日本に来た目的
久々の投稿です。
イメージは某少女漫画の外伝っぽくなりそうです。
芳子と千鶴子は御者の男に荷物を運んでもらい部屋へと案内される。
「僕の部屋何も変わっていない。」
通されたのは芳子が女学生の頃から使っていた部屋だ。
「千鶴ちゃん、着替え手伝ってくれないか?」
「はい、」
芳子はスーツのジャケットを脱ぎブラウス、ズボンと脱いでいく。
「千鶴ちゃん、どうしたの?ぼうっと突っ立って。」
千鶴子は下着姿の芳子を目の前にして頬を赤く染め顔を背ける。
「すみません。」
千鶴子は我に返るとクローゼットから袴を取り出す。勿論男物だ。
「千鶴ちゃん、着せて。」
「ご自身で着て下さい!!」
再び顔を赤く染めながら断る。
「千鶴ちゃん、女同士なんだから恥ずかしがる必要ないだろう。それに僕達は夫婦になるんだ。」
「夫婦って籍を入れる訳ではありませんし。お義父様だってなんて言うか分かりませんよ。」
「そのために松本まで来たんだろう。」
「お兄様、松本に来たのは演説のためでは?」
芳子はずっと満州で軍の活動に従事していた。王朝復活は建国と同時に約束されるはずだった。しかしそれは芳子の理想に過ぎなかった。満州での横暴を見かねた芳子は日本に戻り満州の現状を知ってもらうために演説活動をすることにした。
「勿論それもある。だけど千鶴ちゃんを家族に紹介したかったからでもあるし、千鶴ちゃんに見せたい物もあるんだ。」
見せたい物。何だろうか尋ねようとした時
「失礼致します。」
先ほど華がお茶を持ってやって来る。
「芳子様、どうぞ。」
芳子の前に青い湯呑みを置く。
「千鶴子さんも。」
「ありがとう。」
千鶴子の前には赤い湯呑みを置く。
「華ちゃん、お茶なんて使用人に頼めばいいだろう。」
華は頻繁に川島家に出入りしてるため勝手を知っている。
「だって芳子様にお会いしたかったんですもの。」
華は芳子の腕にしがみつく。
「芳子様、またお馬さん乗せて下さい。」
華は3年前芳子に馬に乗せてもらって泉に連れて行ってもらった。泉には言い伝えがあるのだ。
「今日は遅いからまたね。」
「絶対ですよ。約束」
華は小指を出す。芳子も小指を絡め指切りをする。
「千鶴子さん、空いた湯呑み片付けますね。」
華は千鶴子の湯呑みをトレイに乗せると部屋を後にする。
「お兄様、ずいぶんとあの娘と親しそうでしたけど。」
「廉子の級友だ。この辺りの地主の娘で川島家とも合流があるんだよ。社交的で誰とでもすぐに打ち解けるような娘だよ。」
芳子や廉子だけでなく浪速や廉子の家庭教師、家の使用人にも同じように接する娘だそうだ。
「なら安心したわ。」
「疑ってたのか?」
「少しだけ。」
「悲しいな。僕は千鶴ちゃんが一番なのに。」
芳子は千鶴子の膝を枕代わりにして横たわる。
「へえ、そういう事なの。ただの秘書じゃないのね。」
華は襖の裏で芳子と千鶴子の会話を聞いていた。
「華ちゃん」
華に1人の男が声をかけてきた。
「あら、丁度良かったですわ。これ千鶴子さんが使った湯呑みですわ。」
華は男に湯呑みを渡す。男は千鶴子が口紅がついた部分を舐め始める。
「好きなんでしょ?わたくしと取引しません?悪い話ではないと思いますわ。」