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第11話 師匠

 ようやくレオはエベディルク用の全ての薬草の採り方をヒナから教わった。エベディルク用の薬草は採取してから日持ちしない為、3日間で全薬草を採らなければならなかった。レオは各薬草を1回の開発に必要な数だけ採り、それをヒナに渡した。

 ヒナはイージーラグによって生まれた時間を使って、エベディルクの開発をした。レオが薬草を採り、ヒナがエベディルクの開発をする。それを何度も繰り返した。

 薬草をギルドワーク以外で採るのは思ったよりも大変だった。中々薬草が見つからない。ある日レオはガランタスという薬草を採るのにいつも以上に苦労した。

「おい、全然ねーじゃねーかよ……」

 必死にガランタスを探していると、同じ様に山の中を徘徊している人を見かけた。ローブのフードを被っていて顔が分からない。前にも一度、薬草採りの最中に見たことがある気がする。

「ガランタス探してんのか?」

 レオは遠くから声をかけてみた。フードの人間は首を軽くレオの方に振ったが、何も言わずにその場を去って行った。

「何だあいつ——ギルドで見たことねーし、こんなとこで何してんだろ」

 レオはその日何とか必要な分の薬草を採り終え、いつも通りヒナに届けに行った。

「お疲れ。調子はどう?」レオはヒナに薬草を渡しながら尋ねた。

「お母さんの書いた作り方読んでやってるんだけど、中々上手くいかなくて……何度も採りに行ってもらってるのにごめんね」

「大丈夫、大丈夫。何回も試そう」

 レオはヒナを励ましたが、実際はフラストレーションを感じていた。一緒に開発をして手助け出来るならしてやりたい。しかし薬に関して無知であるレオは、自分が何の役にも立たないことを知っている。開発に関しては専門家であるヒナに一任して、レオはひたすら薬草を集めるしか無かった。

 レオはほぼ毎日薬草採りに出かけるようになった。フードの人間を何度か見かけたが、1回無視されてるし、放っておくことにした。


 レオはある日パシゴニウムという薬草を採りにフェルガル湖という湖に来ていた。パシゴニウムはフェルガル湖の近くの森に自生しており、ガランタス同様探すのが非常に困難な薬草だ。

 必死に探していると、数メートル先にパシゴニウムらしきものが見えた——そしてその向こうにはフードの人間がいた。フードの人間はレオに気付くと走り始めた。レオも無意識に走り出す。2人はほぼ同時にパシゴニウムの前に到達した。

「あった!」レオは叫び、パシゴニウムに触れようとした。

「ちょっとボウヤ、あたしが先じゃないの?」フードの人間がレオに話しかけた。

 レオはフードの人間を間近で初めて見た。男らしいローブを着ているからずっと男だと思っていたが、フードの人間の正体はレオより少し大人びたくらいの女だった。ブルーブラックのショートヘアーで、遠目から見ると美男子と見間違えるかもしれない。レオはびっくりして一瞬固まったが、すぐさま我に帰った。

「いや、どう見ても俺でしょ」

「ボウヤさぁ、最近薬草採りまくってるでしょ? これくらいあたしに譲ってくれたっていいじゃないの」

「そんなこと言われても、必要なんだよ」

「——仕方ないわね。じゃあ500リタあげるからあたしに譲って」

 パシゴニウムをギルドに持っていく時は量で計算するが、1本辺りのギャラで言うと大体500リタだ。妥当な金額ではあるが、レオは金の為に薬草を採ってるわけではない。

「それは無理」

 レオが断ると、女は溜め息をついた。

「じゃあ、あたしにいくらくれるのよ」

「そういう問題か? じゃあ500リタ」

「無理」女はスパッと断った。

「千リタは?」

「無理。ボウヤは?」

「俺も無理。金の問題じゃないんだよ」

「どう言うことよ。ギルドワークじゃないの?」

「いや——」

 レオは口篭った。エベディルクを開発してるなんて他人に明かすわけにはいかない。

「そっちこそ何で千リタじゃダメなんだよ? 充分過ぎる額だろ? てかお前ギルドで見たこと無いな」

「あたしはヒーラーよ。ギルドに売ってるわけじゃなくてこれで薬草作ってるの」

「じゃあいくら払えばいいんだよ?」

「そういう問題じゃないのよ」

 話は平行線を辿るばかりだ。金の問題じゃないと女も言っている。と言うことは——

「——お前エベディルク飲んでんのか?」レオはまさかと思ったが、問いかけてみた。

「あんな不味いハーブティー飲んで何になるのよ」

「あれはハーブティーじゃないよ。老化を止める薬だ」

 レオがそう言うと、女は目を大きく開いた。

「ボウヤ、エベディルクの正体知ってるの?」

「うん——え、お前は?」レオは聞いたが、無駄な質問だとすぐに気付いた。

「知ってるわよ。まさかエベディルクの正体知ってる人がガレシアにいるとはね」

「何で知ってんの?」

「こっちが先に聞きたいわよ。それくらいはしてくれてもいいんじゃないの?」

「——分かったよ」レオは渋々了承した。「城でエベディルクを作るヒーラーが軟禁されてるのは知ってる?」

「うん」

「そのヒーラーが、エベディルクの真相を暴いた手紙を娘に送ったんだよ。で、その子が俺に教えてくれた」

「そういうことね。で、ギルドワークじゃなかったらこの薬草何に使うのよ?」

「これ以上は言えねえな。次は俺の番だ。何でエベディルクの正体知ってんの?」

 レオが聞くと、女はまた溜め息をついた。

「何でかどうかは関係無いわ。昔から知ってるわよ」

 レオは、この会話がとんでもない方向に進んでいくような気がした。

「このままお前呼ばわりするのもなんだからさ、名前教えてよ」

 女は溜め息をついた。癖なのだろうか。

「ナターシャよ」

「ナターシャね。俺はレオ」

「レオ。でもあたしにとってはボウヤだから、ボウヤって呼ばせてもらうわ」

 ナターシャはニヤっと笑った。

「——まぁ勝手にしてくれ……」

「次はあたしが質問する番でしょ。パシゴニウム採って何に使うのよ?」

 今度はレオが溜め息をついた。

「——誰にも言わないって約束してくれるか?」

「勿論」

「エベディルクを作ろうとしてるんだよ」

「で?」ナターシャは全く驚いていない。

「いや、まだ作れたわけじゃないんだけど、試してるところ」

「作ることが出来たらボウヤが飲むの?」

「いや、国王に売る」

「ほへ?」ナターシャが腑抜けた声を出したのでレオは吹き出してしまった。

「何だよ『ほへ』って!」

「そんなに笑わなくてもいいじゃないの……」ナターシャはムスッとした。「何で国王に売るの?」

「そうすれば城で軟禁されてるヒーラーは不要になるから解放されるだろう?」

「じゃあ何、ボウヤは慈善家ってこと?」

「何でもいいけどさ、少なくとも俺は飲む気無いね」

「ボウヤまだ若いしね。何歳?」

「15。ナターシャは?」

「996」

「うほ?」今度はレオが素っ頓狂な声を出した。

「『うほ』って! ボウヤの方がおかしいでしょ!」ナターシャはケラケラ笑っている。

「996歳!?」

「しーっ! 声がでかいわよ」

 ナターシャが笑いながら注意した。

「いや~。ボウヤのリアクションだけで暴露する甲斐があったわ。あ、誰にも言っちゃダメよ。お互い様でしょ」

 レオは唖然としたまま頷いた。

「まぁでも驚くってことは本物ね。普通の人なら『神の子でもあるまいし』って言って信じないでしょ」

 レオは脚の力が抜けて、尻餅をついた。

「立ってるのも何だし、座るか」

 ナターシャはそう言ってラグを広げて座った。レオも自分のラグを広げて座り直した。

「つまり——エベディルクを何100年も飲み続けてるってこと?」

 レオがようやくまともに言葉を発した。

「そういうこと」

「体は何歳なの?」

「20歳」

「いや……国王が不死身って聞いた時もびっくりしたけど、何歳か知らないし、もうジジイだし、こんなにショックは受けなかったな……」

「そうでしょうね。とりあえず、これでお互いの状況が分かったわけじゃない?」

「そ、そうだな」

「道理で最近薬草を見つけ辛いわけね。ボウヤが余分に採るまでは、ニカウバとあたしの分だけで良かったのよ」

「ニカウバ?」

「国王の名前よ。ともかく、ガレシア近辺はやっぱりエベディルク2人分の薬草を手に入れるのが精一杯ってことね」

「ナターシャってずっとガレシアに住んでんのか?」

「そんなわけ無いじゃない。ずっと住んだら老けないのがバレちゃうでしょ。だから10年おきくらいに転々としてるのよ」

「なるほどな」

「まぁ聞きたいことは山程あるかもしれないけど、今の状況を解決させないとダメね——あたしもボウヤも、もっと楽に薬草を手に入れたいのは同じでしょ——さっきエベディルク作れるようになったら国王に売るって言ったけど、平民に売ったり自分達で飲んだりしないってことよね?」

「それは無い」

「それならいいのよ。今より薬草の需要が増えたら堪ったもんじゃないから。じゃあボウヤがエベディルク作れるようになれば、薬草の需要が元に戻ってお互いハッピーってことね」

「そういうことになるな」

「じゃあ、あたしがボウヤにエベディルクの作り方教えてあげるわ」

「マジか! それはスゲー助かるんだけど、作ってんのは俺じゃないんだ。手紙もらった子」

「あらそう、そうよね。ボウヤ、ヒーラーに見えないもん」

「そりゃそうだろ。薬のことなんて何も知らねーよ。で、その子ヒナって言うんだけど、ヒナに教えてくんないかな? ヒーラーだから全然素人じゃないよ」

「まぁいいわよ。その代わり、あたしの歳は22歳ということにして。実際ガレシアでは今22歳として生きてるから。国外でエベディルクを作ってたヒーラーっていう設定ね。それも本当のことだから」

「分かった。歳のことは言わないでおくよ」

「そしたらグズグズしてられないわね。今日必要なパシゴニウムをさっさと採って、その後ヒナって子の家に行こうよ」

「オッケー」 

 レオは他の薬草も採る予定だったが後日採ることにした。ナターシャをヒナに紹介するのが最優先だ。

 2人はパシゴニウムを採り終えた後に湖のふもとに集まった。

「じゃあ行こっか」ナターシャがラグに乗った。

「ナターシャって何で男みたいな格好してんだ?」

「だって女が飛んでたら目立つでしょ。目立ったら長生き出来ないわよ」

「そうなのか」レオはいまいち意味が分からなかったが、それ以上何も言わずにラグに乗ってナターシャとフェルガル湖を後にした。

 2人はヒナの家に着いた。

「は〜い。あ、レオ君お疲れ」

 ヒナがいつも通りレオを迎えたが、ナターシャを見て少し驚きの表情を見せた。

「この人ヒーラーなんだ。ヒナに紹介したくて。ちょっと中で話してもいいかな?」

 レオは無意識に小声で話した。

「うん、いいよ」ヒナはそう言って2人を家に迎え入れた。

「この人はナターシャ。22歳のヒーラー」レオがナターシャを紹介した。

「この子がヒナちゃん? アルバで見たことあるわよ」ナターシャが言った。

「あ、はい。私も見たことあります」

「アルバ?」

「ハーブショップ・アルバ。ヒーラーが薬草を買うお店の名前だよ」ヒナが説明した。

「ふーん。まぁ面識があるのはいいな——んで、ナターシャから説明する?」

 レオはナターシャが話したそうにしてるのを察して聞いた。自分より900年以上長く生きていたら、自分より間違いなく頭が良いだろう。

「そうするわ」ナターシャは快くバトンを引き受けた。

「あなたがエベディルクを作ろうとしてるのをレオから聞いたのよ。あたしは国外でエベディルクを作ってたことがあるの」

「えぇ?」ヒナが驚きを見せた。

「だから作り方を教えてあげるわ」

「え、いいんですか? 何でですか?」ヒナはパニック状態だ。

「あなた達のミッションに共感したからよ」

「はぁ——ありがとうございます。レオ君とどこで知り合ったんですか?」

「あたしは飛べるから一部の薬草は自分で採りに行ってるの。そこでよくレオを見かけてね。ギルドワーカーらしからぬ不審な動きをしてたから、気になって声をかけたら事情を説明してくれて」

 ナターシャにサラリと不審者扱いされたレオは少し苛立ったが、堪えた。

「はぁ——もう今は作ってないんですか?」

「作ったって仕方ないじゃない。置いてくれる薬屋なんて無いでしょう?」

「——そうですね……」

 レオはドキドキしながら2人の会話を聞いていた。ヒナにナターシャの嘘がバレないか心配する一方で、罪悪感もあった。今までヒナを含めHAML(ハムル)とは隠し事なんて一切なかったのに、これからは嘘を付かなければならない。

「ヒナ、もしヒナのプライドを傷付けたらごめんな」レオが気まずい雰囲気を何とか変えようとした。「ヒナがすごいヒーラーだっていうのは知ってるんだけど、エベディルク作れるようになるのにどれくらい時間がかかるか分かんなくてさ」

「ううん。全然そんなこと無いよ。エベディルクの作り方知ってる人が城外にいるのがびっくりしちゃって」ヒナは髪がゆさゆさ揺れるほど首を横に振った。

「ナターシャさん、是非教えて下さい」ペコリと深くお辞儀した。

 ヒナがお辞儀してる間にナターシャがレオにウィンクをした。

「今ちょうど作ってるところよね? 見てもいい?」

「はい」

 レオは2人の様子を眺めることにした。

「もう少しでプレップが終わるところです」ヒナはナターシャに作業状況を説明した。

 テーブルには、刻んだりすり潰した薬草が小皿に載っている。

「問題無さそうね」ナターシャがそれぞれの薬草を覗き込んで呟いた。

 ヒナはその後も薬草の下準備を進めた。

「では今から火にかけます」

 ヒナは鍋に水を入れて火にかけ、砂時計を反転させた。砂時計と鍋の状況を見ながら、薬草を次々と鍋の中に投入する。

 30分以上それらの作業が続いたが、ナターシャはほとんど何も口にせずにじっとヒナの作業を見ている。

「あとどれくらいかかるの?」レオが退屈そうに尋ねた。

「2時間以上かかるよ」ヒナがサラッと答えた。

「マジ?」

「ボウヤは別に見てなくてもいいじゃない」

 ナターシャがヒナと同じようなトーンで言った。

「まぁそうだな——俺帰るよ」

 レオはこれ以上見学してても意味が無いことに気付き、ヒナの家を去った。

 翌日レオはいつも通り薬草をヒナに届けに行った。

「あの後どうだった?」

「ナターシャさんすごかったよ! 今まで紫色になるだけで匂いが出なかったんだけど、それが少し出るようになったんだ」

「おー、良かったな!」

 レオは進歩があったことにひとまず安堵した。しかし、何がすごかったのかは全く想像出来ない。

「ナターシャ何がすごかったの?——鍋を高速でかき混ぜられるとか?」

「違うよ!」ヒナは吹き出した。「レオ君は『すごい=速い』っていう発想なの?」

「うん。ラグスビーではそうだもん」

「薬作るのはラグスビーと全然違うよ」ヒナは笑いを必死に堪えて言った。

「そうだけど——ヒーラーってマジで不思議な仕事だな」

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