第17話 スミスの企み
レオは後日マットファクトリーを訪れた。
「よっ。お、アスカじゃん」
「レオ久しぶり!」
「調子どう?」
「もー絶好調!」アスカは笑顔で答えた。
「おー、レオ」奥からマットが出てきた。
「レオモデルとアスカモデルね、爆売れだよ!」アスカが嬉しそうに報告した。
「俺らと全く同じの?」
「デザインは同じだけど、大きさは乗る人の体重に応じて違うよ」
マットが答えた。
「値段は10万リタで、やっぱお客さんは役人が多いよ。子供と一緒に前のラグスビーマッチ観て、それで子供にねだられたんだって。注文多過ぎて、2ヶ月待ちだよ!」
アスカが得意顔で言った。
「マジで! スゲーな!」
「アスカが店にいるのがデカいよ。子供達は皆『アスカだ! アスカだ!』って興奮して。親もアスカを見て嬉しそうにしてたし」
マットがアスカを讃えた。
「皆アスカと歳3つ4つしか変わんないし近くに住んでるから、アスカのこと見たことあると思うんだけどね。急にセレブ扱いされて変な感じ」
アスカはまんざらでもなさそうだ。
「そりゃそうだ、唯一の女性選手であんだけ活躍したんだもん」レオが言った。
「生産追いつかないから、防水ラグとイージーラグは父さんに下請けしてるんだよ。普通のラグを作ってもらって、こっちでは加工だけするようにしてる。昔父さんの下請けやってたのに、今では逆転したよ」
マットが誇らしげに言った。
「しかもね、2枚目買う人もいるの」アスカがニヤリと笑った。
「マジ? どんだけ金持ちなの?」
「それがね、この人子供1人しかいないのにおかしいなーと思ってアスカの周りに色々聞いてみたの。そしたら、その人1枚目を転売してたんだよ。レオモデルとアスカモデルって要はウルトラフィットだから、適正体重があるでしょ? それを忘れないようにラグに刻んでるのね。40キロ~45キロ対象だったら4045みたいに。そのナンバーの違いで更にレア度が増してるみたいで、珍しいナンバーだと皆羨ましがるんだってさ」
「へ~」
「転売で味をしめた人が、投機目的でレオモデルとアスカモデルを買うようになったんだよね。今まで作られたナンバーがそれぞれ何枚存在してるか自力で調べて、まだ無いナンバーを注文すんの。面白いよね~——まぁこっちからしたら誰が転売で儲けようがどうでもいいんだけど」
「でもさ、役人がラグに払った金で俺らが薬草買い占めてるわけじゃん。それでどんどん政府を追い込んでるんだから皮肉な話だよな」
レオは満足気に笑った。
ギルドに戻って仕事を再開したレオは、黒板に「A S 400」と書かれてるのを見つけた。
「ドンテ、このASK何?」
「これぁカートの車輪だよ——これな」
ドンテが裏から車輪を持って来て見せた。
「何で車輪なんか運ぶんだ?」
「修理したんだよ。近くにカート屋があるだろ? そこで修理したものを配送するのにうちを使うんだ」
「そういうことか。オッケー。やるよ」
レオはギャラと車輪を受け取った。車輪に貼られている住所を見てみると、馴染みのある名前だった。
「ケバブ・サントス!? そういや1回も普段の店行ったことないぞ」
「前回のマッチの後小腹が空いたからケバブ買いに屋台に寄ったんだけどよ、ケバブ・サントスだけえれぇ行列だったぜ。皆おめぇらの刻印ケバブ買おうとしてたんだろ」
「マジか。ケバブの話してたら食いたくなってきたな。じゃ行ってくるわ」
「おう。落とさねぇようにな」
車輪は決して重くはないが、前に物を持つのは意外と難しかった。普段背中のリュックに重心がかかっているので、前に重心がかかのは慣れていない。また、手が塞がるのでバランスを取り辛い。
「お~——中々おっかないぞこれは」
レオは慎重に車輪を運び、無事ケバブ・サントスに到着した。場所はリアルトとラグスビーフィールドの中間に位置している。
「車輪を届けに来ましたー」
レオが店頭の男に声をかけた。屋台ではサントスと一緒にケバブを作っていた人だ。
「おー。まさかレオが届けに来るとはな」
「サントスは休み?」
「裏で休憩してるよ」
「そうか——これは、屋台の車輪?」
「そうそう。月1でラグスビーフィールドに行くのは勿論、食材仕入れたりするのにも使うからさ、ガタが来ちまって」
「そりゃそうだよな」
「そういやまだ名前言ってなかったな。俺はドミンゴって言うんだ。弟のサントスと一緒にこの店やってる」
「ドミンゴよろしく! サントスの兄ちゃんなんだ。何で『ケバブ・ドミンゴ』じゃないんだ?」
「やっぱ皆それ聞くんだな」ドミンゴは苦笑した。「最初は俺が店始めたからケバブ・ドミンゴだったんだよ。サントスが手伝い始めてしばらく経った時に、名字のルビオに変更したんだ。ケバブ・ルビオな。そんでサントスが20歳くらいの時にラグスビーの実況始めてから、屋台にサントス目当てで来る客が増えてきたんだよ。でも名前がケバブ・ルビオだと分かり辛いだろ? だからケバブ・サントスに変えたんだよ」
「面白いなぁ! でも兄のプライド傷付くとか無いの?」
「飯食ってかなきゃいけねんだ、そんなくだらないこと言ってらんないだろ」ドミンゴは大笑いした。「俺としてはサントスに感謝だぜ。俺達はエルユンベルからの移民なんだけど、最初は苦労したよ。レオだってセリエンテ出身だろ?」
「うん。エルユンベルってどんなとこなんだ?」
「こっから南にある領土町よ。セリエンテと似たようなもんだろ」
「へ~。ガレシアで店やってるなんてスゲーな。俺なんて家すらまともに借りられねーよ」
「まだ来たばっかだろ。俺は20年以上住んでんだ。レオはもう有名人なんだからよ、金なんてすぐ付いてくるだろ」
「止めてくれよ~有名人なんて」
「洒落たローブ着てるし、有名人さながらじゃねーか」ドミンゴはそう言って笑った。
そこで若い女性3人組が店にやって来た。
「レオちょっと待ってな。この後サントス呼んでくるから」
ドミンゴはそう言って客対応をした。
「え? レオ? 本物じゃん!」
ロングヘアの子がレオの存在に気付き声を上げた。
「本当だ!」とショートヘアの子。
レオは取り敢えず笑顔を作った。
「先に注文しようよ」
レオと話そうとするロングヘアの子の腕を引っ張ってポニーテールの子が言った。
「そうだね——」ロングヘアの子は店頭の方を向いた。「レオの刻印ケバブ、ラムで!」
「あたしはルイスの刻印ケバブ。ん~ビーフにしようかな」
ショートヘアの子が注文した。
「アスカ様の刻印ケバブ、チキンでお願いします」とポニーテールの子。
「あいよ!」ドミンゴが注文を捌いた。
レオはメニューを見てみた。
————
刻印ケバブ +300リタ
3選手限定! 2番レオ、4番ルイス、8番アスカ
ラムケバブ 800リタ
ビーフケバブ 800リタ
チキンケバブ 700リタ
————
「ねぇルイスってどこに行けば会えるの?」ショートヘアの子がレオに尋ねた。
「俺と同じギルドワーカーだから、リアルトに行けばそのうち会えるよ」
「リアルトってどこ?」
「ちょっと、レオにルイスのこと聞くとか失礼じゃない?」ロングヘアの子が話を遮った。「レオごめんね。この子ルイス推しだから」
「注文聞いてたから分かるよ」レオが笑った。「君はアスカ推し? 髪型そっくりだもんね」ポニーテールの子に尋ねた。
「そうです! アスカ様崇拝してますので」ポニーテールの子が敬礼をした。
3人はレオと談笑した後、ケバブを受け取って去って行った。
「だから言ったろ? 有名人だって。レオがずっとここに立っててくれりゃ最高の客引きになるな」
ドミンゴが笑った。
「はは……」レオはケバブ・サントスの客引きの仕事を想像してみたが、1日中突っ立ってるのは飽きそうだと思った。
ドミンゴが車輪を持って店の奥へ行くと、数分後にMCサントスがやって来た。
「やあ、レオ!」
「MCサントス久しぶり! 初めて店来たよ。刻印ケバブ、何で3人のしか無いの?」
「元々刻印ケバブは屋台専用のメニューなんだよ。月1回ラグスビーマッチの時しか買えない方が特別感があるだろう? 焼き色付けるだけで300リタ取るんだから、希少価値を上げないと。でも前回のマッチ以降、レオとアスカとルイスの刻印ケバブが欲しいって客がまー多くてね。断るのが面倒になったから、3人だけ限定でやってるんだ」
「そういうことか」
「レオ達のおかげで商売大繁盛さ。ケバブ食べて行きなよ、サービスするから!」
「マジで? やったー!——じゃラムにしようかな!」
レオはラムケバブを食べながらMCサントスとしばらく談笑した。
レオがスミスと初対面した数日後に異変が起きた。レオがギルドワークで空を飛んでいると、スミスが複数人の護衛と一緒に街を歩いているのが見えた。
「何やってんだあいつ……」
気になってスミス達の後を上空から付けていくと、スミスはある建物の扉を乱暴に叩いた。
「政府だ。直ちに開けたまえ」スミスが大声で言った。
中から女性が出てきた。ヒナと同じくチュニック姿にエプロンをしている。
「エベディルクはどこかね? ここにあるのではないかね?」
スミスは答えを待たずに護衛達と一緒にズタズタと中へ入って行った。
「エベディルク!? そんなものはありません! こちらでは作ってません!」
女性は必死に抗議したがスミスは無視する。
「マズイ!」
レオはスミスがしていることにようやく気付き、急いでヒナの家へ向かった。
「ヒナ! マズイぞ! 政府が街中のヒーラーの家に強引に入ってエベディルク探してる!」レオはヒナの家に入るや否や叫んだ。
「え!?」
「急いで全部瓶に詰めろ! 政府に取られたら今までの作戦が台無しだ!」
「でも、まだ作り途中だよ」
「頑張れ! 俺はアスカとマットに応援頼んでくる!」
レオはそう言い放ち、ヒナの家からマットファクトリーへ急いだ。
「マット! よしアスカもいる! 緊急事態だ! 政府が街中でエベディルク探してる! そのうちヒナの家にも来るぞ! ヒナの家にあるエベディルクと残った薬草全部避難しなきゃダメだ!」
「え! ヤバいよ!」アスカが叫んだ。
「今すぐ行こう! 店閉めるよ!」マットがすぐさま仕事の手を止めた。
「なるべく大きいバッグ持って来てくれ!」
レオはそう伝えてすぐにヒナの家へ戻った。
「アスカとマットも今来る!」
「うん」ヒナは鍋をかき混ぜている。
「あとどれくらいで出来る?」
「30分くらいかな」
「マジか……これ捨てるわけにもいかないんだよな。ちゃんと国王が必要な量を安定して供給出来ることを示さないと、交渉が上手くいかなくなる。ただ国王いじめてるだけと思われたらお終いだ」
レオが考え込んでいるうちに、アスカとマットが到着した。
「何すればいい?」アスカが焦る表情でレオとヒナに聞いた。
「瓶に詰めてあるエベディルクを持って行ってくれ」レオが答えた。「どこに持っていけばいいんだろうな……」
「僕ん家なら大丈夫だよ。政府が回ってるのはヒーラーの家だけでしょ?」
マットが言った。
「オッケー、そうしよう。あとは使ってない薬草も取られたらお終いだ。俺はエベディルクの薬草分かるから、俺がまとめる。ヒナいいよな?」
レオがそう言うと、ヒナは承諾した。
レオは急いで薬草をヒナの棚から下ろし、マットが持ってきたバッグに入れる。
「よし、あと残るは今作ってるやつだけか。2人はもうマットファクトリーに持って行って!」
レオはアスカとマットに言った。
「レオとヒナっちはどうするの?」
「今作ってるやつの完成を待つ」
「でも……」
「俺はもう政府に顔割れてんだ——エベディルクの存在を伝えた張本人だからな。でもマットとアスカはこれに関わってることがバレるとマズイ。ちゃんとマットファクトリーで金稼いで薬草を買い占め続けなきゃいけないんだ——それにアスカは役人の娘っていう立場だ。ラグスビー出るだけでも国王の機嫌損なってんのに、エベディルクの生産に関与してるなんてバレたらお前の父さんどうなるか分かんないだろ」
「アスカ、行こう」
ヒナを心配そうに見るアスカの腕をマットが引っ張って、ヒナの家を後にした。
「これ出来上がったら俺が瓶に詰めるから、ヒナはエベディルク作ってる証拠をこの家から全部消して」
「うん……」ヒナはそう言って必死に鍋を見つめている。
やがてエベディルクは完成し、レオが瓶に詰め始めた。ヒナは2階に上がって行った。
レオがエベディルクを瓶に詰め終えたところで、扉を叩く音がし、返事を待つこともなく勢いよく扉が開いた。
「やぁやぁ、レオではないか」
スミスは上機嫌で言うと家の中に入った。後ろには護衛が3人いる。
レオは瓶を急いでリュックに入れた。
「何しに来た、スミス。人の家に勝手に入るなんて行儀わりーな」
「人の家と言ってもここは君の家ではないだろう? まさか15歳の小娘がエベディルクを作ってるとは思えなかったら来るのに時間はかかったがね。しかし先日のラグスビーマッチで君達が一緒にいるのを見てたから、関係性があるのは知っていたのだよ」
「で、何の用だよ。エベディルクの値段交渉ならギルドに来てくれよ」
「どうやら君は勘違いをしているようだね。我々は君達のエベディルクを買うなんて言った覚えは一度も無いのだよ。作ったエベディルクは没収する」
そこへヒナが2階から降りてきた。
「そこへいたか、ローレント。君の母親ダニエル・ローレントも随分と手懐けるのに苦労したが、やはり血は争えないようだね」
スミスがそう侮辱すると、ヒナはスミスを睨んだ。
「ともかく、平民がエベディルクを作るのは罪だ。連行する」
「おい、ヒナを捕まえたって何も解決しねーぞ! 国王を殺す気なんかねーんだ! ただエベディルク売りたいだけなんだよ!」
「黙りたまえ。反逆の芽は潰さねばならないのだよ。君が持っているエベディルクも没収する」
「レオ君これ持って裏口から逃げて!」
ヒナはレオに手紙を渡した。
「ヒナ、お前も逃げろ!」
「私はもう間に合わないから、気にしないで! 絶対にエベディルクは渡しちゃダメ!」
ヒナの気迫に押され、レオは裏口へと急いだ。
「追いたまえ!」
スミスは2人の護衛にレオを追わせ、もう1人の護衛がヒナを捕まえた。
「クソっ!」
レオは急いで裏口を出てラグに飛び乗った。空からヒナの家を見ると、ヒナが護衛に連行されて外へ出てきた。
「ヒナ! 必ず助けるぞ!」
レオはヒナに叫び、 空を追ってくる護衛から必死に逃げた。




