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4、もう母親辞めてもいい?(春)

ストーカーがなぜ電柱に隠れるか知ってますか?

顔を覚えられると困るから?いえ、間違いではないのですが彼らの本心は……


挿絵(By みてみん)


〈過去〉ディアマリッジ3階 春名の家 春名視点


1階の扉が閉まったと同時に3階の扉は開かれた。

私は、まくった長袖を下ろす。今日も長袖じゃないと外を歩くのは厳しそうだ。


「学校いってきます」


家の中のお父さんにそう告げ、階段を下る。そして下の階にある四季先生の自宅の扉を見つめる。担任の先生とたまたま同じマンションに住んでるだけだったのに……


“お前のことが気になっている”


「あれ、どういう意味なんだろう?」


“何か話したかったら言ってくれ”


よくわからないまま、あの日の面談は終わった。


「先生、言葉足らずで何考えてるかわからないからなぁ」


当たり前だが異性としてという意味ではないだろう。

多分私が何か悩みを抱えていると感じとり、そう言ってくれたに違いない。


ただそうなると……


「何でバレた?」


世界一影の薄い私のわずかな変化を見抜いたのか?

それはそれですごい。


事実、私には悩みがある。

最近、お母さんが家を出て行ってしまった。お父さんとうまくいっていないことで。


お母さんは誰よりもしっかりした人で尊敬もしてきたが、お父さんはギャンブルが好きで、上手くいってない時は手をあげる人だった。

ただ昔から私に対してはそこまで暴力を振るうことはなかったが、お母さんに対してはひどかった。


お母さんが叩かれる音を聞きながら、布団の中で静かに泣いていた幼少期。

あざだらけになりながらもお母さんは離婚はしなかった。

私に父親が必要だと判断してくれたからだろう。

いつか落ち着いた家庭になるはずだ。そう信じて過ごしていた。


しかし……


先週、顔の腫れたお母さんが泣きながら、荷物をまとめているところを見てしまった。


「お母さん?」


声をかけると、お母さんはボロボロと震えながら泣いた。そして……


「ごめんね。お母さんね……」


「うん」


「もうお母さん、辞めてもいい?」


それは正義の味方が初めて発した「助けて」に聞こえた。

ショックだった。でも何であの時……


「うん、いいんだよ」


何故、そう即答してしまったんだろう。

人が1人、壊れゆく過程を見続けるのが辛かったのかもしれない。


でも私は残った。受験もあったからだが、お父さんをひとりぼっちにするのが可哀相だと思ったのが本心。

お父さんは根はいい人だと知っていた。

優しい時は私とお母さんに麻雀を教えてくれる時もあった。家族でゲームをするのは楽しかったし、上手く出来ると褒めてもくれた。


「ストレスってババ抜きだよ。お父さんだって誰かにいじめられてるのかもしれない。

私がお父さんに、お母さんに優しくしてあげてってお願いしてみるね」


きっといつかまた家族3人仲良く暮らせるはず。そう信じて見送ったが、寂しさはずっと残っている。


「結婚は人生の墓場よ。あなたも気をつけなさい」


お母さんはそう言い、出て行った。

確かにそう言う人も多いけど、私はそうは思わない。

私はーー


「あぶな!」


うつむいて歩いていたせいで曲がり角で人とぶつかってしまい、お互い倒れ込んだ。


「もう!どこ見て歩いてんのよ!」


メガネが固い地面を転がる。

私は慌てて拾い、キズがないかチェックした。


「ちょっと!メガネよりまず謝りなさいよ」


ぶつかった相手は、制服の私と似つかわしくない派手な金髪の女の子だった。


「すみませんでした。これ、母に買ってもらった大切なものなので」


“影が薄くて誰もあなたを見てくれないからって、周りに興味ないなんて言っちゃ駄目よ。それでもあなたはちゃんとみんなに目を向けてあげなさい”


買ってもらった時の言葉を思い出す。

お母さんが出て行った今となっては、一生使おうと決めている宝物だ。


「はあ?知らないわよ!もう!

……いったぁ、頭打っちゃった」


頭を押さえてる。

歳は近そう。なのに、学校に向かってるようには見えない。


「ったく、いいわね。親に大事にされてそうでーー」


そこまで言って相手の子は言葉を止めた。私を見つめてフリーズしている。


「あ、どうかしましたか?」


「そ、それはこっちのセリフだよ。あんた……何で泣いてるの?」


そこではっとした。自分の頬が熱いことに気づく。


「ごめん、あんたも痛かったよね。立てる?」


手をかしてくれ、立ち上がる。


「私は大丈夫です。特にケガもないです」


「ならいいけど……」


「頭大丈夫ですか?」


「は?誰が馬鹿よ!」


「あ、失礼しました!打った頭が痛まないかという意味です」


「ああ!こっちこそごめん。急に悪口言われたのかと……」


「とにかく救急車を呼びましょう」


「あーいやいいよ!私も本当は痛くないというか……その、どうせならお金ほしいなって感じだったから」


本当は優しい人なのかもと少し笑ってしまう。


「ちょっと、何笑ってんの?」


「いえ……少し嬉しくて」


「嬉しい?」


「あなたには私が見えるんだって」


「え?え?あんた幽霊?」


ビクッと一歩引かれる。


「あ、いえ、生きてます。ただここ数年、同い年の子と話してなかったので……」


相手から少し悲しそうな表情を向けられた。


「そうだ!連絡先交換しましょう。あとでやっぱり頭が痛むとやりとりが必要なので」


「いやいや!それ車とかと接触した時のやつでしょ!

あんた、新手のナンパか!」


「ナンパ?……どういう意味ですか?」


「例えだよ!あーもうわかった、交換するから」


相手はスマホを取り出してくれた。

相手のアカウントには“Aki Yasumi”と書かれていた。


「秋休み?」


八角亜希やすみ あき。本名よ。てかあんたも連絡先!」


挿絵(By みてみん)


私はメモとペンを取り出す。

左手でペンを持ち、自宅の電話番号と住所を書く。


「は?あんたスマホ持ってないの?」


「はい。まだ親に買ってもらってないので」


「もう、めんどいなぁ」


そう言いながらも、彼女はメモを受け取ってくれる。


「ありがとうございました」


「……あんたさ、なんか助けてもらいたいことがあるんじゃない?わかるよ、私も仕事で悩むことあるし」


歳が近そうなのにもう社会人なんだと感心した。


「でもそういう時は大人を利用した方がいいよ。大人なんて信用ならないしすぐ裏切るかもだけど、頼れる大人が1人いるなら泣かなくて済むかもしれないからね」


そう言い、赤いハンカチで涙をふいてくれる。


「す、すみません。すぐ洗って返すので」


「ううん、いいよ。それあげる。ちょうど、同じのもうひとつ持ってるから……ただ」


「ただ?」


亜希さんの右手が私のペンに伸びる。


「もしスマホ買ってもらったら連絡してきなよ。

いつか、気が向いたら返してくれればいいからさ」


そして付箋に自分のIDを書き、差し出してくれた。

私には「友達になろう」と言ってくれたように聞こえた。


「あ、ありがとうございます」


「やば、遅刻しちゃう。じゃね!」


左腕の腕時計を見ながら、走り去って行った。


しかし私は少し勇気が湧いた気がした。

頼れる大人かはわからない。けど私を気にかけてくれる四季先生がいる。


きっと相談って、解決を求めるだけじゃなくてただ話を聞いてもらうことだっていいはずだ。

特に私のような孤立した人間には。




私は放課後、職員室の四季先生を訪ねた。


「四季先生の顧問している部活の朝練許可証についてですが」


校長先生と打ち合わせ中だったにも関わらず……


「少し失礼します……どうした?春名」


すぐ私に気づいてくれた。


「先生に、相談したい話があります」


「……」


拒絶されないかと少しドキドキした。


「……ああ、もちろんだ。教えてくれ」


心なしか表情の読みにくい四季先生が少し笑顔に見えたので、私も少し笑顔を返していた。


そして……


こいつに相談しなければよかった。

こいつのせいで、私は明日血を見るはめになったんだから。






その日の夜、春名の部屋に1台のスマホが設置された。

スマホは家具の隙間に巧妙に隠されており、撮影中の赤ランプが点灯している。


そのスマホ名義は、四季要一。彼の私物だった。




……ストーカーがなぜ電柱に隠れるかでしたよね?

そう、既に顔見知りだからですよ。











〈現在〉新郎上司より乾杯の挨拶 花嫁視点


「乾杯を任されました、四季先生の勤める学校の校長でございます」


頭の薄くなった初老がグラスを持ち上げる。


「四季先生は本当に生徒想いの先生なのですが~、たまにおっちょこちょいなとこが茶目っ気でして。

校長先生!階段から落ち、利き腕を骨折しました!と言われたあの日は、わたしゃ業務調整に骨が折れましてね。骨だけに」


独特の長話にグラスを持つ手が沈み始める。


私は“赤いハンカチ”でグラス底の水滴を拭いた後、こっそりと手を持ち替えた。


「結婚は勢い!つまりタイミングだと。

誰とではなく、時期が大切だ!と、私が若い頃はそんなことを言われておりました。

しかしながら私のような古い人間は考えを改めねばなりません。今は多様な愛の形があるというもの」


校長先生の話というのはどうして全国共通で面白くないのだろうか。そんな話を……


「お2人のような“教え子と教師”の結婚というものも、今は等しくめでたい時代なのです」


変わらない笑顔で聞けているのは、奥の席に飾られている“2月2日が命日の遺影”だけだった。

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