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エベディルク 空飛ぶ絨毯と不老薬の物語  作者: トミフル
第2章 ヒーラー救出編
24/65

第2話 禁止令

 レオは土曜日の前日練習に行った。控室に行くとアスカがガレシアクロニクルを持っていた。マットの姿もある。

「レオ、ビングの前日予想出てるよ」アスカが新聞をレオに渡した。

「お、読む読む」レオは記事を読んでみた。

———

  ラグスビーアナリスト・ビングの前日予想


 先月のマッチで平民チームは、一軍の政府チーム相手に13年ぶりの勝利を果たした。

間違いなく近年最高峰のチームであり、明日のマッチでの勝利も夢ではないだろう。一方で懸念も残る。ダブルエースのレオ・フィッシャーとアスカ・クリスタルは決して体力がある方ではない。レオが唯一フルで出場した試合は9月の1試合のみで、その時は後半に失速した。アスカに至っては未だにフルの出場経験は無い。前回のように徹底的にマークされ体力を削られると厳しい戦いになるだろう。前回は2人が怪我で途中フィールドを離れ、後半戻ってきたことで平民チームは再度爆発力を発揮した。もしかすると、敢えて途中下げて体力を回復させた方が良い結果に繋がるのかもしれない。

 対する政府チームは、9対6から逆転負けするという屈辱を味わった。戦術面とメンタル面を強化しなければ、また同じ過ちを犯しかねない。


 勝利確率 平民チーム55% 政府チーム45%

 政府チームが一軍で来る確率 99%


 やや平民チームが優勢かと予想するが、メンバーが同じである限り力の差はほぼ互角だろう。スポーツベッテイングをする上では非常に悩ましいが、実はチャンスでもある。政府チームは前回負けた以上、今回二軍で来るとは思えない。つまり、勝利予想だけすればいいということになる。当たればお金を倍に出来るチャンス。明日のマッチも目が離せない。

———

 その後には個別選手の分析が書かれていた。

「なるほどね〜、体力か。どう思う?」レオがアスカに尋ねた。

「確かにフルで出たことないけど、やっぱ女だから体力は劣るよ」

 アスカが悔しそうに嘆いた。

「でもアスカ、暇さえあれば森の中飛んでるじゃん」マットが言った。

「そうなの?」レオは驚いた。

「マットファクトリーの仕事ではあまり飛ばないから、意識的に時間作って飛ぶようにしてるんだー」とアスカ。

「スゲーな」

「でしょー。褒めて褒めて」アスカがねだった。

「そういうところがガキなんだよ、アスカ」マットが鼻で笑った。

「何よそれー」アスカが膨れ面をした。

 チーム練習を終えた後レオはアスカと更に練習を積み、明日の試合に備えた。


 翌日日曜日。天気は曇りで気温は程良く涼しく、ラグスビーマッチには最適だ。今回もHAMLは2時間前に集合し、ケバブ・サントスで刻印こくいんケバブを買った。

「旨い! ビーフ初めて食った! これで3種類制覇したぞ。ん〜やっぱチキンより100リタ高いだけあるな」

 レオは自分の名前が入ったビーフ刻印ケバブを頬張った。

「100リタで贅沢感じられるレオ良いね」アスカが茶化した。

「お前な〜、100リタが生死を分けるんだぞ」

「意味不明なんだけど」アスカが真顔でツッコむと、ヒナとマットが吹き出した。

「ヒナ、どうしたの鼻ひくひくさせて」マットが聞いた。

「笑うの止めたらレタスが鼻の方にいっちゃって」

 ヒナが辛そうにしてるのを見て皆大笑いした。

「マット、今日は賭けるの?」レオが尋ねた。

「ううん」

「何で? ガレクロでビングがチャンスって言ってたじゃん」

「僕はラグを提供してる時点で平民チームに賭けてるようなものだよ。平民チームが勝てばその分ラグが売れるからね」

「確かにそうだな」レオは感心するように頷いた。

「これをセレブリティーマーケティングって呼ぶんだよ」マットが得意気に言った。

「それアスカが教えてあげたんだからね」アスカがすかさず言った。

「いちいち訂正しなくたっていいんじゃん……」マットが小声で愚痴った。

 皆ケバブを食べ終わり、他のラグスビーメンバーも揃ったところで、政府役人のスミスが控室にやってきた。

「ちょっといいかね」スミスが言葉を発した。何と後ろには護衛が10人ほどいる。

「どうしたんだ」ルイスが眉間にしわを寄せて尋ねた。

「今回よりルールが変更となった。女性選手の参加は禁止とする」

「は!?」メンバーは皆驚きの声を上げた。

「いや意味分かんないだろ。何でだよ」ルイスが抗議した。

「政府チームは兵士によって構成されているため、女性選手が参加することは出来ない。ならば平民チームにも同じ制限を与えなければ不公平だろう」

 スミスが澄ました顔で言った。

「そんなの屁理屈だろ。だったら兵士以外も自由にチームに入れるようにすればいいじゃないか」

「ラグスビーは訓練の一環なのだ。兵士以外が参加することは出来ない」

「じゃあ女性を兵士として雇えばいいだろ」

「そんなこと出来るものか。女に兵士が務まるわけがない」

「そんなに女舐めてんなら禁止する必要ないじゃん」アスカが突っかかった。

「そうだよ。アスカが強いから無理矢理作ったルールだろ」レオも抗議に参加した。

「そもそも試合1時間前に言うことじゃないだろ」ルイスが言った。「もうロスター提出しちゃったんだぞ? アスカ出れなかったら9人で戦わなきゃいけないじゃないかよ」

「決定事項だ。グダグダ抜かすでない。クリスタルにはここから出てもらう」

 スミスはそう言って護衛に合図した。護衛2人がアスカを連れて行こうとする。

「おい、アスカの父ちゃん役人だぞ! お前ら何してんのか分かってんのか?」

 レオが護衛達とアスカの間に入った。

「どけ!」護衛がレオを押しのけた。後ろにいる護衛達もぞろぞろと続く。

「分かったから!」アスカが泣きそうになりながら叫んだ。「試合には出ないから、せめてベンチで応援はさせてよ」

「アスカ!」レオが苛立ちを見せた。

「好きにしたまえ。もし試合に出ようものなら即平民チームの負けとなる。審判にはそう伝えておく」スミスが満足気に言った。

「スポーツベッティングしてる人達はどうなるんだよ」マットが言った。「アスカが出れないって知らないまま平民チームに賭けてる人が可哀想でしょ」

「奴らにロスターを公表する義務など無いのだよ」

 スミスは吐き捨てるように言って、護衛と共に控室を去った。

「ふざけんなあいつら!」レオは壁を蹴った。

「どこ行くの、マット?」駆け足で控室を出ようとするマットにアスカが尋ねた。

「スポーツベッティングに並んでる人に、アスカがバンされたこと伝えてくる! 13時締め切りだから、まだギリギリ人いるかもしれない!」

 マットは早口でそう言うと控室を急いで出た。

「どうすんだよおい……」レオは途方に暮れた。

「政府がしそうなことだよ。アスカ無しで戦う方法を考えるしか無い」

 ルイスはそう言って戦術のミーティングをした。レフトウィングには補欠のマルシオが入ることになった。

 しばらくするとマットが戻ってきた。

「マット君どうだった?」ヒナが尋ねた。

「10人くらいには何とか伝えれたよ。返金は出来ないのか受付に聞いたけどやっぱりダメだった」マットは悔しそうに答えた。

 試合5分前になり、両チームのスタメンがフィールドの手前に並んだ。

「おい」声をかけられレオは隣を見た。アスカにセクハラした5番グレゴーだ。

「今日はお嬢ちゃん出ねぇのかい? ついに降参したか」グレゴーがニヤけ顔で言った。

「誰がお前みてーな雑魚に降参すんだよ」レオが吐き捨てるように言った。

「随分でけぇ口叩くじゃねぇかよ。スター気取りか」

 レオはグレゴーの挑発を無視した。

『11月のラグスビーマッチへようこそ! ゲームの実況を務めますのはわたくしMCサントス!』先ほどまでケバブを売っていたMCサントスが、メガホンで声を発した。

『今回からルールが変更となり、女性選手の参加は禁止となりました』

 MCサントスは険しい表情で言った。観客からは大ブーイングが起きた。

「アスカが観たいんだよ!」

「ふざけるな!」

「平民チームに賭けたんだぞ! 金返せ!」

 観客の怒鳴り声が響き渡る。

『はい、皆さんのお気持ちは良く分かります——しかし、アスカがいなくてもエキサイティングなゲームを見せてくれることでしょう! 平民チームの登場だ!」

 スタメンの5人はフィールドへ舞い上がり、観客席を一周して観客の声援に答えた。レオへの声援は一際大きい一方で、アスカが観られなくて残念そうな顔も見られる。

『続いては政府チームの登場!』

 観客の声援はブーイングへと変わった。

「チキン野郎! まともに勝負しろ!」

「女に負けて恥ずかしくないのか!」

 政府チームへ罵声が浴びせられる。

 ヒナ、アスカ、マットは補欠メンバーと共にベンチに座った。

「アッちゃんがここにいるの不思議な気分」ヒナがアスカに言った。

「確かに。初試合はベンチスタートだったけど、ヒナっち救護係してなかったもんね」

「試合出れなくて悔しいでしょ?」

「うん。あのクソジジイ……」アスカはVIP席の国王を睨んだ。

 試合開始のホイッスルが鳴り、ルイスが思い切りフリスビーを相手の方へ投げた。まずはディフェンスだ。政府チームがどんどんパスをつないでいく——速い。あっという間に1点決められた。

「あいつら速くなってないか?」レオがルイスに聞いた。

「ああ、俺も感じたよ。切り替えて行こう」

 ベンチではマットが立ち上がり、フィールドのラインギリギリまで行って政府チームのラグを注視した。

「デザインは前回と全く一緒だけど……まさかウルトラフィット作ったのか? クソ、ここからじゃ大きさの違いなんて分かんないな……」

 平民チームのオフェンスとなり、レオはエンドゾーン近くで待機する。マルシオがフリスビーを持つ——レオは相手選手の裏を取ってパスをもらおうと手を上げる——しかしパスが出ない。もう一度態勢を取り直す。

「レオやり辛そうにしてるね」ベンチでアスカがマットに言った。

「そりゃアスカとの方が相性が良いでしょ。いつも紅白戦でペア組んでるんだし」

 レオは再度マルシオからパスを受けようとするが、今度はスティールされ、カウンターでゴールを決められた。レオはイライラしてきた——アスカとならもっと上手くいくのに、何でバンされてしまったんだ。

「ルイス、俺に出してくれ」レオがルイスに頼んだ。

「出せる時は出すよ。でも個人戦じゃないんだ。ちゃんと連携取ってくれよ」

「分かってるよ」レオは苛立った声で返事した。

『まだゴールを決められていない平民チーム。次はどう攻める! 2番レオ、今日やっとフリスビーを触りました!』

 観客は歓声を上げる。

「フリスビー持っただけで何ざわついてんだよ」グレゴーが悪態をついた。

『ドリブルでかわそうとするが、ダブルチームに付かれ突破口が見つからない!——ここでホイッスル! レオがチャージングでファールを取られました!』

「おい、こんくらいの当たりは前回散々受けてきたのに笛鳴らなかっただろ!」

 レオが審判に文句を言った。

「レオ、無理に抜こうとしなくていい! 味方空いてるんだからパス出せばいいだろ」

 ルイスがレオに忠告した。何もかも上手くいかずレオは拳を握り締める。

「レオがファールするの珍しくない?」アスカがマットに言った。

「うん。相当苛ついてるだろうな」

「もうあと1回ファールしたら出れなくなっちゃうの?」ヒナが2人に聞いた。

「うん」アスカが答えた。「レオ落ち着いて……」

 レオへのダブルチームは続いたが、ルイスの助言通りに空いてる味方にパスを出すことで、点を重ねていった。

『5対3で政府チームのリードは続きますが、徐々に平民チームもオフェンスのリズムを取り戻してきたようです!」

 しかし1点も決めていないどころかアシストもゼロのレオは依然として機嫌が悪かった。ダブルチームを引き付けてパスするだけ。

 ——俺はただの囮か。スーパースターのレオじゃないのか。俺がゴールを決めるべきだ——レオは前半中に何とかアシストかゴールを決めようと躍起になった。

『レオにパスが通った——今度は運ぶ!——ダブルチームが厳しくプレスをかける!——ホイッスル! アウトオブバウンズです』

 レオはフィールドの右端に出てしまった。

「ドリブルでアウトオブバウンズとかお前どんだけマヌケなんだよ!」

 グレゴーがレオを馬鹿にした。

「うっせーな。お前だってやったことあんだろ」

「レオ、何でパス出さないんだ?」ルイスが聞いた。

「パターン読まれるかと思って変えてみたんだよ」レオは嘘を付いた。

 今度は政府チームのポゼッションだ。ここで決められると前半が終わってしまう。マークしてる選手にロングパスが出た。レオは必死に追いかける——ダメだ、間に合いそうにない——レオは咄嗟に相手選手の腕を掴んで引っ張った。

『ここでホイッスル!——レオがチャージングでファールを取られました! 何とレオ、前半で退場!』

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