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第18話 絶望

 30分以上飛行した後、レオは何とか護衛を振り払い、森の中に隠れた。

「何やってんだ俺は……」

 レオは途方に暮れた。

 ヒナの為を想ってHAML(ハムル)を立ち上げたのに、結果的にヒナを苦しめてしまった。これではガレシア王国へただ迷惑をかけに来ただけではないか。自分という存在が恥ずかしくなり、セリエンテに帰ろうかという考えが一瞬よぎった。誰もわざわざ自分を責めに片田舎まで追っかけて来ないだろう。

 レオはリュックを開けた。ヒナの母からの手紙があったので読んでみた。今までヒナの口を通してでしかエベディルクのことを知らなかったが、手紙を読むことで現実味が沸いた。

 ——気付いたらレオは涙をボロボロと溢していた。ヒナの母が亡くなったことの悲しみ、城に軟禁されているヒーラー達への憐れみ、そして国王への憎しみ。それらの感情が脳内を掻き乱す。

 そして仲間の顔が浮かんだ——ヒナ、マット、アスカ。他にもルイス、ドンテ、ロゼーラおばちゃん、ミミ姉さん、ナターシャ、サントス&ドミンゴ、ギルドワークの皆、ヴィルマリーストリートの人達、そして逞しく生きる平民達。レオはガレシアが大好きだと気付いた。

 やるべきことは明らかだ。ヒナを助けるしかない。

 気持ちの整理が付いたレオは、護衛を警戒して3時間ほど森に滞在した。エベディルクの瓶は穴を掘って隠した。

「グダグダしてらんねえ。ヒナを助ける方法を考えるんだ」

 レオはやっと立ち上がり、帰宅した。


 翌日レオはマットとアスカを屋根裏へ呼び、昨日の出来事を2人へ共有した。

「そんな……ヒナっち」アスカが今にも泣きそうな表情で言った。

「マジかよ……」マットも落胆した様子だ。

「俺の考えが甘かったよ。相手がロジカルに動いてくれるとは限らないもんだな」

 レオは反省した。しかしこれは反省会ではない。次の手を考える必要がある。

「マット、薬草を買い占め続ける体力はマットファクトリーにあるか?」

「大丈夫。スポーツベッティングのお金がまだ残ってるし、経営も順調だからね」

「ってことは、少なくとも時間は俺たちの味方だ。政府への薬草の販売はもう10日間も止まってる。エベディルクの消費期限は2週間だから、もう国王の元には多くても数日分のエベディルクしか無いはずだ」

「え、2週間しか持たないの?」アスカが聞いた。

「うん、ヒナの母さんの手紙に書いてあった」

 レオはヒナから受け取った手紙を2人に見せた。

「これが例の手紙か……」マットは手紙をまじまじと見た。

「俺が国王と直接話を付けるしかない。スミスじゃダメだ。あいつはそもそもエベディルクがまだハーブティーだと思ってるからな」

「国王と直接話すって言ったって、どうすんのよ?」アスカが問いかけた。

「城へ突っ込む」

「は!?」

「だってそれしか無いじゃん」

「それしか無いじゃんって言ったって……」

「俺1人じゃ無理だからさ、ラグスビーメンバーの応援が必要だ。今日の練習の時に皆に相談しようと思う」

 レオは練習前に控室に集まったラグスビーメンバーに相談をした。マットの姿もある。レオはエベディルクのことを包み隠さず隠し、ヒナが捕まったことを伝えた。

「レオ、今までそんなことしてたのかよ……マットもアスカも」

 ルイスは3人を見て驚きを露わにした。

 レオはマットが預かっていたエベディルクの瓶をメンバーに見せた。

「これで信じてくれるか? 国中が国王のことを神の子って信じてる中難しいかもしれないけど」

「信じるも何も、ヒナが捕まってるんだ。助けるしか無いだろう。ヒナはもう大事なラグスビーメンバーの一員なんだから」

 ルイスがそう言うと、他のメンバーも賛同した。

「ありがとう。もう俺たち3人で解決出来る域を超えちゃったから、協力が必要なんだ。俺は城へ侵入して国王と直談判する。もしそれでもダメだったら、頑張って城中飛び回ってヒナを救出するよ」

「で、俺達に何してほしいんだ?」

「城内へ一緒に入ってとまでは言わないから、城への侵入をアシストしてほしい。俺はエベディルクの瓶を持って城内へ入る。飛んでる俺を殺そうもんなら落ちて瓶が割れちまうから、国王はそれだけは避けたいはずだ。だから城内へ入るのは俺だけでいい」

「ならそんなに難しいこと無いな。皆で夜間に柵の上を飛んで行って、護衛の目を逸らせばいいだけだろう?」

「それが出来れば最高だね」

「よし、今日の練習は中止して、ヒナ救出作戦を考えるぞ。皆いいよな?」

 ルイスがメンバーに承認を求めると皆頷いた。

「あ、ちなみにアスカはダメな。前も言った通り、お前は立場があるから」レオが言った。

「アスカだってヒナっち助けたいよ! 親友だよ?」

「貴重な政府側の人間なんだ。表立たない方法で役に立ってくれ。頼む」

「確かに、俺たちは個人が特定されることは避けたいな。夜間に顔に布巻いて高速で空飛んでたら多分誰が誰だかバレることは無い。でもアスカは女だから一瞬でバレる。兵士敵に回したなんてことがバレたら今後生きてくの大変になるぞ」

 ルイスがレオに同意した。

「分かったよ……」アスカは渋々承知した。

「城の周りの護衛ってどうなってんだ?」レオがルイスに尋ねた。

「俺らは全員飛べるから陸軍の存在は無視していい。空軍は常時監視してるのは俺が見た感じせいぜい10人くらいじゃないか。何か異変があったら応援を呼んでくるだろうから、その前に決着を付ける必要がある。こっちはレオ含めて9人だろ。数的には互角だ」

「でも相手武器持ってないの?」

「空軍の武器は弓矢だ。遠距離攻撃出来なきゃ空飛べる意味ないからな。だけど弓担いで飛ぶからスピードは俺たちより遅いし、飛びながら弓矢放つって相当難しいぞ——ペルフガとたまに話すから知ってるんだ。皆フリスビー投げる方が圧倒的に簡単って言うね」

「じゃあ逃げ回れば避けられるってこと?」

「そうだな。しかも夜なら視界悪くて下手したら味方を打ちかねない。そんなに乱暴にバンバン打ってくることは無いだろう」

「ならいいな」

「でもこっちにも攻撃手段はあった方がいい。こっちにはフリスビーがあるじゃないか」

「フリスビーで攻撃なんて聞いたこと無いよ!」

 レオはルイスの言葉が信じられなかった。

「普段は人に当てるつもりで投げてないから分かんないかもしれないけど、直に当たったら結構痛いぞ? しかも相手は空飛んでんだ。何もフリスビー自体でダメージ与えれなくたって、バランス崩させるだけでいい」

「まぁそうだけど……」

「取り敢えず皆いつも通り1枚だけ持てばいいだろう。何枚も持ったって動き辛いだけだ。弓矢のリーチはせいぜい90度くらいしかない——全方位のたった4分の1だ。体捻って射つの難しいからな。一方フリスビーの場合はフォアハンドとバックハンドがあるから、180度以上のリーチがある——2倍のアドバンテージだ。相手のリーチ範囲の4分の1のエリアを避けて飛べば、相手は打ってこれねーよ」

「ルイスすげ〜な。策略家だよ」

 レオが感心するとルイスは得意げに笑った。

「そうと決まりゃグズグズしてらんねぇ、今夜にでも奇襲かけようぜ」

 ルイスがワクワクした声で言った。

「よっしゃ、俺のドラゴンが唸るぜ!」レオは自分のラグを見て気合いを入れた。

「おいレオ、今日はそれじゃダメだろう」マットがすかさず忠告した。「エベディルク担いで飛ぶんだぞ? 重量オーバーになりかねない」

「そっか、忘れてた」

「しかも国王との話がまとまらなかったら無理やりヒナを救出するんでしょ? 2人乗りしなきゃいけないんだから、レギュラーモデルじゃなきゃダメだよ」

「あー、救出した後のこと考えてなかった。でもヒナも飛べるんだから、イージーラグ持って行って渡せばいいんじゃないかな?」

「レオが一番ヒナのスピード知ってるでしょ。レオが2人乗りした方が多分速いよ。しかもレオはエベディルク持ってるから2人乗りすれば相手は攻撃出来ないけど、別々に乗ったらヒナには何の躊躇も無く攻撃出来ちゃうよ」

「確かに……」

「何でそんなためらってるの?」

「……だって恥ずかしいじゃん……」

 レオがボソッと呟くとチームメンバーがゲラゲラと笑った。

「こんな時に何言ってんの?」アスカがバカにするように言った。

「それに最近全然2人乗りしてないから自信無いしさ……」

「じゃアスカが練習台になってあげるから」

 アスカがそう言うと、周りからヒューヒューという声が飛び交った。

「うっさいなー。ヒナっち助ける為なんだからしょーがないでしょ!」

 アスカは顔を赤くして、冷やかすメンバー達を睨み付けた。

「じゃあレオとアスカは2人乗りの練習で、残りは奇襲のフォーメンション練習しようぜ」ルイスがキャプテンらしくまとめた。

「僕今日レギュラーモデルで来たから、僕の使ってよ。他皆ウルトラフィットだし」

 マットがレオに自分のラグを渡した。メンバーはフィールドへ出て、今夜のシミュレーションを行った。

「乗るよ」

 アスカがそう言って、空中で待機してるレオのラグに飛び乗った。両腕をレオの腰に回す。レオの両腕は下げたままだ。

 羞恥心を抑える。ヒナを一刻も早く救出しないといけないのに、恥ずかしいなんて言ってられない。

「オッケー?」レオはアスカに出発の確認をした。

「うん」

 アスカがそう言うと、レオは高度を上げていった。アスカはレオに抱きつくような格好になり、レオは両手を少し広げてバランスを取っている。

「全然飛べんじゃん。てかレオがグーフィースタンスだから、アスカがいつもと同じ向きに乗れていいね」

「確かにそうだな」

 2人はそのままフィールドを旋回した。

「アスカは飛べる人だから全然力んでなくていいんだけどさ、飛べない人だと怖がって必死に掴むからこっちまで怖くなるんだよな」レオが自信なさげに言った。

「分かるー。アスカも女友達乗せることあるもん。でもヒナっち今では飛べるじゃん」

「まぁそうだね。最初はもうガチガチだったよ。『ふわぁぁぁ』っていう声出して」

 レオがヒナの真似をして笑った。

「ヒナっち仕草がウケるよね」

「てかアスカの女友達なんて見たことないぞ俺」

「まーあんまリアルトの方に来ること無いからね。誰も飛べないもん、遠いじゃん」

「確かに」

「それに年取る毎にどんどん価値観ズレてってさー。今ではヒナっちが一番の友達だよ」

 ラグスビーメンバーは今夜のシミュレーションを終え、夜を待った。

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