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第20話 民営化

 翌日も2人は洞窟で過ごした。レオは視界が隠れている場所だけでラグに乗り水を確保した。ヒナはブラックベリーなどの食物を採った。また、石ですり潰した薬草でレオのほっぺの傷を治療した。

 日が落ちそうになった頃、何とアスカが訪れた。

「いたー!」アスカがレオとヒナを見て声を響かせた。

「アッちゃん!」

「アスカ! 何でいんの?」

「ドンテから居場所聞いたんだー」アスカは嬉しそうに答えた。「ヒナっち~! 無事で良かった!」そしてヒナに駆け寄って抱きしめた。

「はい、これ」

 アスカがパンパンのリュックを開け、2人に食料やブランケットを渡す。

「アッちゃんありがと〜」ヒナが泣きそうになりながら礼を言った。

「アスカ、命の恩人だよ。空腹が限界だったもん」

「レオは毎日バゲット食べないと動けないもんね」アスカがそう言って笑った。

「これミミベーカリーのだよね?」レオはアスカが持ってきたバゲットにかぶりついた。

「ドンテの息子って護衛だったんだね」アスカは夢中で食べる2人に言った。

「あー、じゃやっぱエミリオが俺たちの居場所をドンテに伝えてくれたのか」レオがバゲットを噛みながら言った。「ラグスビーのメンバーは皆無事?」

「うん。今日皆普通にギルドで働いてたよ。昨日の奇襲の話で盛り上がってた」

「いや~あれは見ものだったね。ラグスビーマッチ並に興奮したもん。俺のこと打とうとした空軍に後ろから飛んできたフリスビー当たってさ」

「それ多分ルイスだよ。当てたって喜んでたもん」アスカは笑った。

「さすが不動のハンドラー。コントロールがエグ過ぎる」

「マジそれ。てかレオ、城の窓に突っ込んだんでしょ?」

「うん。だからこれ」レオはほっぺの傷を見せた。

「ヤバいんだけど。最高じゃん」アスカは甲高い声で笑った。「城に入って何が起きたの?」

「エベディルクの瓶持って、『国王に会わせないと瓶落とすぞ!』って脅したらすんなり案内してくれたよ。そんでヒナ解放してくれって頼んだけど断られたから無理やり助けた」

「すご。よく生きて出て来れたね」

「護衛10人に囲まれたけど、エベディルクの瓶割るの恐れて皆何も出来なかったもん。隣キョロキョロ見て『お前が何とかしろよ~』みたいな感じだった」

 その後アスカはしばらく談笑してから洞窟を去った。

 翌日も洞窟にアスカが来た。しかし今回は1人ではなかった。

「マット! ルイス! 皆!」

 レオは驚いた。アスカ、マット、ルイス、その他ラグスビーメンバーが3人来た。

「レオ、ヒナ! 無事だったか!」マットが2人とハグした。

「どうしたのこんな大勢で?」レオが尋ねた。

「遂に政府が白旗上げたんだよ! エベディルクの生産許可するって!」

 マットが目を輝かせて言った。

「マジかよ!」

「やった!」ヒナが口を手で覆って喜んだ。

「スミスが首長くしてギルドでレオを待ってる。だから今から行って値段とか色々交渉しよう」マットがレオに言った。

「よっしゃ!」

「でもスミスのこと完全に信用したわけじゃないから、ヒナっちの護衛として皆連れてきたんだー」

「ありがとう~」ヒナがアスカとハグをした。

「家まで安全に送り届けるよ」ルイスが笑顔で言った。

「これヒナのイージーラグ」マットがヒナに店のイージーラグを渡した。

「僕とレオは先にギルド行くよ。いいかな?」

 マットがアスカとルイスに聞くと、2人は元気に答えた。

「うん!」

「こっちは任せとけ」

 リアルトへの道中で、レオがマットに話しかけた。

「身の危機を感じたのはヒナと俺だけどさ、マットもしんどかったんじゃない? 薬草買い占めてたのマットの金じゃん。全部無くなったらどうしようとか思わなかった?」

「心配は勿論したけど、ほぼスポーツベッティングのお金だし、HAML結成する前より充分に稼いでるからね」

「お! マット初めてHAMLって言ったんじゃないか?」

「まぁ……便利じゃん」

「だろー? やっぱグループ名作って良かったな!」

 レオとマットがリアルトに到着すると、スミスはまだいた。

「よぉスミス」レオが真顔で挨拶した。

「やっと来たかね……」スミスが苛立った表情で言った。

「エベディルクの生産許可してくれるんだってな。ありがとよ」

「それで値段なんだがね——1日分1万リタでどうかね?」

「安過ぎ安過ぎ。そんなんじゃ誰も作んねーよ。本当はヒナの逮捕の件があるから2万リタにするつもりだったけどよ、こうやって大人しく来てくれたから1万5千リタでいいぞ。政府はヒーラーの護衛だけで1日1人5千リタ払ってんだから、これでも充分安いだろう?」

「む、分かった……」

「それと、二度とヒナに手出さないって約束してくれ。ヒナ逮捕したって何も解決しなかったのは今回痛いほど分かっただろ?」

「や、約束する……」

 レオとマットはエベディルクの瓶をスミスに渡し、代金を受け取った。今後は週2回ここギルドで受け渡しをすることを取り決めた。

「ちなみにスミスはエベディルクが何なのか知ってんのか?」

「それは国王様大好物のハーブティーだろう」

 スミスはさも当たり前の様に答えた。

「ちげーよ。これは老化を止める薬だ。飲んだら24時間身体(からだ)の老化が止まるんだよ。国王は神の子なんかじゃなくて普通の人間だぞ。エベディルク扱う人間なら知っておいてくれよ」

 レオがそう言って笑うと、マットもやれやれという表情で笑った。スミスはポカンを口を開けたままそこに立ちすくんだ。

 こうしてレオ、ヒナ、マット、アスカは、エベディルク生産の民営化を成し遂げた。

 スミスと取引を終えた後、レオは屋根裏へ上がった。ヒナが捕まってからのストレスと数日間の洞窟生活で、疲労はピークに達していた。ラグに寝転がりそのまま長い眠りについた。


 翌日の夜HAML(ハムル)メンバーはパブのドリンクを持って屋根裏に集まった。

「これで政府は城のヒーラー要らなくなったから、そのうち解放するよね?」

 アスカが聞いた。

「どうだろうな。国王の奴何考えてるか分かんないから、そのまま軟禁するかもよ」

 レオが答えた。

「えー、じゃまだ目的達成されてないってことー?」

「でも、城のヒーラーさん達はもうエベディルク作らなくなるから、平民が作ることに成功したって気付くんじゃないかな? それだけでも希望を与えられたと思う」

 ヒナが言った。

「そうだな。以前より状況が改善されたのは間違いない」レオが同意した。

「僕はヒナを助けるという名目で店を頑張ってたけど、まさかここまで店が成長するとは思わなかったよ」

 マットが言った。

「本当にマット君のおかげだよ」ヒナが感謝を伝えた。

「僕よりアスカだよ。アスカに出会ってなかったら、今でもただのしがないラグ職人だったろうし」

「マットさー、そういうキザなこと言うの似合わないから止めてくんない?」

 アスカが頬を染めて言った。

「おいアスカ、顔赤いぞ! 本当は嬉しいんだろ!」レオがアスカを茶化した。

「うるさいな、もー」

 アスカが照れる様子を見てレオとマットは笑った。

 しかしヒナの目からは涙がこぼれている。

「どうした、ヒナ?」レオが驚いて問いかけた。

 ヒナはしばらく声を上げて泣いた。ドリンクを持つのもままならず、コップを置いて顔を手で覆った。3人は心配そうな目でヒナを見る。

 ようやく涙が少し収まると、ヒナはクシャクシャの顔を上げて3人を見たが、すぐに下を向いた。

「私……ずっと怖かった……お母さんの手紙もらってから……エベディルク作ろうとしてるの政府にバレたら殺されちゃうんじゃないかって……レオ君から薬草もらって作ってる時もずっと怖くて……捕まった時はもうダメかと思った……レオ君には嘘付いたけど、牢屋にいる間は怖くて仕方無かった……でもお母さんの遺言だから、絶対に達成しなきゃダメだと思った……じゃないと私、一生罪悪感抱えて生きることになるから……」

 ヒナが泣きながら話すのを見て、アスカが横からヒナをそっと抱きしめた。

 レオは言葉を失った。

 ヒナは普段おっとりしているが、決して弱音を吐くような人ではなかった。だから今までそんなに恐怖で怯えていたなんて知らなかったのだ。

「私今でも国王が許せない……でも私はヒーラーだから、人を殺すことなんて出来ない……だから、せめてこれからは皆を守れる存在でいたい……」

 何か言葉をかけてあげたいとレオは思ったが、言葉が出てこない。

「私ね……今、人生で一番幸せ……そうは見えないかもしれないけど……」

 ヒナは涙でグチャグチャになった顔を拭いて少し笑った。

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