入れて、ミミベーカリーへと向かった。

「おはよう」レオがミミに挨拶をした。

「レオどうしたのその声?」ミミが驚いて尋ねた。

「昨日ニュースボーイやってみたんだ。そしたら喉痛くなった」

 レオはバゲットをミミに渡して言った。

「ニュースボーイ? ギルドの仕事は辞めたの?」ミミはバゲットを切りながら尋ねた。

「辞めたわけじゃないけど、まぁ休憩中。ミミ姉さんはガレクロ買ってる?」

「うん。常連客のニュースボーイが毎朝持ってきてくれてる」

「そういうことか。確かに前見たことあるかも」

 レオは1度リアルトに戻り、誰もいないパブのイスに座ってハーフバゲットを食べながら今日の新聞を読んだ。するとロゼーラが階段から降りてきた。

「おはよう」レオがガラガラ声で挨拶すると、やはりロゼーラは声のことを聞いてきた。早く喉を治さないと同じ会話を何度も繰り返すことになるとレオは思った。

「ここはガレクロどうやって買ってるの?」レオがロゼーラに聞いた。

「毎朝郵便受けに入れてもらってるわよ」ロゼーラが答えた。

「え、お金はどうやって払うの?」

「毎月ニュースボーイの子がここに顔出すから、その時払ってるわ」

「それめっちゃいいじゃん。それは前払い、後払い?」

「前払いよ」

「じゃあバックレられたらどうすんの?」

「そんなことしないわよ。両親知ってるし」

「うわ〜、俺その手使えねぇ……」レオは落胆した。

「サブスクリプションやるなら信頼が大事ね。移民のレオは確かに不利かもしれないけど、ラグスビーで知名度あるじゃない!」ロゼーラが勇気付けた。

「知名度って言ったって、前回負けたからむしろ逆風にしかなってないよ」

「1度負けたくらいでウジウジしてんじゃないわよ。何するにしても時間かかるんだから、焦らずやりなさい」

「はーい……」レオは元気の無い返事をした。

 ガレシアクロニクルをある程度読み終えたレオは、昨日と同じ商店街に行って新聞を売った。食事をしたおかげで喉の調子は大分回復した。

 9時を過ぎた頃に、マットが現れた。

「レオじゃん! 何してんのこんなところで?」

「おーマット! ガレクロ売ってるんだよ。ニュースボーイ始めた」

「レオがニュースボーイか。何でまた?」

「ほら、ラグスビーメンバーとギルドで遭うの気まずいからさ」

「そういうことか」

「買い物?」

「うん。店開ける前にいつも食料品買ってる」

「考えてみりゃ、マットファクトリー10時オープンって結構遅いよな」

「だって2日に1枚くらいしか売れないから、長く開けてても意味無いじゃん」

「まぁ確かに」

「ガレクロちょうだいよ」

「え? あ、いいよ」レオは驚いたが、快く売った。「いつもここで買ってんの?」

「うん。毎日じゃないけど、買い物に来た時は買ってるよ」

「じゃ出来れば毎日買いたい? 俺が郵便受けに入れてあげるよ」

「マジ? それはいいかもな」

「よし! じゃあ早速明日から配達するよ。月末になったらまとめて払ってよ。何日分配達したか俺記録しておくから」

 レオは最初のサブスクライバーを獲得して意気揚々とした。

「オッケー、助かるなこれは」マットも嬉しそうな表情を浮かべた。

「そう言えば昨日のガレクロ読んだ? サタナリアって100ヶ所以上会場あんの?」

「うんそうだよ」

「いやマジでびびったわ。HAMLはどこで会う?」

「あ〜まだ決めてなかったね。僕はローザンパークが好きかな」

「やっぱあそこでもやるんだ。ヒナとアスカはどこがいいのかな?」

「アスカには仕事で会うから聞いてみるよ」

「オッケー。じゃ俺は今日ヒナに聞いてみる」

 レオはマットと別れた後もガレシアクロニクルを売り続け、12時頃にヒナの家を訪れた。

「は〜い。あ、レオ君久しぶり」ヒナが扉を開けた。

「久しぶりだね。今仕事中?」

「ううん。ご飯食べてた。入る?」

「じゃあお邪魔しようかな」レオは中に入り、中央テーブルのスツールに座った。

 ヒナは焼き芋を食べていた。ハーブティーの香りもする。

「俺もバゲット食っていい?」

「いいよ。ハーブティー飲む? ルネヴェイラで茶葉買ったんだ」

 ヒナが嬉しそうに言った。

「マジ? じゃあちょっとだけもらうよ」

 レオはリュックからバゲットを取り出して、ハーブティーに浸して食べてみた。

「これイケるぞ! ハーブティーバゲット!」

「ふふふ」ヒナは焼き芋を食べる口を手で隠して笑った。

「今度のサタナリアどこ行くかマットと話してたんだけどさ、ヒナはどこ行きたい?」

「皆が行きたいところでいいよ。というかレオ君初めてなんだから、レオ君が行きたいところに行こうよ」

「それは嬉しいんだけどさ、どこがいいかなんてサッパリ分かんないよ」レオは苦笑した。「マットはローザンパークに行きたいんだって。アスカも賛成すれば、そこで決まりだな」

「うん」

「ところでヒナはガレクロ買ってる?」

「うん、アゴラで買ってる」

「やっぱそうか。俺ニュースボーイ始めたんだよ」

「そうなの?」

「うん。良かったら俺がここの郵便受けに毎朝届けてあげようか?」

「いいの? 嬉しい」

「よっしゃー、決まり」レオはガッツポーズをした。

「お金はどうすればいい?」

「月末でいいよ」

「うん分かった」

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