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第15話 ローブ&ホープ

 翌日の月曜日、レオはガレシアクロニクルを買ってみた。ヘッドラインにラグスビーの記事が載っていた。

————

  平民チーム、13年ぶりの快挙  ラグスビーアナリスト・ビング


 10月27日に行われたラグスビーマッチで、平民チームは11対10で政府チームに勝利した。一軍の政府チームに勝利したのは実に13年ぶりとなる。雨の中行われた試合は、手に汗握る展開となった。

 平民チームはニューラグで挑み、機動力の高さを証明した。しかし政府チームも黙ってはおらず、レオ・フィッシャーとアスカ・クリスタルへダブルチームを組み対応した。両翼を転倒による怪我で失った平民チームは絶望的な状況に追い込まれた。前半のリードはみるみる無くなり、政府チームに逆転され5対6でハーフタイムを迎えた。

 後半は政府チームのペースで試合が進み、もはや政府チームの勝利は確実のように見えた。しかしアスカとレオが再びフィールドに戻り、ここから両チームの采配の差が出ることとなる。政府チームはパニックになり、復活した2人を再度潰しにかかった。一方で平民チームはウィングとポッパーをペアで動かせ、ダブルチームを無効化した。ダブルチームが機能しなくなったと政府チームが気付いた頃には10対10となり、時既に遅し。レオのゴールで試合が幕を閉じた。

 政府チームは9対6とリードしていた時点で、通常通りプレイすれば2点ねじ込めたはずだ。レオとアスカ封じというのはいつしか手段ではなく目的化してしまい、ゴールを決めるという本来の目的を失った。逆に言えば、それほど2人が脅威と映ったのだろう。彼らの派手なラグがその効果を発揮したのかもしれない。

————

 レオは記事を読み終えてニヤリと笑った。


 HAML(ハムル)は再度薬草チームとラグチームに分かれて動いた。レオは薬草採りに時間を多く割くようになったが、隙間時間で配達も続けた。

 いつも通りパッケージを届けに家を訪ねると、出てきた女性は興奮している様だった。

「あらま! 昨日のスーパースターのレオ君じゃない! 次の日からこうやって普通に働くんだもの、偉いわね~。政府チームに勝ったっていうのに、報酬も何も出ないんでしょ? 気の毒だわ~。ちょっと待っててちょうだい」

 女性は矢継ぎ早に話すと、レオのパッケージを受け取り家の中へ入った。スポーツベッティングで大勝ちして報酬らしきものを手に入れたレオだが、何も言う暇が無かった。

 女性はすぐに駆け足で戻ってきた。

「これ、うちで作ってるチーズなの。良かったら食べてちょうだい。スーパースターのレオ君もうちのチーズ食べてるってこれで自慢出来るわ~。主人に聞いたんだけど、レオ君セリエンテ出身なんだって? そこらのガレシア出身のペルフガなんかよりレオ君の方がガレシアの誇りよ~。これからも平民を代表して頑張ってちょうだいね」

 レオは他にもパッケージを届けた先で色んなものを貰い、パッケージを届ける前よりもリュックが重くなるという異常事態が発生した。レオは今まで「そこらにいる配達員」としての扱いしか受けていなかったのに、急に「スーパースターのレオ君」になったことに驚いた。

 

 ミミベーカリーでレオは毎朝他の客に声をかけられた。そして日を重ねる毎に客が増えているのを感じた。ある日いつも通りバゲットだけをレジに持っていくと、ミミが首を横に振っている。

「レオ、ちょっと待ってね」

 ミミは店内のパンをいくつかトレイに乗せてレジに戻って来ると、レオの持っていたバゲットと一緒に布に包んだ。

「これ、プレゼント」

「え?」

「『え?』じゃないわよ。レオが毎日通うパン屋だって街中で噂になって、お客さんどんどん増えてるんだもの。これくらいして当然よ。これからもどうぞご贔屓にね」

「ありがとうミミ姉さん! うまそー。勿論これからも来るよ。ミミベーカリーが一番美味しいもん」

「あら嬉しい。でもレオ毎日うち来てるじゃない? 他のパン屋行ったことあるの?」

「無い! でも多分ここが一番っしょ!」レオがそう言うと、2人は笑った。

 翌日ミミベーカリーに行くと、バゲットコーナーが拡大されていた。通常のバゲットの横に、半分に切られたバゲットが置かれている。商品説明を読んでみた。

————

 レオのハーフバゲット 200リタ

 ラグスビー選手のレオがガレシアに移住して以来、毎日買い続ける裏商品

————

 レオがハーフバゲットを取りレジへ持って行くと、ミミはまた首を横に振っている。

「バゲット半分に切るとすぐに乾いちゃうから、レオはいつも通り1本持って来て。こっちで切ってあげるから。値段もレオは170リタでいいからね」

「あ、うん。ありがとう。『レオのハーフバゲット』って……」レオは苦笑した。

「ふふ、良い商品名でしょ? 切るのに手間かかるから値段ちょっと上げたんだけど、それでも昨日から飛ぶように売れてるのよ。中にはわざわざ2本以上買っていくお客さんもいるくらい」

「すごいな。まさか『これ食べたらレオのようなラグスビー選手になれます!』なんてお客さんに言ってないよね?」

「ん~まぁ何回か言ったような」

「ちょっと!」

 2人は愉快そうに笑った。

 

 レオは子供達からの人気も高かった。ルイスに教えてもらった丘で休憩していると、ラグに乗る練習をしていた子供達が寄ってきた。

「レオだ! レオ!」男の子が興奮気味に名前を呼んだ。

「今日はドラゴンのラグじゃないの?」

「あれはラグスビー専用なんだよ」レオは水を飲むのを止めて答えた。

「そうなんだ。近くで見たかったな」

「ラグの練習してたの?」

「うん。僕ね、兵士になって政府チームのラグスビー選手になろうと思ってるんだ。パパも兵士だし、平民チームいつも弱いんだもん。でもこの前平民チームが初めて一軍に勝つとこ見て、すごいなって思ったよ」

「政府チームに入るのか。そしたら将来敵同士だな!」

「そうだね! ねぇレオ、ライトニングとトルネード見せてよ」

「ああ、ギザギザ曲がるやつと1回転するやつね。いいよ」

 レオがやって見せると、子供達は歓声を上げた。

「ねぇどうやるの?」

「敵に教えるわけにはいかねぇよ」レオがニヤリと笑うと、男の子はふてくされた。

「ちぇー。いいや、自分で練習してみる」

「おう、そうしろそうしろ」

 レオは子供達に手を振って丘を飛び立った。


 日曜日のラグスビーのチーム練習を終えたレオは、帰る準備をしていた。

「う~…寒っ。汗引くと急に寒くなるな」レオが体をさすりながら嘆いた。

「レオさ、いつまでその格好なの? ローブ無いの?」アスカが尋ねた。

「これしか無いよ」

「もう流石にキツいでしょ。ローブ買いなよ」

「う〜ん、そうだな。中古のローブ店あった気がするから行ってみるか」

「スターの言動とは思えないんだけど。アスカのユニフォーム作ってくれた店があるから、そこ行きなよ。アスカが選んであげるから」

「待って待って、このパターン聞いたことあるぞ! またあれだろ、()()()()ストリートに連れて行く気だろ!」レオはアスカに指を指して問いただした。

()()()()()()ストリートね。何でそんな嫌がんのよ。皆に髪型褒められて良い気分になってたくせに」

「まぁそうだけどさ……」

「大丈夫。『ローブ&ホープ』の店員はマリネッテさんみたいな意地悪じゃないから。それに、レオ薬売ってるんだからもうちょっと身だしなみ気を付けなよ。着てるものがボロボロだったら売ってるものもクオリティ低いって思っちゃうでしょ?」

 レオは、アスカの方が薬を売るのが上手いことを思い出した。

「まぁ確かにそうだな。分かったよ」

「よし決まりー。じゃあもう今から行こうよ。ギルド休みでしょ?」

 レオはアスカに連れられて、ヴィルマリーストリートを再訪した。

「ここね。ローブ&ホープ」アスカが店の前に降り立った。

「少なくとも名前はラグランジェよりフレンドリーなイメージだな」

 レオが店の名前を見て呟いた。しかしレンガ造りの建物の外観は充分立派で高級感が漂う。1人で中に入るなんて絶対出来そうにない。

「入ろっか」アスカはそう言うと、ラグをリュックにしまって扉を開けた。

 中に入るとランプの灯火は薄暗かった。しかし決して貧相ではなく、洒落た隠れ家のような印象を受けた。店内には様々なデザインや色のローブやチュニックが置かれている。客は他に数人いる。

 店内を少し見渡していると、ローブを持った若い男がレジからレオ達の方へ向かってきた。

「おいおい、貧乏人がこんなとこで何してんだよ?」

 男はレオを眺めると、バカにするようなトーンで言った。

「あんた、この前のセクハラ野郎じゃん! 5番 グレゴー」アスカが男を睨んだ。

「俺の名前覚えてくれてたのかい、お嬢ちゃん」グレゴーが不気味な笑みを浮かべてアスカに言った。「セクハラって、スポーツしてんだから体がぶつかるのは当たり前だろ?」

「あんたは体ぶつけてんじゃなくて手で触ってんのよ」アスカは相当キレている。

「そんなに嫌なら辞めればいいじゃねーかよ」グレゴーは嘲笑うかのように言い、アスカの横を通り過ぎる際に肩をぽんと叩いた。

「触んないでよ、ヘンタイ!」アスカが勢いよくグレゴーの手を振り払った。

「おい、いい加減にしろよ!」レオがグレゴーに怒鳴った。

 グレゴーはこちらをニヤニヤ見ながら店を出て行った。

「何なの、あいつ……」アスカが苛立ちを見せた。

「アスカちゃん、ごめんなさいね」20代と思われる女性の店員がアスカに声をかけた。

「ん~、平気平気」アスカは少し落ち着いたようだが、とても平気には見えない。

「アスカ、帰ろうぜ。ここじゃなくてもローブは買えるだろう?」

 レオがアスカを気遣って言った。

「大丈夫。たまたま変な奴に会っただけだよ」

「アスカちゃん、今日は新しいローブ買いに来たの?」店員が尋ねた。

「ううん、今日はレオのを買いに来た。これしか無いの、服」アスカがレオのチュニックを指差して言った。

「そう。確かにこれじゃ寒いでしょ」店員はレオを見て心配そうに言った。「レオ君ね。試合観てたよ。アスカちゃんと息ぴったりだったね」

「ありがとう」レオが笑顔で礼を言った。

「今日は割引してあげるから。本当さっきはごめんなさい」

「あ——うん、ありがとう」レオは一瞬ためらったが、恩に着ることにした。

「ありがとう、キャロラインさん」アスカも礼を言った。「キャロラインさんがアスカのユニフォーム作ってくれたんだ」とレオに言った。

「あのセクシーユニフォーム?」

「はは、そう」キャロラインが笑って答えた。

「この店のオーナーなの?」

「やだ、オーナーだなんて。父の店だよ。今も父が裏で服作ってる。私がフロントスタッフをしてるの」

「って言うけど、キャロラインさんだってバリバリ作れるからね」

 謙遜するキャロラインをアスカが立てた。

「この辺って全員役人の家だと思ってたよ」レオが言った。

「必ずしもそうではないけど、親戚が役人だったり、何かしらの繋がりがある人がほとんどだね」キャロラインが説明した。「父呼んで来るね。レオ君の大ファンだから」

 キャロラインが裏に行っている間にレオとアスカは店内のローブを見て回った。

「2万8千リタ! ひゃー、良い値段するねー」レオは値札を見て驚いた。

「そりゃそうでしょ。でも長持ちするよ。それにこれ着てもっと薬売れるって考えたら、良い投資でしょ」

 5分もしない内に店の裏から足音が聞こえて来た。キャロラインが父を連れて戻って来たようだ。

「いやー! レオ君じゃないか! お会い出来て光栄だよ」50代くらいのダンディな男が、レオ目がけて一直線に歩いてきて両手で勢い良く握手をした。

「あ、どうも……」レオは男の熱量に圧倒された。

「私はここの店やってるアーナードって言うんだ。いや~この前の試合は痺れたよ! 私は普段政府チームを応援してるんだけどね、毎回予定調和で勝っちゃうと全然面白くないんだよ。やっぱりスポーツは競り合ってこそエキサイティングじゃないか!」

「そうだね」

「そうだろう! それで、今日はローブを買いに来てくれたそうじゃないか。せっかくだいしオーダーメイドで作ってみないかい?」

「オーダーメイド!? そんな——高いでしょ?」

「本来は最低でも1万リタ上乗せするんだが、レオ君の場合は必要無いよ!」

「あ、お父さん。今日レオ君達失礼なお客さんに絡まれたから、割引してあげる約束したんだよ」キャロラインが懸念を口にした。

「そうか。いや申し訳なかったね。じゃあ当然その分も割引くよ!」

「え? いいのそんな割り引いて?——ありがとうアーナード」レオは先ほど値段の高さを知ってしまったから、受けられる特権は全て受けることにした。

「よし! 考えてる色はあるかい?」

「いや~分かんないなー」

「レオはギルドワーカーなんだけど、配達先で薬も売ってるんだ。だから営業マンとして好印象を与えられる色がいいな」アスカがアーナードに言った。

「そうかい! アスカちゃんはやはり賢いね! それじゃあ無難なベージュ、グレー、ブラウン、ネイビー辺りはどうかな? 黒だとちょっと威圧感があるだろう」

 アーナードはそう言って店内のローブをレオに着せてみせた。

「すげーあったかい——ん~、どの色もいい感じだな」

 レオは何色がいいかなんて分からなかった。

「アスカはベージュとネイビーが好きかな。レオの髪色に合ってる」

「私もそう思うよ! どちらかと言うとネイビーの方が引き締まった印象が出るから、営業には向いてるんじゃないかな?」

「2人がそう言うならそうするよ」

 レオは確実に自分よりファッションセンスがある2人の意見に委ねた。

「じゃあネイビーで決まりだね! 後はサイズを測ろう。今は15歳だっけ?」

「うん」

「まだ成長するだろうから、少し大きめに作るよ」

 アーナードはそう言ってレオのサイズを測った。

「5日後までには出来るから、また来てくれるかい?」アーナードはレオに聞いた。

「分かった」

「じゃあ会計をしよう」

 レオは必要なリタを持ち合わせていなかった為、アスカから金を借りて料金を支払った。

「わりぃ、明日返すわ」店を出たレオはアスカに言った。

「オッケー——良かったね、レオ」

「うん。段々ヴィルマリーストリートが怖くなくなってきたよ」

「1回入っちゃえば大したこと無いでしょ?」

「まぁでもアスカがいると心強いよ。クセ強くないか、この通りの人達?」

「レオが言う? レオだって充分クセ強いからね」

 アスカがそう言って笑った。

 後日ローブを受け取ったレオは、早速着て仕事をした。オーダーメイドなだけあって体のシルエットが綺麗に出る。お客さんの反応は前より間違いなく良い。レオはまたちょっとだけ大人になった気がした。

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